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第3話 鎌倉編 大仏さまに会いに行こ!後編

「ん? リート。……今、笑った?」

「……くふふ。ルセにも聞こえた?」



 んふふ、と大仏さまを見上げたまま、リートは、「見えちゃったってぇ」と頷いている。


「リート? それって、どういう……?」

「ねぇねぇ、ルセ〜」

「ん?」

「……大仏さま、……ボクより……まばたきしてないんだよ。大仏せんぱいってすごいんだねぇ」


 そんな事を呟いたリートに、ルセが「ん?」と首を傾げる。



「リート?」

「ん〜?」

「大仏さまは、銅とかでできてる銅像だよ?」

「うん〜? 知ってるよ〜?」



 不思議そうに問いかけたルセに、

 リートもまた不思議そうな表情で頷く。


「あの形で出来上がってるから、瞬きはできないんじゃないかと思うんだけど、違うの?」


 ルセの問いかけに、リートが「えーっとねぇ〜」と口元に手を当てながら少し首を傾げる。



「んーとねぇ……、あ、前にさぁ、一緒に、モナ・リザさんとか、見に行ったじゃん〜?」

「ルーブル美術館だね」

「そう〜! あのときはねぇ、モナ・リザさん、瞬きしてたり、髪整えてたりしてたんだよ〜」

「??? 絵なのに?」

「格好いい警備員さんが来る時間なの、って言ってたの〜……」

「……モナ・リザさんが?」

「モナ・リザさんが〜」



「いそいそしてて、可愛かったよ〜」と微笑むリートに、ルセが不思議、と顔にそのまま出ているような表情のままで首を傾げる。

 そんな親友の様子に、リートは、んふふ、とさらに楽しそうに笑う。




「絵になってても、像になっててもねぇ、本当は動いてるひと、いっぱいいるんだよ〜」



 これは、内緒ね、と

 爪先を口元に立てながら、リートは笑う。



「…………星の落とし子(エステラ)だから、なのかな?」

「んー?」



 じ、と覗き込んだリートの瞳に、

 はら、はら、といくつかの星が降って、消える。

 ほんの少しだけ、眉間に皺が寄ったルセに、リートの瞳の星降りが止まる。



「ルセが難しい顔してる〜ー……」


 どうしよう……、と傷つけないように、と爪先を隠しながら、リートがルセの頬を触る。



「ごめん、大丈夫だよ」

「本当にー……?」

「ほんとに。それに、さっきの話、リートが言うなら、信じる」


 きゅ、と手先でリートの手を握りながら、ルセは笑う。


 そんな親友の行動に、リートは嬉しそう笑う。



「ねぇ、ルセ」

「ん?」

「大仏せんぱいがね、お家がなくなっちゃったから、ちょっと暑いんだって〜」

「なんと。それは大変だね!」

「うん。だから、ちょっと涼しくしてあげて欲しいかも〜」




 普通なら笑い飛ばすような言葉。

 けれど、ルセにとってはリートが見たものも世界のひとつだった。


 迷いのない手つきで、ルセは全魔力を「たった一人の友人の願い」と「一尊の像の涼」のために注ぎ込む。



「やっぱりルセの魔法が一番キレイ〜……」


 普通のひとの目には見えない青色の結晶が降り積もるさまを、リートはキラキラとした瞳で見上げる。


 そんな、親友の様子に、ほんの少しだけ、照れたように笑ったあと、ルセはリートの名前を呼ぶ。



「次は、お待ちかねのアイスだよ。リート!」

「アイス〜!」



 ぱちん、とお互いの手を当てながら、

 ペンギンとナマケモノは、浮悠魚フローターの上で楽しげに笑う。





 誰も知らない。

 最新技術がどれほど進化しても、この二人だけが共有している、この世界の「本当の体温」。



 ほんの少しだけ不思議で、

 優しいふたりの世界は、

 もうすでに、ご当地アイスへと向かっていた。



「バニラか、塩か」

「シューアイスっていう手もあるかも〜」

「選べないじゃん!」

「大変〜……!」



 ぽちぽち、とタブレットをいじりながら、ふたりは顔を見合わす。


「でも、まずは」



 「抹茶ミックスで良いか?」

 

 

 ひょい、と目の前に差し出されたのは、緑と白のコントラストが美しい、ひとつのソフトクリーム。



「ライ」

「ライさんだ〜」



 日傘を片手に、ソフトクリームを差し出してきたのは、ラフな服装に、サングラスをかけた一人の青年。


 ライ、と呼ばれた彼は、こう見えて、ルセのSP兼、各種を補助するお世話係でもある。



「境内の売店が浮悠魚フローターでは入っていけないこじんまり感だったからな。先に買っておいた」

「わーい〜! ルセ、食べよ〜」

「そうだね。ありがとう、ライ」

「ライさん、ありがと〜ー!」


 そんなふたりの言葉に、ライは、ふっ、と静かに笑う。



「とりあえず、あっちだな」



 そう言って、ひょい、とルセとリートが乗ったままの浮悠魚フローターを掴んで、ライは木陰へと歩き出す。




 そんな様子を、いつの間にか動画撮影を始めていたルセが、静かに笑ったあと、送信ボタンを押す。





 ルセが送信ボタンを押して数秒後。

 リートの持つタブレットが「プルルルルル!」と悲鳴のような通知音を上げ始めた。



『速報:鎌倉に天使ペンギン聖獣ナマケモノが降臨。大仏の温度が0.5度下がったとの解析結果。これぞ慈愛の奇跡……(以下、2000文字の連投)』





「……ねぇねぇ、シュバくん、……もう見つけたみたいだよぉ〜」

「……こわ……早すぎ。……ブロックしていいよね?」

「……ルセ、……それはかわいそうだよぉ……」



 そんなやりとりの横でライのポケットで端末が激しく振動し続ける。



「……うるせぇ」



 そう言って確認するも、画面には、ライにとっては予想通りがすぎる『クソオタク(緊急)』の文字だった。




「チッ……。おいシュバルツ、今アイス食ってんだよ。……あ? 『主を歩かせるな、私が台座になる』だと? 黙れ、今、浮悠魚フローターごと運んでやってる。……切るぞ」



 ツー、ツー、と冷たく切られたあとも、ライの端末には「待て! その動画を4Kで送れ!」というメッセージが秒間10件ペースで届き始める。





「ライからは、どこにいるかは告げてないのにね」

「あいつにだけは教えてないんだけどな……あの野郎なら今頃、鎌倉周辺の全防犯カメラをハッキングして解析してんだろ……」

「……じゃあ、明日、江の島に行ったら……シュバくん、砂浜に埋まって待ってるかもだねぇ〜……」


「え、何それ、……シュバルツならやりそうでめちゃくちゃ怖いんだけど……」



 ガタ、と身体を震わせるルセに、リートが背中を、ぽん、ぽん、と優しく撫でる。





「でも、シュバくんだから…………」

「仕事そっちのけで、ってわけでもないから困るんだよな……」

「この前、お仕事は、推し事なんだ、だって言ってた〜……」



 くふふふ、と楽しげに笑うリートに、ルセとライが肩を落とす。



「強火すぎて、困る……」

「優秀なんだけどな……」






『早く!しろ!!!!』




 ライの端末に届くシュバルツからのメッセージが増え続けているのは、言うまででも無い。







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