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第1話 鎌倉編 大仏さまに会いに行こ! 前編

『次は、長谷、長谷です。大仏へお越しの方はお降りください……』



 どこか眠気を誘うような、くぐもった車内放送。

 ガタゴトと、最新の磁気浮上列車マグレブにはない心地よい振動が、二人の体を揺らしている。


「リート、リート、そろそろ着くよ」



 窓の外の、キラキラと光る相模湾を眺めていたルセル・ラウ――ルセが、隣で半分リュックに溶け込んでいる友人 リト・レア――リートの肩を、パタパタの翼で優しく叩いた。



「んんー?……はせぇ……?……だいぶつさま……もう……そこに……いるの……?」


 リートはゆっくりと目をこすり、窓の外を見る。

 窓の向こうには、時速500キロで頭上を通り過ぎる超高速タクシーの光の尾。

 その下には、『テレポートゲートはこちら』の案内ホログラムも見える。



 けれど、それとは対照的な、潮風で錆びついた古い駅の看板、人々が暮らす家の屋根も、窓の外には広がっていた。



 平日にも関わらず、少しだけ多い人並みをやり過ごし、のんびりと改札へと向かう。


「リート、ここから7分だって」

「……7分……」


 絶望しているかのような声色を零すリートに、ルセが慣れた様子で持っていた魚型ホバーボード ――浮悠魚フローター ――を起動させる。


「ルセ」

「なぁに?」

「今日のアイスの気分はー?」

「昨日は抹茶だったしー、バニラも良いよねぇ」

「原点回帰ってやつだねぇ〜」


 はい、と慣れた様子で差し出されたルセの手を、3本の爪がそっと掴む。


「リート、忘れ物は?」

「たぶん、大丈夫〜」


 よいしょ、とゆっくりとした動作で、魚型ホバーボード ――浮悠魚フローター ――に、―― ナマケモノ―― リートがしっかりとまたがったのを確認して、ルセが、起動ペダルを踏みこむ。


 ブォンフッ、と不思議な音と空気を吐き出し、 浮悠魚フローターが宙に浮かぶ。


 ぱたたたたた、と二人の空気感とは少しだけ異なる速さで、浮悠魚フローターの尾びれが激しく動き出した。



「あ」

「んー?」

「ルセ、帽子かぶんの忘れてる」

「あ、ほんとだ」


 よいしょ、と後ろから伸ばしたリートの手が、ルセの頭に帽子をかぶせる。



「んふふ。ルセのアロハシャツから、ちゃんと二本線が見えてるねぇ〜」

「別に、見えなくても良いって言ったんだけどねぇ……」

「わぁ、それはシュバくん泣いちゃうよ〜?」

「泣いてたよ、もうすでに」

「くふふふふ〜」



 不思議な笑い声をあげたリートに、ルセがつられて、ふふふ、と楽しげな笑い声をこぼす。



 「わ、見てみて、ママー! ペンギンさんとナマケモノさんがいるよ!」

 「あらあら、本当だねぇ。ふたりともオシャレさんだね」

 

 きゃあきゃあと言いながら、手を振ってくるちびっ子に、ふたりはそれぞれのペースで手を振り返して、浮悠魚フローターは進む。



「思ってたより車もいるねぇ」

「そうだね。ちょっと脇道に入るね」

「それもいいかも〜」


 ぱす、とルセが浮悠魚フローターのいくつかあるペダルのひとつを踏みこみながら、ハンドルを左へ動かす。


 ぱたた、と浮悠魚フローターの尾びれか音を出し、ふたりの身体がほんの少しだけ傾きながら、先ほどよりも少し高度をあげた。




 屋根の上ギリギリのラインを浮悠魚フローターはのんびりと進んでいく。



 少し離れた屋根の上で、日向ぼっこをしている猫が、じ、と空を見上げているのが見てとれた。



 ふと、視線を追いかけてルセは空を見上げる。


 直後。


 遥か高層の「スカイ・ルート」を、一筋の閃光のようなホバーが走り抜けていった。



「わ〜……すごいホバー雲だねぇ」

「ね」


 ルセの視線を追って同じように空を見上げていたリートに、こくりとルセが頷く。


「ルセ?」



 そんな友人の様子に、リートが声をかければ、 ルセは消えていった光の尾が混ざるホバー雲を見つめながら呟く。



「……あの、ジェンツーのレジェンドなら……今の、一瞬で、追い抜いちゃうのかな」



 ぽそり。

 そう呟いた彼を見れば、目がキラキラと輝いている。


 その輝きに応えるかのように、

 ルセの目の周りのピンク色が、ほんのわずかに濃くなっているようにも思えた。



 ―― ルセのお顔の白い部分とのコントラストが、綺麗



 ワクワクしている親友に、リートは、ふふ、とそんな事を思いながら静かに眩しそうに微笑む。



「ルセ、またサインの話だねぇ〜」

「うん。……いつか会えたらいいな」

「……ボクも、スタンプ帳の最後に、……あのフタユビさんの……サインほしいな〜……」



 そんな遠い夢をふわふわと語り合いながら、二人の浮悠魚フローターは、ゆっくりと目的地へと近づいていく。





 ピピ、と浮悠魚フローターと、リートが持つタブレットに通知が入る。






『通知:バニラもうまいが、塩バニラもうまいぞ』




「!!」

「わーぉ」



 そんな通知メッセージに、

 ルセとリートは顔を見合わせて、

 ふふふ、くふふふ、と浮悠魚フローターの上で笑いあう。




「どっちも楽しみだねぇ〜」

「ね!」



 ぷぎゅ、と踏まれたペダルで、

 ほんの少しだけ、浮悠魚フローターのスピードがあがったのは、

 ルセだけの秘密だ。






 鎌倉の、大きなヒトまで、あと数分。



 ペンギンの獣人 ルセと、


 ナマケモノの獣人 リート



 ふたりの、のんびり日本旅は、始まったばかりだ。







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