☆93かいめ☆ 布の祭典開催!?そびえ立つ二つの祭壇
タンッ!!
「ふははは!余が一番乗りじゃっ!」
地下駐車場から続くエスカレーターから軽快に飛び降り、勝ち誇ったように高らかに宣言する魔王の娘。
しかし、その小さな背中をジト目で眺めながら、大地は鼻で笑った。
「へっ……初めてここに来たときはビビりまくって、俺に必死にしがみついてたクセにな」
「う、うるさいぞ!そのような古の記憶など、とうの昔に忘却の彼方へ消し去ったわ!」
図星を突かれ、顔を真っ赤にして抗議するラビリス。
すると、後ろから続いてエスカレーターを降りてきた二人が、すかさずそのやり取りに反応した。
「なにそれウケる!!ラビちゃん、エスカレーター怖かったん!?」
「……その瞬間、ぜひともご一緒したかったです」
お腹を抱えて笑うヒナと、なぜか悔しがる蓮。
もはや完全に『定番メンバー』と化してしまったこの4人が降り立った場所は――言わずもがな、大型ショッピングモールである。
「ふむ。今日もあの『てりやきばーがー』を食すか、はたまた新たな味を開拓するべきか……悩ましいところじゃな」
到着するなり、ラビリスは早速顎に手を当てて真剣な顔で天井を仰いだ。
「なんで初っ端から飯の話なんだよ。さっき家で食ってきたばっかだろ?」
大きなため息をこぼしながら、大地は親指でアパレルショップが立ち並ぶエリアを指し示す。
「とりあえず今日はお前の夏服だ。そのためにわざわざ、この二人を連れてきたんだからな」
「ふん、よかろう。この余の衣装を選ぶ栄誉を、そなたらに与えてやろうぞ!」
「……なんかいつにも増して偉そうだな。お前、実は結構ワクワクしてんのか?」
「そ、そなたは黙っておれ!……では、まずは以前行った店に――っ!?」
顔を赤くして大地の言葉を遮ると、ラビリスは意気揚々と振り返った。
しかし、彼女が視線を向けた先のショップは――恐ろしいまでの無数の人で溢れかえっていた。
「お、おい……。前回もすごかったが、今回はそれにも増して人間で埋め尽くされておるぞ!?」
魔王の娘は、押し寄せる人間の波に圧倒され、思わず数歩後ずさる。
「まぁ、世間はゴールデンウィークの真っ只中だからなぁ。……とは言え、確かに前回の週末セールとはレベルが違うな」
人、人、人。
予想以上の混雑ぶりに、大地もまた引きつった顔で額に汗を浮かべていた。
「ま、ここで突っ立っててもしょーがないし、行こ!ラビちゃん!」
言うが早いか、ヒナはラビリスの小さな手を強引に引っ張った。
「おい待て!あの人間の数は尋常ではない!押し潰されるぞ!!」
「だーいじょーぶだって!」
必死の抵抗も虚しく、ヒナは満面の笑みのまま、ラビリスと共に前回を超える人混みの渦へとズンズン呑み込まれていった。
「……仕方ねぇ。俺たちも行くか!」
「えぇ」
気合を入れて人波へ向かう大地と――なぜかすでに両手に買い物カゴを装備していた蓮も、二人の後を追った。
(相も変わらず、ここの客は服を眺めてはニヤついておるな……)
人混みをかき分けながら周りを見回していると、前を歩いていたヒナが唐突に振り向いた。
「ちょ、ラビちゃん!こういうのはどーよ!?絶対似合うと思うんだけど!」
彼女がさっそく棚から取り出したのは、淡いデニムのショートパンツと、涼しげな白いクロップドTシャツだった。
「なぁっ……!」
それを見たラビリスは、目を見開いて硬直した。
「な、なんじゃその布面積の少なさは!もはや肌着ではないか!それにこの白い布……明らかに丈が足りておらぬぞ!?こんなものを着たら、へそが丸出しではないか!!」
「だってそーゆー服だし。……ま、いいや。とりあえずこれ、試着決定〜」
「全く人の話を聞いておらぬではないか!!何故尋ねたのじゃ!?」
本人の激しい抗議など完全に無視して、ヒナはポイッと軽快にカゴへ服を投げ入れた。
「えっ!?ちょっ!これもめっちゃ可愛いんだけど!!ラビちゃん、これどーよこれ!」
次にヒナが興奮気味に取り出したのは、黒のチューブトップに、夏の空を感じさせる水色のタータンチェック柄プリーツマイクロミニスカートだった。
ラビリスの真紅の瞳が、今度こそ枠からこぼれ落ちそうなほどに見開かれる。
「さ、さっきよりもさらに布面積が減っておるではないか!こここ、これではへそどころか、色んなものが見えてしまうぞ!!こんな布切れで一体何を守るというのじゃ!?そなたには羞恥心というものがないのか!?」
「え〜、絶対可愛いって!ま、買うかは別として、とりあえず試着で」
「…………」
本人の悲痛な叫びも虚しく、二着目の服もあっさりとカゴへと吸い込まれていく。
防御力皆無の装備を前に、魔王の娘はついに言葉を失ってしまった。
「ラビリスちゃん。千家さんの服も魅力的ですが、趣向を変えてこういうのはどうでしょうか?」
早くもゲッソリとした様子で振り向くラビリス。
すると、そこにはなぜか跪きながら、恭しく服を差し出す蓮の姿があった。
その手に乗っていたのは、先ほどヒナが取り出したものとは色違いの黒いクロップドTシャツ、そしてショート丈のダークグレーのサロペット(オーバーオール)だった。
「む?ヒナが出してきたものよりは布面積が多そうじゃな。これは……上下が繋がっておるのか?」
「そうです。これをあえて片方の肩紐を外して着るのが『通』なのです」
「は?」
「子供っぽさと、おへそ周りの露出が生み出すアンバランスさ。そして何より『自分でちゃんと着こなせていない感』こそが……大人の保護欲を強烈に刺激する、究極のマスターピースなんですよ……!」
「ひっ……!」
限界を超えた狂気的な解釈を、息継ぎなき早口でまくし立てる蓮。
その底知れぬ熱量に、ラビリスは小さく悲鳴を上げて思わず後ずさった。
――そしてもちろん、本人に有無も言わさず、それらの服が蓮の持つカゴへと放り込まれるまでがテンプレである。
その後も次々とカゴに服が放り込まれ、ついに二つのそびえ立つ『布の祭壇』が完成した。
しかし、すでにお疲れ気味の魔王の娘にとって、ここからが真の戦いだった。
「おい、お前ら。まさかこれ全部……」
顔を引きつらせて二つの祭壇を指差す大地に、アルバイト二人は力強く頷いた。
――そう、『試着』が始まるのである。
「お、おい待て!こんなに大量の服を順番に着替えろと言うのか!?一体何回着替えればよいのじゃ!?」
試着室に向けてグイグイと背中を押されながら、ラビリスが必死に抗議する。
「ん〜。組み合わせのバリエーションも考えたいし……」
「馬鹿な……!これほどの服、一体何通りあると思うておる!?」
「まぁいいから、入って入って!」
「パ、パパよ!早くこやつらをなんとかせよ!」
(……南無)
「ぎゃあぁぁぁ……っ!」
なりふり構わず助けを求める彼女の悲痛な叫びに、大地はそっと目を逸らし、心の中で静かに合掌する。
そして、無慈悲に白いカーテンの奥へと押し込まれていく魔王の娘。
昨日の大地の宣告通り。
この後、『着せ替え人形』としてヒナと蓮の情熱の赴くまま、そして、なすがままにされたラビリスの情けない声が、試着室から延々と響き渡ることになるのだった。




