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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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☆9かいめ☆ ジャンクフードは蜜の味?

「さて、並んでる間に注文を決めておくか。ラビリス、どれがいい?」


大地はそう言いながら、列の手前に置かれた写真付きメニューをラビリスの前に差し出した。

ふと抱いた疑問を口にする。


「……っていうか、お前、なんでこの世界の文字が読めるんだ?いや、よく考えたら、そもそもなんで普通に話せてるんだ?」



「ふふん、よい質問じゃ」

ラビリスは勝ち誇ったように胸を張った。


「我ら魔族は、生誕と同時に高度な言語魔法を施される。世界中の下等な種族に対し、いつでも完璧な宣戦布告ができるようにな。故に、この世界の言葉を話し、文字を解読するなど造作もないことよ。……ま、あまりに複雑奇怪な紋様(漢字)は、多少の読解を要するがな」


(宣戦布告のために言語魔法って……物騒な英才教育だな)


大地は妙に感心しながらも、彼女の「漢字が苦手」という子供らしい弱点に、少しだけ口角を上げた。



「どれどれ。なかなかに種類が多いな……。ここの『料理長』は日夜メニューの研究に心血を注いでいるというわけか。感心なことじゃ」


ラビリスは、軍議の地図でも眺めるような真剣な眼差しでメニューを凝視し、一つずつ吟味していく。


「……ちーずばーがー?ほぅ、チーズを挟んでおるのか。じゅるり。……じゃが、チーズは余の世界にもある。せっかくなら、この世界ならではの未知の味に挑戦してみるとしよう」


彼女の指が、別の写真へと滑る。


「……『て、り、や、き』?おい、この『てりやき』とはなんじゃ?何かの暗号か?」


「あぁ、それは醤油ベースの甘辛いソースとマヨネーズで味付けしたやつだ。この国の伝統的な味付けの一つだな。みんな大好きだぞ」


「しょーゆ?まよ……?ふむ。伝統の味とは興味深い。……む?ところで、この隅にある絵は何を表しておる?」


ラビリスの真紅の瞳が、メニューの端に載っていたカラフルなプラスチック製のおもちゃを捉えた。


「あぁ、それはおもちゃが付いてくる子供用のセットだ。今はその写真のやつがもらえるんだよ」


「ほ、ほぅ。た、確かに、このような安っぽい玩具に心を奪われるなど、幼子である証拠じゃな。嘆かわしいことよ……」


口ではそう断じながらも、ラビリスの視線は吸い寄せられるようにおもちゃの写真に釘付けになっていた。



「……欲しいのか?そのセットにしてもいいんだぞ?」


「ば、馬鹿を申すでない!このような子供騙しに屈する余ではないわっ!余はこの『てりやきばーがー』なる伝統の味を所望する……!!」


必死に視線を逸らし、メニューを大地に突き返すラビリス。


(やれやれ、素直じゃないな……)


大地は、彼女の瞳がまだ微かにおもちゃの写真を追っているのを見逃さなかった。


「後悔するなよ?じゃあ、それを注文するからな」


「う、うむ……。余の選択に間違いはない……はずじゃ」



「……よし、決まりだな。ちょうど俺たちの番だ。行くぞ」


大地はラビリスの手を引き、レジへと進んだ。


「いらっしゃいませ!ご注文をどうぞ!」


店員の明るく、かつ訓練された挨拶に、ラビリスは一歩身を引いた。


(……なんという覇気じゃ。これほどの人衆の圧の中、一点の乱れもない笑顔。この者、その笑顔の裏で何を企んでおる……?)


大地は店員に注文を伝えた。

ラビリスが欲しそうにしていたおもちゃ付きのセットには目もくれず、彼女が指定した『てりやきばーがー』のセットを二つ。



「かしこまりました。お会計は、1,340円でございます。こちらをお持ちになってお待ちください」


店員から手渡されたのは、手のひらサイズの黒くて無機質なプラスチックの円盤だった。

彼はそれを受け取ると、首を傾げて様子を伺っているラビリスに視線を向けた。


「よし、注文完了。……ほら、これ持ってろ」


「……なんじゃ、これは?そなたの国の『貨幣』か?にしては、随分と大きく、そして……禍々しい色をしておるな」


ラビリスは、大地の指先からひったくるように円盤を受け取った。

彼女の真紅の瞳が、中心で赤く眠る小さなランプをじっと観察する。


「それは呼び出しベルだ。料理ができたらそいつが教えてくれる。ほら、あそこの席に座って待とうぜ」



二人は賑わうフードコートの一角、隅の方の席に腰を下ろした。

ラビリスはテーブルの上に円盤を恭しく置き、まるで未知の魔道具を鑑定するかのように、じっと睨みつけている。


(……ほぅ。これほど小さな板に、料理の完成を告げる機能があると?転移の予兆を感知する魔法具のようなものか?……いや、しかし、魔力の気配が一切感じられぬ……。やはりこの世界の技術、底が知れぬな……)


彼女がそんな「深遠な考察」に耽っていた、その時だった。



――ブブブブブッ!!!ピカピカピカッ!!



「ひぃぃぃぃぃぃっ!!!?」


突然、沈黙を守っていた円盤が猛烈な振動と共に、真っ赤な光を放ちながら暴れ出した。


「ば、爆発する!!伏せろぉぉぉ!!」


ラビリスは椅子を蹴り飛ばさんばかりの勢いで飛び上がり、大地の背中にしがみついた。

周囲の客が何事かと一斉にこちらを振り向くが、彼女はそれどころではない。


「おいおい!落ち着けって!さっき言っただろ、できた合図だって!」


「嘘を申せ!このような禍々しい咆哮と輝き、禁忌の爆裂魔法の予兆そのものではないか!!捨てろ! 今すぐそれを遠くへ放り投げるのじゃ!!」


「離せって、首が締まる……!ほら、見ろ、周りの人たちもみんなこれ持って大人しくしてるだろ?」


「……ぬ?……むむ?」


大地にたしなめられ、ラビリスは彼の肩越しに恐る恐るフロアを見渡した。

確かに、あちこちで同じような円盤が震え、人々がそれを平然とカウンターへ持っていく光景があった。


「……ま、まことか?本当に、爆発せぬのか?」


「あぁ。これを持って行けば、頼んだ料理がもらえるんだ」


「……っ。……ふ、ふん。わかっておるわ!今のは……そう、余の『反射神経』を試しただけじゃ!そなたがあまりに無防備ゆえ、余が代わりに警戒してやったのじゃ!」


顔を真っ赤にしながら、ラビリスは大地の背中から降り、服の乱れを整えた。

しかし、テーブルの上で依然として震え続ける円盤を、彼女は決して触ろうとはしなかった。


「……ほら、そんなに怖いなら俺が取りに行ってくるよ。お前はここで待ってろ」


「う、うむ。……許す!パパの特権として、料理を運ぶ栄誉を授けてやろうではないか!」


必死に威厳を取り戻そうとするラビリス。

大地はやれやれと肩をすくめ、震えるベルを手に取ってカウンターへと向かった。




――数分後。




「……ほら、持ってきたぞ。冷めないうちに食え」


大地がトレイを置くと、そこから漂う食欲をそそる香りに、ラビリスの鼻がピクリと動いた。


「……ほぅ。これが例の『てりやき』か。……む?大地、この横にある、黄金色に輝く細長い棒は何じゃ? 『じゃがりこ』に似てなくもないが……」


「いや、これはフライドポテトだ。同じジャガイモだけど、こっちは揚げたてだからな。ほら」


ラビリスは、大地の言葉を疑うように一本のポテトを手に取った。

彼女の知る『じゃがりこ』は、剣のごとき硬さと心地よい砕ける食感が売りだったが、これはどう見ても柔らかい。


(……ふん。あの至高の菓子に比べれば、このふにゃりとした棒など、たかが知れておる。どれ……)


一口、噛みしめる。



「……っ!?な、なんじゃこの食感は!!」


ラビリスは目を見開いた。外側は薄い氷を割るような微かな「カリッ」という抵抗があるのに、その中身は驚くほど熱く、そして雪解けのように「ホクッ」と柔らかい。


「……美味い。なんじゃこれは!『じゃがりこ』のような力強さはないが、この優しくも温かい抱擁のような口当たり……!塩加減も絶妙ではないか!」


「だろ?手が止まらなくなるんだよな、これ」


「うむ……。止まらぬ、確かに止まらぬぞ……!」


一本、また一本と、ラビリスは黄金の棒を口に運び、至福の表情を浮かべた。

しかし、その視線がトレイに乗った「黒い液体」に注がれると、再び警戒の色が戻る。


「……ところで、大地よ。この禍々しい黒色の水は何じゃ?水面から絶えず細かな泡が湧き出ておるが……。貴様、ついに余に毒を盛る気になったか?」


「コーラだよ。毒じゃないって。口の中がさっぱりするから、ポテトにはこれが一番合うんだ」


「ふん、怪しいものじゃ。……よかろう、これも経験じゃ」


ラビリスは恐る恐る、細長い筒(ストロー)を口に含んだ。

そして、勢いよく吸い込んだ、その瞬間。


「ッ――ゲホッ!?ゴホッ!ご、ごふぁっ!!?」


ラビリスは椅子から転げ落ちそうになりながら、自分の喉をかきむしった。


「な、なんじゃあぁぁ!!この水、口の中で弾けておる!!牙を剥いて余の喉を攻撃してきおったぞ!!やはり毒を盛ったな、貴様!?」


「あはは!炭酸だよ、炭酸。最初はびっくりするけど、それがいいんだよ」


「わ、笑い事か!喉が、喉がヒリヒリする……!……む?」


激しい衝撃が去った後。

口の中に残ったのは、これまでに経験したことのない爽快感だった。

鼻に抜ける独特の香りと、後を引く強烈な甘み。

そして何より、ポテトの油っぽさが一瞬で消え去り、口内がリセットされる感覚。


「……なんじゃ。この刺激の後にやってくる、清涼な感覚は……。それに、この甘み……。禍々しい色に反して、なんと気高い味なのじゃ……」


彼女はもう一度、今度は慎重に一口吸い込んだ。

パチパチと弾ける刺激が心地よいリズムに変わり、喉を通り抜けるたびに、体中の熱が引いていくような錯覚を覚える。


「……ほぅ。この『こーら』なる水……。喉を攻め立てる凶暴さと、心を癒やす甘美さを併せ持っておるな。……気に入ったぞ!大地……いや、パパ!これを考案した錬金術師を連れてまいれ!余が直々に褒めて遣わす!!」


「無理言うなって。……ほら、次はメインのバーガーだぞ?」


「うむ!この世界の食文化、侮りがたしじゃ……!」


ポテトを頬張り、コーラで流し込む。

現代文明の「不健康な黄金コンビ」の虜になったラビリスは、もはや魔王の娘としての威厳をかなぐり捨て、無我夢中で食らいついていた。

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