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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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☆10かいめ☆ 至高の五重奏

「……よし。では、この『てりやきばーがー』なるものを頂くとしようか」


ラビリスは、聖遺物を扱うような手つきで、丸く膨らんだ包み紙を手に取った。


(前菜のポテトであれほどの美味……。メインディッシュたるこの『ばーがー』が、それを上回ることはもはや明白!余の期待を裏切ることは許されぬぞ……!)


ゴクリと喉を鳴らす。期待と緊張が入り混じり、彼女の真紅の瞳がわずかに潤んだ。



「して、大地よ。この包み紙はどのように剥けばよいのじゃ?まさか、この紙ごと食らえというわけではあるまいな?」


「あぁ、確かに最初はわかりにくいかもな。これはな、こうやって端を少しずつ……」


大地が手本を見せるように、慣れた手つきで包み紙を開いていく。

ラビリスはその指先の動きを、秘伝の術式を盗み見るような真剣さで見守った。


「な、なるほど。力任せではなく、流れに逆らわぬのがコツか……」


彼女もそれに倣い、たどたどしい手つきで自分の包み紙を開いていく。

指先に伝わる柔らかな感触と温もり。



そして、ついに「それ」が姿を現した。


「――っ!?」


封じられていた熱気が一気に解放されるのと同時に、暴力的なまでに甘美な香りが彼女の鼻を突き抜けた。


醤油の焦げた香ばしさ、濃厚な甘み、そしてそれらを包み込む肉の脂の匂い。

異世界の王宮に並ぶ、どんな高価な香辛料を使った料理とも違う、抗いがたい「食欲の塊」がそこには鎮座していた。


「な、なんじゃ、この匂いは……!鼻をくすぐるどころか、脳を直接揺さぶられるような……!これが、この国の『伝統の味』というのか!?」


包み紙の中に溜まった、焦げ茶色の艶やかなソースが照明を反射して怪しく光る。

ラビリスは、その未知の輝きに圧倒されながらも、抗えぬ本能に従って再び喉を鳴らした。



彼女は意を決し、両手でしっかりと「それ」を掴んだ。

大きく開かれた小さな口に、何層にも重なった現代の叡智が吸い込まれていく。


がぶっ!


「――っ!!」


一口、深く噛みしめた瞬間。ラビリスの脳内で、未だかつてない規模の爆発が起きた。



まず彼女を迎えたのは、雲のように柔らかく、ほんのり温かい黄金色のパン(バンズ)の抱擁だった。

だが、その柔らかな感触は、すぐさま次なる衝撃に塗り替えられる。


「な、なんじゃ……!この、噛むほどに溢れ出す肉の奔流は……!!」


ジューシーに焼き上げられた肉の塊(パティ)から、濃厚な肉汁が溢れ出す。

そこに絡みつくのが、あの「伝統の味」――てりやきソースだ。

醤油の香ばしさと、奥深い甘みが肉の旨味を何倍にも引き立て、舌の上で狂おしいほどに踊る。


さらに追い打ちをかけるように、「シャキッ!」という涼やかな音と共に、瑞々しいレタスの食感が弾けた。

濃厚な味の応酬の中で、その清涼感はまさに砂漠のオアシス。



だが、ラビリスを最も驚かせたのは、それらを一つにまとめ上げる「影の主役」の存在だった。


(……っ!この、肉とソースの間に忍ばされた、『謎の白い蜜』は何じゃ!?)


彼女の知らないその白いソース(マヨネーズ)は、絹のように滑らかで、驚くほど濃厚。

それでいて微かな酸味が、甘辛いソースと肉の脂を完璧なまでに調和させ、まろやかなコクの深淵へと彼女を誘う。


「ふ、ふぉぉぉぉぉおおお……!!」


パンの柔らかさ。肉の猛々しさ。草の瑞々しさ。漆黒のソースの甘美さ。そして、謎の白い蜜の慈悲深さ。


五つの要素が、口の中で一つの完成された楽章を奏でる「五重奏(クインテット)」。

ラビリスの頬はパンパンに膨らみ、幸せのあまり真紅の瞳は潤み、細い眉はハの字に下がっていた。


「……んんぅぅぅ!美味い!美味すぎるぞ大地……いや、パパ!余の知る宮廷料理など、この円盤状の小宇宙の前では、ただの粗食に過ぎぬわ!!」


「だろ?それが日本のソウルフードの一つ、てりやきバーガーだ」


大地が笑いながら指差す。

「ほら、ラビリス。口の周り、ソースとマヨネーズでベトベトだぞ」


「ふ、ふぇ……?……むぐっ、構わぬ!このような至高の体験を前にして、些細な体裁など気にしておれるか!!」


夢中で二口目、三口目と食らいつくラビリス。

ソースが頬に付こうが、鼻の頭にマヨネーズが飛ぼうがお構いなしだ。

魔王の娘としての誇りは、今や完全に「食欲」という名の本能に屈していた。


ポテトを放り込み、コーラで流し込み、そしてメインのバーガーを頬張る。

そのたびに、椅子からぶら下がった足をぴょこぴょこと幸せそうに振る。

その姿は、異世界の魔族などではなく、ただの「美味しいものに目を輝かせる幸せな女の子」そのものだった。



「てりやきばーがー……実に見事なり……!!」


すべてを平らげたラビリスは、膨らんだお腹を満足げにポンポンと叩き、至高の悦びに浸っていた。

その表情は、強敵を打ち倒した勇者のごとく誇らしげな「ドヤ顔」であったが、悲しいかな、その口の回りは見るも無残にベトベトに汚れていた。


「そりゃよかったよ。……ほら、じっとしてろ」

大地は苦笑しながら、トレイから紙ナプキンを一枚取ると、彼女の口元に手を伸ばした。


「……んむっ!?な、なんじゃ、いきなり……!」


「ソースが鼻の頭まで付いてるんだよ。そのままじゃ、魔王の娘が台無しだろ?」

大地は優しく、丁寧にその汚れを拭き取っていく。


「っ……!こ、子供扱いするでない!これぐらい、余一人でできるわ!!」


ラビリスは顔を真っ赤にして、大地の手からひったくるようにナプキンを奪い取った。

そのまま、「ふんっ!」と鼻を鳴らしていそいそと口元を拭き始める。


だが、鏡がない場所でのセルフ清掃は、案の定たどたどしい。

ナプキンを動かすたびに、逆に汚れを広げているようにも見えた。


(……偉そうなこと言ってるけど、ただの食いしん坊にしか見えねぇな)


大地はそんな彼女の様子を、目を細めて眺めていた。

これまでの「異世界からの来訪者」という緊張感は、この賑やかなフードコートの喧騒と、てりやきソースの匂いの中にすっかり溶けて消えていた。




「……ふぅ。これでよいか?」


ようやく拭き終えたラビリスが、少しだけ鼻の下に拭き残しを作ったまま、再び凛とした表情で大地を見上げた。


「あぁ、綺麗になったぞ。……さて、腹もいっぱいになったことだし、そろそろ行くか」


「うむ。満足じゃ。この世界の『伝統』、存分に堪能したぞ!」


そう言ってラビリスは、すべてを堪能した様子で席を立った。……はずだった。


だが、トレイを片付けようとする大地の横で、彼女の視線がふと止まる。

そこには、先ほどまで睨みつけていたメニュー表が置かれていた。

その隅っこで、プラスチックのおもちゃの写真が一際光っているようだった。


(……ふん。あのような、稚拙な細工物。余が興味を持つはずもなかろう)


彼女は歩き出そうとして、ほんの数秒、いやコンマ数秒だけ、その写真をじっと見つめた。

それは、魔王の娘としての誇りと、少女としての好奇心の狭間で揺れる、あまりに露骨で、切実な「一瞥」だった。


大地はその視線の動きを、黙って見届けていた。


(……ったく、世話の焼ける……)

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


おかげさまで☆10かいめ☆まで来ました!てりやきバーガー、美味しいですよね。


今回はカップラーメン、じゃがりこに続き、てりやきバーガーを献上しましたが、皆さんがラビリスに食べさせてみたい、やらせてみたいことはありますか?もしかしたら参考にさせていただくかもしれません(笑)


面白かった、お腹が空いた!という方は、ぜひ【下にある☆】で応援いただけると嬉しいです!


今後も、ぜひ二人の奮闘記をよろしくお願いします。

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