☆64かいめ☆ 奇跡のトライアングル、コンビニに降臨す!
「さようならー!」
帰りのチャイムが鳴り響き、教室に子供たちの元気な挨拶がこだまする。
波乱(主に給食のおかわり争奪戦)に満ちた編入初日の授業がすべて終わり、放課後の時間がやってきた。
「ふむ、これで学校での一連の流れは終わったということか……。ふふふ、まだまだ全容は掴めぬが、思っていた以上に余を満足させてくれそうじゃ」
真新しいランドセルを背負いながら、ラビリスは満足げにコクコクと頷いた。
彼女の脳内での『学校』の評価は、お昼のビーフシチューによってすでに最高潮に達している。
「ふふっ、新田さん、お昼からずっとご機嫌だね。……あ、天羽さん、さようなら」
「えぇ、さようなら。……と言いたいところですけれど」
帰り支度を終えためるが六華に声をかけると、彼女は少し困ったような、けれどどこか楽しげな表情で二人のもとへ歩み寄ってきた。
「実は、今日はお迎えの車が遅れるみたいなんですの。運転手がお母様のお使いを頼まれてしまったらしくて」
「えっ、じゃあどうするの?お迎えが来るまで学校で待ってる?」
「いえ。結構時間がかかりそうなので、今日はスクールバスで帰ることにしましたわ」
そう言って、六華はエナメル製の可愛らしいカードケースを取り出し、自分のカードをちらりと見せた。
「ほほぅ。リッカもあの巨大な乗り物に乗ると言うのか」
その言葉を聞いた瞬間、ラビリスは大げさに胸を張ってふんぞり返った。
「よかろう!あのバスなる乗り物の構造と『契約の儀式』の作法は、今朝完全にマスターしたからな!リッカには特別に、この余が乗り方を指南してやろうではないか!」
「……別に新田さんに教わらなくても、乗り方くらいわかりますわよ。それに、新田さんも今日が初めてですのに、ずいぶんと偉そうですわね」
「なっ!?折角余が寛大な心で手を差し伸べてやろうと――」
「あはは。まぁまぁ、それじゃあ今日は三人で一緒に帰れるね!」
顔を赤くするラビリスと、涼しい顔で受け流す六華の間に、めるが笑顔で割って入る。
「ふん。では帰還するぞ!余のあとに続くがよい!」
ラビリスはズンズンと大きな足音を立てて教室を飛び出していく。
呆れ顔で息を吐く六華と、その後ろ姿をクスクスと笑いながら追いかけるめる。
オレンジ色に染まり始めた春の夕暮れ時。
並んで歩く三人の小さな影は、楽しげな話し声を響かせながら、帰りのバスが待つ停留所へと向かっていくのだった。
帰りのバスに揺られること数十分。
朝と同じ停留所へと滑り込んだバスから、三人は連れ立って降り立った。
「ふはは、さらばじゃ鉄の馬車よ!明日も頼んだぞ!」
無事に下車の儀式を済ませて満足げなラビリスだったが、自分の後ろから降りてきた六華を見て、不思議そうに首を傾げた。
「なんじゃ。リッカもここでじゃったか」
「え?えぇ、まぁ」
少しバツが悪そうに目を逸らす六華に、めるもパチクリと目を瞬かせる。
「あれ?天羽さんって、もう少し先じゃなかったっけ……?」
「そ、その……。い、いつも車ですし、少し歩いて帰ろうと思いまして……!お天気も良いですし、たまには運動も兼ねて、ですわ!」
早口で言い訳を並べる六華。
そのほんのりと赤くなった頬と、どこか名残惜しそうにランドセルの肩紐をギュッと握る手を見て、めるはふんわりと微笑んだ。
「そっか。……ね、もし二人とも急いでないなら、そこの広場で少しだけお喋りしていかない?」
めるが近くの小さな公園を指さして提案すると、六華の表情がパッと明るくなった。
「ふむ、よかろう。余が特別に付き合ってやろうではないか!」
「もう……なんでそんなに偉そうですの?……ま、まぁ、少しだけなら、お付き合いして差し上げますわ」
ラビリスが謎の上から目線で食いつくと、六華もホッとしたように口元を綻ばせ、ツンとすまして頷いた。
――数分後。
「――つまりアクアは、皆から非情と受け取られるとわかっていながら、結果的に皆の気持ちを一つにしたわけじゃ」
「なるほど。マジプリ……深いですわ」
「すごく心が強い人なんだね」
熱弁を振るい終え、ラビリスは「ふぅ」と一息ついた。
すっかりマジプリの魅力に引き込まれた六華とめるが感心しきっているのを見て、魔王の娘は満足げに頷く。
「ふむ。……少々熱く語りすぎて、喉が渇いてしまったな」
すると、めるがハッとしたように自分の水筒を振った。
「あ、ごめんね。もう空っぽだった……」
彼女申し訳なそうにすると、ラビリスは「気にするでない」と頷き、そしてポンと手を打った。
「そうじゃ!ここから少し歩いたところに、よいところがあるのじゃ!そなたらもどうじゃ?余が直々に案内してやるぞ」
「いいところ、ですの?」
「うむ。色とりどりの『魔法の薬』やら、『じゃがりこ』を始めとした菓子が山のように積まれておるのじゃ!今ちょうど、大……パパがあそこで労働をしておるはずじゃ」
目を輝かせて語るラビリスに、めると六華は顔を見合わせた。
「新田さんのパパ、そこで働いてるの?」
「いかにも!」
「へぇ。色々と取りそろえたお店ですのね。いいですわ、興味がありますし、ご一緒しますわ」
「私も行こうかな。新田さんのパパ、見てみたいし」
「よかろう!ならば出陣じゃ!」
すっかり乗り気になっためるに、お嬢様としての好奇心をくすぐられた六華。
こうして、魔王の娘とエリート小学生二人は、大地が絶賛労働中のコンビニへと足取り軽く進軍を開始するのだった。
――そして歩くこと数分後。
「着いたぞ、ここじゃ!」
ラビリスが誇らしげに指差したのは、見慣れた看板が掲げられた、ごく一般的なコンビニエンスストアだった。
「新田さんのパパが働いてるのってコンビニだったんだ!」
「コンビニ……。噂には聞いておりましたけれど、今まで前を通るだけで、中に入るのは初めてですわ」
めるが納得したように頷く横で、六華は少し緊張した面持ちでガラス張りの外観を見上げている。
エリートお嬢様にとって、庶民のオアシスたるコンビニは完全なる未知の領域らしい。
「むむ?今日の城の守護は……おぉ、あの『眼鏡』がおるな。パパも奥におるはずじゃ」
ガラス越しに店内を覗き込んだラビリスは、レジに立つ人物を視認して満足げに頷いた。
どうやら今日はヒナは出勤しておらず、代わりに大地の優秀な右腕(であり、ラビリスの熱狂的信者)である法学部生の蓮が一人でレジを守っているようだ。
「さぁ、二人ともついて参れ!」
ラビリスが先陣を切って自動ドアの前に立つと、ウィーンという音と共に扉が開いた。
ポロロロロン♪
のどかな入店チャイムの音が店内に響き渡る。
「いらっしゃいませ」
レジカウンターで伝票の整理をしていた蓮が、条件反射で声を上げ、入り口へと視線を向ける。
そして――彼の思考回路は、コンマ1秒で限界を突破した。
(……ッッッッ!?!?)
例のごとく蓮は表面上、冷徹な法学部生の無表情を完璧に維持していた。
しかし、彼の脳内法廷では、突如として開廷された『可愛さの暴力に関する緊急裁判』により、裁判長が木槌を乱れ打ちしていた。
(おお……おおお……!ラビリスちゃんが、ランドセルを背負った『完璧なる小学生スタイル』でご降臨なされた……!しかも、なんだあの後ろの二人は!?小動物のように愛らしい天使と、気品溢れる本物のお嬢様……!?)
ただでさえ致死量の尊さを誇るラビリスが、属性の異なる美少女二人を引き連れて来店したのだ。
画面越しの二次元ですら滅多にお目にかかれない『奇跡の同級生トライアングル』に、蓮の内なる聖母信仰は、ラビリス初入店以来の歓喜のスタンディングオベーションを巻き起こしていた。
(落ち着け……落ち着くんだ、二階堂蓮。ここで不審な挙動を見せれば、店長からの信頼、ひいてはラビリスちゃんに近づく合法的権利を失うぞ……!)
蓮はレジカウンターの下でギュッと拳を握りしめ、荒ぶる魂を強靭な理性で押さえ込んだ。
そして、中指でスッと眼鏡のブリッジを押し上げ、極めて紳士的な、しかしどこか慈愛に満ちた声で口を開いた。
「……いらっしゃいませ、ラビリスちゃん。今日は、クラスメイトもご一緒ですか?」
「うむ!メルとリッカじゃ!喉が渇いたゆえ、この城で調達しようと思ってな」
「……なんと素晴らしい。……コホン。ご来店、誠に光栄です」
恭しく頭を下げる蓮。
その見事な(?)店員の対応に、六華は感心したように小さく呟いた。
「まぁ……。コンビニの店員さんって、随分と礼儀正しいんですのね。一流ホテルのコンシェルジュみたいですわ」
(※違います。ただの限界を迎えた紳士(?)です)
そんな真実を知る由もなく、三人の小さな客人は煌々と光る商品棚へと足を踏み入れていくのだった。




