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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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62/78

☆62かいめ☆ 玉座か特等席か、ポンコツか天才か?

無事に『契約』を済ませてバスの内部へと足を踏み入れた後、ラビリスはズラリと並んだ座席を一通り見渡して、おもむろに腕を組んだ。


(ふむ……。この空間を統べる支配者たるもの、あそこに陣取るのが筋というものじゃな)


彼女の真剣な視線の先にあるのは、最後列のど真ん中の席。

車内の全景を俯瞰でき、配下(他の生徒)たちを後方から一望できるあの場所こそ、魔王の娘たる自分に最も相応しい『玉座』であると、ラビリスは勝手に確信していた。



いざ、玉座へ――。

そう足を踏み出そうとしたものの、彼女の体はなぜかその場から動こうとしなかった。


(じゃ、じゃが……あちらも、非常に捨てがたい……っ!)


ラビリスの真紅の瞳は、玉座とは別の場所……通路を挟んで並ぶ『窓際の席』に釘付けになっていた。


そこからは、朝日を浴びてキラキラと輝く街の景色がよく見える。

これからこの巨大な乗り物がどのように動き、どのようなスピードで景色を置き去りにしていくのか。

異世界から来た好奇心旺盛な魔王の娘にとって、外の世界を独り占めできる窓際は、玉座の誘惑を上回るほどに魅力的な『特等席』だったのだ。



(支配者としての威厳を示す玉座をとるか、未知なる景色の探求をとるか……。えぇい、なんという究極の二択じゃ……!)


通路の真ん中で立ち止まり、最後列と窓際の席を交互に睨みつけながら、ラビリスは一人で勝手に頭を抱えていた。



すると、通路で立ち止まっている彼女に気づいためるが、不思議そうに振り返った。


「どうしたの?新田さん」


「む?い、いや、どの陣地を確保すべきか、戦略を練っておったところじゃ」


苦しい言い訳をするラビリスに、めるは小さく首を傾げた後、ポンと手を打った。


「あ、そうだ。新田さんは学校のバスに乗るの初めてだもんね。それなら、窓際に座るといいよ。あそこからだと、外の景色がすごく綺麗に見えるから」


(よくぞ言うた!)


心の中で盛大なガッツポーズを決めつつも、ラビリスはコホンとわざとらしく咳払いをして、あくまで『魔王の娘としての矜持』を保ったまま悠然と頷いた。


「ほぅ……。ま、まぁ、メルがそこまで言うのであれば仕方あるまい。今回はそなたの顔を立てて、そちらに座ってやるとしようか。苦しゅうないぞ」


「くるしゅ?」


めるは、またしても飛び出した聞き慣れない言葉に「苦しいの?」と首を傾げたが、ラビリスはそんなことお構いなしに、いそいそと窓際の特等席へと潜り込んだ。




やがて、全員の乗車が完了し、バスの扉が閉まる。

低いエンジン音が響き、巨大な車体がゆっくりと滑るように動き出した。


その瞬間――。


「ふおぉぉぉ……!」


ラビリスは、窓ガラスに額がくっつきそうなほど顔を近づけ、真紅の瞳を限界まで見開いた。


大地の乗る『鉄の馬車(軽自動車)』とは比べ物にならない、圧倒的な視線の高さ。

流れていく街の景色や、自分より低い位置を歩く人たちを見下ろすと、先ほどまで必死に取り繕っていた威厳などあっという間に吹き飛んでしまった。


「なんという見晴らしじゃ!見よメル!道を歩く人間どもが皆、余の威光にひれ伏しているようじゃ!まるで雲の上から下界を見下ろしているようではないか!」


謎の支配者目線でテンションを爆発させ、窓にへばりつきながら大はしゃぎする魔王の娘。


「あはは!新田さんって面白いね。……でも、あんまり窓に近づきすぎると危ないよ?」


「むふふ〜。絶景かな、絶景かな〜」


めるが優しく注意するのも耳に入らない様子で、ラビリスは眼下に広がる『下界(ただの住宅街)』の視察を全力で楽しんでいる。

こうして初めてのバス通学は、賑やかな笑い声と共に成功を収めたのだった。






スクールバスに揺られること数十分。

ラビリスたちは無事に枢星学園へと到着した。


バスを降り、真新しい校舎へと足を踏み入れると、あちこちで「おはよう!」「おはようございます!」と元気な声が飛び交っていた。


(ほ、ほぉぉぉ……!)


登校してくる生徒や先生たちが、すれ違いざまに自然に挨拶を交わし合う光景。

それはまさに、ラビリスがいつも食い入るように見つめている『マジプリ』で描かれていた「平和な学校の朝」そのものであった。


教科書(アニメ)通りの憧れの光景を目の当たりにし、魔王の娘は一人、胸の奥でひっそりと深い感銘を受けていた。



するとそこへ、すでに聞き慣れた上品な声が彼女の鼓膜を叩いた。


「おはようございます。新田さん、露原さん」


「あ、天羽さん。おはよう」


優雅な足取りで現れた六華に、めるが笑顔で挨拶を返す。

ラビリスはビクッと肩を跳ねさせると、どこか落ち着かない様子でそっぽを向きながら、ボソボソと口を開いた。


「おぉ、リッカか。……う、うむ。お、おは、おはよう……」


「あら?なんだかお顔が赤いですわよ?もしかして体調が悪いんじゃないですの?」


昨日は尊大で偉そうだった少女が、なぜかモジモジとしている。

不思議そうに顔を覗き込んでくる六華に対し、ラビリスはカッと声を張り上げた。


「ち、違うわ!……その……少々、乗ってきたバスの中が暑かっただけじゃ!」


「……?」


頭の上にハテナを浮かべる六華を置き去りにして、ラビリスは「行くぞ!」とズカズカと早歩きで廊下を進んでいく。

赤くなった耳を誤魔化すように、キャメル色のランドセルを揺らして歩くその後ろ姿。

めると六華は顔を見合わせてクスッと笑い合い、彼女を追いかけるように仲良く教室へと向かった。




朝のホームルームはこれといった問題も起きず、鬼頭先生のほわほわオーラも相まって、実に平和に終了した。

しかし、いよいよ本格的な授業が始まったところで、魔王の娘は早くも私立の進学校ならではの「壁」にぶち当たっていた。



「では皆さん、タブレットの算数のドリル、13ページを開いてください」


算数の先生(※枢星学園では教科ごとに専任の教師がいる「専科制」である)の指示に従い、クラスの生徒たちが机の中央に置かれた薄い板――タブレット端末を流れるような手つきで操作し始める。


しかし、ラビリスだけは腕を組んだまま、目の前の黒い板を親の仇のように睨みつけていた。



(……こ、これは、大地と『ふぁみれす』なる場所で、『ぱふぇ』を召喚した時に使っておった魔法の石板ではないか……!)


あの日の甘美な記憶が蘇る。

見よう見まねで画面をツンツンと指で突いてみるものの、画面は真っ暗なままでウンともスンとも言わない。


(な、なぜじゃ!?あの時はすぐに光ったというのに!余の指先の魔力が足りぬとでも言うのか!?)


一人で勝手に焦りまくるラビリス。

しかし、ここで「使い方がわからない」などと言えば魔王の娘の威厳に関わる。

彼女はコホンと咳払いをすると、前の席の六華の肩をポンポンと叩き、無駄に偉そうな態度で身を乗り出した。



「(お、おいリッカよ!余の石板、どうやら魔力が尽きておるようじゃ!そなたへ特別に、これに魔力を充填する名誉を与えてやろう!)」


「……まりょく?何を言っておりますの?……あぁ、これ電源が入っていないですわ。ここを長押しするんですのよ」


「おぉっ!?光った!そなたなら成せると思うておったぞ」


呆れ顔でお世話をしてくれる六華(と、隣の席から心配そうに見守るめる)のおかげで、なんとか授業の体裁を保つラビリス。




しかし、タブレットの操作こそおぼつかないものの、彼女の『頭脳』は紛れもなく次期魔王として英才教育を受けた本物だった。


「じゃあ、この少し難しい応用問題……。せっかくだから、編入生の新田さんに答えてもらいましょうか」


黒板(という名の巨大な電子モニター)に映し出されたのは、二年生には少し複雑な、繰り上がりと繰り下がりが連続する三桁の計算問題だった。

クラス中の視線が、まだタブレットと格闘している銀髪の少女に集まる。



(ふふっ、少し意地悪だったかしら)と先生が微笑んだ次の瞬間。


「む?『342』じゃ」


ラビリスは手元のタブレットに触れることもなく、一瞥しただけで即答した。


「え……?」


(あんなもの、魔王軍第一師団の三日分の兵糧の計算に比べれば、あくびが出るほど容易いわ。桁が3つほど足りぬのではないか?……そんなことより、今はこやつじゃ……!)


ふんっと自慢の銀髪をかき上げ、得意げに鼻を鳴らすと、再びタブレットとの格闘に戻るラビリス。

先生が慌てて手元の解答を確認すると、その数字は一寸の狂いもなく見事に正解していた。


「せ、正解です……!暗算で、それも一瞬で解くなんて……すごいですね、新田さん!」


先生の驚きの声に、教室中から「おぉ~」とどよめきが起こる。



「なるほど。……これをこうすればよい……のか?」


たどたどしい手つきでタブレットを触りながら、圧倒的な頭脳を見せつける魔王の娘。


「……機械には弱いみたいですけれど、本当に頭が良いんですのね……」


「すごいよっ、新田さん……!」


呆れ半分、感心半分の六華と、純粋に尊敬の眼差しを向けるめる。

その二人の視線を浴びながら、ラビリスは「学園」という新たな領地で、確かな存在感を放ち始めていた。

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