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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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54/54

☆54かいめ☆ これが『枢星学園』の正装だ!令嬢スタイルの『制服魔王(の娘)』爆誕!

翌日。大地たち四人は、北条理事長から指定された都内有数の老舗百貨店に足を踏み入れていた。


春休みシーズンのためか、家族連れで賑わう店内。

そのエスカレーターを上りながら、大地は隣を歩く茶髪の女子高生に向けてジト目を向けた。


「……で、なんで当然のように、お前までついてきてるんだよ」


「え、逆になんでアタシがいないと思ったわけ?ラビちゃんの初制服とか、ガチで歴史的瞬間じゃん!アタシが専属プロデューサーとして、ビジュを完璧に仕上げなくてどーすんの!」


「制服にコーデもクソもあるか。指定の服を着るだけだろ」


「店長、マジでわかってないなー!スカートの丈感とかソックスの長さのバランスとか、そのミリ単位のこだわりでビジュが全然変わるんだってば!ねー、ラビちゃん!」


「む?よくわからぬが、余の装束は常に完璧でなければならぬからな。ヒナ、大儀であるぞ」


「ハハーッ!もったいなきお言葉、あざーっす!」


キャッキャと盛り上がるギャルと魔王の娘。

その後ろで「ハッハッハ、千家さんがいると賑やかでいいねぇ」と白川オーナーが人の良さそうな笑い声を上げている。


(……この面子、絶対周りから見てどういう関係性の集団か謎すぎるだろ……)


周囲の奇異の目を一身に受けながら、大地は胃の痛みを堪えて子供服フロアへと向かった。



枢星(くるるぼし)学園の入学準備につきましては、子供服フロア奥の「特別サロン」までお越しください』


手引書に書かれた通りに売り場の奥へと進むと、開けた一般の売り場とは明らかに空気が違う、重厚な木製の扉が現れた。


恐る恐る扉を開けると、そこはふかふかの絨毯が敷き詰められ、アンティーク調のソファが並ぶ、高級ホテルのスイートルームのような空間だった。


「……っ。な、なんだこの部屋。場違い感がエグい……」


一歩足を踏み入れた瞬間に、大地は帰りたくなった。

ゴリゴリ普段着の庶民のDNAが、この空間は危険だと警鐘を鳴らしている。


「ふむ。この城の謁見の間か。少し手狭ではあるが、装飾は悪くないな」


「え、待って?なにここ!?ちょ、ラビちゃん、とりあえずそこのソファ座って!写真撮るから!」


「うむ、苦しゅうない」


「ハッハッハ、昔私のスーツを仕立てていたテーラーに少し似ているねぇ」


ガチガチに緊張して入り口で固まる大地をよそに、二人の信者と魔王の娘は、VIPサロンを完全に自分たちのペースで満喫し始めていた。



「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


そこへ、綺麗にスーツを着こなした上品な女性の店員が、静かな足取りで現れた。

洗練されたプロの接客態度は、大地のプレッシャーをさらに跳ね上げる。


「あ、あのっ……く、枢星学園の北条理事長から言われて、こちらで制服の採寸をするようにと、その……」


彼が手引書を差し出しながらしどろもどろに告げた、その瞬間だった。



「――ッ!!!」


店員の目が、カッと見開かれた。

先ほどの穏やかな接客スマイルが吹き飛び、まるで国賓を迎え入れるような、あるいは神の使いを前にしたような、極限の緊張状態へと移行する。


「も、もしかして……北条理事長から直々にお電話で指示がありました、我が百貨店が全力を挙げてお迎えすべき、学園創立以来初の『特待生』であらせられる……新田様の御一行でいらっしゃいますか!?」


「……えっ。あ、はい。俺が新田……って、ちょっと待ってください。全力を挙げて……?」


大地の疑問を遮るように、店員は「お待ちしておりました!!」と、90度の完璧な最敬礼を繰り出した。


「北条理事長より、『100年に一人の逸材が行くから、くれぐれも粗相のないように』と、それはもう恐ろしい剣幕で……いえ、大変丁寧な念押しをいただいております!ささ、皆様、どうぞ奥の特等席へ!!」


(あの理事長、百貨店にまでプレッシャーかけてんのかよ!?)


店員のあまりの丁重さに、大地は別の意味で冷や汗が滝のように流れ始めるのだった。




「では、さっそく採寸とご試着を始めさせていただきますね。お嬢様、お着替えのお手伝いをさせていただきます」


店員は恭しく微笑むと、VIPサロンの奥にある広々とした試着室へとラビリスを誘導する。

三人が見守る中、ラビリスと店員は試着室のカーテンの奥へと消えていった。



「ふん、子供扱いするでない。着替えなど余一人で容易い――む?なんじゃこの複雑な留め具は。この紐はどうやって結ぶのじゃ? ……ぐぬぬ……!えぇい、何をジッと見ておる!さっさと手伝うがよい!」


「ふふっ、かしこまりました。こちらに腕を通してくださいね」


厚いカーテンの向こうから、見慣れない制服の構造に手こずり、結局あっさりと店員の手を借りる魔王の娘のボヤキ声が聞こえてくる。



「……あいつ、ホントに100年に一人の逸材なのか?一瞬で降参したぞ」


ソファーに座って、出された高級な紅茶を啜りながら、大地が呆れたように息を吐く。


「あははっ!でも私立校の制服ってマジで作り込みエグいの多いから!……あー、早く見たい!ラビちゃん、絶対似合うんだろうなー!楽しみすぎて無理!」


「うん。孫娘(?)の晴れ姿を待つというのも、なかなか乙な時間だねぇ。カメラの準備をしておかないと」


スマホを構えてウキウキと待機するヒナと、すっかり「じぃじ」の顔になって目を細める白川オーナー。




やがて、「お待たせいたしました」という店員の声とともに、シャッと勢いよくカーテンが開かれた。


「…………なんじゃ、この不格好な装束は!!」


試着室から現れたラビリスは、ひどく不満げな顔で仁王立ちしていた。

それもそのはず。着せられた真新しい制服は明らかにサイズが大きく、袖からは手がすっぽりと隠れてしまっており、スカートの丈も膝下まである野暮ったい長さだったのだ。


「余の動きを封じる拘束具か!?手が出ぬし、裾も長すぎて歩きづらいわ!……おのれ、じじちょーめ。余を道化にするつもりではあるまいな……!?」


ぶかぶかの袖をブンブンと振り回しながら抗議するラビリスに、大地は苦笑しながら口を開く。


「じじちょーじゃなくて理事長な。子供はすぐにデカくなるから、最初はわざと大きめのサイズを買うんだよ」


「その通りでございます。お嬢様のご成長に合わせて後から袖や裾を伸ばせるよう、あえて大きめのサイズをご用意しております」


店員も大地の言葉を補足するように優しく説明する。

しかし、「自分の装束は常に完璧でなければならない」という謎のプライドを持つ魔王の娘は、口を尖らせて納得がいかない様子だ。



すると、上品な女性店員はラビリスの目線に合わせてスッとしゃがみ込み、ふふっ、と優しく微笑んだ。


「お嬢様、ご安心ください。私が今から、少しだけ『魔法』をかけさせていただきますね」


「なっ!魔法じゃと!?」


ラビリスの真紅の瞳が、驚きに見開かれた。


「そなた、魔力を持たぬただの人間ではなかったのか……っ!?一体どのような術式を――」


彼女が身構えた瞬間、店員は素早い身のこなしで彼女の背後へと回り込んだ。



手にはメジャー、そしていくつかのクリップと待ち針。

プロの店員は、魔法のような手慣れた動作でダボついていた背中の生地をキュッとつまんでクリップで留め、長すぎる袖口を内側に折り込んでピンで固定していく。


そこからさらにスカートのウエスト部分をササッと調整したところで、ヒナが横から「あ、お姉さん!スカートの丈、あと1センチだけ短くできます!?その方が絶対、足が綺麗に見えるんで!」と注文を入れる。

二人は旧知の戦友のように深く頷き合った。

店員はヒナの要望を即座に取り入れ、あっという間に「現在のラビリスにぴったりのサイズ感」へと、そのシルエットを作り変えてしまった。




「――お待たせいたしました。いかがでしょうか?」


店員がスッと後ろに下がり、三人の前に完成されたシルエットが披露された瞬間。

VIPサロンに、ふっと息を呑む音が重なった。


そこには、先ほどのぶかぶかで野暮ったい姿からは想像もつかない、完璧な『お嬢様』が立っていた。



襟のない漆黒のボレロジャケットに、深いクリムゾンレッドのジャンパースカート。

袖口や縁を彩る銀糸のパイピングが、VIPサロンの柔らかな照明を受けて品良く煌めいている。

純白の丸襟ブラウスには繊細な刺繍が施され、胸元には黒のベルベットリボンと、ルビーのように輝く赤いビジューが添えられていた。


銀糸のように輝く髪と、真紅の瞳を持つラビリスの容姿に、これ以上ないほど見事に調和した、計算し尽くされた美しさ。

それは一流の職人が仕立てた最高級のドレスにも引けを取らない、圧倒的な気品を放っていた。



「……ッ、ちょっと待って……。無理、尊すぎて無理!!……え?超絶可愛いんだけど!!天使!?リアル天使降臨した!?はい、やっぱラビちゃん優勝!!」


沈黙を破ったのは、テンションが限界突破したヒナの歓声だった。

スマホを構え、プロのカメラマン顔負けの連写音がサロンに響き渡る。


「おぉ……!これぞまさに気品の極み。あまりの愛らしさと美しさに言葉を失ってしまったよ。この子のためにデザインされたような完成度だ」


白川オーナーは感動のあまり目元をハンカチで押さえながら、ヒナと同じくスマホのシャッターを連射している。



そして大地はといえば、目の前の光景にただただ目を丸くしていた。


(……おいおい。これはちょっと反則だろ……)


態度はデカいし、世間知らずだし、口を開けば文句ばかりの同居人。

それが、今は誰もが振り返るような深窓の令嬢にしか見えない。



(……ほぅ。先ほどの状態から、これほど一瞬で余の体に最適化させるとは……!こやつ、布を織る精霊の眷属やもしれぬ)


ラビリスは感心するように店員を一瞥すると、両手を腰に当て、ドヤ顔で大地に尋ねた。


「どうじゃ、パパよ!余のこの完璧なる着こなしは!」


「えっ?あ、あぁ……まぁ、なんだ。その……すげぇ似合ってる。びっくりしたよ」


照れ隠しのように頭を掻きながら、大地は不器用な親バカの笑みをこぼした。


「ふふん。当然であろう」



三者三様の絶賛を浴びたラビリスは、姿見に映る己の姿をマジマジと見つめ、フッと不敵な笑みをこぼした。


漆黒と真紅。

奇しくもそれは、彼女が愛してやまない『魔王軍』の象徴たるカラーリングであった。

胸元の赤い魔石(ビジュー)に触れながら、ラビリスは堂々と胸を張る。


「くっくっく……。余の威厳を際立たせるには申し分ない装束じゃ!じじちょーの用意した服と侮っておったが、中々によいセンスをしておるわ!」


まんざらでもない……どころか、完全にご満悦な様子でふんぞり返る魔王の娘。

VIPサロンの柔らかな光の中で、エリート進学校の制服を身に纏ったラビリスは、間違いなく誰よりも輝いていた。

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