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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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☆48かいめ☆ 新たなる活路への招待状

コンビニの自動ドアの数メートル手前。

ラビリスは足を止め、銀髪をなびかせて背後の老紳士を振り返った。


「ここじゃ。パパは今、この施設で……えーっと、『しふと』なる任務に就いておる」


「ほぅ……ここは……」


老紳士は、見慣れた看板を見上げ、穏やかな笑みを深めた。



「……ふむ。これは、想像以上に面白い縁になりそうだね」


「なんじゃ、独り言か?じじ、早く来るがよい!」


ラビリスが堂々と自動ドアを潜ると、入店のチャイムが店内に響き渡る。

現在、店内は夕方のラッシュに備えた補充作業の真っ最中。

レジ周辺には大地、蓮、そしてヒナの三人が顔を揃えていた。



「おっ、ラビちゃんじゃん!相変わらずの天使!で、どったの、お散歩?」


最初に気づいたのは、品出しをしていたヒナだった。

その声に反応して、カウンターで伝票を整理していた大地が顔を上げる。


「ラビリス!?お前、何しに来たんだ?つーかここには来るなって……」


大地が呆れ顔で小言を言おうとした、その時だった。

ラビリスのすぐ後ろから、上品なスーツに身を包んだ老紳士が、ゆっくりと姿を現したのだ。


「――――ッ!!?」


大地の心臓が、一瞬止まった。

隣にいた蓮は、持っていた商品を落としそうになりながら、メガネを指で押し上げて凝視する。


「し、白川オーナー……!!?な、なんでラビリスと……」


大地の裏返った声が店内に響く。



白川オーナー。

ラビリスが助けたこの老紳士は、大地の勤めるコンビニのオーナーであると同時に、この界隈に数多くの土地を持つ資産家であり、多方面に顔が利く地元の名士でもある。

常に笑顔で無理難題を押し付けてくる、大地にとっては文字通りの『絶対の雇い主』であった。



「なんじゃ、パパよ。そなた、このじじと知り合いであったか?」


ラビリスは不思議そうに首を傾げ、交互に二人を見比べた。



「じ、じじって……ラビリス、おまっ、し、失礼だぞ……っ!」


大地が冷や汗を流して狼狽する中、白川オーナーは楽しげに目を細め、ラビリスに向かって穏やかに問いかけた。


「……お嬢ちゃん。先ほど君が言っていた『パパ』というのは、もしかして……」


「む?今言ったではないか」


ラビリスは当然と言わんばかりに、ビシッと一本の指を大地の方へと突き出した。


「こやつ、大地こそが、余のパパじゃ!」


「………………」


店内が、凍りついたような静寂に包まれた。

大地は口をパクパクとさせながら、白川オーナーの「笑顔の奥の鋭い眼差し」から逃れるように視線を泳がせる。



「パパ……。ほぅ、新田君。独身と聞いていたが……君にこれほど立派な、そして……『不思議な魅力』に満ちたお嬢さんがいたなんて、初耳だねぇ」


「あ……いや、その……」


白川オーナーはゆっくりと大地に歩み寄り、その肩にポンと手を置いた。


「……さて。店長さん。どうやら積もる話がありそうだ。少し、奥でゆっくり話を聞かせてもらえないかな?」


「………………はい」


大地の返事は、もはや消え入りそうなほど弱々しいものだった。






――数分後。バックヤードの奥にある事務室。


「――というわけなんです。……詳しい事情については、たとえオーナーであっても、これ以上はお話しできません。ただ……あの子には、今、戸籍がない。それは事実です」


事務室の重苦しい空気の中、大地は絞り出すようにそう締めくくった。

嘘を塗り固めるのではなく、「言えない」という一線を引くことで、これ以上の追及を避ける。

それが、今の彼にできる精一杯の防衛線だった。



白川オーナーは、組んだ指の上に顎を乗せ、じっと大地を見つめていた。

その穏やかな瞳の奥には、すべてを見透かしているような鋭い光が宿っている。


「……ふむ。君に限ってそんな不誠実なことはしないとは思うんだがねぇ。……まぁそれについては追々聞かせてもらうとしようか。……それより」


オーナーは、視線を事務室の隅で珍しそうに古い金庫を眺めているラビリスへと移した。

その瞬間、鋭かった眼差しが、雪解けのように柔和なものに変わる。


「あんなに気高く、それでいて君を想う心を持ったお嬢さんが、戸籍だの法律だのという無味乾燥な紙切れのせいで、学びの機会を奪われる……。それは、あまりにも『美しくない』話だ」


(……あれ、もしかして……これ、オーナーまでラビリスに……)


大地の胃のあたりで、安堵と新たな不安が混ざり合った変な感覚が走る。

白川オーナーの中で「何か」が、完全にオンになった瞬間だった。



「新田君。君に、一つ提案があるんだが」


オーナーは背筋を伸ばし、実業家としての顔に戻った。


「私の古い友人に、ある私立学校の理事長を務めている男がいてね。創立してまだ8年ほどの、新設の進学校だ。実績作りのために、型に嵌まらない有能な生徒を常に求めている。……まぁ、いくら私でも、今すぐ入学させろとまでは言えないがね」


彼はいたずらっぽく片目を瞑ってみせた。


「君たちが抱えている『事情』を汲んだ上で、彼女をどう受け入れるか――その一考を促すくらいなら、私にもできる。どうだい?一度、その理事長と話しをしてみる気はないかね」


「……え」



大地は呆然と立ち尽くした。

蓮と頭を突き合わせ、深夜までネットの海を彷徨い、絶望的なリスクに怯えていたあの日々は一体何だったのか。

目の前の老紳士は、電話一本でその「絶望的な壁」に、大きな風穴を開けようとしている。


「……い、いいんですか?そんな、願ってもない話ですけど」


「お礼なら、私を助けてくれたあのお嬢さんに言うんだね。……ふふ、あの子なら、きっとあの偏屈な理事長も驚かせてくれるだろう」


大地は、金庫のダイヤルを「呪文の増幅器か?」と真剣に考察しているラビリスの背中を見つめ、思わず苦笑した。


「……あぁ、そうですね。……ラビリス、お前、ホントに……」


自分が必死で探していた答えを、当のラビリスが、ただの「散歩」のついでに掴み取ってきてしまった。

そのあまりに彼女らしい突破の仕方に、大地は肩の力を抜き、深々と頭を下げた。



「……オーナー。ありがとうございます。そのお話、ぜひ受けさせてください」


「決まりだね。……さて、そうと決まれば、あのお嬢さんにはおめかしをしてもらわないと。ちょうどいい、千家さんにでもお願いしてみるかな。新田君、君のセンスは当てにならないからね」


「……うっ」


オーナーの楽しげな追い打ちに、大地の胃痛は消えるどころか、新たな「波乱」の予感に震え始めていた。

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