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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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42/60

☆42かいめ☆ いざ参らん!紅い宝石の群生地!

「――店長。次の交差点を右折です。当該農園までの到着予想時刻はおよそ15分後。道路状況は極めて良好、遅延の発生確率は3%未満です」


「……お、おぅ。サンキュ」


大地の運転する軽自動車の助手席で、二階堂蓮はタブレット端末の画面から視線を外すことなく、淡々とナビゲーションをこなしていた。

休日の私服姿とはいえ、シャツの襟元までボタンをきっちりと留め、黒縁メガネの奥の瞳は冷徹なデータ分析者のそれである。



「ねーねー、ラビちゃん見てこれ!この前作ったホットサラダ、マジで映えてない?見た目だけじゃなくて味もガチで最高だったから、今度ラビちゃんにも作ってあげるね!」


「ほほぅ……じゅるり。……中々に鮮やかな色彩じゃな。し、仕方あるまい、献上することを許そう」


後部座席では、ヒナとラビリスがスマホの画面を覗き込みながらキャッキャと騒いでいた。

狭い車内に、ヒナが持参した流行りのポップスがズンチャカと響き渡る。



バックミラー越しにその後ろ姿をチラリと確認し、大地は小さくため息をついた。

休日の朝。本来なら家でゴロゴロしているはずだった自分が、なぜ今、バイト先の若者二人と、魔王の娘を乗せて車を走らせているのか。


事の発端は、勤務先でのヒナの提案だった。






――数日前、コンビニのバックヤードにて。


「ちょっと店長見てこれ!次の店長の休み、ラビちゃん連れてイチゴ狩り行かない?アタシもシフト入ってないし、このメンツで行ったら絶対楽しいって!ほらこの農園、ガチでヤバくない?」


勤務後、帰る準備をしている時に、ヒナがスマホの画面を大地に見せながら提案してきた。

画面に映っていたのは、郊外にある巨大なイチゴ農園の特集ページだ。



「ラビちゃんさー、こないだのかき揚げとかガチで美味しそうに食べてくれてたけど、フルーツとか全然食べてなくない?旬のイチゴとか、100パー喜ぶっしょ!」


「……まぁ、確かにそう言われると、果物は食わせてやってないなぁ。ただそれ、客観的に見たら完全に事案だからな?大体、俺が行かなくても、お前らで行ってくれば――」


大地が面倒くさそうに首の後ろで手を組んだ、その時だった。


「……店長」


いつの間にか背後に立っていた蓮が、メガネを中指でクイッと押し上げた。

そのレンズの奥の瞳は、普段の冷静さとは違う、得体の知れない熱を帯びていた。



「児童福祉の観点から言わせてもらいます。育ち盛りの……いえ、あの奇跡のような尊き存在に、ビタミンCをはじめとする季節の栄養素を摂取させないのは、保護者としての深刻なネグレクトに該当する恐れがあります』


「は?……え……?」


(いや、こいつの脳内どうなってんだ?ラビリス基準で法律歪めてないか……?)


大地はドン引きしながら後ずさったが、蓮はさらに一歩詰め寄ってきた。


「それに、もし千家さんたちだけで外出させ、万が一、あの神聖なるお姿が不届き者の目に留まりでもしたら……国家的な損失です。ここは保護者である店長の引率が不可欠かと」


「いや、だから――」


「しかしながら、店長の懸念も無視はできません。ここは、大学生を一人足すというのはどうでしょう?」


「………………」




「……お前も行く気満々じゃねぇか」


「店長にしては察しがいいですね。……私は道中の安全管理、および現場でのイチゴ糖度データの収集・分析を行う義務があります。ラビリスちゃんの口に運ばれる果実に、一切の妥協は許されません」


「店長!アタシが行きたいだけじゃないよ?これはあくまでラビちゃんのためだかんね!ラ・ビ・ちゃ・ん・の!……あんな天使がイチゴ頬張ってんの、店長だって見たいっしょ?」


左右から詰め寄る、限界ギャルと狂信的インテリ法学部生。

この二人の圧に抗えるほど、39歳コンビニ店長の精神力は強くなかったのだ。






――そして現在。


「……まぁ、たまにはこういうのも悪くないか」


大地はハンドルを握り直しながら、小さく独りごちた。

助手席では、蓮がタブレットを素早くスワイプしながら、何やらぶつぶつと呟いている。


「……当該農園の主力品種は二種。気象データと日照時間から算出するに、本日の糖度は最高値に達しているはずです。ラビリスちゃんの幸福を満たすための最適解は、ハウス内南東部、日当たりの良いエリアの果実……」


「……お前、イチゴ狩りにデータ分析持ち込む奴初めて見たぞ。もっとこう……純粋に楽しめよ……」


「店長。これは遊びではありません。至高の存在に『完璧な甘み』を提供するための、神聖なる任務です」


蓮は無表情のまま、メガネを光らせて断言した。


(ダメだこいつ、完全に独自の宗教立ち上げてやがる……)




「ねー店長!あとどれくらいで着くー?」


後部座席から、ヒナが身を乗り出してきた。

その横で、ラビリスも車の窓にへばりつくようにして外の景色を見つめている。

今日は、ヒナが大地の買った服から見立てた、少しカジュアルな赤いチェックのワンピース姿だ。

最近はアニメ三昧で外に出ていくこともなかったため、普通の女の子らしい格好をしているのは、大地の目には新鮮に映った。


「あぁ、あと10分くらいだ。……おいラビリス、車酔いとかしてないか?」


「愚問じゃ!この程度の鉄の馬車など、余の強靭な肉体の前では揺りかごも同然!」


ラビリスは窓から顔を離し、ふんぞり返って見せた。



「……それにしても、我らがこれから向かうという『イイトコロ』なる戦場は、一体いかなる場所なのじゃ?」


「戦場じゃねぇって。……ま、行けばわかるさ」


大地が苦笑交じりに答えると、助手席の蓮がスッと体を少しだけ後ろに向けた。



「ラビリスちゃん。ご懸念には及びません」


蓮の冷徹な声が、車内に響く。

しかし、その後頭部からでさえ、ラビリスに対する隠しきれない『尊みオーラ』が滲み出ていた。


「本日の目的地は、広大なビニールハウスに守られた、紅い宝石の群生地です。我々一同、ラビリスちゃんが最高の一粒をご賞味いただけるよう、万全のサポートをお約束いたします」


「ほぅ。メガネよ……そなた、ポンコツかと思うておったが、下民の中でも中々にできるようじゃな。褒めてつかわす!」


ラビリスの真紅の瞳が、期待にキラキラと輝き始めた。

その言葉と、無邪気な笑顔をバックミラー越しに見た瞬間、助手席の蓮が「ッ……!!」と息を呑み、タブレットに顔を埋めた。


(あ、こいつ今、限界突破したな)


大地の的確なツッコミは心の中だけに留められ、軽自動車は春先の陽光が降り注ぐ郊外の道を、賑やかに走り抜けていった。

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