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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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☆41かいめ☆ 強がりと優しさのプリズム・トーク

嵐のような実食タイムが終わり、テーブルの上には空っぽになったお椀と皿だけが残されていた。


「うぷ……。く、食いすぎた。余はもう、指一本動かせぬ……」


ぽっこりと膨らんだお腹をさすりながら、ラビリスは満足げに息を吐き、カーペットの上にゴロンと寝転がった。


「あはは、そのお腹ガチで尊すぎて無理なんだけど!アタシ、洗い物やってくるから、ラビちゃんはテレビでも見てまったりしてなよ」



ヒナは手際よく食器を洗い終えると、食後のお茶を用意してラビリスの隣に腰を下ろした。

テレビの画面では、先ほどから再生しっぱなしになっていた『マジプリ』の続きが流れている。


『いっけなーい、遅刻遅刻ぅ!』


画面の中では、主人公の赤星アイが食パンを咥えたまま、桜舞い散る道を猛ダッシュしていた。

やがて彼女が大きな門をくぐり抜けると、そこには彼女と全く同じ、セーラー服を着た無数の少女たちが歩いている。



「……む?」


それまでウサギウスを抱きしめながらウトウトしていたラビリスが、ふと真紅の瞳を開いた。


「どしたの、ラビちゃん?」


「……ヒナよ。余は一つ、疑問に思っていたことがあるのじゃ」


ラビリスはテレビ画面を指差し、不思議そうに首を傾げた。


「何度か同じような場面があったのじゃが。なぜ、この者たちは、皆一様に『同じ装束』を纏っておる?あのヒラヒラとした布地……もしや、この施設はどこかの軍事基地か何かで、あれは兵士の制服なのか?」


「ぶっ、軍事基地って!あははは、ラビちゃん発想がガチで斜め上すぎ!あれは『学校』だよ。着てるのは学校の制服!」


「がっこう……?それは、何をするための施設じゃ?魔法の訓練場か?」


「魔法の訓練場かー、それならアタシも通いたかったわ……。ま、実際はみんなでフツーの勉強する場所かな。ぶっちゃけ勉強はダルいけど、でも、友達作ったりダベったりできる大切な場所!とりま、人生の『チュートリアル』みたいなもんだから、みんな通うのがフツーなんだよね」


ヒナが明るく答えると、ラビリスは「ほぅ……」と感心したように画面を見つめた。



「子供をひと所に集め、知識を与え、集団行動を叩き込む……。なるほど、この世界の人間たちは、そうやって若き頃から組織力を高めているのじゃな。恐るべきシステムじゃ」


(なんか解釈が全体的に物騒なんだけど……まぁ、いっか)


ラビリスの物騒な呟きに苦笑しつつ、ヒナはふと疑問に思い、グラスを置いて首を傾げた。


「てかさ、ラビちゃん。ぶっちゃけ今いくつ?見た感じ、小学生くらいかなーって思ってたんだけど……学校、行ってない感じ?」


「……む。余は、そのような施設には一度も足を踏み入れたことはないぞ」


ラビリスは悪びれる様子もなく、堂々と胸を張って答えた。

魔王の娘として城の奥深くで箱入りとして育てられた彼女にとって、同年代の子供が集まる場所など無縁の存在だったからだ。



「え、ガチで?……あー、そっか」


ヒナは一瞬目を丸くしたが、すぐに「あ、ヤバ。踏み込みすぎたかも」と内心でハッとした。


大地に引き取られてくる前、どのような生活をしていたのかは知らないが、学校にも通わせてもらえないような、かなり複雑な環境だったのだろうとヒナは勝手に合点がいった。


「あーね、了解!ま、色々あるよね!今までいた所は、そういう感じじゃなかったってだけでしょ」


ヒナは優しく微笑み、ラビリスの白銀の髪をポンポンと撫でた。


「……?面倒ではあったが、余の元には優秀な配下がついておったからな。知識を得るのに何も困ることはなかったぞ」


「そーなんだ?カテキョがいたってことだよね。じゃあ、前の家では『友達』と近所で遊んだりとかはなかった感じ?てか、普通に友達作るのとかムズくなかった?」


ヒナの何気ないその質問に。


「――っ」


ラビリスの肩が、ビクッと跳ねた。



テレビの画面の中では、アイがクラスメイトたちに囲まれ、「おはよう!」と満面の笑みで笑い合っている。

城から一歩も出たことがなかった彼女に、あのように対等に笑い合える『友達』など存在するはずもなかった。



だが――。



「な、何を言う!!」


ラビリスは声を上擦らせ、抱えていたウサギウスをバッと持ち上げた。


「魔王の娘たる余に、友がおらぬわけがなかろ?毎日、えーっと……そ、そう!パンを口に咥えながら、共に訓練場へと走っておったわ!」


先ほど画面で見たばかりの知識と、妄想をごちゃ混ぜにした、あまりにも苦しい嘘。



(……あ。今の聞き方マジでないわ。アタシ最悪……)


ヒナは、ラビリスの必死な強がりを聞いてすべてを察し、悲しそうに目を細めた。


学校にも通えず、友達もいなかった寂しい日々。

それを隠すために、この子は自分を『偉い魔王の娘』だと言い聞かせ、アニメのような設定で武装して自分を守っているのだと、ヒナは完全に解釈したのだ。




「あはは!そっかそっか。めっちゃ楽しそうな友達じゃん!」


ヒナはラビリスの嘘に、ただ優しく相槌を打った。


「……う、うむ」



「でもさー。今って、そのお友達とは会えないわけじゃん?」


ヒナはラビリスの隣にゴロンと寝転がり、同じ目線でテレビを見上げた。


「だからさ……。アタシ、ラビちゃんよりちょっと年上だし、フツーの『友達』って感じだとアレかもだけど……。う~ん。あ、そうだ!アタシ、今日からラビちゃんの家来にしてよ?」


「なっ……!け、家来じゃと!?」


ラビリスが勢いよく振り返ると、ヒナはニヒヒと悪戯っぽく笑ってピースサインを作った。


「そそ!一緒にご飯食べてマジプリの推し活できる、最強の家来ってコト!どぉ?」


ヒナの提案したその響きは、ラビリスの胸をどうしようもなく高鳴らせた。



「……ふ、ふんっ!何を血迷ったことを。……じゃが、どうしても余の配下になりたいと申すのであれば、特別に加えてやらぬこともない!」


ラビリスは照れ隠しのようにウサギウスで口元を隠しながら、ツンと顔を背けた。

しかし、その大きなウサギの耳の隙間から見える口元は、嬉しそうに緩んでいる。


「あはは、さっすがラビちゃん!じゃあ、決定ね!これからよろしくっ!」


「う、うむ!」



ヒナが満足そうに立ち上がり、再びキッチンへ向かう足音が響く中、ラビリスは一人、テレビの画面を見つめ直した。


『さぁ、今日の授業も頑張ろうね!』


画面の中では、アイが同年代の仲間たちと話しながら、楽しそうに校舎の中へと吸い込まれていく。

それを見たラビリスは、そっと自分の着ている漆黒のドレスの裾を摘まんだ。


(……がっこう。……友達、か)


子供たちが集まり、同じ装束を纏い、共に時間を過ごす未知の施設。

城の玉座よりも、アニメよりも。

今の彼女には、その『普通の日常』の景色が、ひどく眩しい魔法のように見えていた。




ふと、キッチンでスマホの画面を確認したヒナが、慌てて声を上げた。


「あ、ヤバッ!もうこんな時間じゃん!そろそろ店長が上がって帰ってくる!」


ヒナは慌ててソファに放り投げてあった自分のカバンを掴んだ。



「ど、どうした?何を慌てておる?」


「あ、えっとね。店長と鉢合わせる前に帰る約束なんだわ。この状況、世間的には『一発アウト』なやつらしいから。マジで急がなきゃ!」


「……?何やらよくわからぬが、ならば急ぐがよい」


「とりま、店長のご飯はラップして置いといたから!一応メモっておいたけど、豚汁はお鍋にあるから温め直してって伝えといて!じゃ、アタシ帰るね!ラビちゃん、またね!」


「う、うむ!ヒナよ、魔獣の襲撃には気をつけるがよいぞ!」


「あはは、魔獣とかウケる!了解、襲われないように爆速で帰るわ!ありがとねー!」



バタバタと嵐のようにヒナが去っていくと、玄関のドアが閉まる音が響き、アパートの部屋には再び静寂が戻った。


ラビリスは一人、少しだけ広くなったように感じる部屋を見回し、抱きしめていたウサギウスの頭を撫でた。

ほんの少しだけ胸をよぎった寂しさを誤魔化すように、彼女は再びテレビの画面へと向き直った。




――数十分後。




「ただいまー……って、おおっ?」


ガチャリとドアが開き、疲れた顔で帰宅した大地は、部屋の中に漂う香ばしい油と出汁の匂いに目を丸くした。


「遅かったではないか、大地よ。ヒナがそなたにも『錬金術』の成果を残していったぞ」


ベッドの上でふんぞり返るラビリスが、テーブルの方を顎でしゃくった。

そこには、ラップがかけられた巨大なかき揚げと、可愛らしい字で書かれたメモ(『かき揚げは天つゆで!豚汁はコンロにあるから温めてね!』)が残されていた。



「あいつ、マジでこんなの作れんのか……すげぇな」


大地は感心しながらジャケットを脱ぎ、言われた通りにコンロの火をつける。

温め直した豚汁の香りに胃袋を刺激されながら、大地はテーブルにつき、「いただきます」と手を合わせた。


サクッ、ザクッ。


心地よい音が、静かな部屋に響く。



「……うんま。いつもの弁当の百倍美味いな、これ」


「ふん!当然じゃ。あの『さくさく』の盾と『とろとろ』の衣の二段構え、そして母なる大地の汁……。さしもの余も、あの完璧な布陣には白旗を上げたほどじゃからな!」


ラビリスは自分が作ったわけでもないのに、なぜか得意げに胸を張っている。


「へえへえ。お前が満足したなら何よりだよ。……で、いい子にしてたか?」


「愚問じゃ!余は常に威厳に満ちておったわ!ヒナも余の圧倒的な覇気に平伏し、自ら配下になりたいと申し出てきたほどじゃぞ!」


「はいはい、そりゃすごいな」


大地は苦笑しながら、熱い豚汁をズズッとすする。

狭い部屋の中に、再びサクサクとかき揚げを噛む音と、温かい出汁の香りが満ちていく。


テレビから流れるアニメの賑やかな音声と、魔王の娘の誇張に満ちた自慢話を聞きながら、大地は一日の疲れがじんわりと溶けていくのを感じていた。

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