☆39かいめ☆ ギャルが紡ぐ驚異の錬成料理!本物の「いただきます」への招待状!?
「……そ、そなた、い、一体何者なのじゃ……。今の完璧な動き……」
ベッドの上のラビリスは、落としたウサギウスを拾うのも忘れ、震える指先でヒナを差した。
「そーいや自己紹介まだだっけ?アタシは『千家ヒナ』。店長んとこでバイトしてるJKだよ」
「じぇ、じぇい?……な、名を尋ねたわけではないわ!ごまかされぬぞ!聖剣『プリズム・カリバー』の所有者で、かつあの動きができるなど……そ、そなた、もしや光の戦士たちの一員……!?」
「あはは、違う違う!アニメのマネっこだよ、マネっこ!ガチで盛りすぎだってば!」
必死に身分を探ろうとする魔王の娘の前で、ヒナはケラケラと明るく笑い飛ばした。
「あんなの、ちょっと練習すればラビちゃんだって秒でマスターできるって。それよりプリズム・カリバーは……店長にお願いしてみたら?誕プレとかでおねだりしちゃいなよ!」
「そ、そうなのか?余でも儀式を習得できると……?いや、しかし動きは真似できても、プリズム・カリバーは『自ら所有者を選ぶ』と言うておった」
ラビリスは、ヒナの軽い提案に真剣な顔で首を横に振った。
「あのような神聖な武具を、大地如きにどうにかできるとは到底思えぬが……」
「『ごとき』って!ぶはっ、店長ディスられすぎててマジ草なんですけど……!!」
ラビリスの大真面目な「大地の過小評価」に、ヒナのツボが完全に崩壊した。
「あははははっ!ひぃっ……扱い雑すぎて無理、お腹痛い……!店長、そんなふうに思われてんだ……っ!」
ヒナはお腹を抱え、部屋にへたり込んで爆笑し始めた。
その隣では、魔王の娘が「なぜこの古参兵は、大地の名を出しただけでこれほどまでに笑い転げておるのじゃ……?」と、瞳を丸くして不思議そうに首を傾げているのだった。
――数分後。
「はー……っ。待ってマジでしんどい。笑いすぎてお腹千切れるかと思った……。……っていっけな、アタシ、今日ご飯作りに来たんだった……。ふふっ」
ようやく爆笑の波が引き、目尻の涙を指先で拭いながら、ヒナが本来の目的を思い出した。
彼女は床に置いていたスーパーの袋をよいしょと持ち上げ、キッチンの方へと歩き出す。
「なに?そなた、余に飯を振舞うために、わざわざここへ来たと申すのか?」
ベッドから降りたラビリスは、警戒心をすっかり解き、トテトテとヒナの背中についていった。
『歴戦の古参兵』であり『完璧な儀式の体現者』であるこの茶髪の少女への敬意が、すでに彼女の中で確固たるものになっていたからだ。
「そそ!店長が用意するご飯とか、ラビちゃんがかわいそ過ぎて無理!って思っちゃって。今日はアタシが、ガチで美味しいご飯を作ってあげるから楽しみにしてて!」
ヒナは流し台の前に立ち、持参したエプロンをキュッと腰で結んだ。
そして、袋の中から先ほどスーパーで吟味した『素材』たちを取り出し、手際よくまな板の上へ並べていく。
「ほぅ……!これが、この世界の食材か」
背伸びをして調理台を覗き込んだラビリスの真紅の瞳が、興味津々に輝いた。
並べられているのは、泥のついた細長い根、鮮やかなオレンジ色の棍棒、そして茶色い球体といった、大地が買ってくる『完成品の飯』とは全く違う、生の素材たちだ。
「よしっ、とりま下ごしらえからっしょ!マジで秒で終わらせるから見ててね、ラビちゃん!」
ヒナは野菜たちを洗い終え、包丁を手に取ると、迷いのない鮮やかな手つきで野菜たちを刻み始めた。
トトトトトッ!と、リズミカルな音が狭いキッチンに響き渡る。
「おぉ……!なんという素早い剣さばきじゃ!あの硬そうな根が、瞬く間に細い糸のように切り刻まれていくではないか!」
「あはは、これくらいフツーだよー。お弁当作りで毎日鍛えられてるから、もはや体が勝手に動くレベルだし!」
さらにヒナは、別の鍋に湯を沸かし、そこへ刻んだ肉や野菜を次々と投入していく。
同時に、隣のコンロでは深めの鍋にたっぷりの油を注ぎ、火にかけた。
(なっ……!黄金の水を熱し始めたぞ!一体、何を錬成するつもりなのじゃ……!?)
ボウルの中で、小麦粉と冷水と少しの片栗粉、そして先ほど細く刻んだ色とりどりの野菜たちが、ヒナの手によってグルグルと魔法のように混ぜ合わされていく。
その未知の調理工程を前に、魔王の娘は息を呑んで成り行きを見守ることしかできなかった。
しばらくすると、ヒナは菜箸の先に衣を着け、油の中に数滴落とす。
すると、衣は油の中で小気味良い音を立て、花が咲くようにパっと広がった。
「よし、いい感じ!んじゃ、揚げてくよーっ!」
ヒナは木べらの上にボウルのドロドロとした『塊』をこんもりと乗せると、それを熱した油の中へ、ためらいなく滑り込ませた。
ジュワアアァァァッ!!
「ぬぁっ!?」
凄まじい音と同時に、鍋の中から無数の小さな泡が弾け、香ばしい匂いが一気にキッチンへ広がった。
「ば、爆発したぞ!!なんという危険な炎の錬金術じゃ!そなた、自爆する気か!!」
「あはは、爆発とかマジウケる!これくらいガチで揚げないと、サクサク感出ないからね!」
ラビリスが慌ててヒナの後ろに隠れて身を縮める中、ヒナは涼しい顔で長い菜箸を操り、油の中で暴れる塊を器用にひっくり返していく。
先ほどまでただの野菜と粉の塊だったそれは、黄金の泉の試練を経て、みるみるうちにキツネ色に輝く、分厚い円盤状の物体へと姿を変えていった。
「おぉ……!なんと美しい……黄金の盾が誕生したではないか……!」
「いい色っしょ!ビジュ良すぎてガチで優勝なんだけど!はい、一つ完成っと!」
ヒナは手際よく油を切り、網の上にサクサクに揚がった黄金の円盤を並べていく。
「よっしゃ、次はこっちの鍋いくよ!野菜が柔らかくなってきたから……ここで最後の仕上げ!」
ヒナはコンロの火を止め、煮込んでいた肉と野菜の鍋に、お玉を使って味噌を丁寧に溶かし入れた。
フワァッ……と、これまた食欲を強烈に刺激する、奥深く温かな香りが立ち昇る。
「……む!この匂い……たまに飲んでおる、あの茶色い汁(インスタント)と同じ匂いがするぞ!しかし、何かが違う……もっとこう、生命力に満ち溢れておるというか……」
「そりゃそうだよー。お肉も野菜も、ガチで旨味成分が出てるからね!」
ヒナはお椀にその具沢山の汁をたっぷりとよそい、さらに炊飯器からほかほかの白米を茶碗によそった。
「はい、お待ちぃ!ヒナ特製、『サクサクかき揚げ』と『豚肉たっぷり豚汁』定食。爆・誕!!」
テーブルの上に並べられたのは、コンビニの弁当とは全く違う、湯気を立てるできたての『真の手料理』だった。
「かきあげ……とんじる……」
ラビリスは目を丸くし、ゴクリと喉を鳴らす。
その真紅の瞳は、目の前の素朴で美しい日本の家庭料理に釘付けになっていた。




