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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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37/78

☆37かいめ☆ どうなる?崖っぷちバランス!

――翌日、昼前のコンビニエンスストア。


「はぁ……。しかし、昨日は本当に酷い目に遭った……」


レジカウンターの中で品出しのコンテナを片付けながら、大地は深く重いため息を吐いた。

昨晩の出来事を思い出すだけで、どっと疲労が押し寄せてくる。


(……とりあえず、『戦いはまだ先だ』、『今は雌伏の時』ってことで……必死に説得して、なんとか晩飯を食わせたはいいけど……)


巧みな誘導でその場を凌いだ代償は、あまりにも大きかった。

『春』になれば、間違いなくあの魔法少女アニメの新シーズンが始まってしまう。

その時、テレビの前の魔王の娘がどんな行動を起こすのか――想像するだけで大地の胃がキリキリと痛み出す。



(春が来るのが怖い……。俺の平穏な日常は、桜の開花と共に終わるかもしれない……)


「店長、どしたん?今日、朝からずっと『疲れたおじさんモード』全開じゃん。なんかヤバいオーラ出てるよ?」


絶望の未来を想像して遠い目をしていると、隣のレジでホットスナックのケースを拭いていたヒナが、不思議そうに首を傾げて問いかけてきた。


「……疲れたおじさん言うな。事実だけど」


大地は力なくツッコミを返し、自分の肩をトントンと叩いた。

今日はアルバイトの休み希望が重なっており、この時間帯はヒナと二人だけのシフトである。

怒涛の朝のラッシュをたった二人で捌き切ったこともあり、大地の体力と精神力は、昨日の魔王の娘との攻防戦も相まって既に赤ゲージの点滅状態だった。



「もー、しっかりしなよ!アタシたち二人しかいないんだからさ。あ、店長、この後バックヤードで休憩でしょ?アタシ、レジ一人で回しとくから、少し休んできなよ」


「……悪いな、ヒナ。じゃあ少しだけお言葉に甘えさせてもらうよ」


彼女の軽口の中にある気遣いに、大地は少しだけ救われた気持ちになりながら、重い足取りでバックヤードへと向かうのだった。




バックヤードのパイプ椅子にドカッと腰を下ろし、大地はお茶を喉に流し込んだ。


「ぷはぁ……。ヒナに気を遣わせちまったな。あとでジュースか、廃棄前のスイーツでも奢ってやるか」


独り言を呟きながら、大地はスマホの画面で時刻を確認し、小さく息を吐いた。


「……しかし、世の中の親ってのは、毎日こんな感じで神経すり減らして過ごしてんのか?まぁ、うちのはイレギュラー中のイレギュラーだけど……それでも、自分の思い通りにならない生き物と一緒に暮らすってのは、本当に大変なんだろうな。今更ながら、全国の親御さんたちを本気で尊敬するよ……」


自分が39歳にして、まさか少女(中身は魔王の娘だが)の保護者代わりとして、アニメの解釈違いで怒号を浴びせられる日々を送ることになるとは。

人生とは本当にわからないものだ、と天井の蛍光灯を見上げて物思いに耽っていると。


ガチャリと突然バックヤードの扉が開き、ヒナがひょこっと顔を覗かせた。


「お疲れ、店長。てかさ、今日はラビちゃん来ないの?」


「ん?あぁ……。あいつは来ないと思うぞ。今、サブスクのアニメにドハマりしててな。たぶん、ずっとベッドの上でウサギのぬいぐるみ抱えて、画面に釘付けになってるはずだ」


昨日の『雌伏の時』宣言で、とりあえず外へ飛び出す危険性は薄れたはずだ。

むしろ、今頃は第2期のイッキ見に突入しているかもしれない。


「え〜、マジでー?今日もまた、店長のお迎えに来ると思って楽しみにしてたのにな〜」


ヒナはあからさまに残念そうな声を出し、扉の枠に寄りかかって口を尖らせた。




彼女はそのまま店内へ頭を戻してレジへ戻るかと思いきや、ふと何かを思い出したのか、再びバッとバックヤードに顔を覗かせた。


「てかさ、店長。ラビちゃんにちゃんとご飯とか食べさせてんの?」


「え?昨日はアニメに夢中で一食食べ損ねたみたいだけど、飯自体はちゃんと用意してるぞ」


「や、そーゆー意味じゃなくてさ」


ヒナはジト目で大地を見つめ、痛いところを的確に突いてきた。



「……店長っていっつも、廃棄ギリギリのお弁当とか、お惣菜ばっか買って帰ってるじゃん?いくらなんでもあんな小っちゃい子に、毎日コンビニ弁当ばっかりで、ちゃんと栄養のあるもの食べさせてんのかなって」


「うっ……!」


大地の胸に、見えない矢がグサリと突き刺さった。

反論しようと口を開きかけたが、この世界に来てからのメニュー(カップ麺、ハンバーガー、廃棄前おでんetc...)が脳裏をよぎり、声が出ない。

魔王の娘とはいえ、身体は育ち盛りの子供なのだ。

ビタミンや野菜など、まるで足りていないのは明白だった。



「……そ、それは……ほら、あいつも日本の食べ物にまだ慣れてないっていうか、珍しいみたいで喜んで食べてるし……」


「はいイイワケー。店長、絶対料理とかしてないっしょ。ラビちゃん、あんなにお人形さんみたいに可愛いんだから、肌荒れとかしたらどうすんの!」


「肌荒れって……」


「女の子にとっては大問題だし!もー、心配だなー……。よし、決めた!アタシが今日、ご飯作りにいってあげよっか?」


「ぶっ……!げほっ、ごほっ!」


あまりにも予想外すぎる提案に、大地は飲んでいたお茶を危うく吹き出しそうになった。

ペットボトルを置いて口元を拭い、激しくむせながらヒナを手で制止する。



「いや、まぁ、その申し出はすっげーありがたいんだが……さすがに40手前の独身男の部屋に、女子高生を上げるのはマズいだろ。色んな意味でアウトすぎる」


「えー、別に減るもんじゃないしよくない?ラビちゃんもいるんだしさ」


「俺の社会的な信用がゴリゴリ減るんだよ。……つーか、そもそもお前、料理とかできんの?いつも休憩中に新作のスイーツとかフライヤー(ホットスナック)ばっか食べてるイメージしかないけど」


大地の疑いに満ちたジト目に、ヒナはムスッとして人差し指をビシッと突きつけてきた。


「はぁ〜?見くびんなし!アタシけっこー料理は得意なんだかんね!弟のお弁当とか毎日アタシが作ってんだから!」


「おぉ、マジか。そりゃすごいな」


「でしょ?ってか、勘違いすんなし!店長にじゃなくて、アタシはあの可愛いラビちゃんに、栄養満点の美味しいご飯を食べさせてあげたいだけだから!」


フンッと自慢の茶髪を揺らして胸を張るヒナ。

どうやら彼女は本気でラビリスの食生活を心配し、美味しいものを食べさせたいという純粋な善意100%で提案してくれているらしい。

もちろんそこに他意は一切ない。



(……確かに、あいつの身体のためには、ちゃんとした飯を食わせた方がいいのは間違いないんだよな……)


大地の心がグラリと揺らぐ。

昨日の『アニメ・イッキ見事件』による疲労もあり、正直なところ、誰かが夕食を作ってくれるというのは喉から手が出るほどありがたい提案だった。


しかも、昨日からアニメのことで頭がいっぱいの彼女を、自分がいない間に適当に放置しておくのも少し不安だ。

ヒナが相手をしてくれれば、アニメの話題からも少しは気をそらせるかもしれない。




大地は腕を組み、しばらく唸るように考え込んだ後、妥協案を提示した。


「……じゃあ、こうしよう。お前、今日は夕方で上がりだよな?」


「うん、そうだけど?」


「俺は夜までシフト入ってるから、お前が上がった後、俺のアパートに行って晩飯を作ってあげる。で、あいつに食べさせて、俺が帰ってくるまでに帰る。それなら……まぁ、ただのベビーシッターみたいなもんだし、なんとかセーフだろ。それでいいか?」


39歳独身男の部屋に女子高生が一人で出入りすること自体、客観的に見れば限りなくグレーに近いが、少なくとも「男と一緒にいる」という一番のアウトラインだけは回避できる。



大地の提案を聞いて、ヒナの顔がパァッと明るく輝いた。


「マジで!?やったー!!ラビちゃんと二人でお留守番しながらご飯食べるの、めっちゃ楽しそうじゃん!」


「あいつ、一応好き嫌いはなさそうだけど気をつけてな。あと、たまに意味のわからん言葉使うけど、適当にスルーしといてくれ」


「はいはい!アタシ、子供の扱いには慣れてるから任せといて!んじゃ、仕事終わったらスーパーで買い物して、そのまま突撃するね!鍵は後で貸して!」


「わかったわかった。……助かるよ、ヒナ。材料費とシッター代は後でちゃんと払うから」


「えー、いいっていいって!アタシが勝手にやりたいだけだし!じゃ、レジ戻るねー!」


ヒナは嬉しそうにピースサインを作ると、ウキウキとした足取りでバックヤードから売り場へと戻っていった。



パタンと扉が閉まる音を聞き、大地は安堵の息を吐きながらペットボトルのお茶を飲み干した。


「……ま、ヒナなら大丈夫だろ。あいつも、女の子と遊べるなら喜ぶだろうしな」



まさかこの数時間後、魔法少女の概念に脳を支配された魔王の娘と世話焼きのJKが、二人きりの密室で、とんでもない化学反応を起こすことになろうとは、この時の大地は知る由もなかったのである。

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