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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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☆21かいめ☆ 銀色の魔獣を鎮めよ

「さて。飯も食ったことだし、今日は部屋の大掃除をするぞ」


最後の皿を洗い終え、タオルで手を拭きながら大地が高らかに宣言した。

その言葉を聞いた瞬間、食後のお茶を啜っていたラビリスの顔が歪んだ。



「ぬ、掃除じゃと……?貴様、満腹の余に、そのような下働きを強いる気か?掃除など、風魔法で吹き飛ばせば一瞬ではないか」


「……魔法使えないだろ。……なんだ、その露骨にイヤそうな顔は。イヤがっても無駄だからな。今日は昨日買った、少し大きめの荷物が届くんだ。スペースを空けとかないと、置き場がないだろ」


大地は仁王立ちで、散らかった部屋(主にラビリスが広げた戦利品)を見渡した。



「なに?まだ何か買っておったのか? ……ふん、どうせ貴様の趣味のガラクタであろう」


「……いいのか?そんなこと言って。ていうか、さっきまでお前が我が物顔で占領してた布団、あれ俺のだからな?お前、昨日俺がどこで寝たか知ってるか?ソファだぞ、ソファ」


「……知らぬ。余が目覚めた時、そこは余の聖域であった」


悪びれる様子もなく言い放つラビリスに、大地は呆れつつも続けた。


「だから、お前専用の『新しい布団』を買っておいたんだよ。フカフカのやつな。それとベッドと、昨日買った服をしまうための『ラック』も届く」



「……ほぅ?余、専用の……寝床と、衣装棚か?」


ラビリスの表情がピクリと動く。


掃除は面倒だ。だが、「自分専用」の家具が増えるということは、即ちこの部屋における彼女の「支配領域」が拡大することを意味する。



「……ふむ。余の服を床に散乱させておくのは、確かに王族として美しくない。……それに、貴様の煎餅布団から、新品の極上寝具へとランクアップするのも悪くない話じゃ」


「煎餅布団言うな。……で、どうする?手伝うか?それとも、新しい布団が届いても置く場所がなくて、玄関で寝るか?」



「……ぐぬぬ。……よかろう!この余が直々に、部屋の掃除を手伝ってやろうではないか!感謝せよ、大地!」


「はいはい。じゃあまずは、その辺に散らばってるお前のパンツ……じゃなくて『内なる鎧』を片付けろ!」



――数十分後。



「よぉーし!これで一旦、散らかったものはあらかた片付いたな。……じゃあ、お次は『掃除機』の出番だ」


部屋の隅に積み上げられたダンボールや服の山を満足げに眺め、大地は腕まくりをしてクローゼットの奥へと手を伸ばした。


「そーじき?」


聞き慣れない響きに、ラビリスが小首を傾げる。


「あぁ。床に落ちてる埃とか髪の毛とか、そういう目に見えにくい敵を一網打尽にして吸い取る機械だ」


大地が引きずり出してきたのは、長いホースと、銀色に光るボディを持つ掃除機だった。



「ほほぅ……。塵芥(ちりあくた)を一掃できるというわけか。見た目は……長い鼻を持つ、奇妙な魔獣に見えなくもないが」


ラビリスは、大地の足元でとぐろを巻く電源コードと、蛇のようなホースを興味深そうに観察した。


「……まぁ、そういうことだ。今後、掃除当番でお前がこいつを使うこともあるからな。折角だから、今日は特別にお前にその『指揮権』を譲ってやろう」


「なに?余にこの魔獣の手綱を握らせるというのか? ……ふん、よかろう!吸い込むだけの機械など、赤子の手をひねるようなものよ!」


大地からノズルを受け取ったラビリスは、聖剣でも構えるかのような真剣な眼差しで、切っ先を床に向けた。



「よし、電源入れるぞ。……いくぞ!」


大地が本体のボタンを足でポンと踏んだ、その瞬間。


『ギュイイイイイイィィィィィ――ン!!!!』


「ぬぉっ!!??」


部屋中に響き渡るモーターの轟音。

それと同時に、ノズルの先端が床に張り付き、強烈な吸引力でラビリスの腕をグイと引っ張った。


「だ、大地!待て、こやつ、床を食おうとしておるぞ!凄まじい吸引力じゃ!油断すると余の魂まで吸い尽くされそうじゃ!!」


「大げさなんだよ!そのまま前に押せ!ゴミがあるところを狙うんだ!」


「えぇい、黙れ!今、この暴れる魔獣を抑え込むのに必死なのじゃ!!くっ、鎮まれ!鎮まらぬか『そーじき』よ!!」


轟音を上げる機械と、へっぴり腰でノズルとしがみ合う少女。

そして、その騒音に驚いた黒猫のリキが、毛を逆立ててカーテンレールの上へと緊急退避する

平穏だった休日の朝は、一瞬にして掃除という名の戦場へと変貌を遂げた。



ラビリスはときにカーテンを吸い込み、ウサギウスを吸い込み、大地の足にノズルをぶつけて悶絶させながらも、懸命に掃除に励んだ。




そして――。


『……ブシュゥゥゥ……ン』


大地の操作によって電源が切られ、唸りを上げていた魔獣(掃除機)は、ようやくその長い息を吐き出した。


「はぁ、はぁ……。ど、どうじゃ……!貴様の足首を一つ犠牲にしたが、ついにこの暴れ馬を乗りこなしてやったぞ……!」


ラビリスは肩で息をしながら、勝利のポーズでノズルを高々と掲げた。

額にはうっすらと汗が滲んでいる。



「……足首どころか、スネを直撃されたんだけどな。……痛ってぇ」


彼はズボンを捲り上げ、赤くなったスネをさすりながら苦笑した。

だが、顔を上げると、その表情は少しだけ柔らかくなる。


「ま、でも見てみろよ。床、ピカピカだぞ」


「……む?」


彼女が視線を下ろすと、そこには埃一つなく、窓からの陽光を反射して輝くフローリングが広がっていた。

部屋の隅に追いやられていたリキも、安全を確認したのか降りてきて、興味深そうに床の匂いを嗅いでいる。



「……おぉ。なんと清浄な空気じゃ。部屋の淀みが消え失せ、光に満ちておる……」


「だろ?掃除機かけた甲斐があったな」


「うむ!これでこそ、魔王の娘の居城に相応しいというもの――」



ピンポーーーン。



その時、部屋の空気を切り裂くように、玄関のチャイムが鳴り響いた。


「なっ!?敵襲か!?油断したところを狙うとは卑怯な!」


即座に掃除機のノズルを構え直すラビリス。


「違うって。……ほら、言っただろ。お前の『城』のパーツが届いたんだよ」



大地が足を引きずりながら玄関を開けると、そこには台車に積まれた巨大なダンボール箱を抱えた配達員二人が立っていた。


「お届けものでーす!こちら、ハンガーラックとベッド、お布団のセットですねー!」


運び込まれたのは、ラビリスの背丈よりも遥かに大きな、三つの箱だった。


「……で、でかい。大地よ、この箱の中に、本当に余の寝床が入っておるのか? まさか、この箱そのものが余の寝床になるわけではあるまいな?」


「や、猫じゃねぇんだから。……ほら、開けるぞ。手伝え」


ついに、ラビリス専用の「領土(家具)」が、この部屋に顕現する瞬間がやってきた。

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