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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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☆16かいめ☆ 黄金の山攻略戦

ラビリスがメロンソーダを堪能していた、その時だった。


「♪~ピロリロリ~、ピロリロリ~♪」


どこからか、軽快で、それでいてどこか間の抜けた電子音が聞こえてきた。



「……む!?パパよ、警戒せよ!敵襲……いや、この騒がしい調べは、何らかの精神攻撃か!?」


ラビリスがグラスを置き、腰にないはずの剣に手をかける。

彼女の視線の先――通路の向こうから、ゆっくりと、だが確実な足取りで「それ」がこちらへ向かってきていた。


それは、四段ほどの棚を備えた円柱状の体躯に、耳のような突起。

そして、何より異様なのは、その頭部にあたる部分に映し出された『光るネコの顔』だった。


「な……っ!?なんじゃ、あのふざけた顔のゴーレムは!!」


「あぁ……。あれは配膳ロボットだ。料理を運んでくれるんだよ」


「ほぅ……。あのような、戦意を削ぐような面構えの魔導兵器を、平然と解き放っておくとは。……ハッ!あやつ、こちらを狙っておるぞ!目が合った!今、余を見て目を細めたぞ!!」


「いや、単に停止位置を確認してるだけだからな?」




「お待たせしましたニャ。料理を取り終わったら、完了ボタンを押してほしいニャ」


目の前でピタリと止まったネコ型ゴーレムが、あざとい音声を発する。

そのトレイの上には、先ほどラビリスが命懸けで選んだ、真っ赤な『けちゃっぷ』の海に浮かぶ黄金の山――オムライスが堂々たる姿で鎮座していた。


「……しゃ、喋った……!?このゴーレム、その顔の通りふざけた話し方をしおって。余を挑発しておるのか……!?」


「いいから、ほら、注文したオムライスだ。取ってやれよ」


ラビリスは、震える手でネコ型ゴーレムの懐からオムライスを奪い取った。

料理を手にした瞬間、湯気と共に立ち上る甘酸っぱい香りが彼女の食欲を激しく揺さぶる。



「……よし。料理は確保した!さっさと去るがよい、ゴーレムよ!」


ラビリスが指示通りに頭のボタンをパシッと叩くと、ロボットは「ありがとニャー」と陽気な声を残して、くるりと背を向けて去っていった。



「…………。……パパよ」


「なんだ?」


「……今のゴーレム、少しだけ、本当に少しだけ……かわいかったのではないか?」


「……お前、『かわいい』に弱すぎだろ」


目の前のオムライス。そして、去りゆくネコ型ロボットの後ろ姿。

次々と襲い来る現代文明の波に、ラビリスの魔王の娘としてのプライドは、今や風前の灯火となっていた。




「……さて。ゴーレムが命懸けで運んできたこの一品、しかと検分してやろうではないか」


ラビリスは、目の前にそびえる黄金の山――オムライスを凝視した。

完璧な半楕円を描く卵の表面は、まるで磨き上げられた金細工のように艶やかで、その頂点には彼女が選んだ「鮮血(ケチャップ)」が、挑発的なまでの赤を湛えている。


「ほぅ。この芳醇な、バターと卵の焼けた香ばしい匂い……。そして、この『けちゃっぷ』とやらの酸味が、余の鼻を心地よく刺激するな」



彼女は銀色に光るスプーンを手に取ると、騎士が剣を振るうような厳かさで、その黄金の膜に最初の一太刀を入れた。


ぷるんっ。


「……っ!?なんじゃ、この手応えのなさは!!」


驚愕が走る。

スプーンの重みだけで簡単に裂けたその内側から、完熟した果実のようにとろりと溢れ出したのは、半熟のまま熱を閉じ込めた濃厚な「卵の海」だった。

そしてその深淵から、彼女が未だかつて見たことのない「あれ」が姿を現した。


「……待て、これは……何じゃ?この、赤く染まった無数の『小さな粒』の集まりは……。もしや、何かの魔獣の卵か!?」


「あぁ、それは『米』って言うんだ。この国で一番大事にされてる、大地の恵みだよ。魔獣の卵じゃないから安心しろ」


「こめ……。これほどまでに小さく、粒立ちの良いものが、数千、数万と寄り集まって一つの形を成しておると……?」


ラビリスは疑念を抱きつつも、黄金の卵、鮮血のソース、そして未知の粒をたっぷりとスプーンに乗せ、大きく口を開けた。



はむっ。


「…………っ!!」


衝撃が、彼女の全身を駆け抜けた。

まず、舌の上を滑るように広がったのは、バターのコクを纏った卵の圧倒的な「ふわとろ」感。

続いて、ケチャップの甘酸っぱさが爽快な先制攻撃を仕掛けてくる。

そして噛みしめた瞬間、一粒一粒が独立した生命力を持つかのように「パラリ」とほどけるライスの食感。

その中には、細かく刻まれた鶏肉の旨味と、玉ねぎの甘みが完璧な比率で凝縮されていた。



「ふ、ふぉぉぉぉぉぉぉ……!!な、なんという調和じゃ!!」


濃厚な卵の包容力。ライスの一粒一粒が弾けるリズム。

それらを全て支配し、一つに束ね上げるケチャップの統率力。


「美味い、美味すぎるぞパパ!先ほどの『てりやき』が剛力無双の戦士ならば、この『おむらいす』は、全ての属性を使いこなす大魔導師の如き深みを持っておる!そしてこの、『こめ』……噛むほどに甘みが溢れ出すぞ!!」


「だろ?その卵と米のコンビこそ、この国の誇る黄金のタッグなんだ」


再びラビリスは頬をパンパンに膨らませ、ケチャップが口の周りに付くのも構わずに、次から次へと黄金の山を崩しては口へと運び続けた。

彼女にとって、この一皿は単なる食事ではない。数千の「米」という名の兵たちを統べる、卵とケチャップの壮大な一つの戦記となっていた。




「……ふぅ。この黄金の山、攻略しがいがあるわ。じゃが、そなたが食しておるその『どす黒いソース』は何じゃ?泥か?それとも禁忌の呪薬を煮詰めたものか?」

頬にケチャップをつけたまま、ラビリスが大地の皿をジロりと睨む。


「人聞きの悪いこと言うなよ。これは『デミグラスソース』だ。牛肉や野菜を何日も煮込んで旨味を凝縮させた、いわば大人の味だな。……ほら、約束だ。一口食べてみるか?」


大地は、たっぷりとソースを纏ったライスを掬い、彼女の前に差し出した。



「ふむ……。敵を知ることも将の務め。その深淵の味、しかと確かめてやろうではないか」


ラビリスはその色にたじろぎつつも、漆黒の塊を口に含んだ。


「――っ!?」


目を見開く。

先ほどのケチャップのような鮮烈な一撃とは違う、重厚な「コク」が舌を支配した。


「……な、なんという深みじゃ。これは……ただの泥ではないな。重く、苦く、それでいて喉の奥で爆発するような強烈な旨味……。侮れぬ、この黒きソース、なかなかの魔力を持っておるわ……!」


「だろ?これはこれで最高なんだよ」


ラビリスは一度、納得したように深く頷いた。……が。

彼女はすぐさま自分の皿に戻り、真っ赤なケチャップがたっぷりかかった部分を勢いよくスプーンで掬い、口に放り込んだ。



「……ふむ。確かにあの黒き深淵も悪くはない。じゃが!やはり魔王の娘たる余には、この鮮血の如き輝きを放つ『けちゃっぷ』こそが相応しい!」


(……単に舌が子供なだけでは?)


「よいか、大地。魔族とは血の滾りのような赤を糧とする生き物なのじゃ。あの重苦しい黒よりも、この舌を刺すような刺激と、魂を揺さぶる甘美な赤……!これこそが魔族の正統な味覚であると断言しようではないか!むぐ、もぐもぐ……!」


「はいはい、そうだな。魔族はケチャップが大好き、と。……あ、ほら、口の横に『返り血』がついてるぞ」


「むっ!?おのれぇ!パパよ、余の顔を清めるのじゃ!!」


デミグラスの複雑さよりも、わかりやすく美味しいケチャップの虜になったラビリス。

彼女は再び、自分の選んだ「正解」を確信したように、一心不乱に黄金の山を崩し始めた。





「ふぅ……。余は満足じゃ……。もはや、指一本動かすことすらできぬ。この『おむらいす』との戦い、余の生涯における重要な一頁として刻んでおこう……」

ラビリスは、糸になった目から幸福感を隠しきれない様子で、小さく膨らんだお腹を愛おしそうに撫でた。


「ちっちっち。甘い、甘すぎるぞラビリス……!」


大地は人差し指を左右に揺らし、ニヤりと確信犯的な笑みを浮かべた。


「な、なんじゃと……?余が甘いじゃと?貴様、今の完璧な攻略(完食)を見ていなかったのか!」


「あぁ見てた、見てたさ。……でもな、ラビリス。ファミレスの真髄は……ここからが始まりなんだ!」

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