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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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100/103

☆100かいめ!☆ いただきますっ!幸せを運ぶ大自然のごちそう!

――見事なヤマメを小さな魔王軍が釣り上げてから小一時間。


男子チームのサポートを受けつつも、コツを掴んだ一行は、驚異的なペースで釣果を伸ばしていた。


途中、少し上流の岩陰に狙いを定めていたヒナの竿が、ググッと重くしなる。


「うわっ、なんかヌメッとしたのがキタ!」


水飛沫と共に彼女が引きずり出したのは、先ほどのヤマメとはまた違う、白い斑点模様が特徴的な『渓流の王様』ことイワナだった。


「うわ、コイツさっきのより顔つき厳つくね?なんか野生のボス感あるんだけど……」


針を外す大地の手元を覗き込みながら、ヒナが若干引き気味に感想を漏らす。

すると、横にいた蓮が眼鏡をクイッと光らせてドヤ顔で返した。


「ふふ、それが『王者の風格』というものですよ」



その後も、すっかりテンションの上がった三人娘たちが、追加で数匹のヤマメとアマゴを釣り上げた頃には、バケツの中は大小様々な魚たちが跳ね回る、賑やかな大漁状態となっていた。


大自然での遊びを全力で満喫し、お腹を空かせた一行は、いよいよお待ちかねの実食へと移行するのである――。




立派なBBQコンロに火をおこし終えた大地が、バケツの中で元気に泳ぐ魚たちと、テーブルに並んだ金串を交互に見比べる。


「で、こっからどうすんだ?そのまま串に刺して塩振って焼いたらいいのか?」


「や、他の魚みたいに先に『ワタ』取るんじゃない?」


大地の適当すぎる提案を、ヒナがあっさりと却下した。

普段から料理をしている彼女は、BBQセットの中から手慣れた様子でまな板と包丁を準備し始める。


「そのまま焼いたら苦くて食べらんないっしょ。川魚も基本は一緒のはず!」


そんな頼もしい料理の知識を披露するヒナの横で、早く魚が焼き上がるのを待ち構えていたラビリスが、不思議そうに首を傾げた。


「わた……?この魚は、さっきのあのおぞましい虫に飽き足らず、『綿』まで食うておるというのか?なんとも食い意地の張ったやつじゃな」


「……お前が言うなよ」


大地がすかさずジト目を向ける。



「あはは!違う違う!ワタってのはお腹のワタ!『内臓』ってこと!」


包丁を片手に持ちながら、ヒナが笑ってストレートな表現でぶっこんでくる。


「な、内臓……?ハラワタということか……!」


その生々しい響きを聞いた瞬間、ラビリスが露骨に嫌そうな表情を浮かべた。


「えっ……お、お腹を切って、中身を取り出すということですの……?」


「それって、血が出るんじゃ……?」


さっきまで「綺麗!」「女王様!」と目を輝かせていた六華とめるの顔も、みるみるうちに引きつっていく。



その時、横から蓮がクイッと眼鏡を押し上げ、淡々とした声で口を挟んだ。


「いえ、ワタを取る前に、まずはしっかりと『〆て』からですよ」


「し、しめる……?」


耳慣れない言葉に、ラビリスが恐る恐る聞き返す。


「はい。要するに〇す、ということです。そのあとは血抜きですね」


蓮はまるで明日の天気を語るような、一切の感情を交えない平坦なトーンで言い放った。


「ち、血を抜くのか!?」


「もちろんです。素早く血を抜かないと、身に血が回って生臭くなってしまいますからね。美味しくいただくための基本にして必須の工程です」


「ざ、残酷すぎますわ……」


「お魚さん、かわいそう……」


「鬼じゃ。鬼がここにおる……」


そのあまりにも容赦のない正論を前に、六華は顔を覆い、めるは涙目で震え、ラビリスはかつての配下を見るような目で後ずさるのだった。



そんな怯えきっている三人娘に対し、蓮はふっと表情を和らげ、諭すように口を開いた。


「残酷と思いますか?でも、皆さんが普段食べている魚や肉も、同じようにして食卓に運ばれているんですよ。皆さんが見ていないところで、誰かが代わりにやってくれているだけなんです」


淡々とした、けれど優しい響きを持った言葉がすっと響く。


「ですので、そうやって『命をいただいている』ということを、ここでしっかりと学んでください」


「「「…………」」」


静かな河原に、川のせせらぎだけが響く。

三人は蓮の言葉の重みを子供なりに真っ直ぐに受け止め、真剣な眼差しでバケツの中の魚たちを見つめていた。


「せめて残さず、美味しく食べてあげることが、命を奪った我々の責任ですよ」


「……うんっ」

「……はい」

「……うむ」


蓮のその教えに、めると六華、そしてラビリスは、命の尊さに感謝するように小さく頷いた。



「……蓮パイって、たまにマジでいいこと言うよね」


「あぁ。それ以外の行動は大体ヤバいけどな」


「あーね。それはガチでそう」


感動的な空気のすぐ後ろで、ヒナと大地が声を潜め、頼れる大人(?)に対して冷静かつ容赦のない評価を下していた。



その後は、それぞれの得意分野を活かした見事な連係プレーが繰り広げられた。


蓮が躊躇のない手つきで魚を〆て素早く血抜きを行い、料理上手なヒナが包丁を使って手際よくワタを取り除いていく。

綺麗に下処理された魚を大地が受け取り、形を整えながら波打つように串を打ち込み――最後は『小さな魔王軍』の出番だ。


蓮の教えで命の重みを知ったラビリス、六華、めるの三人は、「美味しくなあれ」と祈るように、串打ちされた魚の表面にパラパラと丁寧に塩を振っていく。


誰一人欠けても成立しない、見事なアセンブリ(流れ作業)

大自然の恵みを最高の状態でいただくための準備は、こうして着々と整っていくのだった。




――しばらくして。




炭火の上に並べられた串からは、パチパチとはぜる心地よい音と共に、香ばしい匂いが立ち上っていた。

魚の皮にはこんがりと美しい焼き色がつき、身から滲み出た脂が炭に落ちるたびに、ジュワッと白い煙が食欲をそそるように舞い上がる。


「まだ?まだですの!?」


コンロの周りをうろうろしながら、六華が待ちきれない様子で身を乗り出す。


「すっごくいい匂い!」


めるも目をキラキラと輝かせて串に釘付けになっていた。


「……死してなおここまで美しいとはな。さすがは王族といったところか……じゅるり」


そしてラビリスは、こぼれ落ちそうになるよだれを手の甲で必死に拭っている。



「んー。全体的にいい焼き色もついてるし、もうそろそろいいんじゃないか?」


火の通り具合を確認していた大地が、ポツリとこぼす。


「そうですね。身もふっくらとしていますし、もう食べ頃でしょう」


横から覗き込んだ蓮も、コクリと頷いた。

二人から下された『完成』の合図。その瞬間、ヒナが両手を高々と突き上げて歓喜の声を上げた。


「めっっっちゃ楽しみなんだけど!!」


大自然の中で、自分たちの手で釣り上げ、感謝を込めて調理した極上の川魚。

待ちに待った最高のランチタイムが、ついにはじまるのだった――。





「よし、それじゃあいくぞ?せーの――!」


「「「「「「いっただっきまーす!!」」」」」」


澄み切った青空の下、六人の元気な声が河原に響き渡る。


各自が焼きたての串を手に取り、こんがりと焼き色のついた魚に勢いよくかぶりついた。



パリッ。



炭火でじっくりと炙られた皮が、小気味よい音を立てて弾ける。

その直後、中に閉じ込められていた熱気と共に、ふっくらとした純白の身がホロリと顔を出した。

程よく乗った脂がジュワッと溢れ出し、まぶされた粗塩と絡み合いながら、極上の旨味となって口の中を満たしていく。


「むぐっ……!ふむむ!こ、これは……ッ!?」


一口食べた瞬間、ラビリスが真紅の瞳をカッと目を見開き、串を持ったままワナワナと震えだした。


「パ、パパよ……!これぞ真なる防護魔法じゃ……!表面に張られた塩の結界が、内に秘められた魚の生命力を一切逃さず封じ込めておる!」


「え……あ、うん」


大地の適当な相槌など気にも留めず、ラビリスはさらに熱く語り続ける。


「そしてこの皮!余の歯の前に心地よく砕け散ったかと思えば、その下から現れた純白の身は……まさしく天女の羽衣!噛むほどに大河の魔力が口の中いっぱいに弾け飛びおるわ!」


ただの塩焼きを、まるで伝説の霊薬か何かのように表現するラビリス。

しかし、彼女の食レポは止まらない。


「くっ、まさか『渓流の女王』がこれほどの力を隠し持っておったとは……!余の胃袋が、歓喜の声をあげておる……!しかし、余とて誇り高き魔王の娘!この程度の力に屈したりはせぬ!!」


口の周りに脂をつけながら、壮絶なバトルを始める魔王の娘。

だが、その表情はすでに完全敗北している。



「言葉と表情が全く合ってねぇよ……」


幸せそうにとろけるラビリスの顔に、大地は呆れつつも優しく微笑んだ。


「いやでも、マジでうまいなこれ。ラビリスたちがいっぱい塩振ってくれたから、めちゃくちゃいい塩梅だ。外はカリッと、中はフワッフワで最高だわ」


「マジで神!川魚って泥臭いイメージあったけど、蓮パイが秒で血抜きしてくれたおかげで全然クセないし!旨味がヤバいって!」


ヒナも身を乗り出しながら大絶賛する。

自分たちで釣り上げ、下処理から串打ちまで手分けしたからこその、格別の味わいだった。


「はふっ、あふっ……!これ、すっごくおいしいよ……!お魚さん、お口の中でとけちゃう……!」


「本当に……!パリッとした皮と、ふっくらした身のハーモニーが絶妙ですの!お塩の加減も我ながら完璧ですわ!」


めるが天使のような満面の笑みを浮かべ、六華も上品ながらも目を輝かせて魚を頬張っている。

さっきまでの「残酷」「かわいそう」という悲壮感は、大自然の恵みの前にすっかり消え去っていた。



「……えぇ。本当に、素晴らしいですね」


そんな中、蓮が一人、淡々とした声で呟いた。

ただ一つ他のメンバーと違ったのは、彼の熱い視線が『手元の極上の魚』ではなく、『一生懸命に魚を頬張る三人娘』にガッツリ固定されていることだった。


(……大自然での過酷な試練を乗り越え、自らの手で命のやり取りを学ぶ。また一つ成長した天使たちの輝かしい食事風景……これこそが、何物にも代えがたい真の『ごちそう』……あぁ、尊い……尊すぎる……ッ!!)


表情の筋肉をピクリとも動かさず、眼鏡の奥で静かに限界を迎えている蓮。

その口元が、わずかに、しかし確かな笑みに歪んでいるのを、大地は見逃さなかった。


「…………」



(やっぱコイツ、どう転んでも一番ヤバいわ……)


先ほどの素晴らしい『食育の教え』すらも、すべてはこの光景を見るための壮大な伏線だったのではないか。

そんな疑念を抱きながら、彼は限界紳士の計り知れない業の深さに再び静かに戦慄する。


「パパよ!余はもう一本所望するぞ!」


そんな大人たちの水面下の視線の交錯(?)など気にも留めず、魔王の娘は元気よく二回戦へと手を伸ばすのだった。

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