第十話
・お酒は二十歳になってから。
・お酒は節度を持って楽しみましょう。
・最近飲んだお酒:FISHMAN (日本酒)
サケキエルの差配で、二つの酒樽が運ばれてきた。
「ああ、こうやって作った酒が対価もなくどんどん消えていくからあのクソジジイの協力はあまりしたくなかったんだ……」
毒づくモルの言葉も少し弱々しかったのにはさすがの明海も苦笑いを浮かべるしかなかった。
「試練はいたってシンプルよ。この樽に入った蒸留酒を私よりも早く飲み干しなさい」
「おい、サケキエル。お前は別に飲まなくたっていいんじゃないか」
モルの問いかけに一瞬ぎくりと肩を震わせたが、「勇者の力を試すのに必要なことです」と取り合わなかった。
「それに、勇者の嬢ちゃんもこれを一気に飲み干すだなんて無茶なんじゃないか」
「いえ、モルさん。明海さんはこれぐらいどうってことないですよ」
リーシュは鼻高々と代弁していたが、ノーマンの呆れたような同調にモルは納得がいったようだった。
「それじゃあ、試練を始めるわね。スタート!」
酒樽は飲みやすいように地面ではなく、台の上に乗せられており、二人とも傾けながら蒸留酒をスポンジで吸収するかのごとく体の中に流し込んでいった。
傾けていく角度が段々と急になっていくが、酒を司る天使であるサケキエルの飲むスピードよりも明海の飲むスピードの方が徐々に上回っていった。その様子を横目で見たサケキエルは少し驚いていた様子だったが、むしろ嬉しそうに笑みを浮かべながらアルコールを飲み進めていった。
そして、
「ごく、ごく……ぷはーっ!」
明海が先に酒を空け切った。そして十秒もしないぐらいにサケキエルも飲み干した。二人ともノンストップで飲み続ける所業を成し遂げたのに、苦しそうどころか名勝負を繰り広げた後のような満足げな笑みを浮かべていた。
「なあ、ノーマン。こいつら正気なのか」
「勇者はいつもどおりです」
あれだけの量を飲み干す人間と天使を見れば、モルが唖然とするのも無理もない。
男二人の表情とは対称的に、サケキエルは明海の飲みっぷりを見たからなのか、それとも蒸留酒を飲んだ喜びからなのか上機嫌だった。
「さすが勇者ですね。これだけの力があるということであれば、加護を授けても問題はないでしょう」
「いったいどのような加護なんですか」
「魔法を使われるということは、相手に接近戦を挑まれるとどうしても不利になると思います。そのためのものです」
説明をするのは難しいらしいので、実際の戦いになった時にきっとわかるだろうとのことだった。
「それにしても、勇者とこうやって一緒にお酒を嗜んだのも何かのご縁ですし、今日の晩餐に同席したいですわ」
「おいおい、飲んだくれの天使にも晩飯を用意しなくちゃならないのかよ」
顔に手を当てたモルの眉間の皺が険しくなる一方だった。
なお、その晩に蒸留酒の樽がいくつかと、手土産として持ってきた葡萄酒の樽のうちの半分がなくなっており、モルは呆れたように天を仰ぎ、徒弟たちはしばらく開いた口が塞がらないままであった。




