第十一話
・お酒は二十歳になってから。
・お酒は節度を持って楽しみましょう。
・最近飲んだお酒:伊勢角ヒメホワイト (クラフトビール)
ゲコゲコ団のアジトでは、団長であるプレジデント・シラフを含めた幹部たちがアルコー王国近郊の地図を囲み会議を行っていた。
「イブシー市では、勇者に不覚を取りましたが、どうやら念のために用意していた装備が有効だったという報告をナイ・ヨッテの配下より受けています」
「そうか。やはりアルコール中毒どもには酒に効くものを使うのが有効ということが分かったことだけでも僥倖だ。装備については配備を進めるように。占領には失敗したがあの国王、いや、王国をはじめとした諸国を陥れるためには、直接的にアルコールを断つ方法を考えるしかないか」
シラフは冷静に取り繕っていたが、内心はらわたが煮えくり返るほどに苛立っていた。
クーデターがごとくイブシー市を占領し、そこを皮切りに王国への交渉材料として主にアルコールの流通を止めていき、アルコールがない世界を作る。
そのような青写真を描いていたが、勇者の出現によって初っ端にして崩れてしまった。
すぐにでもあのアルコール中毒の国王を討つことによって事を進めたいが、いきなり王国に侵攻することはいくらアルコー王国の兵士が弱いとはいえ、無謀である。
「シラフ様、でしたらギョショー市を狙うのはいかがでしょうか」
「ほう?」
幹部のうちの一人がギョショー市のあたりに丸印をつけ、バーレル島の間の海域にバツ印をつける。
「ギョショー市自体は、漁業が主な収入源ではありますが、特筆すべきはバーレル島と行き来する唯一の船があります。漁港を封鎖することによって、忌々しいアルコール度数の高い酒の流通を止めることができる。また、確か王国との間にも葡萄酒を作っている葡萄園がありますので、そこも狙えば計画に大きな前進がみられるかと思います」
「それは良いアイデアだ。しかし、ギョショー市は占領することはできるかもしれないが、葡萄園は難しいのではないか」
「先にギョショー市を占領し、アルコー王国の戦力がそちらに向いている間に葡萄園を占領、無力化するのです」
「なるほど。して、この作戦の首謀はドリ、お前が務めるということでいいんだな」
「もちろんでございます。作戦のための準備はもうできておりますので、あとはシラフ様のご指示とあらばいつでも始めることができます」
ドリと呼ばれた男は襟を正すような仕草をし、自信に満ちた表情で答えた。
「ならば、任せた」
「シラフ様の野望であるアルコール撲滅を必ずや」
場面は、モルの醸造所でのモルやサケキエルを交えた晩餐に戻る。
醸造所の敷地内にモル・シングルの住居はあった。醸造を始めた初代当主によって広大な敷地を確保し、自身の住居だけでなく、徒弟を住まわせる寮のようなものもあるようで、労働環境が充実していることをうかがわせる。
晩餐に並んだ料理は、ギョショー港から仕入れているのであろう魚を使った料理のほか、蒸留酒のみならず土産として持ってきた葡萄酒に合うようにと魚やカニを使った料理が出てきたときには、明海の杯を乾かすスピードが格段に上がった。
「ふふっ、勇者様の美味しそうにお酒を嗜んでいる姿を見ていますと、私もまだまだ飲めそうという気になってきますね」
「どこが嗜むなのか。そもそも底なしに飲んでいるあんたも……指摘するところが多すぎて疲れる」
モルはため息をつきながらグラスに口をつけた。
「そういえば、モルさん」
「なんだ、おかわりなら……」
「いえ、モルさんって醸造所内部の案内が上手かったなあと思いまして、何度も案内をされているのですか」
「うちみたいな味の蒸留酒を作っているところは少ないからな。たまにどんなものかお貴族さん方が視察に来ることがあるんでね」
聞かれた内容が意外だったのか、モルは照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
明海は、日本で行われている大手企業の醸造所案内について、モルに説明をした。基本的にはモルが行っていた案内に加えて、バーレル島の地理的な条件や食事とのペアリングあたりを加えて、最後に試飲という形にすれば来島する人も増えるし、お金も取れるのでいいのではないかと話をしたところ、特に収入が増えるというところに惹かれたのだろう、ニヤリと笑みを浮かべ「検討しておく」とだけ頷いた。きっと今後行っていくであろうことがわかった。
「そういえば、あんたらは明日の船でそのまま帰るのか」
「いえ、明日はギョショー市で荷物の整理をさせていただいたのちにもう一泊して、明後日に王国へ向けて発つ予定です」
「そうか。昨日もギョショーで過ごしたから色々食べたり飲んだりしているだろうが、新鮮な魚が多いからどんなように調理してもうまいが、生の刺身がやっぱり一番だな。肝と和えて食べる刺身が独特でうまいから食べる機会があったら是非食べてくれ」
カワハギのことを指しているのだろう。肝を和えた醤油にカワハギの刺身を絡めて食べると、肝のねっとりとした食感と旨味が口の中に広がっていくあの独特のおいしさはたまらない。と、明海は日本酒に思いを馳せながら頷いた。
かれこれ、明海の飲みっぷりや醸造所見学の話が気に入ったのか、その日の晩餐でのモルは終始機嫌が良いようだった。




