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第九話

・お酒は二十歳になってから。

・お酒は節度を持って楽しみましょう。

・最近飲んだお酒:山崎 (ウイスキー)

 モルが三人を引き連れてきたのは、蒸留酒の製造現場だった。

 原材料の大麦の加工から、蒸留の過程や樽への詰め込み、瓶詰めのためのブレンドまでさっきまでの口の悪い様子からは打って変わって饒舌に説明をしていた。

「で、ここから蒸留させていくんだが、熟成を進めていくほどに樽の酒がいくらばかりか減っている」

「天使の分け前」

 明海の答えにモルは驚いていたようだが、ニヤリと笑みを浮かべ「そうだ」と頷いた。

「天使の分け前ってのは、熟成を進めていくうちにアルコールや水分が蒸発してしまうことから名づけられたんだ。熟成を進めている全体の量が少ないのもあるが、天使の分け前によってその量自体も減っているからこそ流通量も少なくて、その酒の価値も上がるってことだ」

 明海にとってはここまでの説明は日本のウイスキー工場見学で聞いたことのある説明だった。一方のノーマンとリーシュは製造の裏側を初めて知ったこともあり、感心しきりだった。

「それで、国王から頼まれたのは天使の加護を勇者に授けてやれって言われたんだよ」

「何を言って」

 ノーマンの反応は当然だと明海も思った。

 天使の分け前はあくまで熟成によるアルコールが蒸発することを指しているはずなのに、どのようにして天使の加護を受けるのか。なんだか急に胡散臭くなったと思ってしまった。

「いや、その反応はわかる。しかしな、いるんだよ、酒の天使が」



 モル達は蒸留酒の樽が並べられた貯蔵庫にやってきた。そこはいくつもの樽がいつ作ったのかわかるようにラベリング、整列されていて壮観だった。

「ノーマン。酔ってるようだが、この匂いはアルコールじゃなくて樽の匂いだからな」

「うっぷ……そうは言っても錯覚してしまいまして」

「木の樽に詰められた蒸留酒は熟成を進めていくうちに木の香りだとかが移っていき、味わいに深みが生まれてくる。その木の匂いなんだよ」

 酒が全く飲めないノーマンにとっては拷問のようなのだろう。逆に明海は森林浴をしているかのように何度も深呼吸を繰り返していた。

 貯蔵庫の奥に進むと、ポツンと一つ少し古びた樽があった。

 その樽に、モルはどこからか持ってきた蒸留酒の入った瓶を開け、躊躇なく古びた樽に蒸留酒をかけ始めた。

「うわ、もったいない」

「まあ待て」

 蒸留酒をかけ終えモルが両手を組み何かを唱えると、眩しい光とともに一人の天使が舞い降りた。

 その見た目は手足は長く、出るところは出ていて、すらりとしたモデルのような体系は天使というよりも女神という表現が正しいかもしれない。

「あら、ここに呼ばれるのは久しぶりね。モルの坊ちゃんもいつの間にか老けちゃって」

「ああ、天使の分け前でただでさえ酒の量が減っているのに、なけなしの酒をやらなくちゃあならないんだから、そりゃあ何十年も呼び出さないに決まっているだろう」

「あらあら、うふふ」

 モルの小言を笑顔で受け流し、天使は明海へと顔を向けた。

「久しぶりに呼ばれたと思ったら、あなたは勇者ね」

「はい、そうです。酒田明海といいます」

「私は、酒を司る天使、サケキエルよ。……勇者が現れたということは、何かこの世界に未曾有の危機に瀕しているのかしら」

 明海達がゲコゲコ団のことをかいつまんで説明すると、サケキエルの表情は曇る一方だった。

「お酒がない世界にするなんて、そんなことが実現されてしまったら、困ってしまうわね」

「全くもってそのとおりです」

 サケキエルと明海は共感しあうように二人とも頷いていた。

「私の加護を授けてあげたいところですが、それには試練を受けてもらわなくてはなりません」

「試練って、何かダンジョンの宝を取りに行ったり、モンスターを倒しに行くんですか」

 明海の心配そうな問いかけにサケキエルは笑顔で首を横に振った。

「いいえ、違うわ。あなたに勇者の素質があるかどうか見定めるには、お酒しかないわ」

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