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第一話

・お酒は二十歳になってから。

・お酒は節度を持って楽しみましょう。

・最近飲んだお酒:ボウモア12年 (アイラウイスキー)

 ゲコゲコ団に占拠されたイブシー市を明海たちが撃退し、明海たちがアルコー王国に戻ってきてから三日経った。


 戻ってきてからの間、午前中はイブシー市で起こっていた出来事の報告や今後どこにゲコゲコ団が現れるかの予測を行う会議などに付き合わされたものの、昼からは食事を含めた報告会という名の国王とその臣下達との飲み会が夕方まで催され、この国は本当に大丈夫だろうかと明海は心配しつつも、酒が飲めるのであればそれでいいやと目の前の酒に釣られていた。


 この日の報告会を終え、明海は王国側で用意してくれていた部屋で一息ついたのも束の間、城から出てとある飲み屋に足を運んでいた。


「いらっしゃい。おや、明海じゃないか。さっきまで飲み食いしてたのに、よく来たなあ。それも二日連続で」


「だって、用意されているお酒もいいけれど、いろんなのを飲みたいじゃない。それにシュミットさんも国の要職を務めながらお店をやっているなんて、そっちの方がすごいわ」


 明海が来ていたのはシュミット・エールが営んでいるお店で、シュミットは対外的には食堂と言っているが、実際はバーのようなお店だった。


 前の日に、明海がリーシュからお店のことを聞いたことを含めてシュミットに問いただしたところ、報告会のお開き後に連れて行ってもらったのだが、どうやら明海も一人で飲みたい時に入れるお店として気に入ったようで、二日連続で明海は足を運んでいた。


「国では勇者様ってことでもてはやされているけど、城下町ではどうなんだい」


「特に、誰からも反応はないよ。まあ、顔が違うから異国の人という意味でちらちらと私の顔を見る人はいるけれど。あ、ウイスキーを昨日頼んだのとは違うやつをストレートで」


「あいよ。それならモルブランドで」


 シュミットから陶器のような細いタイプのグラスに入れられたウイスキーと、つまみのミックスナッツ、干し肉を受け取る。


「それと、これも。勇者様にはいらないものかと思うが」


 渡されたのはチェイサー用の水だった。


「何よ、昨日から失礼ね。お酒をゆっくり味わいたいじゃない」


「失礼した。ただ暴飲をしているだけかと思っていたよ」


 からからと笑いながら、シュミットはこれから入ってくる客に備えて仕込みをしていた。


「お酒の味と料理の味を両方とも楽しみたいし、口を一旦リフレッシュさせたいでしょう」


 干し肉を食べ、ウイスキーを口に含み、広がる香りを楽しむ。


「あ、これこの前飲んだやつに近い」


 明海が思い出したのは、この前のイブシー市のナイ・ヨッテと戦った時に、ストロング国王からもらったアイラウイスキーと同じ味のするウイスキーだった。


「飲んだことあるのか」


「うん、この前国王からもらったやつ」


「あれは、今明海が飲んでいるやつよりも熟成が進んでいるものだな。王室献上されているものだから、国王の酒保管庫には他にも更に熟成されているものがあるかもしれん」


 熟成が進んだウイスキーのことをオールドエイジとも言うことがあるが、大阪府の山崎や山梨県の白州などで作られているウイスキーにつけられる○○年というように、三十年もののみならず、五十年以上前のウイスキーやワインがゴロゴロと転がっていそうだ。


 ゲコゲコ団を倒した報酬として何本かオールドエイジのウイスキーやワインをもらって元の世界に帰ろうかしらと、野心に燃えていた。


「そういえば、国王もモル家って言っていたけれど、有名なところなのかしら」


「そうだな。こんなに特徴的なウイスキーを作れるのはこの世界でバーレル島にあるモル家しかいないんじゃないか。有名であるし、この独特の香りが好き嫌いを分けるように、王国内でもバーレル島の権力者でもあるモル家に対しては評価を二分している」


「ある意味わかりやすくていいわね」


 明海がそう言うと、シュミットは困ったような表情を浮かべた。


「それが、現在の当主であるシングル・モルは自分の立場が分かっているからこそ、あえて王家をゆするような交渉をしてきたり、ずる賢く振る舞ってくることがある」


 なぜなのかを明海が問うよりも先にシュミットはそのまま話を続けた。


「評価を二分しているように、モルブランドのウイスキーをいらない人もいれば好きな人もいる。それを欲している人が少なからずいるということは、手を切ってなくすことができないというのがこれまでのアルコー王国の考え方だった。しかし、今のストロング国王はモルブランドのウイスキーのファンでね。バーレル島もとい、モル家とは良い距離感でやりたいと考えているよ。向こうはどう思っているか知らんが」


「なるほど」


「話が長いからってあからさまに興味をなくしたように飲み食いし始めるのはやめてくれ……まあ勇者様の飲みっぷりを見ればシングル・モルも評価を少し変えてくれるかもしれんな」


 酒の味に夢中になっている明海を見てシュミットは苦笑をした。


「おかわりは……ジンに焼酎まであるじゃない。それにしても焼酎がそんな値段なの!?」


「ああ、それはな、この前明海が召喚された際に言っていたのが気になって、東の国に伝手のある仲卸から輸入してもらったんだよ。少量だし、あまり貿易の少ない地域だからこれぐらいの価格になってしまう。ああそうだ、明海はこれの良い飲み方知っているんだろう?今のモル家の話代、情報料として教えてくれないか」


 明海にとっては半分ぐらい興味のない話だったため、あまり納得いかなかったが、シュミットが仕入れてきたのは麦焼酎だったため水割り、お湯割り、ロック、お茶割りについて教えた。お茶割り、すなわち緑茶割りについては、アルコー王国では緑茶の流通がないようなので作れそうになかったが、普段この国で飲まれているお茶を割って受け入れられるか試してみるようであった。


 その後明海はシュミットから追い出される閉店時間まで居座り続け、あれこれと酒を楽しんでいた。

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