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戴冠式。

 

 --9年後。



 カステッロ城のホール会場にてアウロラは妖艶に微笑んでいた。


「何と逞しい肉体でしょう」


 アウロラの演技に当てられた筋肉質な武人を演じる演者の男は、軍服の上着とシャツを脱ぎ始めた。


「だろうっ! 見てくれっ! この筋肉美をっ! わっはっはっはっ!!」


 上腕二頭筋や腹筋、背中の筋肉を見せつけるポーズを決め武人役は悦に入った。


 アウロラは口の端を僅かに引きつらせたが、「ええ。とっても素敵」と妖艶に笑ってみせた。


 彼女を横どりしようと、美しい男達がしゃしゃり出る。


「アウろじゃなくて魔女は渡さんっ!」


「暑苦しい身体をさっさと隠せっ!」


「魔女よ! 私の方が細いが美しい筋肉だぞ!」


(この人達って素だから演じる上手いのよね)


 女優歴9年のアウロラは良い加減その事に気付いたのであった。


 そこにローブを深く被った男がやって来た。醜い男役だ。


「貴方達は揃いも揃ってアホ丸出しですね。知性を疑います」


 聞き覚えがあり過ぎる声にアウロラは目を丸くする。


(えっ!? 旦那様の声っ!? どうしてっ!?)


 アウロラの旦那でなるフィデリオは演者でも無いし、出演するなんて訊いていない。


 フードを外して私を眼鏡越しに鋭利な瞳で真っ直ぐ見つめる。


「魔女は私のモノです。誰にも渡さない」


「っ!?」


 その言葉でアウロラの顔はかっと熱くなった。


 周りの美形な演者がフィデリオを胡乱げに見つめる。


「おいおい。話が違うぜ?」


「とっとと帰れ! 旦那は引っ込んでな!」


「モテる男は敵だ!」


 完全に素である。


 フィデリオは周りの男を睥睨して、眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げる。


「可愛い妻の顔を傷つけるのは演技でも許せないのでね。脚本を変えてもらいました」


「「「はぁ?」」」


「かかって来なさい。私を倒せたら妻を奪えますよ?」


「「「よっしゃーっ!!」」」


(ど、どうしましょうっ!? 旦那様は戦う方面ではからしきなのにっ!?)


 意気揚々とフィデリオをボコろうと近づく演者達。が-- 


 コツコツ


 足音のする方を恐る恐る見た。


 燃える様に短い赤い髪に睨みつけんばかりに鋭い緑の瞳。細身な体型ですらっとした身長の青年らしき者がいた。格好は白地に金糸で刺繍があしらわれた長めなジャケットに白いボトムス。片側の肩にかけられた白いマント。白いブーツを履いていた。


「私の友人を奪おうとは……覚悟は出来ているな?」


 その人物の声は……アンナ様だった。


 観客席の女性達は黄色い声を上げ、演者の男性も悲鳴を上げた。


「アンナ様ーっ! 素敵ーっ!」


「こっち向いてーっ!」


「いや〜んっ! 理想の王子様♡」


「「「すいませんでしたーっ!」」」


 演者の男達は赤髪の美青年の足元に平伏した。


 フィデリオは美青年を睨む様に見つめる。


「……貴女は何処のイケメン王子ですか?」


 アンナ様は「仕方ないじゃないのっ!? 戴冠式の服が男性モノしかデザインが無いからこれを着るしか無かったのよっ!? 歴代で私が初めての女の王だからだそうよ!」らしい。


「……身長高くありませんか? 瓶底眼鏡は何処いった?」


 アンナ様の身長は旦那様よりミニトマト一個分低めだった。いつもならオレンジ一個分低い。


「シークレットブーツらしいわ。ピアチュービュレの男にも流行っているそうよ。眼鏡は衣装係に盗られたわ。……目つきが悪いのがお好みらしい。我が国の女性の趣味は大丈夫かしら…….」


 アウロラも実は男モノの服をアンナ様に勧めた張本人だったりする。


(着るとは思わなかったけどねっ!?)


 意外そうに見つめているとイケメンなアンナ様は此方に気付いた。


「友人の勧めなんだから断れないじゃない」


 むすっと顔を赤くするアンナ様。私の顔も赤くなった。


(友人と思って下さいましたかっ)


 私はアンナ様に相応しい女優として堂々とした笑みを浮かべる。


「とっても素敵です」


 アンナ様は赤い顔のままそっぽを向いた。


(照れてますねっ。かわいー♡)


 旦那様が「……やられた。だから嫌なんですよね」と意味不明な事をぼやく。


 アンナ様は「オッホン」とわざとらしい咳をして表情を元に戻し観客席へと身体を向けた。


「我が名はアンナ・フィオーレ。神ディオに代わり国を治める者。我は民を率いて弱き者を救う事を神と我が民に誓おう」


 ここに新女王が誕生した。観客席の人々は立ち上がり拍手を送る。演者達も若き女王の誕生を拍手で祝う。


 アウロラは思わず涙ぐむ。


(トニア様に叱られてむくれていた姿が懐かしいわ)


 そのトニアは夫に離婚届を突きつけ実家である公爵家に帰っている。夫のルドの珍しく成功した浮気が原因なのだが、ルドは浮気したにも関わらず離婚届けにショックを受けて国王を辞任して山奥の領地に引きこもった。


 王位があろう事か空席になったのだ。そこで白羽の矢が立ったのは娘のアンナ・フィオーレだ。もう一人息子のジーノ・フィオーレがいるがフィデリオを始めとした宮中伯達が推薦してアンナ・フィオーレが女王陛下に任ぜられた。


 今日は戴冠式。アウロラが所属するメラヴィリア劇団はセレモニーとしてカステッロ城で『魔女の恋』を公演していた。新女王と宮中伯の乱入により終わりは曖昧になったけれども、それで良いのかもしれない。


 アウロラは若き女王に尊敬と期待の眼差しを送る。


「アンナ様なら女性も活躍できる社会を築いてくれるのでしょう」


 旦那様は呆れた目でアンナ様を見ていた。


「……この瞬間。ピアチュービュレ中のナンパ野朗から敵と認識されたでしょうね」


 観客席の女性陣はアンナ様に向かって「こっち向いて〜!」とか「睨んで〜!」と叫ぶ。アイドル状態である。アンナ様は視力が悪い。叫ぶ女性を見ようと目を細める為に自然と睨む形になる。


「「「きゃぁああ♡」」」


 観客席をよくよく見ると男達が闘志を燃やしている。


(イケメン王子は強敵だ!) と思っていそう。


 アウロラはアンナ様が心配になってきた。


「アンナ様はモテたいと言ってましたよね?」


 フィデリオは爽やかな笑顔で「他国の人に期待しましょう」と暗に「無理だ」と言った。



『仕事に生きる女王』へと続く--

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― 新着の感想 ―
[良い点]  楽しかったです。フィデリオは奥手ですね。  このシリーズ大好きなので一気に読んでしまいました。 [一言]  読ませて頂きありがとうございました。
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