251.最終決戦 -まずは-
戦闘および残酷な描写があります! ご注意ください!
オレの人生なんて呆気ないモンだと思うことはいつもあった。
初めて思ったのはいつだろう、ああ両親が死んだ時か。今思い返せば違和感ばかりの記憶だ。次に思ったのは明確、アドルフに腕を吹っ飛ばされた時。超痛かった。
お陰様で、人は案外丈夫で、オレは恐怖に鈍感で、やり返してやろうっていう性格の悪さを再確認することができた。
そんな風に思えたのも、お人好しのヴィリと愚直なシュウゴがいたからだ。親友、っていうのも何か痒いよな。
そんでもってオレを心配し続けたヤンに、そもそものスタートに立たせてくれたウルツ。気に食わないところもあるが、感謝している。
予想だけど、アイツらは今回1番やっちゃいけないことをする。……敵討ちとかな。
今回は任務の都合上、ヴィリとヤンのところには飛んでいけねぇ。つーか、ヴィリが命令とか面倒なこと言うからだ。
親友よ、これは交換条件だぜ。
お前の仲間はオレが守る。
だから、お前があの2人を頼む。例え、間に合わなくても2人の悲願を果たしてくれ。じゃなきゃあの人に会わす顔もないし。
ああ、ウルツ? ……あのオッサンは、そうだな。
オレに隠し事をした罰にケツでも叩けりゃ御の字だ。
「ドロシー、大丈夫?!」
「ゲホ……声張れてないから全然弱い。ごめん。」
「エルナじゃなくてオレに謝りなよ〜。危うくぶっ飛ばされるとこだったじゃ〜ん。」
「連絡したからいいでしょ。」
「まぁね、助かったよ。ありがと。」
鼠になっていたらしい彼は、2人の元まで走ってくると軽口を叩く。
瞼から流れる血を拭う。多少巻き込まれたらしい彼はすり傷があった。
「やった?」
「やってないわ……。」
「そ。」
エルナが【共感】で読み取ると、自然とセルゲイは2人の前に立つ。
「オレが接近担当するから2人はサポートね。」
「戦況は?」
「最悪、たぶんクリフォードの暴走の時と同じことが起きてる。」
土煙の向こうでは涎を垂らしながら赤い目でギラギラと3人を見やる男が立っていた。まるで、暴走した時のリーンハルトと同じような、いや、さらに獣に近い姿だとエルナは思った。
呆れたような声音でセルゲイが呟く。
「主に傾倒するあまり、自分の力を見誤った服用をしたみたいだねぇ。くだんな。」
「早く構えて。来るよ。」
「分かってる……よっ!」
セルゲイは手刀で飛んできた物品を次々と弾く。
「ドロシー、あたし達は一度身を隠そう。クリフォードの時もそうだけど、暴走した人の動き、易々とは追いつけない。」
「……そうだね。」
ドロシーは経験のあるエルナの意見を素直に聞き入れ、2人は攻撃を避けながら一度崩壊した瓦礫の山の後ろに身を隠した。
「ねぇ、エルナ。能力で私が話すことはできるよね。」
「うん?」
何か思惑があるらしいドロシーはエルナにあることを提案する。エルナは強く頷いた。
ジャンは幸い自我を失っており、狙いが定まらないため、セルゲイも避けることができている。しかし、セルゲイが攻撃可能な範囲まで近づくことができない。石礫を投げると発火されてしまう。
『ジャンは身体はどうなってる?』
不意にドロシーの言葉が頭の中に響く。
セルゲイは回避に努めながら注意深く観察する。
「……全身の擦過傷、脇腹から出血、左肩脱臼。さっきの【衝撃波】はジャンの【ポルターガイスト】を弾いたらしい。」
『なら、もっと大きい衝撃波をぶつければ倒せる。』
『周囲に人はいない。情報局に連絡入れた時点で後方支援も退避が間に合ったわ。』
さすが、シノブの声で命じると皆の動きが比べ物にならないほどに早い。セルゲイは口角を上げる。
「オレはどうすればいいの?」
指示を聞いたセルゲイはその通りに動く。
時間は30秒、可能な限り近づかなければならない。武器になることは諦め、回避しながら接近していく。
30秒、集中するだけだ。
しかし、足下で発火したり、不意に瓦礫が浮いたりと思わぬ攻撃が襲いかかってくる。さて、どうするかとセルゲイが下唇を無意識に噛んだ時、ドロシーが作戦の実行が難しいかもしれないと準備を進めながら思った時だった。
『敵を中心とするわ! 左足元の瓦礫浮上、円運動開始、距離5mより発火!』
頭の中にエルナの声が響く。その通りに攻撃が放たれ、セルゲイは見事に避けてみせた。
どうやら、エルナはジャンがどのような動きをしてくるかを読んでいるらしい。次々と飛んでくる指示に従い、行動に移す。信じることが近道だと思ったからだ。
そして、その様子を見ながらドロシーは、まるでその姿が進化した能力【先見眼】を使っているフェベの姿に重なって見えた。
だからこそ、決める。
約束のタイミング、セルゲイは懐に潜り込み右手をスピーカーにした。
「【変化・スピーカー】! チューニング済!」
「【衝撃波】!」
ドロシーはセルゲイが変化したスピーカーと無線で繋いだマイクに向けて大声を出す。
至近距離でジャンに身を裂くような【衝撃波】がぶつかる。
「アアアァァァァ! お前らはコロス!」
「殺させねぇよ!」
右腕の衝撃に耐えつつも、ジャンの狙いはすぐに分かった。
エルナの【共感】ではないが、彼が最後にしようとすることなど手にとるように分かる。
「ゲホ、」
「ドロシー!」
「伏せて!」
セルゲイの声に咄嗟に反応したエルナは、鼻血を流すドロシーを抱えて小さくなった。上に何かが覆ったと思えば、すぐに背中に打ち付けるような、さほど痛くはないものの衝撃が走り、爆音が耳に届く。
恐る恐る顔を上げると、どうやらセルゲイは左腕をゴムのように伸ばしてエルナ達の上まで届かせたらしい。加えて義手部分を屋根のように変化させ、上空から落下してきた浮遊物や発火物から2人を守ってくれたようだ。
「ゲホ……セルゲイ、」
「アンタ、大丈夫?!」
「オレは大丈夫だよ〜。庇う方を義手にしたからちょっとパキパキ言うけど。というかドロシー、あんな隠し玉持ってるなんて狡くない? 右手の方がヤバいんだけど〜。」
「……大丈夫そうだね。」
「あはは、喉ガラガラじゃん。」
「元々。」
大した怪我はしていないのか、彼はヘラヘラ笑いながら拘束したジャンを引きずって戻ってきた。
ドロシーはその様子を認めると安堵したように一息つきながら不機嫌そうに尋ねた。
「敵は?」
「敵は伸びてる。たぶん全身バキバキじゃない? 辛うじて息あるけど何だろう、副作用のせいか全身痙攣中。」
「今、応援呼んだわ。セルゲイ、守ってくれてありがとう。」
エルナが通信機を通じて連絡を終えるとセルゲイに礼を述べた。未だ血の止まらない彼の瞼をハンカチで拭う。
セルゲイはいいえ、と呟きながら目を細めた。
「……どうしたの?」
「いや。これでリーンハルトさんと堂々と顔を合わせられるな〜、なんてね。」
「何でよ?」
エルナが不思議そうにするが、セルゲイはその理由を口に出さなかった。
ずっと謝りたかったのだ。
リーンハルトに彼の母親のことを。
だが、彼に母親の情報を伝えた後こっそりと謝ろうとしたところ、彼は過ぎたことだからと、セルゲイの当時の立場を慮って責めることは一切なく謝ることを許さなかった。
なら、今彼が大切にしたいと願うものを守ろう。
彼はそれが贖罪だと思った。
そんなことを考えていると先程までのしおらしい様子はどこへやら、鋭い視線を浴びせてくるドロシーが口を開いた。
「なんか余計なこと考えてる。やることやれば問題ない。胸を張る。」
「なんかその見通す感じヴィリに似ててヤダ〜。2人とも残業しすぎじゃない?」
キン、とさらに睨みをきかされる。
何をやっているのやら、とエルナは呆れていたが、拳を強く握り目の前の惨状に向き合った。
「まずは白星……。」
あたしがやることはやった。
だからみんなも無事でいて。
エルナは各地に散らばる仲間を想いながら再び立ち上がった。
【こぼれ話】
ドロシーの能力は【音】であり、今までは一方向への音波や高低を変えることを主としていましたが、今回の話のような能力が使えることは誰にも明らかにしていませんでした。
大事な時までとっておこうと思っていたそうです。




