252.最終決戦 -烈火の如く-
戦闘および残酷な描写があります。ご注意ください。
戦闘を終え、肩の力を抜く3人の通信機がけたたましく鳴る。
セルゲイの方にも来るかつ音が鳴るということは余程の緊急事態か。3人はすぐに電源をつけた。エルナが代表して応答した。
「こちら、エルナ、ドロシー、セルゲイ3名。」
『こちら監査副局長、任務ご苦労様。至急本部にセルゲイを連れて戻れ。』
「え、オレなんかしました?」
『していない。むしろしてほしい。』
セルゲイは思わぬ言葉に眉を顰める。
落ち着いて聞いてくれ、という彼の言葉は僅かに震えており、明らかな動揺が見える。
『シノブ支部長がいなくなられた。』
3人は声が出なかった。
敵の狙いであるはずにも関わらず、どこへ行ってしまったのか。最悪の展開が3人の頭を巡る。
そして、エルナは彼に付き添っているはずのヒロタダはどうしたのか、とさらに嫌な考えが浮かぶ。
『ゴーシ副支部長とも連絡が取れない、ヴィリ監査局長も交戦中だ。残念ながら私の求心力じゃ窮地に立たされた時に役に立たない。
だから、恥も承知で頼む。君が、シノブ支部長に【変化】して、3人の誰かが戻るまで本部に立ってくれ。』
「……は、」
言われたことをそのまま言うならば容易であるが、あの超人のような人間を完全にトレースするだけでなく、現場の運命を握るような真似などできるわけがない。セルゲイは無意識のうちに舌なめずりをした。
そんな彼の思考を引き戻すかのように、エルナが彼の肩を掴んだ。
「行こう、セルゲイ!」
「え……。いや、でも流石にオレがそんな……。」
「あたし達も協力するし、副局長さんもいるんだから大丈夫よ!」
『ああ、なるべく人払いはする。』
「……、」
迷うセルゲイの背中を蹴るように鼻血を拭ったドロシーは告げた。
「やるしかない。高括りなよ。セルゲイの親友はずっとそれをやってきた。」
「……そう、だよね。」
覚悟が決まったらしいセルゲイはふといつもの笑みを見せると、すぐに全身をシノブに【変化】させた。
「さて、なら協力してくれるかな。ライシャワーさん、ウィットルさん。」
「「了解です。シノブ支部長!」」
2人はセルゲイの言葉に頷いた。
一方で、一般隊員達も戦いに挑んでいた。
以前セルゲイとシュウゴが、アドルフから奪ってきた情報に各地に遺構が出現するという情報があった。
その内部には敵の武器だとか、キメラだとか、何らかの有利になる要素があると踏んで各地隊員に屈服及び調査が命じられていた。
どうやらその遺構の出現には、かつて紋付であったルリの能力が関わっているらしく、【ネクロマンシー】使いをどうにかしないことには好転しないようだ。
大した戦力ではないが、案の定控えの部隊や支援物資が準備されており、特務隊は先んじて強襲することができた。
その任務を終えた一班が辺りの状況を調べていた。
「この地点でケイくん達が交戦している!」
「後方支援準備を!」
男性の1人が指示を出す。
ケイとこの男性は顔見知りだった。
彼がケイと初めて会ったのは、彼が入隊して間もない頃、シンジュク駅での事件だった。あの頃は恵まれた新人類としての能力を発揮するだけで、ただの素人だった。泣いていた彼を見て、ただ選ばれただけで調子に乗っているなんて目の敵にしていた。
だが、彼はあの事件を経て変わった。しっかりと人と、自分の能力と向き合うようになり、目が変わった。
訓練場でも決して驕ることなく、職種や立場など気にせず自分で学べるものは学んでいった。
犠牲者を出すことなく二度紋付を退け、新人大会で優秀な成績を残し、そして、夢までも叶えてしまった。
そんな彼にどうして希望を抱かずにいられようか。
探知班がケイの正確な位置を特定していると、そこへ幾名かがたどり着いた。その中には、かつて初任務をともにした【光】を操るミゾレもいた。
「パウル班ミゾレっす! ケイは……。」
「ああ、こっちに……。」
「【黒い炎】がこちらに迫ってきます!」
探索員が放った言葉に顔を上げた。
「総員、退避!」
慌てて全員が距離をとる。
【黒炎】はまるで他の人が近づくことを拒むように、【赤炎】と混ざると森に燃え移り轟々と煙を生み出す。
「早く消火を!」
「これ程の攻撃を放つってことは劣勢か?!」
「……いや。」
首を横に振ったのは、ミゾレと男性だった。
2人は顔を見合わせて頷き合う。他の隊員は消火をしつつ首を傾げるばかりである。
「たぶん、これはケイからのメッセージ。オレ1人で大丈夫だと。」
「そして、彼が本気になれば、私たちは足手纏いだ。」
彼の今までの活躍を知る隊員はそれ以上言葉を発しない。
なぜならそれが抗いようの無い事実であったからだ。
ハズナ・ナーイフ、23歳。
彼の能力は【蜂】だ。ただの蜂使いであれば、能力のランクはA〜Bである。しかし、彼はSランクと認定されていた。
理由はただ1つ、彼が生み出す蜂は体内であらゆる毒素を作り出すことができた。とはいえ、ある程度制限はある。毒の種類だとか、蜂の数だとか。
人の命を簡単に奪う能力を持つ人間は優越感を覚えやすい。特に、彼の場合は元々傲慢であり、自分の有能さに幼くして気づいていた。
さらにエリートコースで成績を上げていく彼はより他者を見下すようになった。無事エリートコースを修了した彼は終戦間際から前線に出るようになった。
はじめは大人しくしていたが、敵を屈服していくうちに彼はその行為により、自分の心が幸福感に満たされていくことに気がついた。
しかし、命令が無ければ自分の能力が使えない。
それが酷く不満だった。
自分の優れている能力を使ってはいけない理由がどこにあるのだろうと。
だが、彼はいかんせん頭が回った。理由が無ければ作ってしまえばいいのではないかと。
彼は冤罪を生み出し、罪のない隊員にそれを着せて粛清した。あまりにも上手くいくものだから、彼は調子づいた。
そして、その行為は真実として明かされることなく、彼は『Dirty』の一員となり、七賢人の権利を得るまでに強くなった。挫折など、味わったことがなかった。
副作用が出ると言われていた薬も、自身の身体は易く受け入れ、見事に『新人類の先』へと到達してみせた。
その結果、生み出す【蜂】の数も、大きさも、毒素を生み出すためにかかる時間も、全ての制限が消えた。
当たれば、どんな人間でも自分の足下に屈服させられるのだ。
「なのに、あーぁ。うざいなぁ。」
「……。」
せっかく避難所の無力な人間どもを屈服させようとしたのに、と彼は呟く。
以前は、自分に対して手も足も出なかった青年が目の前に立ちはだかる。今のケイは一切の怯えも、緊張も、何も露わにせず轟々と【炎】を燃やしている。能力の相性も、森林というこの場所も自分にとって不利だということは理解できていた。
しかし、単純に気に食わなかった。
「あーもー、雑魚のくせにオレの前に立ち塞がっちゃってサァ! ぶっ潰してやる! 【巨大蜂】、【無限蜂】!」
接近してきている特務隊員をまず消してやろう。
そう歪に微笑んだが、ケイが何やら小さく呟くと、【黒炎】と【赤炎】が一瞬で【蜂】を黒焦げにしてしまう。
「さすがの、オレでも今回の敵に関しては情報をよく見てきた。仲間殺しのハズナ・ナイーフ。案の定、他の隊員からやろうって魂胆だな。」
「分かってんジャン。なら邪魔しないでよね!」
波のような無数の【蜂】と【炎】がぶつかり合う。
普通であればどちらかに能力許容のオーバーが発生するのだが、この2人の場合、それに達するまでにはかなりの時間を要する。
ケイにはそんな時間は無かった。そして目の前の男に無駄な時間や情けをかける理由もなかった。
「邪魔もクソもねーよ。お前こそ、オレの邪魔をするんじゃねぇ!」
ケイは能力を解放した。
それは、『新人類の先』に達した彼が手に入れた、最強の技である。
【こぼれ話】
ハズナの話については、21話(22部)「人が幸せになる理由」で少し触れられています。味方である特務隊員に不正の冤罪をなすりつけ、処罰という名の制裁を加えていました。
ハズナは特にこれを扇動しており、それをアドルフ達『Dirty』に目をつけられました。




