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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
最終章 彼らの物語は続く

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246.備えよ

「うんごめん、母さん、ありがとう。」


「おっ。シュウゴじゃ〜ん。」

「あ、セルゲイとヴィリ。忙しそうだね。」


 本部の中庭でシュウゴと出会したのは、作戦指示系統の要でもあるヴィリとセルゲイだった。

 シュウゴはちょうど連絡を終えたところらしく2人に合流した。


「母親に?」

「うん。シュカのこと。父さんはあてにならないから母さんに頼んで一緒にいてもらうことにしたんだ。」

「何それ別の意味で緊張するやつ。」


 冗談まじりにセルゲイが言うとシュウゴも薄々思っていたのか、珍しく苦笑いを浮かべた。


「ミホさんやチュウジロウさんはどうするの?」

「支部の避難指示に則って避難するって。」

「そっか。カジェタノさんとかも後方支援で避難誘導に動いてくれるらしいよ。」

「そうなんだ。」


 ヴィリの言葉にシュウゴは無感情に呟く。

 ふと、シュウゴは顔を上げてヴィリに尋ねた。



「……連絡なしでオレのところに来たってことは何か作戦について?」

「察しがいいね。今度君がつく後方支援部隊が整ったからそれに関して連絡。シュウゴの顔見知りもいるよ。」


 顔見知り、というのが驚いたことにアドルフ討伐の際に同じ学会に参加していた人たちであった。研究員もいたが、監査局の人間や後方支援の人間もいたのだ。


「あの研究職とは思えない腕っ節の強い人たちね。」

「オレもはじめ旧人類って聞いてビックリしたんだよね〜。」


 セルゲイが茶化すように言うと、ヴィリは至極当然のように答える。


「兼業も専従も、新人類も旧人類も関係ない。思うところが同じであれば得手不得手はあれど戦える。確固たる理由があれば、ね。

 僕は最近それをよく思い知らされてるからね。」



 ふと、その言葉に違和感を覚えたシュウゴとセルゲイは顔を見合わせる。どこだか棘を感じるような。ただヴィリは易々と聞かせてくれるような雰囲気ではなく、2人は口を噤むことしかできなかった。

 彼は忙しいらしく要件だけ告げると踵を返す。

 セルゲイは去り際に気を遣ったのか、ぽそりとシュウゴに耳打ちした。


「ヴィリさ、ここ2年で監査局の人間だけじゃなくて結構な数の隊員から人気出てるんだよ。元から殉職率も低かったけど。現場もさながら、後方支援とか旧人類の人たちも。」


 昔は何考えてるか分からないとか不気味とか言われてたけど、とセルゲイは愉快そうに笑う。


「何でだろーね?」

「セルゲイのおかげでしょ。早く追いなよ。」


 本当はシュウゴと会ったからだよ、とでも言いたかったのだろうが、シュウゴはセルゲイと同居してまるで本物の兄弟のように日々を過ごしていることも間違いなく支えになっていることを理解していたため、間髪入れずに言い返した。

 先手を打たれたことを悔しそうにするセルゲイを置いて、シュウゴはすぐに目的地に向かった。












「まぁ、そんなこと。」

「対応できるか?」

「もちろんよ。」


 リーンハルトとケイはオリヴィアの元を訪れた。

 タバートの【死呪】対策としてやってきたのだ。オリヴィアはすぐにイチヨウに伝えると、彼は部下にすぐに指示を出しに行った。

 イチヨウが戻って来るまで暇を持て余した3人はのんびりと話していた。


「2人もちゃんと対策持ってきなさいよ。」

「ああ。」

「ありがとうございます。」

「特にリーンハルト、貴方は絶対に敵対するんだから忘れたりしないように。」

「……おお。」


 オリヴィアの鋭すぎる視線にリーンハルトは目を逸らしながら答えた。大概わかりやすいものだとオリヴィアは呆れたようにため息をついた。


「ま、対策をとっただけあなたの場合及第点ね。目的は置いておいて。」

「……。」


 エルナの行動で彼の中の何かが変わったのだろうか。

 ケイは2人の傍らで思案していると、急に背中に衝撃が走った。



「ケーイ!」

「うぉあ!」


 ケイの悲鳴にリーンハルトとオリヴィアも驚いた。

 3人に気配を気取られることなく近づいてくるのは、この研究所にはニヨウしかいない。

 彼はにんまりと笑うと愉快そうにケイの手を握る。


「何だよ急に。」

「いんや、久しぶりに僕も任務行くから楽しみなだけー。」

「楽しみ、なんて遊びじゃないのだけれど。」


 オリヴィアが皮肉を込めて言うと、ニヨウは聞いているのか聞いていないのか曖昧な返事しかしない。


「というか貴方って戦えるの? 昔からの付き合いだけど、身体強化以外見たことないのだけれども。」

「戦えますとも! 侮るべからずだよ!」



 胸を張ってそのように言うニヨウをケイがなぜか疑わしげに見つめていた。その表情に気づいたのか、リーンハルトがその顔を覗き込んだ。


「どうかしたか?」

「……いや、なんか、その、ニヨウって本当にニヨウなのかなって。」

「ニヨウ……だが。」


 リーンハルトに分からなかったが、この部下の勘の鋭さはよく理解していた。

 ニヨウはいつもと変わらない笑みを貼り付けたまま、ケイを見つめるばかりだった。




「……君は、ニヨウと仲が良かったんだね。」




 3人はヒュ、と喉が鳴った。しかし、次の瞬間には、3人の目の前から消え去っていた。

 彼の中に、ニヨウとは別の何かがいた。


「消え……。」

「なんだお前達騒々しいな。」

「いや、今ニヨウが!」


「アイツなら大丈夫だ。任務のために中身を入れ替えただけだから。」


 あまりにも当然のように言うイチヨウに3人は動揺を隠せない。

 ここに来て初耳の情報に戸惑うばかりだ。

 3人の想像の内容を容易く察したらしいイチヨウは嘲笑するとそのまま続けた。



「別に実験したわけではない。元々、アイツの中には2つの人格がある。それが今回入れ替わった。それだけだ。」

「それだけって……アンタら兄弟なんだよな?」


「そうだ。だが、それだけだ。人造人間になったあの日からオレ達は『Dirty』を潰すことしか考えていない、それだけだ。」



 初めて触れるイチヨウの怒りにケイは怯む。

 それを見たリーンハルトは苦々しげに呟く。


「やめとけよケイ。たぶん、お前が求めてる答えはくれねーよその人。」

「さすがリーンハルト。」


 ふふ、とイチヨウは満足げに笑うとリーンハルトの肩を叩いた。


「お前達が犬死にしないように対策はしっかりと立てておく。オレもお前達が死ぬことは惜しいと思っているからな。」

「らしくないこと言うのね。」

「何、期待くらいオレもする。用が済んだならさっさと出ていくことだな。」


 彼はしっしっと手を振ると3人を部屋から追い出した。皆腑に落ちないという反応をしつつも、それ以上の追及ができないことを悟り、大人しく部屋から出て行った。

 3人の気配が遠かったことを確認するとイチヨウは部屋の片隅に一瞥くれることもなく淡々と話し出した。



「さて、ニヨウ。お前にしては下手な能力の借り方だったな?」

「ケイ、味方に対して警戒心がなさすぎて笑っちゃうよねぇ。でも、まぁ。」


 無邪気な笑みを消して彼は厳格な雰囲気を露わにした。


「ボスが隠し持つ【Atom】には、リーンハルトとケイの能力は必須。タバート如きに使うなど無駄、といっても人間は面倒な感情に振り回されるもの。ならば、私が動くことが最善だ。

 弟の身体を犠牲にしてすまないな。」


「……いいえ、私たちは『Dirty』を潰えることができれば本望です。それに、貴方に体を明け渡しているということは何よりニヨウがそれを望んでいるということです。ーー様。」


 イチヨウがらしくもなく恭しく頭を下げると、ニヨウは小さく返事をした。















 時間の流れは早いもので、気づけば作戦実行の前日となっていた。

 リーンハルトは最後にゆっくりと休むため家に帰ってきた。気づけば自分がトーキョー支部に来た頃に見た桜の花もすでに散っている。

 ここ数ヶ月、何も周りが見えていなかったなとリーンハルトは苦笑した。


 電気をつけ部屋に入り、無機質な空間で一息つく。

 あるものは班員達のものや、彼等との写真、思い出だけだ。


「……クッソ。」


 ソファに身体を投げ出し天を仰ぎ、誰もいない空間でつぶやいた。

 いつまでそうしていたのだろう。

 不意に窓を叩く音が聞こえる。


 反射的に身体強化を使って気配を消した。

 そして、一気に接近したところで気がつく。その気配はよく知るヒロタダのものであると。


 どれだけ気を張っているんだと、自分に呆れながら窓を開けた。



「あんだよヒロタダ。」

「リーン、気を張りすぎて今慌ててきただろ。バレバレだ。」

「寝てたからよ。というかお前がベランダから来るの初めてじゃねぇ?」

「やってみたくなった。出会った頃だったらこんな高い所でできないって思ってたからな。連絡したんだけど反応無かったから、夕飯まだだったらどう?」

「ああ、食ってねぇな。邪魔していいか?」


 ヒロタダは玄関から回ってこいよ、というと部屋に戻って行った。

 部屋に入ると、ヒロタダの実家で食べた煮物と魚、常備菜や漬物が並んでいた。


「抹茶のデザートもあるよ。」

「あんだよ、贅沢か。」

「これが彼女だったら最高だろ。」

「まぁな。」


 否定しろよと彼は笑った。


「……でも作らないんだな。」

「お前、エルナかケイになんか聞いたの。」

「僕はそんなこと一言も言ってないぞ。」


 リーンハルトはグッと下唇を噛んだ。

 普段なら絶対に引っかからない鎌掛けに引っかかってしまったことも目の前のヒロタダが愉快そうに笑っているのもどちらも気に食わなかった。



「ま、リーンは色んな人に色んなこと言われてるだろうから僕はいじめないでおくよ。」

「現在進行形でいじめられてるんだが。」

「はは、お茶淹れて。」

「はいよ。」


 リーンハルトは勝手知ったる様子で手早く茶を淹れる。


「そういえば僕炊き込みご飯のレパートリー増えたんだ。マコさんと今も文通続けててな。」

「ああ、あの割と逞しいお嬢さん。」


 かつてヒロタダがたまたま拾った手紙から事件をきっかけに文通を続けている女性のことだ。


「色々料理を教えてくれるんだ。また近いうちにこっち来るって。」

「んだよ、1発目からお家デート?」

「違う! ホテルとるって言ってたし、それに僕の料理食べたいって言ったの向こうだし!」

「へぇ〜。」


 リーンハルトはいただきます、と挨拶をすると食事を手につけ始めた。ほかほかご飯とおかずがよく合う。


「うめー。」

「そりゃ良かった。」


 それから2人は何てことのない話を続けた。

 まるで明日が運命の日など感じさせないほどに、何てことのない話だ。

 ヒロタダも当然のように食器を片付け、明日の用意をし、洗濯物を纏める。明日が来ることを疑わない。



「じゃあ飯ありがとな。」

「ああ、こっちこそ片付け手伝ってくれてありがとうな。」

「また明日な。」

「待て待て。」


 不意にヒロタダに呼び止められ、リーンハルトは不思議そうな顔をした。ヒロタダは呆れたように言う。



「次はオレが奢る、とか次はこれが食べてーなー、とか言わないのか?」

「……。」



 思わぬ言葉にリーンハルトは目を丸くした。

 戦う覚悟を、責任を、背負いすぎているのだろうか。


 みんなの言葉は胸に染み込んでいた。それに直前になって気づかされるなんて。

 フッとリーンハルトは笑みを漏らすとヒロタダに言った。



「次はウォッカ奢ってやるよ。」

「いや、僕碌に食べれず潰れるやつじゃん。」

「オレがおぶって帰ってやっからよ!」

「納得いかないんだが! おいコラリーン!」


 リーンハルトは笑いながらすぐ隣の自分の部屋に逃げ去った。

 ああ、どれだけ強い酒を盛ってやろうか。

 そんなくだらないことを考えていれば、すぐに快い眠気はやってきた。

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