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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
最終章 彼らの物語は続く

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245.紐帯

 ケイは本部を訪れていた。

 まさか自分がこんな場面に遭遇するとは。

 そう思いながらも、足は縫い付けられたように動かずその状況をただ静観するより他なかった。








 時は遡って数日前。

 その日は高校の卒業式であった。昨今の動画のこともあり、規模は縮小したものであった。


「さすがだな。プロに最も近いと言われる大学に推薦入学。オレはトーキョーの大学進学だから遊びに来いな!」

「ケイぐん……! 私たちずっと応援してるからねぇ……!」

「そんな泣かなくても。」


 元チームメイトのカイト、マネージャーのコノミをはじめとした部活の仲間と共に別れを惜しんでいた。その最中、カイトが声を抑えて尋ねてきた。


「そういえばこの前の動画のことあったけど、特務隊はもう辞めたんだよな?」

「……ノーコメント。」

「やめてねーのか。ほんっと無茶ばかり。」


 お前らしいけど、と心配そうにする彼にケイは笑ってみせる。


「大丈夫だ。オレの、そっちの仲間も強いから。」

「ならいいけど。」

「やい、ケイ・ロペス!」



 しんみりとした空気をぶち破るように登場したのは、ケイと同郷であり同じ高校の陸上部に所属するエーミルという男だ。

 昨年のインハイで4人は『Dirty』の襲撃に遭っており、ケイが特務隊員であることを共有している。だが、いかんせん性格が面倒なためケイとは不仲である。


「オレも大学にスカウトがあった! 今後世界に輝く成績を残しお前に負けない栄誉も掴む!」

「そりゃおめでとう。何でお前はこんな日まで鬱陶しいんだよ!」

「それはオレがお前をライバルと認めているからだ!」


 だから、と声を顰める。


「……くだらん戦いに負けて土俵に立たないなど愚かなことをしたら許さないからな。」


 思わぬところから背中を押されケイは目を丸くしたが嬉しかった。


「当たり前だろ。」


 エーミルもまた素直でないながらも満足げに鼻を鳴らすものだからカイトとコノミに笑われた。





 そして卒業式のために来ていた両親に特務隊の話をしたら、さすがに放任主義の両親もショックを受けたらしい。母親には泣かれた。

 せっかく夢が叶う目の前にいるのに、と。


 しかし、ケイは今のリーンハルト班の面々を置いて特務隊から抜けられるほど彼らを軽んじることはできなくなっていた。

 例え、その選択をしても誰もケイのことを責めない。

 ただ、間違いなくケイがその作戦に参加することにより隊は優位に立てる上、犠牲者も少なくすることができる。己の能力の過大評価ではなく事実である。

 その評価について不安になりシュウゴとオリヴィアに相談したところ、何を当たり前のことをと2人に驚かれた。


 閑話休題、反対する両親を説得してくれたのは、意外にも家族の中で1番オレの特務隊在籍を反対していた兄だった。



「オレにとってお前はいつまでも守る対象だった。でも、今のお前は誰かを守ることができる強い人間だ。兄ちゃんは応援するよ。ただ、大怪我はしないでくれ。」

「もちろんだ。」



 その言葉が決定打となり、オレは作戦への参加を決めた。







 今日はその報告に来たのだが、リーンハルトは事務室を不在にしていた。たまたまその場にいたモニカに尋ねると、どうやらエルナと昼食に行っているらしく、席を外していた。

 確かにアポイントをとらずにやってきた自分が悪いのではあるが、とケイはため息をついた。


 事務室で待つのも手ではあったが、何となくその場にいたモニカの雰囲気がケイの嫌いな雰囲気であったため、その場を後にした。

 ケイは訓練室には行くつもりがなかったため、そこを避け、屋上に向かった。


 裏庭に並んで人が来ない場所である。

 何となく、そこに行くとまさかのリーンハルトとエルナが昼食を摂っていたらしい。傍らにはテイクアウトの容器が置いてある。



「どうだった? ここのお店のテイクアウトオススメなんだけど。」

「すげー美味かった。てか、テイクアウトやってんだな。」

「ちょっと割高だけどね。アンタ最近本部か訓練室に詰めっぱなしでしょ。ちゃんとご飯食べなさいよ。この前オリヴィアにも念押しされてなかった?」

「されたけど……。さすがにちゃんと食ってるわ。作戦前に体調崩すとか絶対したくないしよ。」 


 存外彼らも仲良くやってるのではないかとケイは気配を消しながら口角を上げた。

 はじめは雑談を交わしていたが、不意に沈黙がその場に流れる。どうやら本題に入るようで完全に立ち去るタイミングを逃したとケイはため息をついた。



「で、エルナ。作戦参加ってことでいいんだな?」

「うん。パパも、ママも、やるなら最後までしっかりやりなさいって言ってくれた。」

「……正直エルナがいると助かるよ。配置的には後方支援の方になっちまうだろうけど。索敵能力や連絡する能力としては最強の部類だしな。」


 リーンハルトは穏やかに言うと、エルナは何やら小さく文句が何かを言いながら顔を赤らめていた。


「エルナには小ワープホールの起点にもなってほしかったしな。」


 その言葉を聞いた瞬間、エルナの表情は強ばりケイもまた肩を揺らした。



「……リーンハルトは基点になるつもりはないの?」

「ああ。オレは間違いなく七賢人を相手取るし、避難してきても危ないだろ。他のウルツ班だった3人みたいに的確に応援呼べる自信もないし。」


 確かに彼の場合は応援に思考を巡らせるよりは戦闘に集中した方が勝率を上げられそうだ。


「なら、リーンハルトはやっぱりお父さんを相手取るの?」

「まぁシンプルに能力の相性も悪くないしな。」


 リーンハルトの父親、タバートの能力は【血液】だ。

 彼の覚醒後の能力、物質を水に変える技を以ってすれば大概の人物よりは相性がいい。ケイやヒロタダの能力もあるが、ヒロタダは身体能力的に厳しいものがあり、ケイはもっと他に有利な相手がいるためそちらにあてがわれるであろう。



「勝てるわよね?」

「もちろん。全力を尽くす。やらねーと戦争は終わらねぇよ。」


 その言葉を噛み締めるように呟くリーンハルトの横顔を見ながら、エルナは何かを決意したように彼に尋ねた。


「……あたしが、フェベと3人で任務した時にアンタに行ったこと覚えてる?」



ーリーンハルトにも、私にも、アンタにも幸せになる権利は幾らでもある。



 覚えている。

 時に夢見悪い日でも、そのことを思い出せば心を保っていられるほどには強く深いところに沁みた言葉だ。

 リーンハルトが何も答えずエルナを見ると彼女の視線と交わる。


 リーンハルトには敵と視線が交わる以上に緊張が走った。あまりにも彼女の瞳が強すぎて怯んでしまう。



「ねぇ、リーンハルト。アンタはどうやったら死ぬ気で生きるって約束してくれるの?」



 ヒュ、と喉が鳴った。

 リーンハルトは死ぬ覚悟はできていたのだ。あの時、自分の村が炎の海に沈んだ日から。

 目の前の彼女に中途半端な嘘は通用しないことは明白であり、リーンハルトは観念したように話した。


「……差し違える覚悟は、タバートと別れた時からできてる。自分が逃げてアイツが別の奴を傷つけるのを見るくらいなら命に替えてでも、オレが決着をつける。

 だから、何も残さないように生きてきた。お前達は、オレがいなくても生きていけるだろ?」


 覚悟ができているなら、何故そんな表情で笑うのだ。

 エルナは強く唇を噛んだ。



「……嘘つき。」

「は?」



 リーンハルトの冷静な問いに、エルナは頭に血が上ったのか勢いのままに彼の胸ぐらを掴む。リーンハルトは呆気にとられて目を丸くしていた。

 ケイとしてはもっと言ってやれという気分であったため、止めることもなく見守っていたが。



「アンタ、もうあたし達と生きたいって思ってるんでしょ? そうだって言ってよ! もし死んじゃいそうになったら自分を優先するって!」

「それは言えねぇよ。」

「言ってよ!」

「言えねぇって!」


「じゃあ、あたしはアンタがいなきゃ生きていけないって言ったら生きてくれるの!」



 その言葉と涙が止まらないエルナの表情でリーンハルトの思考は完全に固まった。

 言い返す言葉も、力も、全てを削がれてしまったかのように。



「リーンハルト、あたしアンタのことが男の人として好きよ。ずっと、好きだった。あたしの夢を応援する、守るって言ってくれた時から。あたしだってアンタを守りたい、アンタが幸せであってほしいって思ってた。」


「でもーー。」

「返事は要らない!」



 思いの外強い力に揺さぶられ、リーンハルトはうめき声をあげたがそれ以上に揺らされれば舌を噛むだろうと思い口を閉ざす。


「戦争、ちゃんと決着をつけてから返事をちょうだい。どっちでもいいの、戦争が終わってから真剣に考えてほしい。」

「あ……おう。」


 呆気にとられているリーンハルトの襟を離すと慌ててゴミを拾い上げ、小さく謝ると彼女は走り去っていた。

 出入り口の横にいたケイにさえも気づかぬほどに慌てて。












「なぁ、ケイ。」

「ああ、やっぱり気づいてました?」

「つーか聞いてたよな。」

「盗み聞きはするつもりなかったんすけどね。タイミング悪いっすね。」


 名指しされたケイは苦笑いをしながら観念して姿を見せた。

 大人しくエルナの背中を見送ったリーンハルトはなぜか安堵したような息を漏らす。


「リーンハルトさん。」

「ん?」

「オレ、アンタのそういうところだけ大っ嫌いです。」


 思わぬ言葉に、彼は鳩が豆鉄砲を食ったようような顔をした。

 そんな隙にも構わずケイは自分の要件を述べる。



「戦争参加します。そんで、速攻で敵倒してリーンハルトさんの所に援護に行きます。」



 要らないかもしれない、だが自分の能力は役に立てるはずだ。ケイはそう思っていた。

 リーンハルトは何を考えたのか、歪な笑みを浮かべながら頷いた。


「……どっちにしろ、ケイには援護は頼みたかった。タバートの能力、【死呪】のことに関して。リーンハルト班では、お前にしか頼めない。」

「……?」



 確信ではないのだろう。しかし、それしか打開策がないらしい。

 リーンハルトの言葉にケイは目を見開いた。そんな方法で解呪できるのかと。


「死に際に、あの人が教えてくれたことだから何とも言えないけどな。ただ、誰よりもタバートのことを愛していた人間だ、信じるより他ないだろ。」

「……そっすけど、うん、オレはリーンハルトさんを信じます。」

「おう、ありがとな。」


 本当に目の前の男は告白を受けたばかりの人間なのだろうかと、他人が見ればそれほどにリーンハルトの反応は淡白だ。

 しかし、短い期間とは言え深く付き合ってきたケイには容易く彼の心情は分かる。



「……リーンハルトさん。」

「どうした?」

「オレ、ルイホァにもう1回告白する予定なんすよ。ちゃんと仲人やってもらわないと困りますからね。」

「……受け兼ねる。いって、本気で蹴るな!」


 ケイは謝らず不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 リーンハルトもまたそれ以上責めることもなく、呆れた様子でため息をつくばかりであった。

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