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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
最終章 彼らの物語は続く

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244.宣戦布告、再び

 本部より作戦の確認が行われる。


 幸いセルゲイが命懸けでもぎ取ってきた情報のおかげでここの戦力増強も可能であり、後方支援部や旧人類隊員達も改めて身体機能を高めることができた。

 カジェタノも一部臓器不全を抱えているにも関わらず、訓練場で生き生きとしていた。止めても聞かないのだとオリヴィアとパウルが嘆いていた。ちなみにイチヨウは栄養剤と称して何かをしようとしていたが、ヴィリにこっぴどく怒られていた。


 リーンハルト班では、現状エルナとケイは参加について明言はしていなかったが、会議には参加しているため、班内の人間除きほとんどの者が参加すると思っていた。

 隊内強化や作戦遂行のための布石として準備が進められていく中、突如それは街中に流された。







『世界各国、人類の皆さんお久しぶりです。

 我らは世の汚れを一身に背負う者『Dirty』と申します。』






 約2年前と同じような定型の挨拶でそれは始まった。

 AA本部より妨害を画策するも、相手方はそれを上回るスピードで世界中のサーバーを介し、あらゆるメディア媒体を通じて全世界の人間に語りかける。

 リーンハルトもまたシノブとゴーシに加え、元ウルツ班の3人とともにその映像を見ていた。



『新人類の皆さん、今まで生活してきた中でこのように感じていませんか? なぜ、自分はこんなにも管理されなければならないのか、特殊な能力を持つばかりで迫害されなければならないのか、自分より劣る旧人類が上に立つのか。』


『それは簡単なこと。過去の制度や数的不利により、思考の進化をやめてしまうことなのです。』


『制度など、新人類が上に立てば変えられる。数的不利など、新人類の能力を以ってすれば圧倒できる。思考の停止など、今ここで変えてしまえばいい。』


『周りを見てみてください。優れた人物は大概新人類です。身体能力も、頭脳も。自分を見つめ直してください。あなたは優れたものを持っている。進化をやめた旧人類と違って。』



 ここまでは、かつての動画と同じ内容を繰り返すだけであった。

 しかし、画面の向こうの顔の見えない人間はゆらりと揺れると小さく笑った。



『旧人類どもは進化ができなかったもはや哀れな死者と同等。それにも関わらず、新人類を迫害する亡霊を篝火を今灯す時がやってきたのです。準備は整いました。『Dirty』は汚れではない、正義となります。新人類の皆さまもご協力ください!』


「過去の祭典、ワルプルギスの夜の該当日を聖戦と名づけ、メーデーを新人類優位主義者の祝いの日とする。くだらない理想だ。」



 悪態づくゴーシは大して相手にしていないらしく、呆れたように吐き捨てた。ただ、シノブは不気味に静観しているだけであった。









 この映像が流れてからいくつか変わったことがあった。



 『Dirty』の関係者による犯罪はピタリととまった一方で、一部の新人類優位主義者やただの犯罪者が増加した。この隙に乗じて、と言わんばかりのくだらない現象であった。

 ハーマンに聞いた話によると、特務隊の負担を減らすべく、警察もかなり動いているそうだ。いかんせん、この現象は全世界で見られているため、他支部からの応援は難しい。

 あくまでも、エリア保全というよりは『Dirty』討伐の実績を求める応援しか入ってこなかったからだ。

 ハーマンは能力もあったため引っ張りだこであったようだが、彼は意外にも疲れている様子はなかった。


「今まで能力を使って逮捕することに消極的だった奴らが頑張ってんだよ。元からいた能力のない職員達も躍起になっている。

 こんな事件のせいで結束が固くなるなんて皮肉なモンだよな。」


 彼はため息をつきながらリーンハルトにぼやいていた。



 放映後にメディアも動いた。

 一部不安を煽るような媒体もあったが、すぐさま沈静され、事実のみを伝えるように伝達される。

 しかしながら、この映像は様々な憶測を呼び、不安を駆り立てられる者もいる一方で、この新人類主義に乗じる犯罪者がいることにも変わりはなかった。挙げ句の果てに報道の自由が規制されたと声をあげる者もいたくらいだ。


 この件に関しては、ヒロタダの姉であるユイをはじめとした世界メディア連合が協力してくれた。

 事後で構わないため戦いや作戦の動画を一部提供してほしいと要求はあったのだ。これに関しては、AA内でもかなり議論が白熱したらしいが、ウルツの一言が後押しとなった。


「この戦争は我々過去の人間が革命に怯えて過ごしてきた結果生み出された産物だ。これから新人類、旧人類が真の意味で手を取り合うためには必要なんじゃないか。」


 意外なことにその意見に賛成したのは、AAのトップである事務局長であった。彼が何かの意見に同意するなんてことは今までなかったため、殆どの幹部は驚いた。

 この後押しにより、隊員のプライバシーも守るため検閲後のデータとはなるが、提供する方針が決まった。









 医療体制も様々な対策が急ピッチで進められていた。

 特に作戦の中心を担うであろう新人類の治療、そして能力被害に遭った人の救護、カウンセリングなど、様々な場面を想定して動くことを想定した配置を決めているそうだ。


 オリヴィアも戦争の経験を活かし、助言をしている。

 彼女の同僚達、特にかつてオリヴィアを心配して動いたシロウをはじめとした新人類を対象とした医師達が精力的に動いており、エリア:ジパングは世界の中でも迅速に整備されていた。

 避難パターンや襲撃経路、様々なことが想定され会議を重ねる。さすがキレ者の集まりといった様子だった。


「まさか戦争の経験がこんな風に生きるなんてね。シモンが生きていたら喜びそうだわ。」


 そう呟く彼女も疲労の色は滲みつつもどこか生き生きとしていた。

 もちろん薬剤の方面でも精力的に活動が行われる。シュウゴの父親や先生も忙しそうに日夜研究室やら感染症センターやらに出入りしているそうだ。










 一般市民はこれを期に、避難訓練とやらを行うようになった。

 様々なパターンに合わせて、特務隊員達も協力しつつ避難経路や避難場所を定めて行う。ケイも高校で行われているとぼやいていた。


 かつてのユーマニティ戦争は中心地以外は然程関心を持たずにのんびりと生活をしていた。戦争が長期化したり局地戦であったことも要因の1つであったが、何より自分たちには関係のない話であったのだ。

 まるで漫画の向こうのような、フィクションのような。


 しかし、今は引退した元特務隊員や社会的に影響の強い著名人達が危険を呼びかけている。もちろん、新しい風潮に心躍らされる者もいたが、元『Dirty』側だった人間達が打ち明ける組織の裏側も大きな話題を呼んだ。

 特に元紋付であるハンフリーの肉声や、元七賢人のアマーリと元紋付のクリフォードが行なっていた慈善事業は注目を集めた。賛否両論ではあったが、いずれにせよルイホァもケイも複雑そうな顔で見つめていた。









「で、これが録画機能ってこと?」


 エルナはリーンハルトに用があり事務室を訪れたところ、たまたまドロシーから連絡が入った。ちょうど来訪している旨を伝えると彼女は数分で事務室にやってきた。

 彼女が持参したものは通信機の機能をカスタマイズするプログラムだった。


 彼女は以前ヒロタダの姉に出会った時にとあるプログラムを授けられた。それを弄って作成したのが今回の録画機能であるそうだ。

 従来のカメラ機能は立ち上げるのに2手必要であり、データ容量としても乏しい。しかし、今回のドロシーが提案したものは音声認識可能であり、データ容量も抑えることができる。加えてアイパッチをしていると顔が映らないよう自動認識してくれるらしい。


『通信機にカスタマイズできる。本当はランダムで現場の人間に付加される機能なんだけど1人だけ配布先決めていいって言われたから。』

「全員に配るわけじゃないんだ?」

『うん。あくまでも小規模ワープホールの基点になる人しか持てない。データ容量オーバーするし処理落ちするから。』

「……そうなんだ。」



 リーンハルトから班員がいざという時に逃げるための小規模ワープホールがあることを聞いた。はじめはリーンハルトが基点になるものかと思っていたが、最後方にいるエルナが基点になることを聞いた。

 エルナは正直驚いた。


 つまりはリーンハルトのところに応援に行くことができない。


 他の元ウルツ班は基点を自分に設定し、応援が頼めるようにしていたはずだ。

 それにも関わらずリーンハルトは避難先の確保を優先した。恐らく班員は彼の意図を理解しているため、納得まではいかずとも飲み込んではいた。


『エルナに渡すのは、私が特別カスタマイズしたから画質も音声の質も最高峰。それに作戦は私と組むから……ああ、エルナはまだ参加するって言ってないんだっけ。』

「ううん、参加するわ。」

『……そっか。』


 ドロシーが少しだけ小さな口元を緩めた。


『なら、私の能力のサポートができるような機能も役に立つね。』


 ドロシーが説明を終え、試験使用も終えると彼女は鼻をひくつかせた。まるで小動物のように可愛らしい動きではある。



『ところで何か買ってきたの?』

「そ、最近リーンハルトが食事を忘れることがあるからってヒロタダからのリーク。」

『あの人も大概ワーホリ。……まぁ、モニカも最近殺伐としてるけど。』


 自分達の班長に呆れながら2人は苦笑した。


「そうだ、ヒロタダの分も買ってきたんだけど来られないらしいから、ドロシー食べる?」

『いいの? お昼まだだから嬉しい。』


 彼女は無表情ながら嬉しそうに選ぶ。

 恐らく流行りの店の人気メニューなど興味はないのであろうが、その辺の勘は鋭く1番人気のメニューを選んでいた。

 そこへリーンハルトが戻ってきた。



「おっ、いい匂いしてんな〜。腹減ってきた。」

『遅い。』

「2人が話してると思ってゆっくり来ただけだっての。辛辣だな。」

「アンタの分もあるわよ。温めて食べましょ。どっちがいい?」

「マジ? サンキュ。」


 リーンハルトはガッツリがいいなぁと呟きながら嬉しそうに選んでいるが、それを見るエルナもまた幸せそうに笑っていた。

 ドロシーはその露骨な表情に呆れながら口を開いた。


『天気いいし、2人で屋上で食べてきたら? 』

「なら、ドロシーも行かない?」

『私は用があるからあまりゆっくりできないしいい。』


 リーンハルトは2人の会話を聞きながら、彼女もまた変わったものだなとしみじみと思い返す。

 かつてはもう少し冷たい印象を受けたのだが。


「なら、お言葉に甘えて屋上に行こうぜ。午後からケイも来るって言ってたから訓練室戻るつもりなかったし。」

「……そうね。」


 エルナはドロシーに一声かけると、温め直した弁当を持ってリーンハルトとともに屋上に向かった。

 彼女は2人の背を見送りながらため息をついた。



「どっちもお人好し、不器用。」



 見かけに似つかわしくない低い声が誰もいない事務室に響いた。

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