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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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241.追憶 -オレの班-

「『Dirty』の活動が再燃? しかもエリア:ジパングで?」

「ああ。」



 当時のベルリン支部支部長に呼び出され、オレは懐かしい組織名を聞くとともに思わぬ知らせを耳にした。

 何故今更、しかもジパングで、と聞きたいことや考えたいことは色々あったがまずは支部長の話を聞く。


「それでシノブさんから君たち元ウルツ班の4人に異動要請がきている。トーキョー支部は元より戦闘を苦手としており、教育者も募っているところ、即戦力も欲しくてたまらないのだろう。先の新人戦でもひどい有様だったしな。」

「ああ……。」


 予選落ちにしても散々な結果だった気がすると、朧げな記憶を遡る。


「ただ、副支部長から降りることになるから、給料や地位は下がる。断ってもいい。」

「冗談。オレは行きますよ。」


 オレがあっさりと言うと恐らくその答えを予想していたらしい支部長は苦笑しながら書類を送ってきた。


「君なら言うと思った。詳しいことは今送った報告書に上がっている。班編成のこともあるから一度トーキョー支部に行くといい。」

「了解です。」



 オレは了承するとすぐに仕事の引き継ぎの準備に入った。










 トーキョー支部に向かうと、シノブさんやヴィリと再会することになった。そして新しい副支部長としてゴーシさんが迎え入れられていた。

 もちろん他のウルツ班の面々も、ウルツさんを除き集まっていた。オレ達は仕事の引き継ぎ諸々を進め、作業は至って順調であった。


 しかし重大な問題に直面した。

 それは任務の成功率を左右する班編成だった。



「とりあえずこちらで精鋭を準備してみたけど、班員の相性とか鑑みて変更希望があればしてもらって構わないから。ジノヴァツくんに相談してね。」

「「「「了解です。」」」」



 オレ達は監査局長室に招かれ、頭を突き合わせて班員の候補者リストを見る。

 1番最初に決まったのはヤンであった。というのも、彼はメンバーを特に変えなかったからだ。


「即断即決かよ?」

「そう言うわけじゃないわよ? この子の采配がアタシの考えに合ってただけ。別にそのままいかなきゃいけないわけじゃないわ。」


 ヤンはヴィリに書類を提出するとオレの頭をワシワシ撫でながらウィンクを投げつけてきた。


「アンタがどんな班で、どんな風にありたいか。それを考えてみればいいだけよ。それに今の時代兼任だってできるんだから。理想を追ってもいいんじゃない?」

「理想……。」


 オレがうんうん悩んでいる間にモニカも決まったようで、ヤンとともに退室してしまった。

 パウルは決まったようだが、オレの班編成に興味があったのか横でずっと見ていた。



「お前はどんな班にしたいわけ?」

「……オレは。」


 言葉にする、その大切さは分かっていた。


「互いに仲間だなって思えて、補い合えて、旧人類とか新人類とか関係なく接することができる、そんでもってこう、高め合うことができる関係の。」

「理想的すぎねぇ?」


 確かに彼の言う通りだ。

 オレが無言で妥協点を探していると、まぁと彼は案を出してきた。



「今まで縁のあった奴とか考えてみれば?」



 縁のあった奴。オレはその言葉で急にアイデアが湧いてきた。


「なぁ、ヴィリ。ハーマンは?」

「今はどこにも所属してませんよ。」

「なら、副班長はハーマンがいい。あとオリヴィア。」

「酷なことするねぇ。」

「交渉はオレが全部するからいい!」

「……はぁ。残りは?」


 オレの勢いに負けたのかとりあえずとヴィリが続きを促してくる。


「これ、【無効化】! オレこの人会ったことある。」

「ほぉ、珍しいな。」

「あとは一般人からも選びてぇ。」


「「……は?!」」



 まさかあのリーンハルトが足を引っ張りうる人間を選ぶとは。2人はそう言わんばかりの顔をしていた。


「これ、エリートコースリタイアしたケイ・ロペス。能力【炎】。今後法改正で強制招集が可決される、そん時に巻き込まれないよううちの班で囲い込みたい。あとはこよ【共感】使いの子、エルナ。たぶん会ったことあるんだよな。しっかりした子だった気がする。

 若いのが多いな……、パウル、同世代でそれなりに強い子しらねぇ?」

「えぇ……、ああそういえばチャイナ支部の監査局長、ズーハオに妹がいる。新人戦優勝に貢献してたが。」

「それって確か支部長の娘だよな?」

「でも関係性悪いから引き抜けると思うぞ。」

「なら採用。あとは頭いい奴が欲しいな、オリヴィアの頭脳についていける奴。」


 とりあえず、と大学の成績いい奴に目星をつけオレは勧誘に行くべく立ち上がり退出した。











 オレは早速ハーマンの元に行った。

 刑事課から総務に異動しているのは驚いた。ハーマンはオレの顔を見て驚きはしたもののあっさりと了承してくれた。

 正直1件目から断られると思っていたため拍子抜けだった。


「にしても副班長なんてな。候補者は?」

「これ。若いメンツになりそうだから意思疎通もしやすいハーマンに副班長やってほしくてな。」

「……何だこの奇抜なメンバー。」

「いいだろ?」

「エリートコースにこんな能力の奴がいたなんてな。」


 職業に関しては、オレは無言を貫く。

 伝えたら反対されると思ったからだ。


「ま、集まれば面白いんじゃないか?」


 ハーマンは愉快そうに笑うばかりだったが、少しだけ寂しそうな顔をしていた。煙草の量が増えたなと思った。






 次に向かったのはオリヴィアの元だ。

 彼女はかつての戦争から逃げるように、現在はトーキョーのとある病院で内科医として働いていた。

 こちらもまた断られると思ったがあっさりと了承をもらえた。


「断るかと思った。」

「なら誘わないのが賢い選択だと思うけど。でもどこかで断られないだろうって思っていたんじゃないの?」


 図星であり、オレはグッと口を結ぶ。それを面白そうにオリヴィアは微笑んだ。まるで、かつてのシモンのような笑顔だ。


「……『Dirty』の活動再開、つまりはあの男達に会えるチャンスが巡ってくる。私にとってはこれ以上ない誘いよ。」


 あなたもそう思っているんでしょう、彼女のその問いにオレは答えることができなかった。









 3人目はケイだ。

 と言っても彼は直接会うことが叶わなかった。どうやら元よりトーキョー支部でも法改正が進んだ暁には彼を隊に引き込もうと一部の勧誘員達が目論んでいたらしい。

 オレは直接と思ったが、彼らが声をかけにいくと断られてしまった。その結果、知っての通りのまどろこしい勧誘となるのだが。


 もちろん彼の試合は見に行った。

 センスは抜群、過去の記録を見る限り能力の操作も天才的、エメリッヒに並ぶ何かを感じた。それに、彼の旧人類新人類問わずチームメイトと並ぶ姿勢はなによりも眩しい魅力のように感じた。










 4人目はルイホァ。

 はじめに支部長の元に了承を貰いに行ったが好きにしろとあっさりとした返事をされた。兄に至っては仕事を優先、我関せずという態度であり、ルイホァ本人の人格が心配になった。

 しかし、実際に会えばそれは杞憂だと思い知らされる。



「初めまして! 誘ってもらえて光栄です! 私はソン・ルイホァ。リーンハルトさん、だ、ですよね?」

「あぁ、敬語はいらねーぞ。その方が話しやすいだろ?」

「……いいんですか?」

「もちろん。同じヒラの特務隊員、仲間だろ。」

「仲間……。」


 この時のルイホァの揺れた瞳を見てオレは絶対に引き抜こうと決めた。

 彼女は昔のオレ達とよく似ている。エリートコースという狭い世界の中で、特務隊のことを絶対だと信じ、戦いに理由を求めない。

 それがこれから歩むべき時代にそぐわないであろうことをオレは予感していた。


「ルイホァ、さっそくで悪いんだが頼み事していいか?」

「うん、もちろん!」


 今と変わらない純粋な笑顔に、汚れ切っていないことに安堵する。


「たぶん今回オレが集めるメンバーは未熟な人間が多い。オレも含めてな。」

「リーンハルトも……?」

「ああ、だから隊員同士っつーか、こうもちろん敬う事もいるんだけど友だち、とかこう、同僚じゃなくて仲間って感覚で接してほしいんだ。」


 当時の彼女にはいまいちピンと来なかったらしく首を捻っていたが、元より素直な彼女は頷いた。


「分かった! 頑張る!」

「頑張んなくてもいいんだけどな……。」


 ふんす、と鼻を鳴らす彼女が微笑ましくなり、周りの大人達と同様に彼女の頭を撫でてみる。

 ルイホァは慣れないことにはじめはびくりと肩を揺らしたが次第に笑顔を見せた。存外悪くないリアクションにオレも満たされる感覚がし、これから後輩は撫でていこうと無意識のうちに決意していた。









 そして場所は戻ってトーキョー。

 5人目としてエルナの元を訪れた。

 どうやらオレのことはすっかり忘れているらしく、ちょっとだけ傷ついた。しかしまぁフードも被っており、オレはあの頃かなり尖っていたから仕方ないだろう。


 彼女は昔より幼さがとれ、まさに美人に育っていた。しかし、その瞳はどこか翳りを見せており、オレが説明に行った時も、どこか他人事のように聞いていた。

 まさか声優を目指しているとは思いもよらなかったが、学業や仕事を優先していい旨を伝えると彼女は参加を了承した。むしろ父親の方が動揺している始末だ。



「……どうせ断れないんでしょ。別にいいわよ、この能力、便利だもんね。」

「別にそれだけでお前を呼んだわけじゃ……。」

「じゃあ尚更あたしじゃなくてもいいじゃない! 勝手にしてよ!」


 それだけ言うと彼女は自室に入ってしまった。

 父親は申し訳なさそうに眉を八の字にした。


「すみません……。失礼を。」

「いえ、オレ、いや僕こそ配慮に欠けて申し訳ありません。」

「本当にウチのエルナじゃないとダメなんですか?」

「ハイ。」


 オレの即答に父親は目を丸くした。

 ただ、オレは即答できるほどの確固たる理由があったのだ。


「僕は彼女と初めて会った時、旧人類も新人類も分け隔てなく接することができ、他人の傷を優しく思いやれる彼女は特務隊員にいないタイプの人間で、これから必要になる人間だと思いました。

 彼女のことは僕が守ります。よろしくお願いします。」

「……顔を上げてください。」


 だめか、と半ば諦めながら顔を上げると意外にも父親は笑っていた。


「彼女ももう少しで大人、それにいつかは能力(エンパシー)と向き合わなければならない時が来ます。それを貴方のような大人の隣で迎えられるなら安心です。

 どうか娘をよろしくお願いします、」

「……ッ、はい!」

「それと。」


 それと、と続く言葉にオレは首を傾げる。



「あれほど熱烈な文句は婚前の挨拶にするまでとっておいた方がいい。」

「こっ……!」


 大人の余裕そうな、揶揄う笑みにオレは顔が熱くなるのを感じつつ、逃げるように彼女の家を去った。













 6人目、が実は難航した。

 本人に会いに行こうと思い、大学に足を伸ばしたのだが、そこで候補者の態度を見て幻滅した。確かに能力や頭脳は申し分ないのだが、目の前で転んだ子どもを助けようとして駆け寄った老婆を押しのけて我が道のように公道を歩く。

 遠目で見ていて実に不快だった。


 即候補から外そうと決意すると同時にその2人を助けようとするオレの前に出てきたのがシュウゴだったのだ。



「大丈夫ですか?」

「ごめんなさいね、みっともないとこを……。」

「人助けをしようとしたことがみっともないことなわけないじゃないですか。子どもの前でそんな風に言わないでください。」


 正論すぎる。しかし、女性をあっさり抱き上げると彼は植え込みに座らせた。

 そして、子どもも同様に座らせると、ペンで何かを書きその場から消毒液とガーゼを作り出した。慣れたようにケガを保護する様子にオレは身を隠して見守ってしまった。


「そっちの君は。大丈夫?」

「大丈夫……じゃないい!」

「……何が。」


 子どもが泣いても一切動揺する様子を見せない。不思議そうにする彼に代わり、老婆が代弁をする。


「あそこに引っかかってる風船を追いかけていたみたいです。」

「ああ……あれ。」


 シュウゴは風船の引っかかる枝の真下に立つと、深く屈伸し、高めに跳躍して風船をあっさりととる。


「ほら、もう離さないでね。」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「……。」


 彼はどんな感情なんだろうか。少年は遠くに母親を見つけると手を振りながら走り去ってしまった。ちょうど老婆の方にも旦那らしき人物が戻ってきて2人仲良く帰っていった。

 そちらに一礼して見送ると彼はため息混じりに植え込みに座った。



「なぁ君。さっき手、引っかけたろ。」

「ぅお、」


 気配なく近づいたオレにシュウゴは一瞬驚いたが、普通の表情に変わる。


「見てたんですね。」

「ああ見てた。絆創膏、貼ってやるよ貸してみ。」

「持ってないです。」

「でもさっきお前出して……。」

「オレの能力です。【文字を具現化する】。」


 彼はその場で絆創膏を作り出し、自分で貼ってみせた。案外男らしいなと思うと同時に彼への興味が膨れた。


「なぁ、その能力ってデメリットあんの? あ、オレこういう者、特務隊員。リーンハルトってんだ。」

「……顔明かしていいんですか。」


 気にすんな、というと彼は淡々と続けた。


「【具現化】するものの材料とか構造を知らないと作れません。あとは無機物に限ります。」

「それってお前全部覚えてるってこと? 大変じゃねぇか。」

「客観的に見ればそうかもしれませんが、オレは大概のものを一度で覚えられるので苦だと思ったことはありません。……もう失礼していいですか。」


 オレは咄嗟にシュウゴの手をとった。

 ここで逃すには惜しい人物と思ったからだ。



「なぁ、今オレ特務隊の班員探してんだが……協力してもらえませんか! できることなら何でも応じるから!」

「……はぁ。」



 のんびりとした様子で考えておきます、なんて言った彼に名前さえ聞き忘れていたが、律儀に本部まで訪ねてきてくれたことには感謝しかなかった。もちろん国立図書館の使用許可をもらうという交換条件付きであったが。











 最後はヒロタダだ。

 仕事の都合が合わず書面で参加の了承を貰ったのだ。ちなみに、初めて対面したのは班員が集合したあの時だった。

 いざ対面してみると、エルナと同じで会ったことをすっかり忘れていた。髪の色が違うと言えど気づいてほしいものである。


 彼は、オレの言葉に従って再検査を受け、能力が明らかになっていた。

 それが、【無効化】だった。


 身体能力の差はあると言えど、新人類と旧人類の垣根を限りなく無にしてくれる能力。加えて、そんな能力を持つ奴が、誰にでも手を差し伸べることができる人間性を持ち、法に関連する仕事に就いた。

 この事実がどれだけオレの心を震わせたかなど、誰も分かりようがないだろう。


 本能的にこの戦争は案外すぐ終わるのではないかと思った。予感など易いものではない、もはや確信の域に近いものであった。

 このメンバーなら、この人たちとなら、戦争を終わりにすることができる、そう感じた。

 だからこそ、扉の向こうでポツリと呟かれた言葉を耳にした時、つい勢いよく開いてしまったのだ。



「それは簡単! オレがこのチームならうまくいくって思ったからだ!」



 それからオレ達の班の物語が始まった。

【こぼれ話】


 ケイの勧誘については6、7話をご覧ください。

 法律とはエマージェンシー制度のことであり、緊急事態に限り、どこの部隊にも所属していない、ランクA以上の能力者は、特務隊に強制招集されることが許される制度です。

 他支部でも行われたようですが、揉め事も度々発生したようです。

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