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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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240.追憶 -無効化-

 さて、オレは1年かけて世界を回った。

 バイクの免許を取り、ワープホールはなるべく使用しないで世界を回る。


 世界は想像より広かった。


 エリア:ドイツの都市または田舎、砂漠、熱帯雨林、雪山、過去の遺産と呼ばれる古代都市。

 旅の中で様々な事件にも出会した。ウルツさんからの命令で現地隊員に任せてなるべく関わらないようにと指示された。また、オレのピンク頭はやはり目立つらしく、ウルツさんやヤンに染めるように強く言われたため、瞳と同じ茶色にした。


 まるで戦争なんて無かったかのように、平凡な日常を皆送っている。


 でも、やはり新人類に対する、というか特務隊に対する偏見は様々なものがあった。

 戦争の中で明るみになった隊員達の横暴や一部の旧人類を軽んじるような者、ウルツさんはそれらを厳しく罰し立場に関係なく相応の処分をした。

 それは恐らく内部の者からすれば間違いなく反感を買うが、戦争の功労者となれば話は別らしくAA全体の中で組織の刷新が進められた。

 風の噂では、シノブさんがトーキョー支部に移ったと聞いたから少し驚いた。


 ただ、かつてほどではないが能力に関わる事例や揉め事もある。スポーツや一部制度の旧人類優遇性は変わらないままであるし、反対に新人類が力をひけらかすこともあるらしい。

 オレはこんな世の中で何を目的に特務隊員として生きていけばいいのだろう。案外、能力を行使することなくとも生きるには困らない世の中ではあるなと思った。父親への復讐を諦めてしまえば気楽に生きていけるのか。ため息が漏れる。








 オレは最後にエリア:アメリカに訪れていた。

 ある都市を訪れたのだが、そこは留学生も多く、若者がたくさんいた。若いうちから勉学に励むことはいいことだ。オレが言えたことではないけど。

 ぼんやりとしながら街を歩いているときに、はじめの出会いは起きた。


「ひったくりー!」


 平和な街に似合わない悲鳴。

 オレは咄嗟にその声がした方を見る。

 どうやら老女から、若い男性が鞄を引ったくったらしく相手はバイクに乗っている。


「大丈夫ですか! コラ待てお前!」


 老女の方には青年が助けに入ってくれており、オレは突撃してくる犯人の進路方向に立ち、向き合う。

 能力は制限されているが、一般人に毛が生えた程度なら問題ない。オレが氷を発生させようとした時だった。



「あれ?」


 能力が発揮されない。

 今まで暴走はしたことがあっても発動されないということはなかった。


「オラァ! どけどけぶっ殺すぞ!」

「なんだかわかんねーけど!」


 オレは咄嗟にバイクの車体の上に飛び、ヘルメットをかぶる男を蹴り飛ばし、運転席を代わってやった。男は間抜けな声を出しながら植え込みに放り出され、オレはそのままバイクを制御し停車させる。

 先ほどの不発はなんだったのだろう。見たところ犯人はコントロールウォッチをつけていないため新人類ではなさそうであるが。


 他の目撃者が通報したのか、警察達も慌ただしく登場した。

 オレはバイクにかけられていた鞄を持って老女の元へ向かった。



「怪我はありませんか? これ、鞄です。」

「ありがとう……。財布はいいんだけど夫の形見が入っていてねぇ。世界に一つしかない大切なものなんだ。ありがとうねぇ。」

「……ならよかった。」


 オレはふと老女を支えていた青年と目が合う。

 眼鏡をかけた茶髪の、一見してエリア:ジパング出身の人間と分かる風貌であった。


「凄いですね……身のこなし。」

「本当は能力使おうと思ったんですけどね。そっちが奥さんについていてくれたからオレも飛び出せたんですよ。」


 ありがとう、と互いに礼を言って握手する。

 この時オレはすぐに気がついた。この青年の違和感に。

 だが、彼は自覚していないらしく人懐っこい笑みを浮かべているだけだ。



「なぁアンタって能力を消す能力とか持ってるんすか。」

「へ?」

「すみません、目撃者の方ですね。状況を聞かせてもらえますか!」

「はい! じゃあ友人もいるのでまた。」

「え、あ、あぁ……。」


 間違いない。彼は何らかの、能力を不発にする能力を持っている。


 オレは俄然興味が湧いた。

 久しぶりに取り出した特務隊員証を使い、オレは警察に入った。

 どうやら今回目撃者となった青年は、ヒロタダ・マツモトという、エリア:ジパングからの留学生らしい。能力検査には引っかかっていないが、検査上は新人類、そのため能力不明と記載されている。

 私用の通信機を使い、わざわざヴィリに連絡を取った。



『能力不明と判定されうる能力ですか? まぁ時々いますけど、非常にレアケースですよ。それを調べてって……。』

「オレの能力が消されたんだよ。だから【消失】とか、なんかあるだろ。ピンとくるの。」

『というか、現地にいらっしゃるんですから自分で調べたらどうですか。データはお送りしますが。』


 ヴィリのごもっともな言葉にオレは口を閉ざす。

 しかし、通話口の向こうはどこか愉快そうに頑張ってくださいねと心にもない言葉を放ってきた。


 オレは何故か止まらない探究心に従い、彼の個人情報を聞いて近隣の大学に向かった。どうやらそこは名高いロースクールであり、彼もまた法に携わる仕事をするため日々邁進しているらしかった。


 入口で待っていると彼は友人と楽しそうに出てきた。

 本当は声をかけて能力について問いたかったが、残念ながらこの時のオレにはスムーズに一般人とコミュニケーションをとる能力は備わっておらず、気配を悟らせずに尾けることしかできなかった。

 ヒロタダ、その顔なんだよ。


 そしてその尾行の結果、ヒロタダがかなりお人好しであることと、あまり身体能力は高くないことがわかった。

 困っている人がいればすぐに声をかける。道に迷っている人がいれば調べながら道を伝え、荷物を持つ老人がいれば手伝う。挙げ句の果てに、物探しを頼まれたら友人に置いていかれてても成し遂げる。


 やっていることや基づく信念、手段は異なる。

 だが、オレはその愚直な様はどこかエメリッヒに通ずるものがあるように感じた。たぶん、人と出会い、様々な気持ちを抱くことはあるのだろうが、彼は絶対に根幹を歪めないタイプだと。


 そうこうしている間に1週間が経った。

 もちろん毎日尾けているわけではないが、思った以上に自分が意気地無しだと自覚した。


 もういいや、やめるか、と諦めていたその矢先。


 ヒロタダの大学に爆弾魔が襲来したのだ。

 どうやら犯行グループは14名と小規模、しかし旧人類新人類平等を謳う法を、新人類優先にしろとかつての新人類優位主義組織のようなことを宣う奴らであった。

 そして概要を聞く限りだと彼らは新人類のようだ。


 何故オレが詳しいか。

 この時オレは学生に混じって大学に侵入していたのだ。冷静になれば自分はこの学生達と同世代、髪色も染めていたため、少しばかり小綺麗な恰好にすればほとんど目立たないことに気づいた。

 それをいいことに大学に通ったことのないオレは本来の目的から外れつつ、大学に入ってみたのだ。そこでうっかり事件に遭遇してしまったというわけだ。

 幸いオレは巻き込まれなかったが、ヒロタダ達がちょうど講義を受けていた教室がまるまる人質としてとられたらしい。


 さて、どうしようか。


 さすがに新人類で場慣れしている人間を能力なしで相手取るのは厳しい。しかし、能力の発動をするには特務隊の許可が必要であるし、ウルツさんとの約束上休暇中は申請を行わないと決めていた。

 だから、能力を使うことは特務隊に復帰すると同等の意味を成すのだ。


 オレとしては特務隊になぜいるのか、その理由を見つけないうちには戻りたく無かった。

 今思えば、人の命と天秤にかけて何つまらないことをと言えるのだが当時のオレはそんな考えに至らなかった。



「悪いけど今回は現地隊員に任せて……。」



 1人なら易く脱出できるだろう。

 オレが動き出そうとした時だった。男の1人が指から何かを発射したのだ。


「アイツらオレらの要求飲む気ねぇじゃねぇか! これだけいるんだ、何人か見せしめでやってもいいんじゃねぇか!」

「……それもそうだな。」


 それもそうだなじゃねぇよ。

 オレが再び振り向いた時には、同じ技が生徒に向かって発射されていた。後から知った情報ではあるが、その男の能力は【爪】、弾丸のように発射したり伸ばすことができるそうだ。


 ただ、その【爪】が誰かを傷つけることはなかった。

 生徒の前に手を目一杯広げて立ち塞がったのはヒロタダだった。

 【爪】はただの爪として床に落ちた。


 オレはこの時、いかに自分が阿呆な考えに囚われていたかを思い知らされた。オレは自分のしたいことに理由をつけ、逃げる道を作ろうとしていた。途中で放棄してしまってもいいように。


 オレは何のために特務隊に入ったんだ。

 オレみたいに傷つく人を出さないように、クソ親父の愚行を止めるために強くなったのに。


 オレは口角を上げながら顔が割れないようアイパッチをつけ、通信機を繋いだ。



「こちらリーンハルト・ワイアット、能力の解放を頼む。」












 中では思わぬ能力の発動に、本人を含め全員が動揺していた。


「大丈夫ですか?!」

「大丈夫……、だけど!」


 ヒロタダも夢中だったのか肩で息をして振り返る。

 しかしそんなあからさまな隙を敵が見逃すわけなかった。


「なんだコイツの能力?!」

「気味が悪い! 銃で撃……、」



「おせぇよ。」



 ただ、オレからすればどちらも遅すぎた。

 一瞬で前2人の間合いに詰め寄り、回し蹴りで2人をノックダウンさせる。


「なんだコイツ、撃て!」

「【氷壁】。」


 こちら側を覆うように氷の壁を張り、攻撃を防ぐ。そこから床を這わせて8人を一気に拘束した。

 幸い逃げた4人も急襲は予想外だったらしい。オレは最も近くにきた巨大な男を投げ飛ばし、そのまま氷像とする。撃たれた銃弾は全て氷で防ぎ、残り3人の頭に小さな水球を当てる。

 もちろん息ができない3人はパニック状態、その間に頸部を叩き気絶させる。

 以上、制圧完了だ。



「こちらリーンハルト。制圧完了だ。」

「お、お、すげぇえ!」



 1人が歓声をあげると周りの学生達も安堵と興奮で声を上げる。

 オレの連絡ともに現地隊員が突入してきた。戦争の立役者がなんでこんなところにと小声で話されたが、聞こえないふりをしてオレはヒロタダの元に寄った。


「た、助けていただきありがとうございました。」

「どういたしまして。」

「強いんですね。」

「そりゃ特務隊員だしな。」


 先日あったことを覚えていないのか。

 ちなみにこの時彼は眼鏡が割れておりどうやらオレの顔を判別できていないらしかった。今思えば納得できるすっとぼけ具合だったが。


「つーか、何でお前は弱いくせに飛び出したの。」

「弱……、いやその通りなんですけど。でも、この前ひったくりを捕まえた親切な人が、僕の能力を、【能力を消す】って言ってくれたんです。」

「一度きり会った人の言葉を信じたわけ? 警戒心なさすぎじゃないか?」


「それでも! 僕の能力なら守れるかもって思ったんです!」



 信じてもらえる、このことがどれだけオレを高揚させたか。彼は知らないんだろう。

 オレは口角を上げると立ちながらヒロタダに言った。


「お前、とりあえず地元に戻ったら能力の精査してもらった方がいい。それに、こうやって人前に飛び出すならもう少し鍛えとけ。弱すぎる。」

「……ッ、言われなくても!」


 背後で、親切な人だと思ったのに! と文句を叫ぶ声が聞こえたがこの時のオレはひどく気分が良く、そんな言葉さえも愉快な文句にしか聞こえなかった。


 それからオレはすぐにベルリン支部に戻り、短い期間ではあったが副支部長を務めることとなるのだ。

【こぼれ話】


 リーンハルトが初恋(?)を経験するのはこの事件後、ワープホールステーションがあるワシントン支部への道中のことです。

 詳しくは126話をご覧ください。

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