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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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239.追憶 -悲しかっただけ-

 オレは何となく街を歩く。

 目立つピンク色の髪が今ほど憎いことはあるか。隠すようにフードを深く被り込む。もういっそ丸刈りにしちまおうかな、なんて柄にもないことを考える。


 この平和な街を見ていると本当に戦争など起きていたのかと疑いたくなってしまう。オレ達は必死に戦っても大切なものを失った。かたやこちらでは戦争などなかったことのように日常が流れている。

 果たしてオレ達が命を賭して守ったものは何だったのだろう、そう思ってしまう。




 何も考えず歩いていると日は傾き始めていた。いつの間にか雨は止んでいたが、オレはフードを被ったままでいた。

 気づけば人気のない場所に来ていた。

 そろそろ一度支部に戻らねばと思うと、どこからか泣き声と怒鳴り声が聞こえる。どうしたのだろう、河川敷にかかる高架下に目線を送る。

 戦争で過敏になってしまった人の気配に、気まぐれに足を向けた。


 すると女の子が1人、複数人の同じく女の子達に囲まれて勇んでいた。背後には倒れた女の子が1人。

 いわゆるイジメ、というやつだろうか。オレはこの時初めて見たため状況が飲み込めず無言で見守っていた。


「アンタら生意気なんだよ! 新人類だからって調子に乗りやがって!」

「乗ってないわよ! 大体この子だって他の誰よりも努力して学年トップにいるの! 自分がはみ出したのが気に食わないからって暴力に頼ってんじゃないわよ!」


 話からするに囲んでいる方は旧人類、倒れている方は新人類らしい。確かに反撃をすれば能力を使ったなどと言われれば、新人類の子の方が不利になる。

 くだらないことだとオレはその場を去るか悩んだ。



「例えアンタが好き放題言ったってね、あたしは絶対やり返さないで立つわ! 残念だけど身体は丈夫だからね! それにアンタらなんかよりあたしの方がよっぽど大人に信用されるんだから!」

「うっさいアンタの気味の悪い能力なんて暴発したらみんな嫌いになるわよ! 大体、新人類で認められるなんてありえな……、」


「ありえないのはアンタらよ! 同じ人間なんだから能力の有無で区別するなんて間違ってる! この子だって、アンタ達だって傷つくのは一緒なんだから!」



 女の子の言葉に、衝撃を受けた。

 それと、自分の感情にしっくりくる言葉が降ってきたような感覚が訪れた。



「そっか……、オレは。」


 仲間を喪って、父親を倒す責任を果たせなくて、母親に忘れられて、傷ついていた、悲しかっただけなのかと。

 ふと顔を上げると、旧人類らしき女の子がカバンを振り上げているのが見えた。


「言えないくらいの顔にしてやる!」

「……ッ、」



 ここからは身体が勝手に動いていた。

 オレは2人の間に身を滑らせて、女の子が振りかざした鞄を振り払った。勢いが強すぎたらしく女の子は尻餅をついていた。


「っと、悪い。強すぎた。」

「何なんだよアンタ!」

「というかいつの間に……。」


 その場にいた女の子達はどちらも目を丸くして立ち尽くしていた。

 しかし、オレが無防備にぶら下げていた特務隊員証を見ると、まずいと思ったようでいじめていた側の女の子達は顔色を悪くした。


「コイツ、ヤバいやつだよ! 行こう!」

「エルナ、覚えておきなさいよ!」

「いーっ、アンタ達のことなんか忘れてやるわよ!」

「挑発すんなよ。」


 殴られかけたというのに人の背中から悪態つく彼女はなかなかの度胸の持ち主らしい。オレの言葉など気にせず彼女は倒れていた女の子に手を貸す。



「大丈夫?」

「大丈夫、エルナちゃんも、あなたもありがとうございます。」

「おう、大した怪我じゃなさそうでよかった。交番まで送るよ。」


 オレはその女の子を背負うと交番まで行く。

 警察がその2人の両親に連絡をしてくれたらしく、怪我をした女の子は応急処置のため奥の部屋に連れて行かれた。

 当時13歳のエルナはオレにコーヒーを渡しながら隣にドンと座った。



「その、ありがと。助かったわ。名前は?」

「あー、その辺のしがない隊員だから気にしなくていいよ。」

「そ。」


 本当に気にしないんかい、と久しぶりに流れる穏やかな時間にオレはつい笑みを漏らす。

 こんなやりとりをしたのはいつぶりだろう、そんな風に思えるくらいには、オレは日常を忘れていたらしい。


「答えたくなかったらいいんだが、お前も。」

「エルナ。」

「……エルナも能力持ってんのか。」

「気持ち悪い能力よ。相手の気持ちを読んじゃうやつ。ほんっと、新人類とか、旧人類とか、くだらない。あたし達は同じ人間なのに。」


 そうだ、オレ達は同じ人間なんだ。

 なのにどうしてあんな戦争が起きてしまうのだろう。



「もう1ついいか?」

「何よ。」

「エルナは落ち込んだ時に何をする?」

「……趣味とかないわけ。」


 残念ながらオレはそんなものを持ち合わせていない。エルナは不審そうにオレを見た。


「ねぇな。」

「あたしはカラオケ行ったり買い物したり。テレビも見るわ。旅行とかも楽しいし。あとはね、思い切り泣く!」

「泣く?」

「そ、言いたいこと口に出して言うとすっきりするのよ。」


 口に出す、オレはあまりそれをしなくなっていたかもしれないと思うと同時に腹の奥に何やら今まで感じなかったものを感じた。

 エルナはそれをどう思ったのか、小首を傾げながら尋ねてきた。


「おすすめのドラマ教えてあげる?」

「いや、オレよく感性ずれてるって言われるから遠慮しとく。」

「……そんな感じするわ。ま、でも教えてあげるわよ。」


 失礼なやつだな、などと当時滅多に聞くことのなかった軽口を叩く。

 しばらくすると2人の親がそれぞれ訪れたらしく、オレは2人を見送った。協力してもらった警察に礼を言うと、彼らはオレに「戦争後にも関わらずありがとうございます。」と礼を述べた。














 オレはその足でトーキョー支部に戻り、簡単に挨拶をするとそのままベルリン支部に戻った。ワープホールステーションからまっすぐに共同墓地へ。

 今、吐露したい気持ちがやっとわかった。


 エメリッヒが眠る区画に到着する。戦争以来の猛ダッシュにさすがに息が上がる。



 なぁ、エメリッヒ。オレはチビの時からずっと独りだった。

 今となっては、両親に愛されていたかも分からない。救っても何も返してもらえない、倒そうとしても何も奪うことができない、情けないガキだ。

 でも、お前が生まれてくれてありがとう、なんて言うから生きる意味ができた。

 お前の横で、相棒として、親友として、戦う。オレはそれが何より幸せだったし、誇らしいと思う。


 でも、本当はお前と飯食って、勉強して、訓練して、ただ笑い合って。いつかお互いに特務隊以外の場所を見つけて、家族ができて、引退して、老衰していく。

 そんな未来でも友人として、お前と笑い合うことが何よりの望みだったんだ。


 やっぱりオレはこの戦争にも、今自分が特務隊にいる意味も見出せなくなっている。復讐と言ってしまえばそうだけど、それだけじゃもうダメになってるんだ。



「……エメリッヒ、」


 お前との未来が欲しかったんだよ、そのために戦ってたんだ。


「うぁ……あ……。」


 自然と、涙は出ていた。

 苦しい、息をすることさえも。

 でも不思議と胸の内はすっきりとしていた。















「えっ、仕事を一時休む?」

「おお。」

「というか、何でアンタ目がそんなに腫れてんのよ?」

「いや、たまたま会った女の子に聞いたドラマが思いの外泣けてな。」

「鬼のリーンハルトが泣くなんてどんなドラマだよ。」


 久しぶりに会ったパウルとヤンは、何てことのない会話を笑顔でこなす。オレも泣いてから少しすっきりしていた。ウルツさんも昔みたいな身内に向けるような表情をしていたが、一方でモニカの表情は読めなかった。



「それで、今後の方針は決まったな。」

「ああ、オレは半年教育局に出向、エリートコース改訂が済んだらパリ支部の副支部長だぜ〜。」

「アタシは兼務にかかる法律の整備に携わった後はカイロ支部の副支部長になるわよん。」

「私もワシントン支部の副支部長に就任するわ。」


「そして私はAA特務隊副局長に就任する。この戦争を真の意味で終わらせるために。」


 4人は黙り込み、ウルツさんもまた頷き合う。


「で、リーンハルト、お前は?」

「……オレはベルリン支部の副支部長の要請が出てるけど断った。そんで1年、休む。」


 パウルの問いにオレは答える。


「オレは、世間を知らなすぎるんだなって最近思った。世界が狭すぎんだよ。だから、オレがこの戦争で何を守れたのか、何を得たのか、これから何を守りたいのか何をしたいのか。それを考えてから先のことを考える。」

「……ま、常識知らずのアンタにはいい案じゃないの?」

「ヤン!」


 オレの非難を彼は鼻で笑う。

 ただ、この時ウルツさんがどこか寂しそうにしていたことにはオレは気づくことはなかった。

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