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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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238.追憶 -戦いは終わらない-

残酷な描写があります。ご注意ください。

「クソ、なぜだ……!」

「当たりませんねぇ。」


 ウルツは攻撃を放っていたが、一向に男に当たる気配はなかった。

 『Dirty』の親玉と名乗った目の前の男を仕留めればこの戦争に終止符を打てるというのに。

 歯痒い思いからか苛立ち、挙動が徐々に大きくなっていく。


「貴方は歳を取りすぎたのです、あと少し若ければこのギミックの気づきも、折れそうな心も、能力のキレも、理想だったでしょうにね。

 さて、今度は私の番です。」


 不意に目の前から見えない波が放たれ、ウルツの身体を打ち付ける。一体何が起きたのかウルツには理解できなかった。



「トドメーー!」

「させるかよ!」



 仕留めようとかけ出した男の真上に振ってきたのは無数の針の雨、そして動きを止めた場所に落ちてきた溶解液の塊。援軍かと気づいた時にはすでに横にシノブがおり、頭を思い切り殴打されていた。


「やりましたか?!」

「……いや、当たった実感がない、」


 パウルの問いに対して、シノブは己の拳の感覚が妙だったらしく不思議そうに首を傾げた。その表情と、吹き飛ばされたはずの敵が何事もなかったかのように立つ姿にパウルは一気に警戒する。


 視線の先には揺れている影が映る。シノブは怪訝な表情を浮かべ、その男を見つめる。

 余裕そうに微笑む男は、一瞬だけ耳に手を当てた。おそらく通信機から何らかの連絡があったのだろう。彼はふっと歪な笑みを見せて、特務隊員達に言い放った。



「今回のゲームは君たちの勝ちだ。」

「は?」



 シノブから漏れた低い声にパウルはつい身を竦める。イチヨウやウルツさえも目の前の男の言葉の意図が分からず警戒を露わにした。

 しかし、男は不敵に笑うばかりだ。


「私の目的を果たすための手段は手に入れた。だが、駒を失いすぎたのも事実。期間を設けよう。」

「何を言っている。君はここで死ぬ。」


 シノブが拳を振るった。しかし、その姿は煙のように立ち消えた。シノブはその姿が仮初の姿であると完全に割り切ったらしくため息をついた。

 わずかに残った手が、シノブを真っ直ぐに指した。



「次会う時が、お前の死ぬ時だ。楽しみにしておくといい。」



 シノブは静かにその残渣を見つめた。

 静かに、戦争は第一幕を閉じた。



















 最後の襲撃の被害は甚大であった。

 相手幹部の討伐数も過去最高であったが、特務隊員をはじめとした犠牲者数も最大となった。

 シモンの残したレシピのおかげで病は収束し、発症しても治るものとして恐怖の対象から除外された。


 オレがあの現場から引き上げた後、記憶が朧げだった。


 エメリッヒは二度と目を開けることはなかった。しかも、シモンがアドルフに殺された。ゾエもフィリップも亡くなった。

 あの村で出会った人たちも多くが犠牲になった。もしオレがあの場に残れば助かった可能性のある人たちもいた。でも、オレはエメリッヒと復讐を選んだ。それも果たせなかった。

 あの村で出会った母さんは、確かにオレの母さんだった。

 でも、オレのことは覚えていなかった。彼女もまた病に冒されており、後遺症の影響で記憶障害を呈していたらしい。


 特務隊の人には、この後彼女をどうするか聞かれた。育児放棄した彼女の面倒を見る必要はないと言われたが、オレは幸い金には困っていなかったため、静かな療養施設に入れてほしいと頼んだ。

 せめて彼女が、しっかり自分の意志で自分の残りの人生をどのように生きるか選べるようにと願った。


 ウルツ班もさすがにもう心が保たなかった。

 パウルはフィリップが亡くなったショックが強かったのか、しばらく前線には出たくないと申し出たそうだ。ヤンも元より所属していた会社に一度戻ると報告があったそうだ。

 オリヴィアはワーカーホリックでも引くような働きぶりで薬剤の研究に没頭していた。彼女は合同葬儀の時に一度だけ泣いたが、それからは一切涙を見せなかった。


 オレは葬儀が終わってもその共同墓地に通い続けた。



「なぁ、エメリッヒよ。」



 オレはどうすればいいんだよ。

 近くにいすぎて気づかなかったけど、太陽がなければ朝は来ない。

 涙は、出なかった。

 オレは今までどんな気持ちで、今どんな感情を抱いているのか、分からなかった。


「リーンハルトさん。」

「……モニカ。」


 目元はパンパンに腫れ、身体中に怪我を負っている彼女は窶れていた。

 そのままお返しします、と言われたあたりオレは口にしていたらしい。ハッとして口を閉ざしたが、モニカは弱々しく笑った。


「リーンハルトさん、ご飯は食べていますか?」

「……。」

「食べていませんね。なら、少し出ませんか?」

「……どこに。」

「エリア:ジパングです。」


 ジパング? なぜ?

 モニカはオレが顔を上げたことに満足したらしい。



「ゾエさんを家に帰すんです。」

「……はぁ。」


 気の抜けたオレの返事を聞いて彼女は静かに説明する。


「彼女はジパングに、フェベ・ケーレマンスとドロシー・ウィットルという家族がいます。そこに帰してあげるんです。

 彼女がかつて教えてくれたんですよ。自慢の家族がいると。2人もまた特務隊員だそうで、先のジパングでの戦いでも活躍されたそうです。ウルツさんと……行くんですが2人きりでも味気ないので。」

「……オレはお前を女としては見ねーぞ。」


 モニカはわずかに目を見開いた。

 パウルへの義理もあったが、それ以前に彼女の、ともに戦った仲間のみっともない荒れ方など見たくなかったのだ。



「……そうですね。御免なさい。でも、一緒に来てほしいのは間違いありませんよ。」

「分かった。」


 オレは了承した。

 ハーマンやかつての仲間はどう過ごしているだろうか。ウルツ班が結成してから連絡をとっていなかったからオレは少しだけ懐かしい気持ちになり、重かった腰を上げることができた。














 その日は確か雨の降る日だった。


 トーキョー支部での戦禍の有り様を聞いた。

 比較的平和なエリアでもそこまでの犠牲が出たのか。オレ達を招いてくれたのはヴィリだった。

 彼から驚くべきことを聞いた。


 オレがかつて班長としてともに戦った人は、監査局長となっており、ヴィリとともに任務にあたり殉職した。すでに副局長となっていた彼は引き継ぎなしに監査局長となるらしい。

 疲労しきった彼はオレ達の近況も聞いていたのか、年に似つかわぬ慮るような言葉をかけてくれた。


「なぁ、ハーマンって知ってる?」

「ハーマンさん? もしかして警察の方から参加している人ですか?」

「そうそう。」


「あの人は……。」

「え、生きてはいるよな?」

「それはピンピンしてますよ。でも……。」


 そこでオレは初めてハーマンが友人を亡くしたことを知った。

 本当は、この時ハーマンに会いたいと思っていた。結婚もしたし、近いうちに子どももって話をしていたから。でも、オレも友人を亡くす思いを今ここで味わっておりかける言葉を持ち合わせていなかったため、会う勇気はなかった。




 オレ達はその足でフェベの家に向かった。

 身体は病に冒された経緯もあるため返すことはできないが、彼女の部屋にあった遺品を持参することとなったのだ。


「……皆さんも傷癒えぬ中、わざわざご足労いただきありがとうございました。」

「部下を、いえ、娘さんを守れず申し訳ありませんでした。ご冥福をお祈り申し上げます。」


 最後に彼女が遺した手紙と、覚悟を決めた時に記した遺言書だ。

 フェベは疑いと、後悔と、感謝と。複雑な感情だった。分からなくはない、でも理解はしたくない感情だ。

 オレはフェベに声をかけることができないまま、その場を離れることしかできなかった。


 暫く無言で歩き続けると、不意にウルツさんが振り返る。彼もまた疲労の色が滲み出ている。


「リーンハルト、モニカ、お前らはどうする? このまま休みに入ってもらってもいい。」

「私は……戻ります。」

「オレも、」


 不意にオレは足を止めた。

 折れた心が、何かを感じたのだ。



「ちょっと、後から戻ります。」

「ん、おお?」



 ウルツさんはオレを止める余裕はないらしく、ふらりと立ち去ることを諌められることはなかった。


【こぼれ話】


 後半の話は一部番外編:フェベとドロシーで語られています。

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