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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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237.追憶 -サヨナラ-

残酷な描写および戦闘描写があります。

苦手な方はご注意ください。

 オレが北の森に到着すると地面から妙な揺れを感じた。地下にある水脈が先ほどから進路を変えているのだ。恐らく2人の戦闘の影響だろう、オレは木の上を器用に移動していた。


 間に合ってくれ。

 そう願いながら走るオレの耳に何か声が聞こえた。それと同時に地面から轟音が響く。タバートの攻撃と思われる血の枝が一瞬下を通過したが、すぐさまエメリッヒの【樹木化】が被害拡大を食い止めた。


 さすがだと思いつつも、その戦闘の中心部を見るとあろうことが、タバートの刃がエメリッヒの真芯を捉えようとしているではないか。


「【水弾】!」


 僅かに遅れたが、タバートの攻撃は少しだけずれた。エメリッヒは避け切れないにしろ、ほんの少しだけ急所から攻撃を避けたが、肩口を広く切り裂かれて鮮血を噴き出した。


「エメリッヒ!」

「よく来たなぁ、愚息よ!」



 嬉々としてオレを見つめた父親に反吐が出る。

 目の前の親友は僅かに口角を上げるとオレに注意が向いたタバートの体に触れる。タバートはその手を掴むと自らは【樹木化】しつつも、エメリッヒの腕の血液に何らかの細工をしたようで彼の腕は爆ぜた。


「……ッあぁ!」

「クソガキめが、まだ戦う気があんのかよ!」

「【水原氷化】!」


 オレの攻撃を器用に避けると、タバートは木にぶら下がりながらエメリッヒの前に立つオレを見下ろした。


「ちーっとばかし遅かったなぁ。もうそのガキは手遅れだ。オレが【死呪】を与えてやった。あと数分の命……いや、その前に失血死かな。」

「クソ! クソ!」

「落ち着けリーン!」


 何でお前がそんなことを言えるんだ。

 辛うじて傷口を手で抑えるエメリッヒの顔色はみるみる悪くなっていく。今すぐにでも処置をしないと死んでしまう。立っていることすらできない、意識を保つのが精一杯のはずなのに。


「オレのことはいいから! 絶対に攻撃を喰らうなよ! それに【死呪】はアイツの進化した能力、何らかの副作用が出てるはずだ!」

「つっても、」


 確かにどことなく彼も様子がおかしい。流涎しており、手が震えているような気もする。しかしいつでも戦える姿勢は崩さない。

 オレがどうにか冷静になろうと努めていた時だった。その様子を見たタバートがつまらなそうに息を吐いた。





「お前の親友も、母さんも、犬死だな。」

「は?」



 背後で必死にオレの名を呼ぶ声が一瞬で聞こえなくなった。


「お前はいつまでそのままでいる? お前が弱いから、皆死んでいく。なぁ、本能に任せて殺し合おうぜ。そのためだけに、その愉悦を味わうためにオレはお前の全てを奪ってきたんだ。」

「……言われなくても。」


 この時点でオレは何も覚えていなかった。

 ただ心身ともに冷気を纏っていて、目の前の男を討つことしか考えられなくて。

 オレは地面を蹴った。この時自分の蹴った衝撃で足の骨が折れたらしいがそれに気づいたのは大分後の話だ。


「すばら……ぐぁ、」


 賛美の言葉など口にさせない。

 オレはエメリッヒをも上回る速度でタバートに拳を入れる。彼が操りオレを刺そうとした血液は一瞬でただの水と化し、氷となり、タバートを蝕もうとする。

 周辺には冷気が漂い、木々を枯らしていく。



「ぐああああ!」


 オレは意識が無い中でもエメリッヒの悲鳴が聞こえた方に攻撃を放った。今、冷静に思い返すとあの時彼の後ろに立っていた何者かが、エメリッヒから腰椎穿刺で脳脊髄液を回収していたのかもしれない。

 オレは、無意識のうちにエメリッヒに当たらないよう配慮しつつもその男が視認できないまま攻撃を放った。


「すげぇな……。」

「タバートさん、目的のものは手に入れました。ここは逃げましょう。貴方、『新人類の先』に到達したのが嬉しくて【死呪】をばら撒きまくったんでしょう。」


 口調的に恐らくこれはアマーリだろう。

 ヨコハマの時からであるが、彼は意外とアマーリの指示には素直に従っていた。チッと舌打ちをしたが、全身の凍傷と副作用、そして貧血徴候を感じていたらしいタバートは頷いた。


「あのクソガキとは全力の時にやりてぇからな。楽しみだぜ。」

「呑気なこと言わないでください。」


 それだけを言うと、2人はワープホールに潜った。

 突如標的を見失ったオレは氷の柱を生み出すと森の外まで一望できる高さまで競り上がった。この時のオレは森の外に見える生きている人の気配、全てを標的に【氷柱】を向けた。



「【氷柱豪雨】。」



 それだけを呟くと一気に氷の雨を降らせた。

 この時のオレはヨコハマの時と同じように何かを奪って満たされたかったのだ。失ったものを埋めるために。

 だから敵味方なんて判別できなかった。


 でも、不幸中の幸いは、強い味方がいたことだと思う。


「【無限雷槍】!」


 応援部隊に降り注いだ殺意(つらら)はモニカが全て落とした。

 同時にオレの足場だった柱が崩れる。それを実行したのはオリヴィアの怪力だった。


 オレは器用に身を翻して着地した。柱が崩れた轟音に紛れて誰も気づかなかったが、オレの足は悲鳴をあげていた。

 オレを見たオリヴィアは小さく悲鳴をあげ、そしてともに同行していたニヨウが身構えた。

 この時のオレは全身に氷を纏っており、とてもでは無いが人間に見えなかったそうだ。この時腕は広範に凍傷を負っており、その傷は今でも薄く残っているほどである。




 満たされたい、奪いたい。

 オレの思考はその2つの感情に支配された闇でしかなかった。




「コロ……ス……!」

「リーン!」


 不意に暗い世界に鋭い光が差し込んだ感覚だった。

 次の瞬間、冷たい体に触れる何か熱いものの存在を感じた。急に視界が開け、目の前には血だらけのエメリッヒがいることに気づいた。


「……ッ、エメリッヒ!」

「……良かった、リーン。殺されっか、と。」

「エメリッヒ、エメリッヒ?! 嫌だ、死ぬな!」


 オレは崩れ落ちるエメリッヒを受け止める。

 オリヴィアも駆け寄り、エメリッヒの傷口を見るがほんの一瞬、目を見開いた。残念ながら死に聡いオレは、エメリッヒの命がすでに尽きかけていることをその反応で理解した。


 あの時無理にでも一緒に行動すると言っていれば。

 村の探索を少しだけ早く切り上げていれば。


 どこだ、どこで間違ってしまったんだ。


「エメリッヒ、エメリッヒ……。嫌だ、オレを1人にしないで。」

「……バカかよ。お前は1人じゃねーし。」

「嫌だ、家族も、お前のいない世界を守るなんて、生きていくなんてオレはしたくない。」


 オレはエメリッヒがいなくならないように泣きじゃくりながら彼を抱きしめる。

 何で死の間際にも関わらず彼は笑うのか。


「お前はさ、今までサイッコーに不幸だったから、もうちょっと、あとほんのちょっと我慢したらサイッコーに幸せになれる。お前は仲間に恵まれる天才だとオレは思う。」

「何馬鹿なこと言ってんだ、何で、」

「……傷口を治したのに脈が、」


 オリヴィアも動揺を見せる。ニヨウもまたしゃがみ込むと目を細めた。


「たぶんこのほっぺの紋様のせいだねー。きっとも、」


 オリヴィアが咄嗟にニヨウの口を塞ぎ、オレ達から距離を取る。きっこ心無い言葉を言い放とうとしたのだろうが、オレにはどうせ聞こえなかっただろう。

 そこへ入れ違いのように、消耗し切ったモニカを背負うヤンがやってきて目の前の光景に顔を青くした。


「エメリッヒまで。」

「エメリッヒさん……。」


「あー、誰だ。ごめんもう見えないや。」


 恐らく視覚も聴覚もすでに奪われていたのだろう。エメリッヒの焦点は合わない。


「リーン。」

「もういい、喋んな!」

「喋らせろバカ。リーン、生まれてきてくれてありがとう。お前の腕の中で死ねて、オレは結構本望だから。……あとよろしく。」

「バカ、オレのせいじゃねぇか。オレのせいで……。」


 懺悔をするオレの言葉はもうエメリッヒには届いていなかった。目の前の太陽は失われ、ここから長い夜が始まるのだ。

【こぼれ話】


 エメリッヒは覚悟は決まっていましたが決して死が怖くなかったわけではありません。

 セルゲイの番外編でも語られましたが、彼はリーンハルトがいたからこそ、最期まで戦い抜き死をあっさりと受け入れられたのです。

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