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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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236.追憶 -呪いの花-

 ここからリーンハルトの一人称に戻ります。

 残酷な描写が続きます。ご注意ください。

 時間は遡って数時間。

 オレとエメリッヒもまたシモンに言われた地点に向かっていた。


「シモン、大丈夫かね。なんか通信機切れたけど。」

「ヤバくてもオリヴィアさんいるから大丈夫っしょ。あの人も弱くはないし。」

「まぁそうだけど……嫌な予感すんだよな。」


 オレが難しい顔をしながら呟く。ちなみにエメリッヒもこういう時のオレの勘が当たることはよく理解していたが、自分たちのやるべきことはそこにはないため余計なことは言わなかった。




 2人は指示された地点にたどり着く。

 そこはとある小さな拠点。

 前線の近くではあり物資供給の際には重要な役割を担う。だが、どうだ。この現状が重要な役割を果たせると思うだろうか。


「何だこれ、ひでぇ惨状だな。」

「……。」



 幼い頃に見たことがある惨状。

 顔を顰めるエメリッヒの目に映るのは血の海に沈んだ隊員と支援員達。傷には何やら花の紋様が刻まれている。

 エメリッヒは何だろうと覗き込み、先ほどから一切口を開かないオレに声をかけた。


「なぁ、この紋様って……。」

「タバートだ。」

「え?」


 昔聞いたことのある名にエメリッヒは怪訝な表情をする。写真でしか見せたことはないが、元々は特務隊員であったオレの父親の名である。

 エメリッヒは元よりオレの過去について事実は伝えたが、オレの主観的な情報に関しては興味がなかったため聞いてくることはなかった。


 だが、今目の前のオレの様子や、かつての自身の生に疑いさえ抱いていたことから察するにそれなりに最低の人物であることは、エメリッヒでも容易に予想できたらしい。


「根拠。」

「オレの村を壊した時と同じ。明らかな失血死。」

「じゃあこのお花マークは?」

「お花……。」


 今思えばこんな深刻な面でお花と呟いているあたりなかなかに滑稽な状況であるが揶揄う余裕も2人にはなかった。


「必ず傷痕に残ってる。何かの技?」

「かもしれねぇ。ただ、今までアイツが関わってきた事件見返してもそんな記載ないんだよな。」


「……なら、オレと同じ『進化』だったりして。」



 エメリッヒ同様に何らかの特殊な技を持っている。

 あり得ない話ではない。残念なことにあの男はエメリッヒ同様に天才型の人間だ。オレは思考を巡らせる。


 自分で振っておいてなんだがこの友人を余計な思考の海に放り込んでしまったとエメリッヒは後悔したようだ。このまま時間を無駄にすまいと、彼は腰を上げる。報告を済ませるとオレに声をかけた。


「とりあえずここにいても無駄。リーンは近隣の村に、オレは身を隠しやすそうな北の森に向かう。」

「2人組、外して大丈夫か?」

「そのタバートっての強いんだろ? ならどっちかは奇襲をする方がいい。それにオレ達なら単発でもやれる。それよりか万一村が急襲されてたら警護と避難も必要だ。」

「……そう、だな。」



 オレが別の判断をしていたならここで何か運命は変わったのだろうか。今考えるとそんなことが浮かぶ。

 エメリッヒはオレが提案を了承したことに満足げに頷くといつもと変わりない笑顔で頷いた。


「じゃ、また後でな。」

「おう。」


 互いに救急セットを補給して目的地に向かった。



 間も無くオレは近隣の村に着いた。

 予想通り、そこはすでに襲撃を受けており、死の臭いがそこらじゅうに充満していた。村を歩いていると、オレはふと人の気配に気づき、ある住宅の中を覗いた。


「誰かいるか?」

「うう……助け、」


 そこには呻く人々がいた。

 何人かは自らの足で集まってきたのだろう、比較的軽傷の者から先程見た花の紋様を刻んだ者、すでに息絶え絶えの者など多くの人間がいた。


「大丈夫か、オレは特務隊員だ。ほかに生き残りは?」

「遅い……。もう、殆どいないんだ。」

「……すまねぇ。」


 動ける者に状況を聞くとやはり血を操る男の襲撃にあったらしい。オレは謝りながらも向かっている小隊に村のある地点に来るように声をかける。物資を渡しながら状況を確認しようと辺りを見渡しながら会話を続けた。


「軽傷12名、重傷約40名、うち感染らしき者も数名、薬はオレが拠点から持参し……。」



 オレは目を疑った。記憶より老けているが、懐かしい見覚えのある白髪を携えた美しい女性。

 なんでここに、なんでここにいるんだよ。

 ハッ、と息が乱れる。


「母さん……。なんで、ここに。」

「……あなた。」



 誰?



 オレは背後から頭を殴られた気分であった。

 別人なのか。でも、オレの中の血は間違いなく目の前の女性が母親だと叫んでいる。


「あの、隊員さん。手当手伝ってもらっても……?」

「あ、はい。」


 汗を拭いながら頷くと、それと同時に通信機が鳴る。こんな状況でエメリッヒも遭遇した。

 頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 母さんに声をかける? 治療を手伝う? 今すぐエメリッヒを助けに行く? オレは何をすればいい?


 オレは特務隊員だ。


「すんません、後から応援部隊来ますんで!」

「え、あ、ちょっと!」


 オレは走り出した。

 何をすればいいかは分からないけど、オレができることは戦うことだから。











 時は少し遡って、エメリッヒは北の森にいた。

 地面には赤い斑点、血の跡が残っていた。


「ビーンゴ。」


 にぃ、とエメリッヒは口角を上げる。地面に手を当てて位置を確認する。

 近いことをすぐに感知し、エメリッヒは通信機で連絡を入れると同時に走り出した。同時に地面の下に蠢く敵の殺意もエメリッヒは容易に感じ取っていた。

 剛速でひらけた位置に行くとそこには赤い髪の男が不気味な笑顔を浮かべて待っていた。



「【生命の血樹】。」

「【黒曜石・穿天】。」


 加えて、エメリッヒは武器を構えると、不規則に動く血の枝を次々と捌き、掠ることさえも許さない。加えて岩で【血樹】の幹を裂く。

 あまりにも早すぎる適応にタバートも表情を歪めた。エメリッヒは着地と同時に地面を泥状に変える。

 泥は生きているかのように揺れ、タバートを次々と襲う。速すぎる攻撃についていけていないのか、タバートは意外にも攻撃を受けている。


 エメリッヒは違和感を覚えながらも攻撃の手は緩めない。隙あらば、リーンハルトには申し訳ないが自分がトドメを刺す。その気持ちだった。

 不意にタバートが顔を上げた。



「ありがとうよぉ、血をたくさん流させてくれて。」

「は?」


 エメリッヒは息を呑んだ。

 飛び散った彼の血が突如弾丸のように飛び回るのだ。エメリッヒは良くも悪くも己の命を賭けることに執着はなかった。自らが傷を負うことなど問わず、目にも止まらぬ速さでタバートの懐に飛び込み、彼の頸動脈を切った。


 やったと思った。


 しかし、噴き出した血はまるで自我を持ったように彼の首元に収束し、凝固した。エメリッヒは動じることなく、さらに手に持った鋭い鉱石で攻撃を加えようとした時だった。

 不意に心臓が暴れるような痛みに襲われる。


「……ッ、」


 エメリッヒは初めて膝をついた。

 そこからタバートはにんまりと不気味に笑う。



「お前もだ、お前も死の花を咲かせよう。あと10分の命だ。」

「……!」


 エメリッヒは自分で見る手段を持たなかった。彼の顔には大きな彼岸花の紋様が刻まれていたのだ。

 だが、彼の目には決して絶望は映らない。それどころか挑戦的な笑みを浮かべた。


「それがアンタの『進化』の結果ね。なら、副作用もあるはずだ。そんでもってオレは、あと10分でアンタを殺せば問題なしだ!」

「さて、ここで質問だ。」

「時間稼ぎはさせな……!」


 エメリッヒがタバートを仕留めようとした時、彼は下衆の笑みを見せた。まるで狂ったような、寄った目をしながら。


「サヨウナラだ、若人よ。【死の芽生え】。」

「無差別攻撃?!」


 まずい、とエメリッヒは気づく。

 この現状を知らない応援部隊が来ていたら太刀打ちできない。そして間違いなく自分が呼んだ親友が猛スピードでこちらに向かっているはずだ。

 自分が奇襲できると甘く判断したから。リーンハルトは何かいいたげにしていたのに。


 エメリッヒは地面に手を当てるとすぐさまタバートが生やす血の針地獄以上の速度で泥を広げてすぐさま目覚めた能力【樹木化】を発動した。血の枝はすぐに本物の木となり動きを止める。

 だが、その副作用は間違いなくエメリッヒを襲っていた。だから気づけなかったのだ。自身の肩が切り裂かれて血が噴き出していたことに。


「エメリッヒ!」

「速かったなぁ、愚息よ!」



 ああ、遠くなる。

 エメリッヒは倒れながら遠くに見えたピンクの頭を見て少しだけ目を細めた。

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