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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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233.追憶 -真実の扉を開くのは早すぎたか-

残酷な描写があります。ご注意ください。

「ゾエが……死んだ?」

「……はい。」

「あの人が? 想像つかないな……。」


 エメリッヒが淡々と言うのは、客観的に見てもゾエが負けるイメージがつかなかったからだ。




 ウルツ班は即日緊急召集された。

 消沈しているモニカとパウルから細かな詳細が報告された。殆ど話していたのはパウルであった。


「ああ、ゾエもフィリップも、状況から病に冒されていた可能性が高い。一応オレたちも検査を受けたが、陰性。遺体の方の血液検査はオリヴィアに頼んでる。」

「にしても過去最悪の被害じゃない。ゾエのお陰で何人かは生き残ったとして、その人たちも病に喰われていたわ。確実に後遺症には苦しめられるでしょうねぇ。」


「それで、遺言の通りなら僕は即ゾエの解剖をしなきゃいけないね。」


 ふー、と大きくため息をついたシモンは眉間を揉む。

 彼もまたここ連日の感染症騒ぎで疲労がたたっているらしく、目元には明らかにクマが浮かんでいた。その様子を見たウルツは少しばかり悩ましげな顔をした。


「君も疲れているだろう。アドルフも自分が引き受けていいと言っていたぞ。」

「いいえ。僕1人でやります。ゾエが死の間際の時間に遺した貴重な情報。同じ班の僕が蔑ろにしていいものではないんです。いいですね?」

「……ならば断っておこう。」

「お願いしますね。」


 シモンは普段客観的なことしか言わないが、いざ自分の意見を言わせたら絶対に曲げない。何なら口撃される。


「パウルは報告終わり?」

「ああ、頼んだ。」

「ウルツさんももういいですか?」

「……ああ。」


 なら、とシモンは軽快に振り返ると何かを思い出したかのように、リーンハルトとエメリッヒを手招きして呼んだ。


「あとちょっと気分転換に2人借りますよ。」

「好きにしなさい。私たちは別の任務にあたる。明日出立だ。準備をしなさい。」

「「「了解」」」


 この3人は強かった。

 仲間を、親友を、家族を喪っても折れなかった。

 今思えば、それがウルツ班の強さであり弱さであり、危うさの由来であるからだ。


「というか、リーンハルトとエメリッヒ、いいのかしら?」

「彼らも明日からは別の任務だ。今日くらい構わん。」

「何であの歳で覚悟決まっちまってんだろうな。泣くと思った。」


 パウルは真っ赤に腫れた目で苦笑いした。

 こんな時にでも仲間のことを思いやる余裕がある。そんな彼の姿は他の者から見れば、大概2人と同じである。








「さて、2人。君らも明日から任務なんだろう?」

「たぶん?」

「……僕はね、この戦争は割と近いうちに終わると思うんだ。それが今日か、明日か、明後日か、それは分からないけど。」

「そんな近々で?」

「うん。でも、本当の意味での戦争はきっと終わらないだろう。その終わりがいつになるかは分からないけど。」


 シモンは外に出ると煙草を出した。

 2人はその思いもよらぬ姿に目を丸くすると、シモンは紫煙をふかしながら笑う。


「オリヴィアには内緒だよ。怒られるから。」

「へー、何か意外。オレも大人になったら吸ってみたいなー。」

「やめときなよ、身体に悪い。」

「吸いながらそれ言うのかよ。」


 控えめに笑う2人にリーンハルトは呆れたように言う。彼はとてもでないがそんな風に振る舞うことはできそうになかった。

 そんな様子を見てシモンはふっと笑う。



「エメリッヒと僕は天才だ。割り切る思考がしっかりしてるし大した努力をしなくてもある程度まではいける。もちろん努力した結果ここにいるわけだけど。」

「そっすね!」

「お前ら何なの?」


 泣きそうだった気持ちはすぐに引っ込んだ。

 シンプルに苛ついた。


「でもリーンハルト、君は秀才だ。」

「はぁ?」

「君は誰かを頼ることを、その意味を本能でよく理解している。それは才能だ。」

「……お前らってほんと時々理解できないこと言うよな。何なのそれ。」

「らって言うな、らって。」


 巻き込み事故を食らったエメリッヒは即抗議をしたが、シモンは笑うだけだ。



「お互い生きよう。戦争が終わった後の夜明けを見るために。」



 これが、リーンハルトが見た最後の彼の姿だったのだ。












 翌日、シモンは動き出した。

 感染症センターのオペ室に向かう前に一度事務室を訪れた。すると疲れ切った研究員たちがシモンの方を見た。ことのはこびを聞いたらしいアドルフが心配そうな表情を浮かべながらシモンに寄ってきた。


「すまないな、お前に全て任せてしまって。」

「大丈夫ですよ。夜明け後、またウルツ班の人たちの任務あるから備えて。あとオリヴィア、ちょっと。」

「はい……?」

「君はこれを持って現場。カジェタノくんから救援要請もあったから回復とかもまとめてお願い。君ならできるよね?」

「……できない、なんて答えがあると思う?」


 オリヴィアは先ほどまでゾエの訃報に気落ちした様子であったがそれを一切見せずにシモンに言ってのけた。

 恐ろしい婚約者達だ。周りの人達も揃いの指輪を持つ2人の様子に息を呑んでいた。



 それを知ってか知らずか、シモンは周りのことなど構わずオリヴィアにハグをし口づけをした。


「さすが僕の婚約者だ。愛してるよ、オリヴィア。」


 じゃあね、とそれだけ言うとシモンは呆然としている研究員やオリヴィアを置いて軽やかにオペ室に向かった。


「ば、場所を選びなさいよ!」

「あはは、かわいい。」



 背後で怒り狂うオリヴィアを想うと長い手術なんて大したことなさそうだ。

 それにどさくさに紛れて例のものを渡すこともできた。

 さて、そんな愛している人のため、仲間たちのためにゾエが残したかったものが何なのか明らかにせねばなるまい。


「……。」


 シモンは無言で思考を巡らせた。

 彼女は身体のどこに何を残したかったのか。それを最速で明らかにしなければならない。


 早速準備に取り掛かる。


 まずは【診断】を使用して彼女の身体に起きていることを大まかに把握する。全身の炎症反応、筋細胞の破壊は間違いなく感染症の症状である。腹部胸部の貫通に伴う大血管の損傷とそれによる出血死、胸部から上にかけた皮膚や身体の一部溶解は戦闘によるものだ。

 彼女が任務に向かった期間やパウルに残した手紙を見る限り、感染症に加えて何かが起きている。そもそも何がきっかけで発症したのかが不明だ。


「……これ、」


 解剖を進めていると1通の手紙を見つける。

 それは彼女が戦闘の中で飲み込んだ真実を記した手紙である。

 すでにボロボロになっており読むことは難しいが所々読み取れるため、能力を併用しつつシモンは読み解く。


「……何だよ、それ。」


『ウルツ班のみなさん。

 私とフィリップはアドルフから針状のものでウイルスを投与され、偽の薬を渡され本来なら回復するところを症状が助長されています。渡された説明書を読んでから通信機も通じなくなりました。彼は裏切り者です。私と同日、他にも11の組が派遣されており同じ症状が出ている可能性があります。

 戦争が、加速するかも。』


「……こちらシモン。ウルツ班、シノブさん、イチヨウさん。誰か聞こえますか。」

『こちらイチヨウ聞こえる。』

『リーンハルト、聞こえます。』

『本部。』


 ウルツ班はリーンハルトとエメリッヒしか反応がなかった。

 残りの4人は交戦中だろうか。

 シモンは手紙に書いてあった内容を淡々と告げる。日付を見る限り、どうやら自分は集中し過ぎていたらしく、1日経っていることに気がつかなかった。



「以上のことから、紋付をはじめとした実力者が急襲する可能性あり。直ちに被害箇所に派遣をーー。」



 シモンは研究所の一室を開き、飛び込んできた目の前の光景に言葉を失った。

 通信機の向こうからシモンの安否を尋ねる声が聞こえてくるが彼の耳には届かない。いつだって冷静だった彼が最初で最後、何が起きたか分からない瞬間だった。


 部屋の中は、見慣れた血の色に染まっていた。


 昨日まで共に働いていた友人達が、仲間が見るも無惨な姿で血に伏している。辺りは轟々と炎が立ち上がっており、今まで積み重ねてきた実験結果も無駄だと嘲笑うかのように破壊されていた。




「……遅かったな? シモンよ、私の正体に気づくのが。」




 目の前にはアドルフと見たことがない巨大な男、キメラの元となった男であるヘサームが立っていた。

 シモンは全てを理解しハッと乾いた笑いを漏らした。


「何ですか、僕がここにのこのこと出てくるのを待っていてくれたんですか? 真実を知るのが遅すぎると?」

「いいや、君はむしろ早すぎたんだ。どうせ通信機は繋がっているんだろう? 答え合わせをしてみようじゃないか。」

「いいですよ。と言ってもあなたが『Dirty』の人間であることは現状から自明。そして後ろの子はキメラの元になった人間でしょう。【診断】を使えば一目瞭然ですね。」


 そして、とシモンは笑みを消して真顔で呟く。


「貴方の狙いは感染症を広げることではない。感染症を防ぐワクチンまたは薬のレシピが欲しかった、それだけですね。」

「ほう……何でわかる?」

「だってあなたが僕の研究成果を大人しく賛美するなんて気色が悪い。」


 アドルフは僅かに不快を滲ませる。



「……大方、エメリッヒのように強くなりたいとか、『新人類の先』に進みたいとか、それに関わるものなんですよね?」

「あの小僧が進化していたことに気づいていたのか?」

「ええ、微細ですが細胞壁の構造と再生速度が変わっている。あなたも気づいていたんでしょう?」

「お前には何でもお見通しだな。」

「ま、彼には彼の意図があったでしょうし。」


 シモンは不気味に笑う。


「残念ですが、あなたが本当になし得たいこと、それには全く関係ないんですがね。」

「……不快な奴だ。」


 だが、アドルフは言葉とは裏腹に笑顔を見せた。


「お前はどちらにせよここで死ぬ。最期に不快な遺言でも聞いてやろう。」

「なら遠慮なく。貴方は結局愚行を選ぶ、つまらない人間なんですね。」

「なんだと?」


 アドルフは明らかに怒りを滲ませた。

 そんな時に限ってシモンは言い含める気もないだろうが、真剣に、かつ何かを憂いたような声音で語る。


「僕がここで死のうと、より優秀な人間はいくらでも出てきますし、新たな発見は今この瞬間にも産声をあげている。だから、研究者としての正しい答えは奪うのではなく繋ぐこと。僕はそう思うんですよね。」


「相変わらず意味の分からないことばかり言う。」

「分かりたくない、の間違いでしょう?」

「そうやって挑発して、無残な未来が見えないのか?」

「見えてますよ、誰かが貴方を討ち、誰かが戦争に終止符を打つ未来が。」


 ただね、と彼は白衣の影から銃を取り出しにやりと微笑んだ。



「僕も、彼女との、仲間との未来に夢を馳せているんです。できる限りの抵抗はさせていただきますよ。」

「……無駄だな。」



 絶体絶命の状況、シモンは普段なら繕うであろう笑顔の仮面を脱ぎ捨て、目の前の強者2人に向き合った。

【こぼれ話】


 シモンがアドルフが裏切り者でないかと気づいたのは今まで自分の実験に張り合ってきたにも関わらず感染症が発生してから何故か素直に自分が精製するワクチンを作り始めたからです。

 状況から言えば自然な反応なのですが、長年鎬を削った仲であるシモンからすれば違和感しかなかったのです。

 それもあってハグした時にオリヴィアにしのばせた手帳には研究のことと例のレシピ表をひたすら書いていました。彼もまたシュウゴ同様の記憶力を有していたので合間があれば事細かく書いていたそうです。

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