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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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232.追憶 -戦に食われる-

ここからは戦闘描写+残酷な描写が一気に増えます!

苦手な方はご注意ください!

番外編:パウル、モニカの詳細なので苦手な方はスキップでも問題ありません!

「こっちも即時効果見られてるな。もう撤退で良さそうか。」

「そうですね。にしても、やっといつものパウルさんに戻った感じです。」

「悪かったよ。」


 少し時は遡る。

 謹慎明けのパウルはモニカと共に別の感染拡大地域を訪れていた。

 2人はゾエとフィリップの作業の応援という形で他の地域に薬を運ぶ手伝いをしていた。本来ならばアドルフが担当であったはずだが、急遽薬の生産と受け渡しはオリヴィアが担当となったため八つ当たりを受けつつも、2人は無事に任務を終えた。



 モニカはそれにしても、と訝しげに通信機を見た。


「珍しいですよね。フィリップさんも、ゾエさんも、いつもなら任務を終える速度は一級品なのに。」

「そうだな。フィリップからなら小言くらい私用の通信機に届きそうなもんなんだけどな。」


 いつもならゾエもフィリップも任務完了速度も報告書の提出も非常に速いが今回に限ってはいつまで経っても上がってこない。

 同じ班である2人はゾエの報告書は読めるためそれを疑問に思っていた。


「でもどうしようもないですよね。一度本部に戻るしか……。」

「それもそ……お?」


 たまたまパウルが上を見上げると木の枝に引っかかっているのか、1羽の鳥が不恰好に暴れている。

 パウルはすぐに木を登り、絡んでる紐を外して鳥を逃した。


「んだよ、戦争に乗じてゴミ捨てた奴いんのか? いつの時代だっつの。」


 パウルが呆れながらその紐を開くとどうやらそれは紐では無かったらしい。たまたま開いたそれには見慣れた文字が並んでおり、聞き覚えのある名前がサインされていた。


「オイ、モニカ、これ。」

「……な、んで、」

「こちらパウル。報告したい内容と進路の変更を伝えたい。」


 パウルは迷わずウルツに連絡を入れた。彼は迷うことなく了承し、2人は現地隊員に理由を述べると先行部隊としてゾエのいる施設に向かった。











「どうしたのかしら、伝説のウルツ班の一員とあろう者が。地に膝をついて、情けないわ。」


 目の前の紋付は顔に『d』の文字を刻んでいる。

 本当にただの紋付かと疑いたくなるほどの戦闘センス、これで七賢人でないなら残りの七賢人はどれだけ強いのかと絶望が襲う。ゾエの横では病床に伏していた特務隊員やフィリップがキメラと交戦していた。


 キメラの尾になす術なく人々は倒されていく。加えてヒュドラを模したキメラは性能もしっかりと倣っているらしく時に毒霧を噴き出す。

 せめてアレだけは、とゾエは自身の能力の限界値を引き出す。



「【不協和音】!」

「……ッ、」


「うぁ、」

「!」


 この攻撃は範囲攻撃、音が聞こえる範囲にいる者は無差別に攻撃してしまう。紋付の女は後退し、ヒュドラは暴れるようにあたりを破壊する。

 ゾエは残った力で医師に託していた手紙を回収し、それを躊躇いながらも身体強化を以ってできる限り丸めて飲み込んだ。異物が侵入してくる感覚に吐き気を催しながらも何とか堪えるとそこへフィリップが駆け寄ってきた。


「ナイスだ。どうする? オレはゲホ、毒霧吸って保たない! せめて相討ちに……。」

「私も、結構まずい。」


 紋付との交戦で抉れた傷を見てフィリップは一瞬顔を顰めたがすぐに決断した。


「……ゾエ、動けるな?」

「動ける……けど。」


「なら、オレは今から死ぬ。」



 思わぬ言葉にゾエは息が止まった。

 何を言っているのだと自分の耳を疑った。だが、すでにフィリップの覚悟は決まっているらしくゾエは反論をしなかった。そんな彼女にフィリップは兄によく似た笑顔を見せた。


「オレは、死んでから発動する奥義がある。なるべく血濡れになって死ぬから15分後にそこに誘導してくれ。絶対に奴らを倒せる。」

「……15分、」


 そこまで自分が持つだろうか、ゾエの不安は伝わったらしい。フィリップはふ、と小さく笑った。


「覚悟はできてる。あと15分だけ、頼む。ごめんな、家族も、友だちも、仲間もいるのに。」

「それはフィリップもでしょ。ここまできたら、一蓮托生よ。」


 2人は最期に拳を当て合うと頷いた。

 

 フィリップはすぐにキメラに向かっていった。

 なるべく他の特務隊員と協力しつつ、自然と混戦している場所に向かう。彼は残念なことに既に覚悟ができていた。

 いつでも命を果てることができると。



「兄さん、幸せにな。」



 彼はそれだけ呟いた。

 同時にヒュドラの鋭い尾を避けずに受けた。それは彼の胸を容易に貫き、一瞬で引き抜かれた。その場に鮮血が飛び散る。


「……!」


 残念ながらゾエには死を受け止める覚悟ができていなかった。

 下唇を強く噛みながら目の前の紋付に音波を放つ。紋付の女は楽しそうに口角を上げると辺りから見たことのない花を咲かせる。


「【鋼華】!」

「【大音波】!」


 身体中が焼き尽くされるような痛みが走る。

 フィリップが命を散らせた場所を確認し、そちらに誘導しながら動く。しかし、目の前の紋付はゾエの様子に違和感を持ったらしく、すぐ様表情を変えた。



「……作戦変更。すぐ死になさい。」

「は、」

「【覇王花】。」


 ゾエの鼻腔に危険な匂いが届く。

 逃げようとしていた足は何故か彼女が咲かせた花に誘い込まれていく。



「おいで、【人喰い花】の元に。」



 ゾエが誘われたラフレシアの横には大きく口を開いた花が待っていた。目の前に唐突に訪れた、死。









「……病に伏していたといえど拍子抜けね。」

「エーコさん。」

「あなたもきたの。もう概ね終わったわ。」

「へぇ、さすがぁ。」


 そこへもう1人『d』の文字を刻んだ軽薄な男がやってきた。男はそこら中に転がる亡骸を見て愉快そうに笑う。

 エーコと呼ばれたゾエを相手取っていた女はつまらなそうに呟く。


「私は枯れた花には興味ないの。」

「死の瞬間を開花って呼ぶのは悪趣味ですねぇ。」

「亡骸を見て喜んでる貴方の方が悪趣味よ。私もう興味なくなっちゃった。この子好きに使っていいから片付けといてよ。」

「はいはい、お片づけはオレの得意技ーってね。」

「貴方の能力が弱いせいよ。」


 エーコはそれだけ言うと、優雅に手を振ってその場を後にしてしまう。

 それを男は笑顔で見送ると、さてとゾエを人喰い花から引き抜いた。どうやら命は尽きているようであるが、造形は保たれているらしい。片目は溶けてしまっているが。


「コイツの能力は使えるからネクロマンサーに渡そう。それにウルツ班の初の犠牲者、アイツらを揺さぶるにはいい武器ーー。」




「【雷槍】。」




 突如頭上から振ってくる殺気と攻撃。

 男はゾエを抱えたままその場を避けたが辺り一体が焦げついている。着地した衝撃を物ともせず、モニカは血走った目で男を睨みつけた。


「汚い手で、ゾエさんに触るな下衆がァァァ!」


 全身から殺気とともに眩い光を放つ。男は半笑いしてその狂気に満ちたモニカを見た。


「はは、ラッキーぃ。」


 しかし、その油断も束の間。

 モニカが上空に跳ぶと同時に空から大量の針時雨が降り注ぐ。一言も発さないパウルが放った技だ。


「ヒュードラ!」

「ガアアアァァァァァ!」

「クソッタレ!」


 パウルは巨大な針を地面に刺すとそれをバネにして空中で方向転換をする。ヒュドラは咆哮をあげながら毒を噴くがモニカが瞬時に【雷】を落として麻痺させる。

 パウルは咄嗟に耳と目を塞ぎ、辺りを確認する。そこで初めて血溜まりに倒れる弟の姿を見た。叫びたい言葉を全て溜飲し、目の前の地獄に向き合った。


「モニカァ!」

「分かってる!」

「【一斉射撃】!」


 男がそう言い放つと触れてもいない地面からミサイルが次々と生み出される。彼の能力は【言霊(ぶき)を具現化】する。彼が武器と認知したものを全て生み出すことができる。シュウゴと同様、現実にあるものに限り構造を理解する必要がある。

 モニカはありったけの能力(かみなり)を放つ。

 男は次々とモニカの攻撃を避けていくが彼女の攻撃が放たれるほど、天候が乱れていく。


 後手に回れば徐々に不利になる。男はすぐに理解した。

 しかし、ヒュドラの毒があれば。



「ヒュド……、」

『【衆合地獄】。』



 男は目の前の光景を疑った。

 ヒュドラの3つの頭と腹部に大きな針が刺さっている。辛うじて急所を避けたようであったが初めて怯える様子を見せた。

 しかし、死なない。

 パウルはすぐにヒュドラは頭部全てを抹消しなければ死なないことを察した。フィリップの遺したヒントに気づく。


「モニカ、頭全部!」

「やらせ……、」


「お前も地獄に堕ちろ!」


 男は不意に全身の血が沸騰するような感覚に陥る。

 正しくは、抱えていたはずのゾエが能力を発動しており、人間の身体の大部分を占める水を揺らし、高温にしたのだ。男は全身から血を噴き出し、崩れ落ちる。

 その隙にモニカはパウルの指示通りヒュドラの頭に雷を次々と落としていく。

 死の間際故か、ヒュドラは突如人語にも聞こえる声を発した。それにモニカとパウルは一瞬動揺してしまう。


「ガセ、コロ、ぁあ!」


 しかし同じく死の間際にいるゾエだけは反応できた。



「モニカ! 【パウルはモニカを助けろ】!

「ッ、」

「嘘だろ?!」


 ゾエの【言葉】に操られるように地面に足をついていたパウルは咄嗟に蹴り出し、ヒュドラの尾にぶつかったモニカをキャッチした。

 それと同時に、ヒュドラの尾はゾエを貫きトドメを刺した。

 モニカは吹き飛ばされた衝撃で目を閉じてしまったが、パウルは目にしてしまった。その瞬間を。


「ゾエ!」

「アアアァァァァ!」


 ヒュドラは全身を水と化すと地面に吸い込まれるように消えてしまった。消えたが命を終えた気配はない。だが、この場で無理をして追うことはナンセンスだとパウルはすぐに判断した。

 パウルが着地すると、モニカはすぐにゾエの元に走って行った。



「ゾエさん! ゾエさん! やだ、死なないで! 血が、血が止まらない……!」

「……私は病に冒された。シモンに解剖頼んで。」

「話さないで、待って、治せば……!」


「モニカ。」


 パウルの冷え切った声が、パニックになったモニカを急に現実に引き戻した。

 当たり前だろう、ここは戦場。

 明日死ぬのは自分かもしれない。


 モニカはぐっと堪えようとしたが、涙が止まらない。


 ゾエはすでに亡くなっていた。

 特務隊員としてやることを、やった。家族や友人への遺言を一切残すことなく、それが現実だった。しかし、それが虚しい。モニカは静かに涙を溢すだけだ。

 パウルもまたフィリップの物言わぬ姿を見つつも、死にゆく男を問い詰める。



「ゾエとフィリップを殺したのはどこのどいつだ。」

「オレじゃない! そこの女を殺したのはキメラの1匹、ヒュドラだ! それにそこの血塗れの男は自殺、関わったのは紋付のエーコ・カタミヤだ!」


 だから助けてと言わんばかりの哀れな血塗れの男だ。

 パウルは静かに針を生み出すとそれを振るう。


「そうかよ。じゃあな。」

「ヒッ、」


 男は果てた。

 本来なら生きて捕らえなければならなかった。

 しかし、弟を殺されて大人しくできるほどパウルもまた冷静ではなかったのだ。

【こぼれ話】


 ゾエの能力は【音】です。

 音波や声を中心に操りますが、液体や固体を媒介に物体を震わせることもでき、また対象が次にとりうる行動という制約がありますが、簡単な音声命令も行うことができます。

 今回のケースは、パウルがモニカとゾエどちらを助けるか迷っていたため強制的に選択させたという感じです。

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