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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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225.追憶 -愛したはずの家族-

 過去編です。リーンハルトの一人称で進みます。

 残酷な描写がありますのでご注意ください。

 リーンハルト・ワイアットは、エリア:ドイツの片田舎で生まれた。

 その村の中でも裕福な家庭の生まれであるタバート・ワイアット、たまたま仕事に来ておりタバートと結ばれたらしいヨハナ・ワイアットの間に生まれた子どもだ。


 人間のエピソード記憶は確立するのが3〜4歳くらいと聞いたことがあるが、オレは割と覚えていた。

 愛おしげに自分を抱く母親の温もり、特務隊員として市民を家族を守るかつては憧れた父の背中、田畑の泥臭くもどこかほっとする匂い、周りの温かい人々の言葉。

 今思えば、それが理由で母親のことを彼女の最期まで諦めきれなかったのかなとも思う。


 オレがはっきりと覚えている1番古い記憶は能力を発現した時だった。

 理由は何てことない、近所のおじさんがホースで水撒きをしているのを見ていた時、おじさんがホースの口を押さえたり離したりして水を出す勢いを変えて、『オレは水を操る!』なんて冗談を言うのを聞いていた時だ。


「オレも操る!」


 そういった瞬間、滞ることなく流れていた水が氷になった。


「できた!」

「なんてこったい、こりゃすげぇな……。」

「ちょっと、リーンハルト何やってるの!」


 あの時は制御できなかったため、遠くで友人と談笑していた母さんが慌てて飛んできて氷を溶かした。危うく作物をダメにするところだったのだ。おじさんはよく笑って許してくれたものだと今では思う。


「リーンハルト、あなたって子は……。御免なさい、作物は大丈夫ですか?」

「なんで謝んの? おじちゃんの真似しただけだよ?」

「作物は凍らせたらダメになっちゃうの! おじちゃんの生活を困らせることになるんだから! 無闇にその能力は使っちゃダメよ!」

「まぁまぁヨハナちゃん、初めてだったんだろ? 作物も無事だし、オレも煽っちまったからお互い様ってことで。リーンを揶揄ったおじちゃんが悪かったな!」

「えー? うーん……オレもごめん。」


 謝れて偉いぞ、なんて泥だらけの手で頭をワシワシと撫でられる。その間、後ろで母さんがどんな顔をしていたかなんてオレは知る由もなかったのだけど。



 その日の出来事を母さんはどこか残念そうにタバートに話したけど、父さんはとても喜んでいたから、オレは嬉しかった。

 オレは父さんに見せたい一心で母さんから制御の仕方を習って、ものの数週間で自由自在に操れるようになっていた。

 ちなみに、後から特務隊に入って聞いた話だと、オレのような強力な能力は人によっては制御できない人も少なくはない上、年単位かかる人がほとんどらしい。



 それから暫くすると、3ヶ月ぶりに父さんが帰ってきた。

 嬉しかったオレはその夜だけ一緒に寝てほしいと強請った。母さんとは早々に部屋を別々にしていたため、1人で寝ることはとっくに慣れていたけど、久々に会った父さんに褒められたらもっと一緒にいたいってなるのが普通だろう。

 父さんは今晩だけだぞ、なんて言って2晩あるうちの1晩はオレといてくれた。


「そうかそうか、お前もついに能力を発現して操れるようになったか。母さんと同じならとっても強い能力だな。」

「そうなの?」

「ああ、リーンの能力は水を操るだけじゃなく、気体液体固体全てに変化できる。加えて……。」


 当時は4歳に満たない子ども。そんな水の三態など理解できるわけがない。

 オレがうんともすんとも言わないことに父さんは途中で気づいたらしく、難しかったな、などと笑って頭を撫でてくれた。


「リーンは将来の夢とか決まってるのか?」

「田んぼ育ててー、牛さん育ててー、それでとーちゃんみたいなヒーローになる!」

「……そうか。」

「うん、それでとーちゃんみたいに可愛いお嫁さんもらう!」

「っ、アッハッハ! そうかそうか!」


 父さんはうつ伏せになりながら聞いていたが仰向けに寝返り腹を抱えて笑っていた。


「リーン、この村の外のことについて少し教えてやる。」

「うん!」

「この村の外にはな、オレや母さん、リーンみたいに不思議なパワーを持つ『新人類』って奴らがゴロゴロいる。強くてかっこいい、ヒーローみたいな人間だ!」

「うん!」


 ここまではオレも目を輝かせて聞いていた。しかし、ここからだった。雲行きが怪しくなるのは。


「……だがな、パワーを持つオレ達は、持たない人間からすると怖い。だってどうしたって勝てない相手だからな。

 だから、パワーを持つオレ達を差別……悪い奴だって決めつける人間がいる。オレはそんな奴をぶっ倒そうって、特務隊の裏で動いてるんだ。」


「特務隊はみんなを守るチームじゃないの……?」

「特務隊はみんなを平等に守るって言いつつ、結局パワーのある奴を差別から守れてない。いいように父さん達は使われてるんだ。」


 オレは父さんがあまりにも真剣に言うから、この時ばかりは特務隊に不信感を抱いていた。ただ、幼心にも、自分の父親の目が異常だったことに薄々気づいていたのだろう。

 しかしそんな狂気じみた目線は一瞬、すぐにいつもの優しい父さんの顔に戻った。



「何があっても父さんはリーンのこと、愛しているからな。誰が敵になってもお前の味方だ。」

「……うん!」

「楽しみだなぁ、お前と戦うの。」


 それだけ呟くと、父さんはオレの背中を優しく叩く。そんな温もりと落ち着くリズムにオレは微睡みゆっくりと眠りに落ちていった。








 それから半年くらい経っただろうか。

 ユーマニティ戦争は徐々に激化の一途を辿っていた。父さんも帰ってくることが減ってきて、オレもまた子どもながらに漠然と自分はエリートコースに応募して特務隊員になるのだと思っていた。

 オレは近所のおばさんー能力を発現するきっかけをくれたおじさんの奥さんーとともに特務隊員の凱旋を隣町まで見にきていた。


 母さんは危険なところに行く父さんを見たくないからと反対した。でも、オレがあまりにもごねるものだから近所のおばさんが連れて行ってくれたのだ。


「ごめんね、おばちゃん。仕事もあったのに。」

「いいのよ、私も見たかったし。それにウチの旦那、ヨハナちゃん大好きだから仕事も捗るんじゃないかしら?」

「それ知ってる! 軟派、ってやつ?」

「よく知ってるわね。」


 うふふ、と笑う彼女は大柄な体格を生かし、当時小さかったオレを易々と抱えた。普段と違う視界にオレはとてもワクワクしたのを覚えている。

 特務隊の中でも、戦闘に特化した隊員達が凱旋していた。

 自分よりも何倍も体格のいい人々が、世界の平和のために戦う。父さんもその1人、そう思うだけでオレは誇らしかった。


 しかし、オレは気づいた。


「……父さんが、いない?」

「え、おかしいわ。いるはずってヨハナちゃんも言ってたもの。遠くにいるんじゃないかしら?」

「いない!」


 おばちゃんの隙をついてオレは小さい身体を生かして列の最前列に飛び出る。熱狂する人々に揉まれながらも最前列に出る。

 普通なら背が低いから、思っている場所と違う場所に整列しているから、何でも理由はあげられだろう。

 だが、オレはすぐに分かった。父さんはこの場にいないと。


「うっわ!」


 後ろの人に押されて、オレは列から飛び出てしまう。

 ちょうどそれを受け止めてくれた男の人が、ウルツさんだった。


「大丈夫か、坊主。」

「父さんは! タバートは!」

「……タバート? 今日は体調が優れないからと。」



 後から聞いた話ではウルツさんは友人がタバートの上司だったらしく、彼は父さんのことを知っていたそうだ。

 ただ、ウルツさんの言葉は小さかったオレを絶望に追いやるには重すぎた。


 父さんは今の今まで体調不良をしたことがない。


 厳密には大切なイベントの前は絶対に調子を整えてくる人間なのだ。だから、そんな理由で休むなんてありえない。



『楽しみだなぁ、お前と戦うの。』



 一緒に、ではない。オレが相手取ることを踏まえて話していた。

 オレは踵を返して足に力を入れる。後ろからウルツが慌てて呼び止めるのも聞こえない。

 全身から血の気が引いていく。

 少しでも、1分1秒でも早く。自分の故郷に、家に。














 この時の手足の痛みはもう覚えていない。

 普段なら歩いて2時間、車で30分ほど。でも後から聞いた話だとオレは1時間もかからず村に帰ったらしい。

 オレは走り続けた末に目にした光景に愕然とした。


「……村が、燃えてる。」


 オレは【水】を操りながら消火をしつつ進む。幸い、水源は枯れていなかったから問題はなかった。進めば進むほどに絶望が広がっていく。

 子供の少ない村での遊び相手だった牛や豚、鶏も亡骸となっている。近所のフロッケも倒れている。


「母さん、母さん! うぁ、」


 オレは何かに躓いて転ぶ。

 泣きたい気持ちを抑えて恐る恐る足元を見ると、オレが能力を開花するきっかけをくれたおじさんが血まみれになって倒れている。

 ひっ、と小さく声が漏れた。


 何で何で何で。何で当然のように死んでいるんだ。


「おじちゃん、おじちゃん! ねぇ、起きて!」


 どんなに揺らしても彼は息を吹き返さない。何でおじさんが死ななければならないんだ。苦しい、苦しい、呼吸ができない。

 母さんは、母さんは無事か。


 おじさんに小さく謝ると、オレは母さんを探し始める。


「母さん、母さん! 母さーん!」


 オレは家に戻る。

 ずっと過ごしてきた家も最早ただの燃え屑の山、跡形もない。色々叫びたいことはあった。でも声が出なかった。

 叫んだら、もう動けなくなると思ったからだ。


「母さ……、」




 ふと、人影が目に入る。

 オレは本能でそれが誰か理解できた。


「あぁ……リーン、遅かったな。」

「……父さん。」


 母さんは、という声が出なかった。

 だが、父さんはオレの言いたいことを理解できたのか、卑下た笑みを浮かべた。


「ヨハナはもういない。お前の大切な故郷も、友人も、近所の大人も、家族も、もういない。」

「父さんが、やったの?」


「そうだ。オレのことを嫌いになったか?」


 あっさりと頷いた。

 オレは言葉を失った。でも父さんはオレの憔悴した様子を見て拍子抜けだという顔をする。今思えば4歳に何を求めているんのかと問いたくなる。

 だが、オレは応えてしまった。



「……嫌いだ。」



 父さんは笑った。それはもう嬉しそうに。


「なら、特務隊に入って強くなれ。進化しろ。そしてオレを殺しに来い。お前の強さがオレの糧になる。」

「……! 待って、母さんは!」

「あまり口答えしてくれるなよ。痛めつけておいた方が将来のためか。」


 父さんの手から血の槍が生まれる。憎い、殺したい、そう願っているのに足は恐怖と怒りで固まってしまっている。

 目の前に迫る赤い槍、オレは最早恐怖さえも感じなかった。


 次に何が起きたか認知したのはウルツさんがその槍を叩き落とした瞬間だった。

 目の前に槍が落ち、土煙が浮く。



「珍しい髪色の子ども、4歳にしてこの身体強化を操る才覚。やはり、噂に聞くタバート・ワイアットの息子だな。家族も凱旋に出ないことを知らないとはおかしいと思ったが追いかけてきて正解だった。

 ……やはり、お前は『Dirty』の人間だったんだな。」

「さすがウルツ・ワイズ。いつから気づいていたァ?」

「ここ半年、お前が怪しい動きをしていたことは、察知していた。だがそれもわざとだろう? 七賢人、タバートよ。」

「へぇ……そこまで。」


 父さんはそれは面白そうに笑った。

 腰を抜かすオレを背にウルツが辺りを砂に変えて操る。


「まさか自分の故郷を火の海にしてくれるとはな。ここで私が仕留める。」

「……来たのが私だけだったら相手にするんだがな? だがお前の口車には乗らねぇよ。お前は集団戦法に長けるのはオレだって知ってるぜ。」


 父さんは自ら掌を切り裂くとそこから出た血を辺りに広げる。


「【大叫喚血地獄】!」

「【大蟻地獄】!」


 辺りから生える、まるで針が草原のように敷き詰められていくが、それに負けない速度でウルツが辺りを砂場に変えてしまう。

 圧巻だった。ウルツさんこそオレのヒーローのような存在だった。




「……チッ、逃したか。いや、それより生存者の確認が優先だな。」


 ウルツさんの呟いたことは当時のオレの耳には届かなかった。


「えー、少年よ。」

「リーンハルトだよ。リーンハルト……ワイアット。」

「そうか、リーンハルト。今から私はーー。」


「オレを!」


 恐らく救助活動をするからと言おうとしたのだろうが、オレと視線が交わるとウルツさんは黙った。


「オレを、特務隊員にして! 父さ……タバートを、倒します! お願いします!」



 まさか4歳の子どもが自分の父を悪だと判断し、仇として認めて、自身の手で決着をつけると宣うのだ。

 ウルツさんは見るからに、残酷な現実を憂いるような表情をした。


 オレは泣いていなかった。今この瞬間だけは、泣いて現状を嘆いたら負けだと思ったからだ。

 ウルツさんは真っ直ぐにオレを見つめるとしゃがみ込み、オレに目線を合わせた。


「……特務隊は遊びじゃない。常に自分の命を危険に晒し、仲間が死ぬことも、他人の命を奪うことも日常だ。こんな光景も、常に付き纏う。

 それでも特務隊員になりたいのか。」


 当時のオレは恐らく全てを理解していなかった。だが、必死に頷いた。

 ウルツさんはその目を見て何を思ったのだろう、笑顔を見せるとオレに手を差し出しながら口を開いた。


「まずは仕事だ。その後、話をする。村を案内してくれ。」



 オレは返事をした。

 これが、オレが家族を失い、ウルツさんと出会うまでの話である。

【こぼれ話】

 タバートは裕福な家庭の次男として生まれました。

 本来なら市政について学ぶことを望まれていましたが、タバートはそれが嫌で特務隊に勝手に入隊しました。

 そのためリーンハルトは自身の祖父母の顔を一切知りません。

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