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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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226.追憶 -エメリッヒ-

 結果として、村の生き残りはオレと同じようにたまたま外に出ていた人たち数十人と、最近できたばかりの村の避難シェルターにいた人々だけだ。古くからあったシェルターはタバートに場所が割れており、襲撃に遭ったらしい。

 幾名かは行方不明、殆どが新人類であったため恐らく『Dirty』の人間に連れて行かれたか、逃げた先でその村や町に迎合していることが予想されたが定かではない。

 母さんも行方不明者の1人だ。


 オレが置いていってしまったおばちゃんともすぐに再会できた。旦那さんを奪った男の子どもなのに、彼女は泣いてオレの無事を喜んでくれた。オレはおばちゃんに抱きしめられて初めて泣いた。

 オレははじめ孤児院に入れられるかまたはおばちゃんが引き取るかという話になった。しかし、ウルツさんは周りに無理を言ってオレを引き取ってくれた。

 奥さんと離婚したから部屋が余っているんだなんて笑っていたけど詳しい事情は知らない。ただ本人が言う通り、一人暮らしにしては広い一軒家だと思った。



「えと、ウルツさん。ありがとう。」

「何、私も将来有望な少年と出会えて楽しいさ。今日からここは君の家だ。好きに使ってくれていい、と言いたいところであるが、実はもう1人同居人がいるんだ。」

「同居人?」

「ああ。」


 ウルツさんはただいま、と声をかけながら扉を開く。すると2階からバタバタと走る足音がした。



「おかえり、ウルツ! そっちのピンク頭が通信機で言ってたやつ?」

「ただいま、エメリッヒ。」


 明るい土色の髪をした色黒の少年が走ってきた。

 エメリッヒと呼ばれた彼は不躾にジロジロと見てくるため、オレは慣れない同じ世代の子どものリアクションに戸惑った。


「コラ、まず名乗りなさい。」

「はーい。オレはエメリッヒ・バシュ、ウルツさんの1番弟子だよ! よろしく!」

「……親子、じゃないの?」

「親子ではない。エメリッヒは昔の仲間の子どもだ。」

「うん、オレの父ちゃんも母ちゃんももう死んじゃったからさー。」


 あっけらかんと言ってのける彼にオレは言葉を失った。

 家族を失ったのにも関わらず何でこんな風に笑っていられるのか、オレは理解できなかった。だからオレは素直に尋ねてしまう。


「……何で笑ってるの。悲しくないの?」

「え、悲しいよ? でも、オレの父ちゃんも母ちゃんも悪い奴からみんなを守ったんだよ。悲しいよりも、どうだすごいだろーって思ってた方が2人とも嬉しいじゃん!」

「……意味わかんない。」

「……オレはお前の方が意味分かんない。何で分かんないの? というか名前は?」


 エメリッヒはオレの顔を見て不思議そうに首を傾げるばかりだ。本気で意味がわからないのだろう。この時、オレはエメリッヒを一生理解できる気がしなかったし、仲良くなれる気もしなかった。

 どこまでもマイペースらしいエメリッヒにオレは渋々名乗った。



「リーンハルト……ワイアット。よろしく。」

「おーう、リーン! よろしく!」

「ちょ……リーンって呼ぶのやめてほしい。」


 リーン、と呼ぶのはタバートだけだった。だから、どうしてもあの男の顔が脳裏に浮かぶため、オレはやめてほしかったのだ。

 しかし、エメリッヒはそれを知ったことないと言わんばかりに口を開く。


「やだよ長いもん。」

「……エメリッヒは何で人の嫌がることをやめないの? おかしいよ?」

「おかしくないよ。だって、リーンは呼ばれるのが怖いだけで嫌なわけではないでしょ?」


 何言ってんだコイツ、と思うと同時に存外頑固者らしい彼にはいくら言っても無駄なのだろうと、オレは歳に似つかわず早々に諦めを見せた。







 それからウルツさんは夕飯を食べながら特務隊のことやウルツさんのことについて教えてくれた。


 彼は現在のベルリン支部支部長である。順当に出世して、その地位についたそうだ。彼の能力は【砂】、土があれば発動することができ、ありとあらゆるものを【砂】と化し操ることができる。20代で結婚したが、仕事を優先し愛想を尽かされたそうだ。


 特務隊は当時の15年ほど前から発生した戦争をきっかけに本格的に設立された管理者協会-AA-の組織の一部である。

 戦争は今ではユーマニティ戦争などと呼ばれるが、当時は名もなき戦争だった。きっかけは能力を暴走させた新人類の子どもを旧人類の大人が重体に追いやった事件だ。

 今思えば明らかに後者が有罪であるが、裁判を行なった時期は、まだ新人類に対する差別の色が強く、加害者は無罪となった。

 新人類達、または新人類優位主義者達は声をあげた。その世界的な運動によりAAの上層部は一気に入れ替えとなった。それに併せて差別的な法律や経済活動などは一気に廃止となった。


 だが、過激派達の気はそれだけでは収まらなかった。優遇と世界統括の全権を新人類に譲れと訴えたのだ。

 平等派や中立派、旧人類達はそれを敵と認めたことにより開戦した。その過激派の中でも、特に統率をもって動く組織を『Dirty』と呼ぶようになったそうだ。その組織によって戦争が激化したのがごく最近である。


「今も戦争って続いてるんだよね? 何で?」

「まぁ、昔みたいにドンパチしたり全面対決っていうのは少ないものだ。思想だけで取り締まることはできないから我々は後手に回る。それに相手方も着実に犠牲を出さずに行う手段を選ぶからな。」

「ふーん……?」


 オレはこの時の言葉の意味はあまり理解できていなかった。辛うじてウルツさんが描いてくれた下手くそな図の範囲のみ知識として吸収された。

 難しい話はよくわからない、オレは早速本題を切り込む。



「それで、どーやったら特務隊に入れるの?」


「1番多いのはスカウトだ。新人類は全て能力を管理者協会で把握されているためそのデータから選抜する。要項を満たせば断ることもできる。

 そして、2つ目はエリートコースを修了する。これは能力の危険度をS、A、B、Cと区切ってSとAに分類された者は必修とされている。高校卒業相当の学歴を保証されていて、修了者のうちSランクの者は除外要項を満たしていない限り、管理者協会に身を置くことを義務付けられている。」

「でもAAってお金いっぱいくれるし生活も保証されるしいいこと多いんだよ?」


 ふふん、とエメリッヒが得意げに笑った。

 この頃はスカウト者の兼任はかなり少数で、そもそも可能なこと自体オレは知らなかったし説明も受けなかった。それにエリートコースのリタイアや除外要項を満たすということについても特に見解を持ち合わせていなかった。


「とりあえず、リーンハルトは一般教養を身につけるためエメリッヒと同じ学校に通ってもらう。それを卒業したらエリートコースに入り、指導を受けるといい。」

「それが終わったら特務隊に入れる?」

「ああ。」

「分かった!」


 内容をあまり理解していないオレは二つ返事で了承した。少しでも早く特務隊員になってタバートを捕まえたい、母さんを探したいという思いでいっぱいで、オレは数秒たりとも立ち止まりたくなかったのだ。











「だーかーらー、洗濯物貰ったらすぐしまえって!」

「えー?」


 ウルツさんの家に住まわせてもらうようになって2週間。とりあえずオレは勉強はあまり得意でないことは分かった。

 そしてウルツさんの家には家政婦のタビタさんがやってくる。炊事洗濯掃除、全てをやってくれるのだがオレはどうしても自分のことは自分でやろうとした。しかし、オレは勉強だけでなく家事も苦手だったらしく最終的に手間が増えてしまうため、簡単なお手伝いしかさせてもらえなかった。

 ただ、さすがに部屋の片付けくらいは自分でしていたのだが、エメリッヒはそれさえも苦手らしかった。


「ごめんごめん。物多い方がほっとしない?」

「しない!」



 他にも分かったことがある。

 この同居人は大らかで大雑把。収集癖のようなものがあるらしく部屋にも物が多い。勉強はオレと同じくらいのレベルだけど運動神経はオレよりもある。家事に関してはやる気がないが、やろうと思えばやれそうな器用さはあった。


 オレが1番気になったのは人との距離感だ。

 エメリッヒは絶対に怒らない。たとえ暴言を吐かれても喧嘩の仲裁でも、困っている顔はするが決して声を荒げるようなことはしなかった。

 そして、彼は友だちも多い。

 誰とでも仲良くなれる性格なのだろう、スクールではいつも誰かに囲まれてるし、町では大人に声をかけられ、買い物について行けばサービスもしてもらえる。


 だけど、エメリッヒは決して自分の核心はつかせなかった。


 パーソナルスペースが広いわけではない、むしろ狭い方である。

 誰かが言った、太陽のような存在、まさにそれが的確に彼を表現していると思う。もしもこの世にヒーロー的象徴がいるとすれば、彼のような人格者なのかもしれないと、今でも思う。

 ある種の完成しすぎた人間なのだ。


「なーなー、リーン。宿題やった? 見せて?」

「自分でやりなよ。」


 前言撤回、ヒーローとしては完成していても人としてはだめだめだ。

 オレがため息をついていることに気づいていないのか、エメリッヒは呑気に尋ねる。


「そういえばリーンって誕生日いつ?」

「……8月30日。」

「え、3日後じゃん! ご飯とか好きなの食べなよ! タビタさんに頼んでさ。」


「いらない!」



 いつもオレはエメリッヒに怒ったように話すことが多かったが、この拒否がいつもと違うことを彼はすぐに察したらしく動きを止めた。


「なんで? せっかくリーンが生まれた日なのに?」

「だって……母さんだってどこか知らない場所で苦しんでるかもしれないし、おじさんも死んじゃって、おばちゃんも家族いなくなって、友だちも死んじゃったのに。オレだけ幸せなんておかしいじゃん……。」


「……リーン、」

「だから、いらない。余計なことしないで。」



 オレはそう言って断った。

 ーーはずだった。

 断ったにも関わらず夕食は豪華な食事であった。たまたま帰ってきていたウルツも喜んでいたが、オレだけは腑に落ちない顔をしていたらしい。

 エメリッヒは不思議そうにオレを見つめている。ウルツさんはオレの様子がおかしいことに気づいたのか顔を覗きこんだ。


「どうした、何か嫌いなものでもあったか?」

「……そういうわけじゃなくて。」

「なんでって顔してる。」


 分かっているなら、と怒りたくなった。

 だが、エメリッヒは想像を容易く超えることを言い出した。



「これはリーンを祝うためのものじゃない! オレを祝うためのもの!」

「「……は?」」


 これにはさすがのウルツさんも状況が読めなかったらしく目を丸くしていた。一方でエメリッヒは誇らしげな顔をしている。


「確かに誕生日はその人が生まれたことを祝うものだけど、オレはリーンと出会えたことを感謝する日にする! ウルツさん、難しい言葉使えた!」

「おぉ……すごいな。」


 ウルツさんが言われるがままに褒めると彼はえっへんと胸を張った。


「たぶん世界にはリーンのことを嫌いって人とか、いなくなってほしいって人だけじゃなくて、オレとかウルツさんとかみたいに会えて良かったって思う人もたくさんいる!

 リーンはそういう人を大切にすればいい! そういう人たちは勝手にリーンが生まれた日を祝うからさ。」


 さー食べよう、なんて誰のために作られた料理か、いの一番に食べ始めた。ウルツさんはオレの様子を見ると手を合わせて優しく微笑んだ。


「なら、私もあの日リーンハルトに会えた日に感謝していただこうか。もちろん料理を作ってくれたタビタさんと、エメリッヒに会えたことも。」

「やった!」

「ありがとうございます。」



 オレは何も言葉が出なかった。

 涙が止まらなくて、美味しい料理も喉を通らなかった。お腹は減っているにも関わらず、胸はいっぱいだった。


 父さんが、村の人たちを惨殺して、誰かの大切な人たちを奪った事実をやっと受け止められた気がした。

 自分がいなければ起きなかったのでは、自分がいなくなれば残された人たちも報われるのでは、父さんを倒すと宣っておいてずっとその考えが自分の中を巡っていた。

 でも、今ここで生きていて、出会えて良かったと言われて、オレは初めて生き残って良かったと思えた。












 それからオレ達はスクールを終え、特務隊員となるためにエメリッヒとともにエリートコースに参加した。それが確か7歳の時だ。

 2人とも勉強は相変わらずだが、身体強化や能力に関しては参加時点で並の大人以上のものを持ち合わせていた。


「なーんか目立っちゃうな! でもやっと戦争を終えるためって思えば全然怖くないな! それにリーンもいるし!」

「そうか?」

「そう!」


 オレはこの数年でだいぶエメリッヒに心を許せるようになった。苦楽をともにする親友であり家族、大切な人となっていた。

 自ずと互いのことは打ち明けられるようになり互いにペースを理解できるようになった。


「エメリッヒ。」

「ん?」


「あの日、出会えて良かったって言ってくれてありがとう。」



 エメリッヒは目を瞬かせるとにぱっと笑った。


「それいつの話だよ? いっつも思ってるから分かんないや。」

「別にいーよ。分かんなくて。」


 何だそれ、と言うが彼はそれ以上言及することはなかった。

【こぼれ話】

 リーンハルトは、基本的には真面目でやることは自力で最後までやります。でもしなくていいことはとても適当というより手を一切つけません。

 一方でエメリッヒは、とりあえず必要不要かは置いておいて手をつけてやってみるタイプです。


 リーンハルトは、現在に比べ幼さはあるものの自分にも他人にも厳しく融通は利かない方でした。というのも交流の狭さによるものもあるのですが……。

 ちなみに現在も家事は最低限に限り、食事は2話で色々買ってみたものの気が向く時しかしません。パン食であったこともあり炊飯器はピンとこなかったようです。

 ただ、一般的な常識はあるため、誰かさん達とは違い最低ラインは超えられるようです。

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