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8 アンティック・ディスポジション 4

 「何だぁ?ティア、宰華帝國艦から?強制挿入通信来てるよゥー!もゥー、何て乱暴なんだろゥー!こちらの返事も聞かずに、横着()くにも程あるぞゥー」

 


 テミアが叫ぶのと同時に、宰華帝國艦からの強制通信に載せた人影が、【ルーミィ】のブリッジにいきなり「ババン」と出現していた。



 「無駄な抵抗は止めよ!我々は、宰華帝國帝室近衛師団第三軍団長、従(よん)沙羅(バサラ)大将麾下(きか)の特命部隊、我こそは上(なな)位ガウリア・摩李ヴァリダーナヴァ少佐である。これより美怜(リーミン)陛下の勅命により、【星銀小玉龍ルーミィ】貴艦を拿捕する。そして、宰華帝國帝室皇位継承皇太子殿下をお迎えせんが為、殿下の御身柄を可及的速やかに引き渡すがよい。繰り返すが抵抗は無意味と知れ」



 筋骨隆々の偉丈夫な姿をしているが、その妖艶にして歌う様な美しいアルトテナーの響きを発する、女性指揮官の美しくも引き締まった「マッチョ」な姿が、ブリッジの前部を占拠して威圧する様に映し出されていた。



 「んだぁそれ?誰だぁお前?いきなり現れやがって何言ってんだぁ?このマッチョ女め!」



 ブリッジの前部フォロヴィジョンに突如降って湧いたように投影され、訳の分からない事を言い始めたダーナヴァ少佐の姿を、伽罹那(カリナ)は、呆れたようにして睨み付ける。



 「はてさて、皇太子殿下だとゥー?とーんだイチャモン付けもはなはだしいのゥー」


 「さておき、そんな高貴な人様が?こーんなとこ居る訳もないんじゃがのゥー」


 「「何かのお間違えではござりませんかぁ?も一度お確かめの程をゥ~」」



 双星神(アシュヴィン)も彼女に向けて不思議そうに、何処となく軽く気の毒なくらいの蔑みの念を込めた声で囁く。



 「ほっほーう、これは実に面白い展開ではないか?フフン、そう云われると、何とのぅ思い当たらんでもないなぁ?ティアよ」



 キャプテンシートの方を振り返りながら、ワザとらしくニタリとわらうリトルを敢て無視したティアスは、双恈を眇めながら不遜に見下ろすダーナヴァ少佐を白眼視して睨み返す。

 やがて摩李ダーナヴァ少佐は、賑々(にぎにぎ)しく片膝を着き姿勢を正して構えると、声色に奇妙な抑揚を付け、続けて宙を仰ぐような仕種を取りつつ誰に宛てるともなく丁寧な口調で語り掛けて来た。



 「殿下、殿下、何処へ御座おわしまするか?久遠の忠誠をお誓いし廷臣上漆位ガウリアが、只今お迎えにまかり越してございます。何処へ御座おわしますや?」



 上(なな)位ガウリア・摩李ヴァリダーナヴァ少佐にとって、当然ながら皇位継承者である皇太子殿下は宰華帝國の根幹、国家の大事、軍人として忠誠を奉げ命を捨ててでも守り抜くべき高貴な存在であり、また、幼き頃から聞かされ続けていた彼女の憧憬の的、それこそ淡き慕情を抱いた特別な存在でもあった。

 再びゆっくりと立ち上がり、グルリと辺りを見回した摩李ダーナヴァ少佐の表情には、やや困惑した悲壮な影が差す。



 「ああ、如何とも御労おいたわしき事かな、斯様かよう穢苦むさくるしいしい処なぞへおわすとは、今直ぐにでもお救い申し上げますぞ。このつたなき命を捧げし殿下の忠臣、上漆位ガウリアが、今すぐ、もう間もなく御迎えに参上(つかまつ)りまする」



 その過剰なまでに装飾された口上を聞いて、瞬発的にカチンと来てしまったリトルが、ティアスとの激しい舌戦の応酬も冷めやらぬまま、今度は摩李ダーナヴァ少佐に向かって咆哮を上げる。



 「ぅ己こそ!控えるが良ぃいぞお!!この無礼者めが!ムサ苦るしゅーて悪かったな!多寡が人間如きが、余を、余を何と心得ておるのか!!!その傲岸無知さ我慢ならぬぞ、いざ目にものみ・せ・・て・・・ぐむ、むむむ・・・む」



 だが、彼女が発した咆哮の最後の部分は、するりと伸びてきた4本の手で見事に塞がれ、摩李ダーナヴァ少佐の耳に届く事はなかった。



 「これこれ、お前が出るとな、ややこしくなるのだよゥー。よしよし、大人シューしてろゥー。ハウス、よしよし、ハウスだよゥー」

 

 「そうそう、また、ほれ、乱菱縛りにでもしちゃるぞゥー。ほれほれ、()がりまくっていろゥー。ステイ、ほれほれ、ステイだよゥー」


「ぐむむむむ!むむむむむ?(お前ら誰じゃ!今の何じゃ?)もがももももももんが!(星龍を何と心得るか!)むぎゅむむももおもももも!!(今に目に物見せてくれようぞ!!)」



 事態の混乱に拍車が掛かるのを恐れた双星神は、さっさとリトルの小さな口を封じて抱きかかえると、明利のシートに確と押さえ付けて、華麗な手捌きで再び彼女の体を簀巻き状態へと仕立て上げる。



 「其処に雁首並べし、アホ面を晒したソル系SIDの愚官共よ、無駄な抵抗を止め皇太子殿下を奉じ、早々に我が軍門へ下る事を許そうぞ。さすれば五体とその命の保証はしてやろう。だが、捕虜としての扱いはそう容易たやすくは無いと思えよ、さあ、返答は如何に!!」



 大上段に構え、更に威圧を込めて【ルーミィ】のブリッジをぐるり見渡す上漆位ガウリア・摩李ダーナヴァ少佐の顔には、一際冷徹で不敵な微笑みが浮かんでいた。

 ティアスは彼女の冷めた微笑みと、発した語彙ごいに激しい心理的抵抗感を抱いたが、決定打を返せない忸怩じくじたる思いに歯噛みし、吐き捨てるように言う。



 「ばかリトルが・・・(アホ面ですか・・・それは言えてるわ)」



 まさしくその時、身動きの取れない【ルーミィ】を護衛すべく、直衛防御隊形《五芒星(テトラスタ)》フォーメーションへと移行していた《ヘルヴァ》隊の各機が、遂に防衛行動を開始した。



 「ジュリィアだょ。聞いたっショ?何それぇ、殿下だぁ?!それって良くね?よろしくねぇ?居たじゃん!極上の《ぎょく》乗ってるぅぅぅ!!ヒュー、たっ、まっ、のっ、こっ、しぃ。ヒューヒュー玉の輿ぃ!」


 「英玲奈(エレナ)でぇす。でへへへ、ハァハァやっぱ居たぁ、《(タマ)》居たぁハァハァハァ」


 「ジュリアだょ。・・・おう、《変態女王英玲奈》様の言ったとおりだにゃん。よし、よし、褒めちゃろ~」


 「え、英玲奈です。でへへへ。やったぁぁああああ!男だぁ!婿だぁ!玉の輿ぃ!略奪婚だぁ!!ハアハアハア」


 「ジュリアだょ。そっちへ喰い憑くんかぁ???」



 ライトブラウンのくるくる巻き髪を豪華絢爛なチュールリボンで結い、古代JKモデリングコスチュームを装ったジュリアのアバターが、英玲奈のフォロモニターの中で胡坐(あぐら)を組んだまま、呆れかえった表情で語りかけていた。



 「桃凛(トゥリン)っす。そうと分かりゃ、誰ぁれが宰華なんぞに渡すもんかっす!」


 「リーザ、ウキウキ。とっても楽し。《(ぎょく)》?タマ?えへへ。それって美味しぃかなぁ?」


 「マミラリアだ。ええいやかましいわ!!《相克の結界》の内部領域では、反応エネルギー兵器を始めとする通常兵器が一切使えんのだぞ。まず先に、力尽くでもいいから宰華の艦を黙らせろ。メイン料理(ディッシュ)はそれから戴くんじゃぁぁ!!!」


 「「「「ラッジャー!」っす!」でぇす!」だにゃ!」


 「お前らー、こんな時だけ息ぴったりやんかー、何でだー?」



 マミラリアのフォロモニターには、個性豊かな《ヘルヴァ》隊メンバーの各アバターが、絶体絶命のピンチを前にして、何故だか息もピッタリOTAKUな振付を踊って盛り上がっていく様子が見えていた。



 「ジュリアだょ。力ずくって言ってもにゃぁ・・・特攻(カミカゼ)でも仕掛けるつもりかにゃ?」


 「え、英玲奈でっす。隊チョー、でぇへへへへ。《MIRV-TZQrⅡ》弾頭の投擲準備完了でぇす、これ通常弾頭ないよ~、でもって《投擲》でぇす、投げ付けてアタマ搗ち割っちゃる~」



 南東天を守護して女神の如く美しき美貌を誇る英玲奈は、その神々しいまでの端正な容姿を見事に裏切る言動で、愛機「戦慄の女王(シヴァー・クィーン)」の機首を帝國艦【鳥嶺汪】へと向け始める。

 純白の翼を生やした女神の姿をモデリングしている彼女のアバターは、まだホンノリ澄ました顔をして漂っていたが、機体が突入姿勢を取った途端、眉間に皺を寄せた冷酷な表情へと豹変していた。

 英玲奈の機体は宰華帝国特命部隊の強襲に対して、実戦性能テストのために搭載していた高等呪術応用兵器《MIRV-TZQrⅡ》弾頭を直接叩き込み、強襲特殊突撃艦【鳥嶺汪】を吹き飛ばそうとスラスターを全開にして突進する。



 「ふむ、英玲奈の言うとおり、確かに《MIRV-TZQrⅡ》は高等呪術応用兵器だわな、一理ある。しかし・・・」



 英玲奈に対し、「暫し待て」と指示する心算つもりであったマミラリアの脳裏には、このミッションで初めて御披露目される高等呪術応用兵器《MIRV-TZQrⅡ》弾頭の仕様事前説明をブリィーフィングしてくれた、複合軍需企業NAT社の技術担当顧問を務めるイケメン君の顔が浮かんでいた。



 「・・・しかしホント、いいイケ男だったよねぇぇ」



 技術仕官のオフホワイトをしたユニフォームを華麗に着こなして、マミラリア達スカルメールの各小隊長に向かい、くどい程に念を押す甘いマスクをした彼の瞳には、ウットリと聞き入るマミラリアの姿が映り込んでいた。



 「これは高等呪術応用兵器の試作品なんだけどサ、優れものだよ。近接攻撃対艦防御用としてはとぉっても良く効くようにアーキテクトされているんだ。但し、決して近距離で使用してはいけないよ、僕からの絶対的なお願いサ。多重防護結界壁を形成する時に、まだ良く制御できない副作用が生じるのサ」



 【トラディスカンティア】の殺風景なブリィーフィング・フロアで、彼は《MIRV-TZQrⅡ》弾頭に対する彼女達の使用欲求をくすぐるかのように、心なしか誘惑めいた表情で囁く様に解説を続けていた。



 「そんな副作用なんかでサ、僕は君達を酷い目に合わせたくないんだよ。聡明で利口な君達ならきっと理解してくれるよね。この試作品に我が社の、そして僕達の未来が掛かっているのサ。いいね、決して近距離で使用してはいけないよ」



 はてさて、本当に心配だったのは彼女の躰か、NAT社の技術信用維持か、それとも自分の出世のためだったのか。

 彼の真意が奈辺にあったのかは解りゃしないが、「決して近距離では使うな」と殊更心配げに話す姿が妙に目に焼き付いていた。



 (こりゃ、イケメン・サブリミナルだね)



 独り悦に入り感慨深げにその妄想を、いや回想に耽っていたマミラリア機の傍を掠めて、加速してゆく英玲奈の《戦慄の女王(シヴァー・クィーン)》が、マミラリアの視界の隅を一気に過って行った。



 「あっ!こらバカ、撃つな!まてまてまて英玲奈。至近距離でぇ?!ば、バカ!使うなっちゅーとんのが解らんのかああァァァ!!」


 「あーら隊長さん?ハァハァ、さっき「力尽くでもいいから」って言ったわぁよぉぉ。はぁぁぁゾクゾクするぅ。でへへへへでもってぇ、これでも喰らえェぇぇぇ」


 「はぁぁあ?まてまてまてぃ、止めんか英玲奈のくそド変態めぇ!!」



 マミラリアのフォロモニターに浮かんだ彼女のアバターが、先ほどまで純白の翼を生やした可憐な女神の姿から、何時の間にやら黒い翼を羽搏かせた魔性の女王様へと化していた。



 「そんなあぁぁん隊長さぁん、ハァハァハァ宰華のぉ艦ぅんを「黙らせろ」って言ったのよぅ!ああぁぁ抑え切れない、この胸の高鳴る鼓動よぉおおお!!そりゃ(とお)(てき)ぃ、ポチッと、行ってら~ぁっしあ~ぃ」



 英玲奈は弾頭格納パイロンの強制解放ボタンをグッと押し込み、ランチフックをエジェクトしただけの放出状態のままメインスラスターを思い切り逆噴射にすると、慣性の付いた《MIRV-TZQrⅡ》弾頭を、勢いのまま無理矢理レールランチャーから放り出す。



 「さぁ!宰華の醜き豚共よ、私の華麗な足元でぇ、悶え苦しむがいいわぁ!その苦痛に歪んだ顔を私に得とお見せぇ、ひゃーハハははは!」


 「やめろぉおおお、英玲奈ぁ、お願いぃぃぃ女王様やめてぇぇぇぇ!!」



 マミラリアの制止も及ばず、美しき狂気の欲望と陶酔に駆られた戦慄の《変態女王》英玲奈様の機体から、一発の《MIRV-TZQrⅡ》弾頭が最も原始的な手法で投げ放たれ、古代肉食甲冑魚の様に迫り来る宰華の艦に向かって、吸い込まれるように奔り出す。

 不幸にも、見目麗しき破壊の女神と化した英玲奈様足下の標的【鳥嶺汪】は、直接【ルーミィ】を艦内に引き摺り込もうと、全長の4割にも及ぶセンター・ウエル・ドックの開口部から伸ばした巨大な捕獲アーム群を広げ、拉致を目論む悪漢、いや変質者の如くルーミィの喉元近くへ不気味に迫っていた。

 そして、星々の光を反射して虚空を滑る《MIRV-TZQrⅡ》弾頭に、英玲奈の絶叫が追い縋る。



 「はぁぁあああ、私は戦慄の英玲奈女王様よぅ!ひゃーハハははは。宰華の雑兵よ、そこへ跪くが善い、さぁ許しを請うが善いわぁ、そして背屈ばって私の靴をお舐めぇぇぇ!傲岸無知な宰華の変態豚魚類共め!宇宙の塵芥(ちりあくた)と化すがいいわぁあ~っハハハハハハハハ」


 「マミラリアだ!変態は英玲奈、お前の方じゃぁい!」


 「ハハハハ~はぁ?隊長・・・???・・・あーっハハハハハハハハハハ、ヒャ~ッハははは」



 マミラリアの絶望に満ちた絶叫が空しく響く中、投射瞬間の絶頂に浸り切った戦慄の女王、英玲奈様の快感に溺れた大胆不敵で官能的な甲高い嘲笑が何時までも続いていた。

 【鳥嶺汪】の舷側鼻先目掛けて放たれた《MIRV-TZQrⅡ》弾頭ミサイルの多弾頭弾は、英玲奈の甲高い嘲笑に乗せ花火を散らすように一斉に拡散しながら次々と炸裂を始める。

 弾頭から立て続けに弾き出された白磁色の《多層胎蔵界結界》が出現し、狭い密度でバタバタと多重密積層域を形成しつつ急速に積み上がると、次の瞬間【鳥嶺汪】の艦体自体から大鐘楼を連打する様な鈍く巨大な衝撃波が、強烈な勢いで次々と放出されて行った。



 「マミラリアだ。す、すごい威力だなぁ、こんなの定域重力子弾頭以上の破壊りょ・おぁ!・・だっあ!あぁ、ぁぁ、ぁ!痛っ!な、何だぁこの振動と、いて、いててててて!痛いぞ、こりゃ何だ!」


 《相克の結界》と《多階層胎蔵界結界》による呪力統制空間振動干渉力場が発生させた強力な決壊励起振動波が、津波となって《ヘルヴァ》隊の各機と【ルーミィ】に襲い掛かる。

 そして【鳥嶺汪】の艦体外部装甲全体を激しい衝撃が一気に貫き、その強烈な決壊励起振動波と共に【鳥嶺汪】の暗赤色に彩られた艦体は、凄まじいまでの勢いで虚空の彼方へと弾き飛ばされて行ったのである。



 「ぐぉぉぉぉぉおおおお!何だ!この衝撃波は、一体何が起こったのだ!」



 《多階層胎蔵界結界》の形成威力によって強引に弾き飛ばされた【鳥嶺汪】のブリッジでは、摩李ダーナヴァ少佐が、突如予期せぬ強力な横殴りの衝撃波に身体を吹き飛ばされ、続けて襲い来る激しい決壊励起振動波に幾度ともなくブリッジの床に叩き付けられながらも、状況を把握しようと必死にもがいていた。



 「し、少佐ぁ!!艦首からセンター・ウェル付近の局所部に、高密度多階層結界反応の急速展開領域を確認しましたぁ!うぉぉおおおお!《相克の結界》と相反した異常な呪術統制力場が積層形成されたため本艦は制御不能、制御不能です。艦体維持できません、弾かれ、弾かれて行きまぁぁぁぁすぅぅ!だぁあああああああぁぁぁ!!」



 四方へ投げ飛ばされ、悲壮な声で喚き続ける副長の報告を受けながら、床に突っ伏したままの姿で呆然とする摩李ダーナヴァ少佐は、帝國の希求してまれぬ【美怜亮徳明利殿下】と、【星銀小玉龍ルーミィ】の存在を、彼女の掌の上に掴み獲ろうとした当にその寸前、一瞬にして射干玉ぬばたまの如き常闇の中へと逃してしまった絶望感に苛まれる。


 床に這いつくばった哀れな姿を晒しながらも、辛うじて振り仰ぎ見上げた彼女の視線の先には、白磁色の《多層胎蔵界結界》を展開しつつ遠ざかって行く【星銀小玉龍ルーミィ】の煌めく姿がフォロスクリーンに投影されていた。

 真白きジョーゼットを纏ったかのように、《多層胎蔵界結界》のほの白く淡い光に包まれた美しいその姿を睨み付けて、彼女は艶っぽい唇から呻くように慙愧ざんきの念をこぼす。



 「ううう・・・美怜亮徳明利殿下、ああ明利殿下、この摩李の不甲斐なき事誠に申し訳ございませぬ。今少しご辛抱下さいませ、必ず、必ずや御身の招請と帝国への御帰還を奉り、その玉座へと戴かせるはこの私、この私の手で、何としても果たさせて頂きましょうぞぉぉぉおおおお!」



 摩李ダーナヴァ少佐は俯いたまま悔恨の言葉を吐き続け、涙を滲ませ嗚咽を上げる。



 「ぬぅああぁぁぁ!もっ、申し訳ございませぬぅ、従肆位伐沙羅大将閣下!おっ、お許しあれ美怜皇帝陛下!のおおおうぅぅぅぅッ、しく、しく」



 床に突っ伏したまま固く握った拳を連打し、き続ける彼女の背中へ向けて、オペレーターが刻々と悪化する艦内状況報告を浴びせ続ける。



 「【緊急・告】右舷上部防御護法陣第Ⅲ層まで破砕。外装梗塞祁5祁中4祁まで大量出血で沈黙、1祁だけでは慣性制御コントロール不能」


 「【緊急・告】外殻崩壊許容レベル超過、艦核柱コア領域隔壁緊急閉鎖」


 「【至急】先ほど受けた積層結界衝撃による、センター・ウェルの開口部制御系ユニット爆散に伴うダメージ・コントロール・レベル、最上級クリムゾン・レッド・クラス確定」


 「【至急】艦体制御フォローアップ46%維持を確保、自力航行には支障なし」


 「【告】されど駆動系にも重大な影響を懸念す。追撃は如何や」


 「クッ!!もうよいわ!!艦体姿勢制御と緊急修復に全力を挙げよ!」



 強力なダメージを受け、辛うじて圧潰自沈を免れた【鳥嶺汪】の損害状況は、時と共にその深刻さを増してゆくのであろう、既に【鳥嶺汪】は追撃を許せる状況では無かった。



 「己ぇ!《天翔ける乙女セイレーズ》共め、【星銀小玉龍ルーミィ】よ覚えておくが良い。復讐こそ我が命題と知ったぞ。この屈辱、この仇は必ず取らせてもらおう、何れこの手で八つ裂きにしてくれるわぁぁぁぁぁ!!」



 凶念の内に残念した、摩李ダーナヴァ少佐の乗る瀕死の強襲特殊突撃艦【鳥嶺汪】は、彼女が進み征く野望の階段への手掛かりをあと一歩とした処で、遥かな漆黒の虚空へ向かってコントロールを失ったまま弾き飛ばされ遠ざかって行った。

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