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7 コンヴァージェンス・ジェネシス 7

 「しっかし、これは酷いぞゥー、ほら、リトルゥー。明利のどてっぱに風穴空いてるぞゥー。ぷぷぷっ、しかも3つも、こりゃ酷でーぇよゥー」


 「テミア笑い事ではないぞ、レベル5で重度の内臓損傷を受けて良くも此処まで持ち堪えたものだ。このような手傷を負わせおって、己ぇいあの醜き虫けら共の所業、真っこと許せん」



 リトルは持って行き場の無い怒りを持て余すように、ジロリとテミアを睨み付ける。



 「だが、この凍結結界呪幇の施術は適切であったぞ。(およ)そ人類の手に為るものにしては、まあまあ上等な出来栄え、いや、(むし)ろ見事なものだ評価するに値うぞ。ふん、この者の命を繋いでくれた輩に礼を言わねばならぬな」


 「それ程凄いのかにゃゥー」


 「ああそうだ、それにしても施術駆式の一部に、何処となく引っ掛かる癖があるがな」



 皮肉を言う心算(つもり)だったリトルだが、その施術の完璧さを見取ったのか、それはそれで不思議な程に感心しきっていた。



 「しかしだ、明利の躰内に潜伏している、呪詛帯残滓の侵蝕程度が気にかかるな。このままでは見事な憑依体となるやもしれぬぞ」


 「にゃにおゥー?ソレって明利がゾンビるってことゥー?いゃだよゥー!うっぎゃー!《瓜畑、瓜畑》だ!うっぎゃー!」


 「テミア、お前さんもしちっこいのぅ?余の時と云い、お前さんら双星神(アシュヴィン)はそこから、そのスプラッタる所から、いい加減離れられんのんかぁ?」



 騒然と喚いていたテミアの顔色が、一瞬白けた様子になったかと思うと、膨れっ面をしたリトルの顔を逆に繁々と覗き込み、嫌味を籠めて反撃に転じる。



 「ホホウ・・・いゃ、いや、こりゃどぅもお忘れの御様子で?ついさっきまでよゥー、リトルもそうだったじゃねぇ?じゃねぇ?」


 「ゲヒョ、其れはだのぉ・・・ウオッ、ゴホン。いやいや、因みにテミア《瓜畑》はちごうておるぞ、《桑原、桑原》と謂うのじゃヨ」


 「へぇ・・・それって誤魔化しちゃったりしてるのゥー?リトルの性格領域が、アップリフトしちゃってるぞゥー?」


 「ググッ、おのれぃ!誤魔化してなど居らぬ・・・さて置きだ、ゾンビる前に後程ゆっくりと細胞レベルの隅々に至るまで、完全焼滅除去してやるとしようかの、一先ずはこれでよし・・・と。では問題のアルの方だが・・・」



 鋭い指摘を放って狐疑の眼差しを向けるテミアを完全無視し、一段と声を低くしたリトルは、メディカルポッドに(もた)れ掛り気を失っているアリュナールの前に立ち、まばたき一つせずジッと冷たく彼女を見降ろす。



 「問題って?・・・気を失って寝ちゃってるよゥー。でも、いい顔だよゥー。バイタルサインも確りだし、そりゃ多少出血してっけどゥー、アルに何か問題あるのゥー?問題あるって言ったよねぇ、ねぇねぇ、何よゥー怖い顔して、どしたの?リトルゥー?」


 「ああ、そう言ったとも。アルの方が、問題有り過ぎの様だぞ」



 心配そうなテミアの問いを無視し、アリュナールを凝視し続けているリトルは一層険しい表情を浮かべ、そして何時もと違ってそれを崩そうとはしなかった。



 「フン、こちらはそう簡単なものでもないな。難儀な事よ、何か変なモノを・・・ほぅ《鬼神》か《憑神》の類の様だが?やれやれ、これはまた厄介な《遺物》を背負い込んで来てしまったものだ」



 全身全霊の力を出し切り、疲れ果て、気を失ったまま横たわるアリュナールの顔をマジマジと覗き込みながら、リトルは困り顔をして文句を呟き続ける。



 「まぁ、余の手に余るモノでもなかろう。取り敢えずは、傷口の止血と再生処置でもしてと・・・その辺にでも転がして置くが善かろう、暫くは様子を見るとするしかあるまいよ」



 そう乱暴には言いながら、甲斐甲斐しくも早卒(そそくさ)とアリュナールの応急処置を始めたリトルは、血に染まったタクティカルスーツを彼女の躰からそっと脱がして行く。

 傷だらけとなった手足だけでなく、彼女の側腹部や、肩、太ももの関節付近の皮膚は至る所で紫色に腫れ上がり、所々裂けて出血していた。

 彼女が纏っていたタクティカルスーツは、二人の命を繋いだハーネスのベルトが彼女の柔肉に食い込むのを辛うじて防護しており、強い力で圧擦され引き裂かれたように開いた傷口は、凄まじき彼女の苦闘を物語っていた。



 「良っく頑張りました。凄い女性(ひと)だよアルゥー。大したもんだよゥー、アリュナール」



 テミアは溢れ出そうとする涙をグッと(こら)えて、アリュナールの裂けた傷口へ次々とバイオリミックセル再生促進パッドを貼りながら、吐息を立てて静かに眠る彼女の頬をそっと優しく撫で付ける。

 その側らで不機嫌そうに眉を顰めたリトルが、アリュナールへの回復解犎印処置を始めていた。



 「ええい!何だ?この《憑神》の、この複雑でマニアックな多元連動犎程式は何だ?こんがらかって面倒な事になっておるぞ。フム、フム、後でゆっくり韻素解析祈祷祓いして、余の下へと(いぶ)り出すべく天素召喚してやるとしよう。したがテミアよ案ずるでない、後は全て余に任せるが良いぞ。うっふフフフ」


 「あらららら?リトルゥー、まぁた善からぬ事を企んでんじゃないのゥー?今に酷い目に逢うからよゥー、しっらないぞおゥー!!」


 「な~に、気に病むでないぞ。ははは、余を苦しめるもの等と、そうそう在り得るモノでは無いわ」


 「はいはい、今の話4分の1聞いときましょゥー」

 


 したり顔をするリトルを(たしな)めてみたつもりのテミアであったが、それでもリトルの行動に一抹の不安を抱いていた。

 一方ブリッジでは、二人の治療措置状況についてメディカル・ルームからの報せを受けたティアスが、静かな口調でオペレーションの最終段階への移行を宣誓する。



 「ご苦労だった、リトル、テミア。取り敢えず2人が無事ならばそれでいい。これより《オペレーション・ウィルトートス》ターミナル・フェイズに移行し、本艦は【香粋(かすい)】からの脱出を開始する」



 アリュナールと明利の回収に成功した【ルーミィ】は、高念度呪詛帯が生じさせる瘴気渦巻く【香忰】の大気の中を一気に加速上昇し、(ほとばし)る航跡と爆音を上げながら大気圏を抜けて急速離脱を図る。

 ティアスはキャプテンシートで仁王立ちをしたまま、前方に組み上がり拡がって行く不気味な、【ヴァレダ】の超巨大呪詛帯樹状クラスターを睨み続けていた。



 「エクサ・クラスのこんな驚異的な超古代文明の遺産が、まだ宇宙に活き残っているとはな。厄介なものだ」



 珍しく不安げに呟くティアスを横目に、伽罹那は多重操艦フォロシステムの中でゆっくりと舞い続け、艦体姿勢を調整しながら【香忰】重力圏から離脱するため最後の仕上げを始める。



 「ラジャー。ティア、脱出速度V1到達です。大気圏内スラスト・ラムジェット・エンジン、スクラムドライブ稼働停止。全気圏内稼働システムリンク閉鎖し、リヴュス反応炉制御キングステン・フル・エジェクト・キープ。機関臨界突破!これより全動力システム、リヴュス機関への伝達移相置換完了でぃ」



 彼女は両腕を大きく振り被り、続けて一言呟くと【香粋】重力圏から脱出すべく操艦に集中し始めた。



 「明利のサブ・アシストも意外と良かったりしてなぁー、ふん!心配掛けやがって早いとこ回復しろってんだ!」


 「伽罹那ぁ、シューチュゥー。前方に障害物が多少ある、有るですゥー。でもってぇ、前方進宙域の重力変動領域が僅かに安定してるんでぇ、チャンスは今だよゥー」


 「ラジャーでぃラミア。っしゃあ!!メイン・エンジン出力全開、両舷フルスラストGO!4・3・2・1、V2到達。惑星重力圏を離脱しますぜぃ、ヨ~ソロー」



 一段と加速してゆく【ルーミィ】の後方には、僅かに小さく輝いた【ルヴァージュ】の小型巡航艇が、ぴったりと寄り添って飛翔を続けていた。

 【ルーミィ】を追尾する、その小型巡航艇コクピットに居たサミュエルは、全天フォロビジョンの外郭いっぱいに覆い尽くすように映し出され、刻々と不気味な変化を見せる【香忰=ヴァレダ】の異様な姿を、暫くの間恐怖に声を失って凝視し続けていた。

 それでも彼は努めて冷静さを保つと、コンソール・フォロビジョン上で点滅を繰り返している航法支援Ai-01からの脱出指示プランへと、ゆっくり視線を移す。



 《先行艦の航行ルートをこのまま追尾しつつ【香忰】を離脱。8ミュィント後に進路を変更し第五化楽天ニェルマーナ・ラーナティ星系極北天軌道宙域にある、休眠中のゾディアック・ポータル・ゲート【サジタリウス13】へ突入せよ》



 フォロビジョン映像の遠く前方には、蒼白銀色に輝くルーミィの流麗な姿を捉えていた。



 「航法支援Ai-01め、大したものだな。まるでこの状況を予知していたかのような感がする」



 サミュエルは、感慨深げに微かに震える手を認証飛晶球面へと翳して、一先ず航行ルートを【ルーミィ】の追跡モードへと書き換える。

 一瞬ふと彼は、何故かしら湧き起こった理屈では捉えられないその奇妙な昂揚感(こうようかん)に、酷く葛藤を覚えながらも再び冷静さを装い、敢えて無表情に首を振る。



 「俺には、未来が何処にあるのかは知らん。世界を如何したいのかも判らん。だが、そうか、俺を誘うというのか?神々しくも麗しき蒼白銀色に輝く他世界のフネよ。そうだな、これから人類銀河世界の行く末と、その至るべき姿を、征くがままに見せてもらうとしよう」



 その頃、【香忰=ヴァレダ】の地表にて【鎮める神殿レセプター】と融合したリディス少佐の瞳には、【香粋=ヴァレダ】を脱出し遥天空を遠ざかって行く二筋に延びた宙航艦の航跡が、微かに小さく映り込んでいた。

 先行する【ルーミィ】を追って、サミュエルの乗ったであろう小型巡航艇が飛び去ってゆく姿を見届けたリディスは、身体機能の(ほぼ)全てを呪詛帯【ヴィオラディ・テグラ】の意思に支配されながらも【ヴァレダ】の復活阻止を目論み、次第に消え去りゆく朧げな意識の中で【香忰】の低軌道上に配置した【ルヴァージュ】の辺縁系ユニットを【鎮める神殿レセプター】へと落下させるべく、自らに課した最後の使命を果たそうとしていた。

 放散して行く【香忰】の大気圏へと突入を開始した【ルヴァージュ】の辺縁系推進ユニットは、予めセットされていたコマンドを忠実に履行する為、リディスの発する生体ビーコンを目指し、希薄となった大気との摩擦で巻き起こる雷鳴の如き轟音と、(まばゆ)き閃光を引き連れながら彼女の頭上を(さえぎ)るように天空一面を覆う。



 (何と荘厳で美しい光景なのかしら。・・・今日までの私にお別れを。また逢いましょう、サミュエル。そして、親愛なるアルテミアと・・・愛しい明・・・利・・・)



 彼女の瞳から零れ落ちた一滴の涙は、落下する【ルヴァージュ】によって生じた陽炎の揺らめきに吹き荒ぶ爆風の中で、決して地上へ触れる事無く彼女の躰と共に儚くも蒸発し消え去って行った。


 大気との摩擦熱により、神々しいまでに光り輝いた【ルヴァージュ】の艦体は、【香忰=ヴァレダ】に激突すると、【鎮める神殿レセプター】を巻き込んで、巨大な衝撃波の圧壁と膨大な熱量を一気に開放する。

 その莫大なエネルギー放出は、【ヴァレダ】の【鎮める神殿レセプター】と融合した超巨大呪詛帯樹状クラスター基幹部と、大陸南部を含む惑星の表面を一瞬で吹き飛ばして、惑星崩壊衝撃クラスの超絶な激突インパクトを発生させた。


 そして【香忰】は怯え、激しく振動する。


 賦活化を始めていた【ヴァレダ】の胚は、神の鉄槌の如き膨大なエネルギー放出と共に一瞬で蒸発し、蘇生を司り指令的役割を持っていたクラスター中枢部を巻き込み消滅した。

 果たせるかな、リディスの思惑通りに中枢部を破壊された【ヴァレダ】は、次第に表皮が剥がれ落ちて脆くも崩壊を始めるが、それに反して【香忰】全体に分解再組成を促す程の蘇生力を励起させていた【ヴァレダ】の周辺部は、崩壊した部分を再び補い、無秩序且つ加速度的に暴走を続け増殖して行ったのである。



 「何と言う事だ、制圧予定調和には無い展開だぞ。【レゾリュート】に至急連携しろ」


 「【報告】リフレクター艦の配置に、大きな乱れが生じています。制圧ポジション崩壊しました」


 「【連携報告】異常な空間歪曲場により、【レゾリュート】との情報連携不能です」


 「こんな目と鼻の先でか?これより《デフコン5》を発動する。艦隊防衛、緊急強行制圧D-03支援打撃開始、全砲門開け!」



 成長しながら不気味に蠢く【ヴァレダ】を眼下に捉え、太古の魔物を自らの意思の下に組み伏せて、烏滸おこがましくも、人類の手により制御すべく【香粋】軌道上に展開していたアディリア連合星系【ヴァレダ】制御艦隊もまた、その古の魔物の成長と崩壊のうねりの渦中に抗う事さえも敵わず、次々と引き寄せられ巻き込まれ始めていた。



 「【報告】リフレクター制御第18番艦爆沈しました、打撃観測効果は測定不能です」


 「【連携報告】続けて、第17、26、32番艦も刺胞状構造物体により攻撃を受けています」


 「【報告】予定調和領域を遥かに超える数億倍のエネルギーが惑星軌道宙域に放散されており、なおも増大中です」


 「【連携報告】制圧ポジション再編不能です」



 第1遊撃機動部隊【ヴァレダ】制御艦隊護衛高速戦列艦【アフェーリオン】並び【オランジューリオン】は、対【ヴァレダ】リフレクター制御搭載艦隊を必死に防衛し続けていたが、直衛ラインのコントロールを放棄し、既に陣形さえもを持ち堪える事が出来なくなっていた。

 守るべき【ヴァレダ】リフレクター制御搭載各艦は、急激にポテンシャルを変動させ始めた【ヴァレダ】の圧倒的威力を前にして、各々のコントロールポジションを維持する事さえも儘ならず、【ヴァレダ】賦活化儀式の生贄として弄ばれるように次々と砕かれ、破壊されて行く。



 「これではまるで話にならん、作戦は失敗だ!戦術支援Ai-01、02、【レゾリュート】のモディ艦隊司令に撤収推奨を連携し続けろ。このままでは、我々も全滅するぞ」



 【アフェーリオン】のブリッジに艦長の声が響くなか、【ヴァレダ】の巨大な攻撃刺胞の咢が制御艦隊の残存各艦を捉え、一斉に牙を剥いて襲い掛かって来た。

 次々と【ヴァレダ】から放たれる刺胞攻撃を受け、為す術もなく爆散してゆく艦隊の姿を映しながら、その混乱の中で【アフェーリオン】の軌道制圧艦隊基幹制御部に属していた観測オペレーションAi群の一つが、【香忰】から急速に離脱して行くサミュエルの乗った小型巡航艇の姿を辛うじて捉えていた。



 「【報告】【ルヴァージュ】の脱出艇と推測されるリヴュス反応炉周期振動航跡固有波パターンを確認しました。しかし、救難信号の発信等は認められません」



 一際、強烈な放射光が鋭い輝きで虚空を照らし【アフェーリオン】のブリッジを白く染める。

 それは、僚艦【オランジューリオン】の爆散を告げていた。



 「【報告】【オランジュリーオン】が爆沈しました」


 「くそ!【オランジューリオン】が沈んだぞ、今はそれどころではない、そんなものになぞ構っていられるか。こちらもリフレクター制御各艦に緊急離脱するよう推奨する。この場から逃げろ!我々も巻き込まれ・・・」



 【アフェーリオン】艦長の最後の言葉は、先ほど僚艦を包んだものと同じく真っ白な輝きの中へと静かに溶け込んで行った。

 サミュエルの脱出用小型巡航艇を発見しながらも、その情報を【レゾリュート】に伝える間もなく、軌道上に展開していた第1遊撃機動部隊【香忰】軌道制圧艦隊と【ヴァレダ】制御艦隊は、次々と砕かれ四散してゆく。

 そして、運命の星輪は廻り始め、彼の足取りを消し去るかのように過去のくびきから解き放たれた「サミュエル・イスファルト」が最後に留めた痕跡は、ここ惑星【香忰】の崩壊と共に永遠に潰える事になった。



 「ティア、何か《ちっぱい》のンが1個、直ぐ後ろにピっタリ引っ付いて来てるよ?【ルヴァージュ】の追撃艇にしちゃ、ちょっとトロ過ぎるけどゥー、念のため迎撃しとくゥー?一本撃っとくゥー?」


 「いや、そ奴は放って置いてやるが良い。どうやら我々を攻撃する意思は無いようだ、そのまま逃がしてやるが良かろうよ」



 明利とアリュナールの応急治療を一先ず終えたリトルが、ブリッジに戻って来るなり思わせ振りに首を振りながらラミアに答えた。



 「それよりだ。伽罹那よ、グズグズしておるとこのままでは呪詛帯樹状クラスター空間に、再び閉じ込められる事になるぞ!」


 「チっキショウめ。今やってる、愚図ぐすしてない!閉じ込められない!」



 伽罹那の操艦により、脱出を企てる【ルーミィ】の前方では、北天宇宙空間を遮る様に流れるオービタルリングと、急速に崩壊する【香粋】本星の双方向から、急速に伸びて迫り来る呪詛帯樹状クラスター群によって、周囲の空間が急速に塞がれ始めていた。



 「さぁ!遂に出番が来たわよぉリトル?あれよ、あれの出番よ!星銀龍騎【燦の型レギュオン・ソード】だっけ?あれ、も一回やってくれないかなぁ?」


 「いょーっ!待ってましたよゥー。やんや、やんや!」



 ティアスはリトルへ懇願する様に悪戯っぽい笑顔を見せると、きらきらを瞳に一杯鏤めた視線を彼女へと送り、ラミアもそれに乗って囃し立てる。



 「私、見たいのよねー、是非お願い!」



 リトルに向けられたティアスの片目が、急かす様にパチリとウィンクする。



 「フン!愚か者めが。随分と身勝手なことを抜かすではないか?フフン、ティアスの達っての頼みとあらば致し方有るまいなぁ。フフフン、まぁ良いわ、どれ、新しい型でも試すとしようかのう。フフフん、確と観て居るが良い」



 嫌々ながら、満更でもなさそうな表情を湛えたリトルが、頻りに鼻を鳴らして答える。



 「さあ、やぁーっておしまいなさいっ!」


 「「「えっ?おゥー?はぁ?」」」



 今のはティアスの私的懇願なのか、将又(はたまた)業務命令だったのか、判別も付かないままに、リトルはブリッジの中央に悠然と構え、再び低く腰を落とした可憐な姿で「居合抜き」のポーズを取る。



 「ふウォォォーーー!!斬撃相対撃滅戦闘用意ぃ。コぅうォォぉぉぉーーー!!」



 続いて彼女は静かに目を閉じ一息大きく気を吐くと、四条に伸び行くセカンダリーブラスターの眩いエネルギーの奔流が、一斉に舷側からほとばしる。

 その荘厳に光り輝くエネルギーラインの刀剣を、螺旋状にぐっと寄せ合い一気に収束させて、見事な二振りの斬撃剣として鍛錬させた次の瞬間、リトルが叫ぶ。



 「再び披露しよう。【星銀龍騎武蔵双天夢幻の型、(インフィニティ)レギュオン・ソード】をここに成す。醜き俗物よ、余の前にて華麗に散り、美しく裂けるが良い!ディヤァァァァァ!斬ッ!!」



 前回に比し一段と気迫を込めたリトルは、交互に構えた両の手刀を解き、右手を一気に上段へと振り翳すと、今度は左手を逆に返す刀で優雅な軌跡を描きながら下段へとぐっと湾曲させ、宙を斬り戻して(インフィニティ)の型を顕わし【ヴァレダ】に向かって斬り付ける。

 そのリトルの優雅な拳舞に合わせ、長大な高出力荷電粒子エネルギー奔流のサーベルと化した二振りの【レギュオン・ソード】が、周囲の空間を切り裂くように巨大な(インフィニティ)の破壊流を描いて、呪詛帯樹状クラスターを次々とえぐり取り薙ぎ払って行った。



 「こぅれよぉぉお!!うぅーんこれこれぇえ!デリィシャスゥ!!」


 「やっぱお見事リトルゥー。超古代兵器なーんか一撃粉砕だよゥー!やんや、やんや、宇宙一ィ!」


 「うぉお、すっげぇな、機動要塞艦並みの破壊力だぜ。やーっぱ、《何とかと鋏は遣い様》だぜぃ」


 「すっごく恰好いいわぁよぉ、惚れ惚れしちゃう!ご立派、ご立派!リトル姉さま!古き倭圀のサムライ万~歳!よぉ!大将!!」



 再びティアス達は、十分嫌味の籠った感嘆の褒め言葉を並べたて、伽罹那もオマケで追加の皮肉を入れる。


 

 「お陰で、のんびり脱出できるっもんでぃ。そうだなぁ、《〇〇も煽てりゃ、軌道シャフト(木)にだっても昇る》って謂わなかったっけかぁ?」



 「フフン!愚か者どもめ、如何かな?しかし・・・今度もまた、つまらぬものを斬っちゃったぞ」



 片膝を着いて口元をニヤリと歪ませ、ポツリと呟いたリトルの言葉が終わらぬ間に、遥か後方【香粋】の地上から、巨大な閃光が急速に煌めくと周辺宙域を煌々と照らし出した。



 「ティア!!【香粋かすい】の低軌道上にあった【ルヴァージュ】の残りカスが、アル達の居た神殿跡目掛けて落下しちゃったぞゥー!」



 ラミアの動揺する声と共に【ルーミィ】の艦体を揺るがせて、一刃やいばの様な衝撃波が、「ズン」と突き抜けて行った。



 「リヴュス反応炉の解放と、巨大質量衝突による惑星崩壊規模のエネルギーの放出だ。まるでリディス少佐の呪怨が放ったかの如き一撃だな。これでは【ヴァレダ】もタダでは済むまい、少なからず組成にも影響を与えるはずだ」



 ティアスには、【香忰】の地表に幾重にも咲き誇る強大な破壊の業火が、荘厳なレクイエムを奏でる衝撃波に載せて、リディス少佐への葬送の手向けし献花とでも映っていたのだろうか、その虚ろい行く花弁の輝きを一時の間、感慨深げに眺めやっていた。


 そして、【ルヴァージュ】の辺縁系ユニットが生じさせた落下衝突の放射エネルギー光は、【ルーミィ】と共にサミュエルの乗った小型巡航艇の姿をも煌々と照らし出す。

 先ほど突き抜けて行った惑星衝突による衝撃波を遣り過して、木の葉の様に揺り動かされた小型巡航艇は、【ルーミィ】の気合を込めた【(インフィニティ)・ レギュオン・ソード】の斬撃により、千切れ跳んだ呪詛帯樹状クラスターの破片を避け、【ルーミィ】を必死に追尾し脱出を続けていた。



 「よし、何とか持ちこたえたぞ。8ミュィント経過したな、では往くとするか」



 サミュエルは航路管制Ai-00に誘導されるがまま、再び操船飛晶球の上に静かに手を翳すと、小型巡航艇の進路を大きく変針させて【ルーミィ】の航跡から静かに離脱して行く。

 遥後方を振り返ったサミュエルの目には、己の運命を大きく変える事になった、惑星【香忰】の表層に大輪となって咲き乱れる巨大質量エネルギー放出の閃光と、散り散りと崩れ去りながら《薔薇星雲》にも似た形容へと、刻々と変貌を遂げる禍々しい【ヴァレダ】の醜悪なる姿が深く刻み込まれていた。

 睡蓮の大輪となって咲き誇る強烈な破壊が齎す閃光の下で、リディス少佐は何を見、何を語りたかったのだろうか、何時かはその答えを知りたいものだとサミュエルは儚げに思う。



 「去らばです。リディス・メルヴィス・・・」


 

 やがて軌道を横切り遠ざかってゆく【ルーミィ】の曳いた虹色の航跡が、【香忰=ヴァレダ】の上へと重なり、醜悪なる姿をその美しき虹色のヴェールの彼方へと覆い隠す。

 彼の向かう先には、既に使われなくなって久しい極小サイズの古きゾディアック・ポータル・ゲート【サジタリウス13】が、彼を異なる未来へと誘うかの様にひっそりと活性化を始め、固く閉ざしていた扉を解き放っていた。

 迷う事無く、一気にタキシング・ゲートへと飛び込んで征くサミュエルは、自分に言い聞かせてもいるかの様に、感慨深げに独り呟く。



 「また逢おう・・・必ずな」



 過去を捨て去り自らを縛る全てのくびきを外し、GUOO汎銀河統一機構の所在する【プレ・ウ・ロカプサ】星系へと向けて、二度と辿る事無き道を彼は全てを消去し出奔した。

 果たして、その先で彼の運命を待ち受けるものは、《茫漠たる星間文明興亡の傍観者としての役回りを演じる道化》であるのか、それとも《彼自身とこの世界を破滅へと導こうとする魔女との邂逅》であるのか。

 何れにせよ、何かを背負わされるがために生かされた自分と、これから先も広大無辺な虚無空間を渡り往くであろう自らの宿命には、何も変わりは無い事を、煌々と輝く銀河の星々は彼にそっと語りかけているかのようだった。


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