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7 コンヴァージェンス・ジェネシス 2

 その頃【ルーミィ】のブリッジでは、テミアが早期警戒管制フォロコンソールのアプリケーションエリア一杯に拡がった、3D表示の「物体」を喰い入る様に見入りながら、くぐもった声で唸っていた。



 「ティア、前方5,320メルティ。何ンじゃいこりゃー、何だか巨大な蔦もの出来てるぞゥー。中央のでっけーの直径約2,200メルティ、高度は【香忰かすい】エクソスフィア近辺まで到達し、惑星圏火角結界接続子に結合して更に成長中だぞゥー。んでもってぇ同じの、蔓みたいな物体が、次から次へと絡まって地表下層付近からグングン湧き上がって来とるぞゥー」



 【ルーミィ】は今、明利メイリとアリュナールを回収する為【鎮める神殿レセプター】付近の空域に到達していた。

 囮の【ヴィオラディ・シグラ】に誘き出された【香忰】の遥か北方洋上から颯爽と弾道飛行を行い、この地へと辿り着いてはみたものの時既に遅く、取り逃がしていた【ヴィオラディ・シグラ】と喰い合い融合を果たした【ヴィオラディ・テグラ】による呪詛帯樹状クラスターの形成過程を目の当たりにしていたのであった。

 ティアス達の眼前では、樹塊群の木々を取り込み幾筋にも分かれ放物線状の様態に変化した呪詛帯が絡み合いながら、南半球の天空に向かって時計回りにコリオリ渦を巻くように、巨大なハリケーンの如く膨れ上がって行く壮絶な状況が展開されていた。

 そして、酷く巨大な刺胞生命体が思い上がって星々を掴み取ろうとでもするかのように、天空に向けて触手を伸ばし続け、超高層雷放電を纏いながら立ち昇る幾筋もの青黒い樹枝を伴って次々と幹をもたげる。


 次々と増殖する小さな呪詛帯の群体はそれに呼応して、一斉に群れを成して樹状枝の周囲に付着し、融合を繰り返しながらクラスターの躯体を一気に表面境界外気圏(SEB)の外へと押し上げ、途轍もなく巨大な主幹部を形成し始めていた。



 「何だ?この異様な物体は。惑星自体を飲み込むつもり・・・いや、この星自体の組成を再構成し、異質な別なものへと変成させているとでも云うのか!?」



 不気味な青黒い樹状触手が追いすがる様に宇宙空間へと伸び上がっていく姿は、星々を我が物と欲するかのように悍ましく、喰らおうとでもする醜悪なる食虫植物の食胞にも観える。

 ティアスは、キャプテンシートから身を乗り出すように全天フォロビジョンへ目を向け、刻々と変化して行くその異様な光景を前にして絶句していた。



 「クソッ・・・テミア、アルと明利から送られていたランデブー・ポイントの座標はまだ確認出来ないのか!」


 「うーん、うぇえええん、分かんなくなっちゃったよゥー。多分、あの中だよゥー」



 テミアも鬼気迫る壮絶な光景を眼前にして息を飲み、素子構成物質の急激な変化に伴い惑星上の正確な座標も不確定となった今、予想に任せたままゆらりと腕を伸ばして前方の異様な空間を指差す外なかった。

 何故なら、明利とアリュナールが送信して来たランデブーポイントは、既に、眼前の一際巨大な呪詛帯樹状クラスター基幹部へと空間ごと飲み込まれ覆い尽くされてしまっていたのである。



 「大丈夫だ、まだ反応が、在る。そいつの、中には意外と広い、空間が、残っている、筈だ。重力振動、エフェクトで、アクティブ、サーチしてみるが、善いぞ」



 漸く簀巻きになった無様な姿から解放されて、明利のサポートシートにちゃっかり収まっていたリトルは、ゆっくりと落ち着いた様子で諭すように告げた。



 「はハァ!!リトル先生大正解っだよゥー!根っこの中央部辺りから、サテライトプローブNo.22が微弱ですけどゥー単一指向性信号の発信をキャッチ。これ、絶ぇっ対アルと明利だよゥー」



 テミアが頬に僅かな赤みを差し、弾けんばかりの晴れ晴れとした笑顔を振り撒き応えると、それに呼応して間髪入れずティアスが吠える様に指示を飛ばした。



 「よーしラミアァ!セカンダリー・ブラスター犎雷撃戦用意、最大出力斉射三連!あの化け物のドテッ腹に風穴開けて突入するぞ!!伽罹那カリナぁ、強行突破だ!行けるか!!」


 「ラジャー!絶好調でぇい、何時でも行けるよ!!」



 多重操環円フォログラムステージの中で、凛々しく敢然と構えた伽罹那が一際威勢よく雄叫びを上げて答えると、火器管制自動追尾システムのポインターが奔るフォロスコープを睨み付けていたラミアが、ロック完了のサインが鳴るのを待っていた。



 「ティア。セカンダリー・ブラスター、照準本艦軸線上乗りますゥー。犎雷撃戦最大出力斉射三連準備完了ゥー」


 「よし、ぇえい!!」


 「ラジャですゥー。開けーゴマ!」



 ティアの一声を受けたラミアが、セカンダリー・ブラスターのトリガーを引き続けると、ルーミィの艦体に鈍い衝撃が三度走り、甲高い咆哮をあげて白亜に輝くセカンダリー・ブラスターのエネルギーブレットが、一斉に樹状クラスターの根幹部へ目掛けて叩き込まれる。

 だが、眩い閃光を発したエネルギーブレットの強烈な直撃を受けている筈の巨大なエネルギー放出の塊は、そのままうねる呪詛帯樹状クラスターのコリオリ成長渦の動きに呑まれ、忽ち宇宙空間へと掻き消される様に立ち昇って行った。



 「だ、ダメですゥー。こいつゥー傷一つも付いて無いぞゥー。ティア、セカンダリーの最大出力程度では無理かもよゥー?」



  ラミアの悲鳴にも似た声を聴きながら、思い詰めた瞳のテミアが、振り向きざまにティアスを見つめて不安そうに呟いた。



 「・・・ティア、こうなりゃ主砲を、【アルクビエレ・プライマリー・バスターキャノン】を撃っちゃいますゥー?」



 テミアの声に誘われるように、ティアスの視線は無意識にキャプテンシートのコンソールだけに配置されている【アルクビエレ・プライマリー・バスターキャノン】の射撃管制ユニットへと向けられていた。



 「ダメだ!ティア、この星毎砕いちまうぞ!」



 ティアスの視線に気付いた伽罹那が、苦渋の表情を浮かべて反駁する。

 伽罹那の声で我に返ったティアスは、再び「封印」表示が施されている主砲プライマリー射撃管制ユニットボックスに目を眇め、一瞬の躊躇の末に頭を振り、喉が絞まりそうになる程の息苦しさを覚えながらも、正面に立ちはだかる呪詛帯樹状クラスターをキッと睨み付け吐き捨てるように呟く。



 「くそっ!駄目だ、オペレーションもこれまでなのか!」



 オペレーション「ウィルトートス」の遂行を放棄し、クルーの全滅を防ぐためアリュナールと明利二人の命と引き換えに此処で撤収すべきか、それとも周辺宙域にまで及ぶ時空を歪ませてしまう程の破壊力を持った【ルーミィ】の必殺兵器、プライマリー・バスターキャノン「アルクビエレ封印兵器」を使用してまで強硬突入すべきか否か、ティアの心は激しく迷っていた。



 「何を、迷って、いるのだ!そんなものは、不要だぞ。馬鹿者め!使う訳がなかろう、下品極まりない、そのうえ、実に勿体ない!こんなもの、余に、任せるがよい!!」



 ティアスは前方から乱暴に投げつけられたその声に目を遣ると、腕組みをしたリトルが頬をぷっくりと膨らませ、彼女をキッと睨み付けながら地団駄を踏んでいた。



 「要は、遣り方の、問題なのだ。下手糞共め!この程度の、もの、余の、セカンダリーで、十分ではないか?ほとほと、困った奴らだのぉ」


 「「何する心算だよゥー?」」


 「ふふふハハ、ほれ、「〇鹿と鋏は、遣い様」と云うでは、ないか、クーッククク、「っても、ダメなら、斬撃きってぇみな」って、やるのだ!」


 「?「?リトルゥー、その自虐ジョーク意味わかんなくねー?多分、きっと、間違いなく語嚢バーの適用方法、うん間違っとるよゥー」」


 「だはははは良いじゃねーか、くそチビにしちゃ方向性は間違ってないと思うぜ、遣らせろ、ヤらせろ」



 双星神アシュヴィンの理知的な困惑を他所に、珍しく伽罹那がリトルに賛同した為か、憐れむようにたり顔をしてティアスを見上げているリトルと、裏切りの予兆を見透かそうとして見返すティアスの視線が激突し絡み合う。



 「如何する、ティアス!」



 こんな時にこんな場面でふと唐突ではあったが、ティアスの脳裏には気の善い上司であるハヴィー・パコフスキー星域統制調査部長の癒される丸っこい表情と、以前彼が与えてくれた言葉が自然と湧き上がっていた。



 (ティアス君、リーダーって言うのはホントに、ホント常に考え続けてなきゃいかん。と言う訳で何時もは「ぼーっと」している振りをしていても、ホント常に悲観的に考察し最悪の事態が起こることを想定して措かねば為らんのだよ。そして最善の策を講じつつ、ホント手早く楽観的にポン、ポンと行動すると良いんだなこれが。その辺ホントに君は優秀なんだから、気楽にやってみたまえ。何よりホント大切な事はだね、何時でもどの様な状況下にあってもリーダーは決して諦めないことがホント肝要だね。ブレちゃダメ、ブレちゃね。ホント、ブレちゃダメだよホント、リーダーって言うのはホントに、ホントつまらん因果な仕事だからね)



 時として上司の何気ない教えとは、肝心な時にいいタイミングで迷える者に答えを導いてくれるもので、ティアスは何時の間にか背負っていた余計な肩の荷を全て下ろすように、一つの結論に至っていた。



 (そうだな、最早【ルーミィ】と交わした契約を反故にされたところで、我々が失うものは何も変わらないではないか)



 乾いた唇を確かめる様に、ティアスは赤い爪先をそっと唇に這わせ決断を下す。



 「よし、このまま「ウィルトートス」を継続する。ラミア、メイン火器管制システムコントロール全権をリトルへ委譲してくれ。・・・ルーミィ、いやリトル今度は頼んだぞ・・・姉貴」


 「っつしゃー!!愚直なる愛妹ティアスよ、賢明な選択であったぞ。余の戦い方を、教えてやろう。マ・カ・セ・ルが、良いぞ!其方ら、見るが良い。余の力の発現を」



 リトルは吹っ切れたティアスの言葉を聞き、満面の笑みを浮かべると一際大げさなラッキーポーズを取って幼い少女の様にピョンぴょんと跳び撥ねていたかと思うと、続けて小さな躰をひらりとひるがえしてサポートブースから飛び出すや、ブリッジの中央部に悠然と構え何処で覚えたのか実に見事な「居合型」のポーズを取り始める。



 「ふウオォォォーーーオオ!!」


 「・・・何だか知んないけどゥー」


 「うん、・・・何だかやりそゥー」


 「おおっ!くそチビィ、気合入ってんじゃねーか?」


 「突撃、衝核、戦闘、用意。コォォォォーーー!!」



 やがてリトルは、静かに目を閉じて一息気を吐ながら腰元へと優雅に手を添わせると、【ルーミィ】の4基のセカンダリーブラスター発射口から再び眩いエネルギーの奔流が迸る。

 続けて【ルーミィ】は、甲高い唸りをあげて宙を切り裂く4筋のセカンダリーブラスターのエネルギーラインを、螺旋状にぐっと寄せ合い一気に収束させて荘厳に光り輝く一振りの光剣へと纏めると、リトルは見事なまでの口上を奔らせる。



 「観るが良い。魂魄星銀龍騎【燦の型】、今此処に【レギュオン・ソード】を成し、忌まわしき呪詛帯をば斬り伏せる!」


 「何なのそれ・・・ま~た何かに同化かぶれちゃったわねぇ・・・」



 ティアスはキャプテンシートで頬杖を付き、呆れ顔でリトルを眺める。



 「っセえぃ!ヤァァァァァ!!斬っ!!!」



 鬼気迫るリトルが、絶叫と共に腰元から一気に上段へと手刀を振り翳すや、その動きに合わせて長大な高出力荷電粒子エネルギーの長大なサーベルと化した【レギュオン・ソード】は、空間を斬り裂き唸りを上げて勢い呪詛帯樹状クラスターの基幹部目掛け撫で付ける。

 次の瞬間、燦然と光り輝く長大なサーベル【レギュオン・ソード】は、巨大な呪詛帯樹状クラスターの基幹部を逆袈裟懸けに「ズバッ」と斬撃し、見事に両断したのであった。



「「「な!な!なんンじゃあー!!そりゃぁぁぁぁぁ!!!」」」



 白亜の閃光を浴びながら悲鳴にも似た絶叫を上げ、あっけに取られる皆の眼前には、【レギュオン・ソード】によって呪詛帯樹状クラスターがみるみる上下へと裂け切れ、その内部に存在する広大な閉鎖空間が一気に露呈された光景が広がっていた。



 「ひぇぇぇぇお見事でっす!・・・リトルって、存外剣豪じゃのゥー。ヤンヤ、やんや」


 「ふぉぉぉぉ一刀両断っす!・・・ズバッっと斬れるもんじゃのゥー。やんや、ヤンヤ」


 「すっげぇなぁ!好いぞそれぇ、なら最初から遣れってんだぁ」



 双星神と伽罹那は思わず目が点になったまま、呆然とその壮絶な光景を眺めるしかなかった。



 「あ~らららラララ、思ったよりはお見事だったわねリトル。古代「倭国」のサムライ斬撃術を修得してたとは、こりゃ便利です事ぉ。超古代宇宙兵器を一撃の下に切り伏せる凄腕、もぉ立派な隠し芸よね。おじょーずぅー」



 意気揚々と居直るリトルに向かって、ティアスはもっともらしく嫌味の籠った感嘆の褒め言葉を述べる。



 「痴れた事よ。いや、まだ、修業が、足らぬ・・・、つまらぬ、ものを、斬っちゃった・・・ようだ」



 ティアスの十分嫌味の籠った誉め言葉を受けても尚、満足そうにリトルの口元が「ニヤリ」と吊り上がる。



 「だが、もたもた、するで無いぞ、急ぐが、良い。この、空間は、そう永くは、持たん。間も無く、閉じられる、ぞ」



 呪詛帯樹状クラスターの成長領域は、ひるみなく惑星軌道圏界面に及ぶ浸食を遂げようと、一層加速度を付けた勢いで伸び続けて行く。

 【ルーミィ】の厭勝を籠めた斬撃により、両断され千切れ跳んだようにも見えた呪詛帯樹状クラスターの先端部もそのまま成長を続け、遂には虹色に輝く【香忰】のオービタルリングをも侵食し始めていた。



 「そのようだな、グズグズ出来んぞ伽罹那、強行突入だ!呪詛帯内壁に沿って飛べ、巻き込まれるなよ」



 ティアスの指令により【ルーミィ】は覆い隠されていた広大な閉鎖空間に向かって進撃を開始し、両断された呪詛帯樹状クラスターの中を猛然と潜り抜けて行く。



 「ティア、ラジャー。本艦は内壁空間へと侵入した。目標捕捉まで、旋回滞空モードへ移項するよ」

 

 「ラジャーだ。テミア、目標探索は未だか?」



 呪詛帯樹状クラスターによって物理閉鎖されていた空間内壁部には、辛うじてレセプター周辺に展開された古代遺跡【鎮める神殿レセプター】の発する抗体防壁結界が、僅かな輝きを放ちながら姿を留めていた。

 早速その痕跡を探知したテミアに被せて、ラミアが空かさず光学サーチを入れ始める。



 「うりゃ来たよゥー、キタ、来たぞゥー」


 「テミア、クラスター内部空間の中央部に、神殿状の古代遺跡らしき崩壊建造物を確認だよゥー。んんっと、クレーター陥没抗の際から微弱な反応が・・・」


 「何んじゃいアレ、あそこ、陥没抗の中で悠長に花?なんぞ咲いておるじゃんかよゥー」


 「ラミア、花?なんぞ良いからよゥー、アルと明利を早よ見つけたってぇーよゥー」



 双星神の掛け合いの中、遥か眼下に存在する古代遺跡の中央部付近には、一際場違いな程に不気味で巨大な蓮華の花の様なものが咲き誇っていた。



 「多分、あれがレセプターなんじゃろのゥー。その周辺付近・・・何だろこれ?あっ、いた!テミア、いた、いた、いた、いたーぁ!」


 「ティア、アルと明利の反応キャーぁッチですゥー!!」


 「「やたよゥー、目標ローックオン!」」



 双星神の明るい声が重なって、待ち望んでいた朗報を告げる。



 「テミア、アルと明利との通信回復急ぐんだ、至急状況を確認しろ!」


 「ティア、ラジャーでーすゥ。《こちらルーミィ、アル、アル?明利、明利?聞こえっかよゥー。テミアだぞゥー、どーぞーゥー?ええい、どーぞーゥー。ごぅらぁ!どーぞーっち言っとんじゃ!》ええ加減応えんかい!!」



 テミアはインターラクティヴコムに向かって必死に呼びかけ、アルと明利に酷い口調になってはいたが、彼女なりの喜びにエキサイトしているらしい。



 「ティア!何だか遺跡の周囲に、ウぇええっ、気いッ色ョ悪ーい。チっぱい醜悪なものがこっぱい寄ってたかってるよゥー。ややっ、こいつらにアルと明利が襲われてるんかもよゥー?」



 全天フォロビジョンの下部スコープイン・ポイントを、更にズームアップしたラミアが狼狽えた様に叫ぶ。

 そこには花弁状のレセプターのあるクレーターに向かって、必死に防戦しながら後退しているアリュナールの乗った《ミッドガルド》と、ブラスター・ソードらしき光剣を颯爽と振りかざしている勇壮な明利の姿が小さく映し出される。

 そしてもう一人、朱いスーツを纏った負傷者らしい人間を担いでいる何者かの姿と、彼らを守るように取り囲み、所々で燃え上がる蒼白い焔の群炎を捉えられていた。



 「いかん!それだ、明利と、アルが、危ない。それに・・・居るぞ、あれが、リディスだ」



 それまで、ジッと静かに目を閉じていたリトルが、目を眇めて呟く。



 「ティア、援射やっちゃっていいかもよゥー?」

 

 「ティア、周辺お掃除してもいいでしょゥー?」



 双星神が援護射撃を待ちきれないように、リニアキャノンの照準を合わせ始めている。



 「だめだ、慎重になれ双星神、まだ距離がある。一寸間違うと、アルと明利を巻き込んで一緒に吹き飛ばす事になるぞ。伽罹那、回収スキームの検討は如何か?」


 「ティア、わざわざ着陸している余裕もないし、ホバリングするにしてももこの呪詛帯の攻撃をかわしながらじゃあねぇ・・・うん。そうだねぇ、やっぱ空中で回収するってぇのが要諦なのかもねぇ」



 何だか、含みのありそうな声で伽罹那が答える。



 「幸いってえと何だけどねぇ?【ミッドガルド】が無事の様だからさぁ、ホバリングで回収なんかじゃなくて、ここは一発、《ハイレート=クライム》が常道だよねぇ」



 と言いつつ次第と伽罹那の声には、無駄な力が籠って来るのが見て取れる、確実に楽しみ始めたか。



 「超低空、ギリ低空域のダウンサイドから一気呵成かせいに駆け上ってぇ、先に飛んでるアルと明利を【ミッドガルド】毎さぁ、一発勝負で擦り抜け様に搔っさらうってか!!だぁっははハハハ。それって好さげー!!今晩のお奨め遊戯テクに好さげー!!」



 伽罹那の個人的趣向、いや提案に一瞬コクリと首を傾げたティアスは、何を思ったか双星神に向かってさも面白そうに命じた。



 「聊か下品に聞こえたが、一理有る・・・それ有り採用ーッ!!ってな訳で、切り替え、切り替え。しょうがないから前言撤回ぁいするわぁ~。ラミア、其処そこらのムシムシな奴らを、トッとと吹き飛ばしちゃって頂戴!」


 「「「「エッ?エ゛エ゛ぇぇぇー!!!???」」」」


 「「さっき、撃つなって言ったよゥー」」


 「ウーム、やっパり遠かったりするよゥー」


 「おう、伽罹那の所為せいで困っちったよゥー」

 

 「はぃぃい?《ハイレート=クライム》やんのかぁ?」



 見事に朝令暮改ちょうれいぼかえったティアスの指示を受け、皆が一斉に驚愕の声を上げたが、そんな声にも構わず彼女はせきを切ったように矢継ぎ早に指示を出し始めた。



 「ええいやかましい!!テミア、アルと明利へ伝達!《兎に角、北天を目指して思いッきし蒼穹へ飛び揚がれ》だ。シツコイまでに構わず呼び続けろ!!それから次いでラミア、《惨号》戦術多弾頭小型定域重力弾の使用を許可する!重力偏差傾斜角影響領域を考えて撃ち込めよ、丁寧にな!!追って伽罹那はリヴュス反応炉の制御キングステン・スリットをフル・エジェクトだ、主機関エンジン出力を臨界まで上げとけぃ!!リトル、伽罹那の航法管制をフル・サポートしろ。フフフフ全員覚悟しておけぃ、イザとなったら本艦ごと特攻し、奴らの盾とする!!」



 一気に捲し立てた彼女は一呼吸の間を置いて、再びリトルに向けて楽しそうに話し掛ける。



 「あっ、そうだリトル、星銀龍騎【燦の型】の?あれ何だっけ、そうカッコいいやつ!そうそう【レギュオン・ソード】だっけか?あれさぁ、後でも一回やってよね。私ぃ、とっても気に入っちゃったわ」


 「そうか、そうか、気に入ったか。冗長なれど、善かろうよ、善哉、善哉」



 満足げに応えるリトルを後目に、傍から見てもちょっと「ゾッ」とするような不気味な微笑を浮かべて話すティアス。

 こんな時の彼女は本当にやばい、トンデモ無いことを遣るに違いなかった。



 「チャンスは一度切りだぞ伽罹那、リトル、用意はいいかぁ?これより本艦は巡航限界高度をギリまで下げた後、古代神殿遺跡何たらの南東側から《ハイレート=クライム(急速垂直上昇)》に入る。北天へ向け飛び立った【ミッドガルド】を並行収容の後、V1加速で一気に【香粋】からおさらばだ!リディス少佐の事はしょうがない、此処でスパッと諦める。ヒップを捲ってさっさと離脱するぞ!あっはっハハハははは!!」



 ティアスは不気味に思える程ほど潔く、それはそれは愉快そうに笑い声を上げていた。



 「ラ、ラジャーですゥー。《アル、聞こえてるゥー?《ハイレート=クライム》だよ。同調させてよゥー、優しく抱き留めて回収すっからさぁー、北天へ向かって【ミッドガルド】すっ飛ばして全速で飛びなっよゥー。《兎に角、北天を目指して思いッきし蒼穹へ飛び揚がれ》繰り返す《兎に角、北天を目指して思いッきし蒼穹へ飛び揚がれ》繰り返す・・・・》」 


 「久々やたー、《惨号》戦術多弾頭小型定域重力弾を装填開始だよゥー、チビチビ達出番だよゥー、チャンバーライン・クリアーにして、タップリお見舞いしてやろゥー。萌えるぅー、萌えちゃゥーゥー」


 「だあっはハハハ。そう来なくっちゃ。クッそーう、弾道飛行の次は、《ハイレート=クライム》と来たもんだ!!だっはハハハ。この艦も大したもんだあょ、本当に丈夫だよなぁー!頑丈感心!頑強感心ンーん!!」



 もう、こうなったら止まらない。

 ティアスに攣られてか、双星神と伽罹那の様子もハイテンションになって来る。



 「うん、余もそう思う、ぞ。しかし・・・な」



 リトルは少し不思議そうに頷いていたが、やがて怪訝な顔つきになると、ぶつくさと不満を訴え始めた。



 「・・・って言うか、余を、物扱い、すんなー!扱き使い、過ぎだー!自律思考型高等、宙航艦、使用管理制限法第11条の、善管注意義務、違反だぞー!総局のコンプライアンス相談コーナーへ、直告発してやるぞー!それが、いやならこのオペ、終わったら、紺碧ベルーガ座の、ハイペリオン星雲、散光星団スーパー間欠、星間物質ガス状温泉、「バルネヤ」屋に、行く!バカンス、する!絶対、する!バカンスするったら、するぞー。余はここに、権利行使を表明する、休暇申請だ。邪魔スンなぁー」


 「はいはーい、良いでーす。なーんだ好きにしろ。但し、生き延びられたらの話だ。楽しみにするが良い」


 「その言葉、後悔するでないぞ」



 ティアスは駄々を捏ねるリトルとの会話を楽しむ風で、実は真剣な眼差しを前方に向けたまま、アリュナールと明利を救出すべく起死回生のチャンスを必死に狙っていた。

 その間にもテミアは、ティアスからの指示を丁寧に反復し必死にアリュナール達を呼び続ける。

 ラミアも慎重に重力偏差傾斜角領域の影響範囲を算出して、重力波潮汐破壊域の程度を絞り込むと《惨号》戦術多弾頭小型定域重力弾をレイル・キャノンから次々と投射し始めた。



 「あんまし乱暴に撃っちゃだめだぞゥー。ラミア!」


 「構わないよゥー。どばーっと活きまっしょゥー!」



 【ルーミィ】はアリュナールと明利を救出すべく、豪快にレイル・キャノンを連射しながら、一気に低く姿勢を落とし地表を目掛けて突っ込んで行った。

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