5 アタック・バイアレント 5
その頃ティアス達一行は、殆どの機能を封印した【ルーミィ】の自律神経系M.C.B HESPER9500-Ⅳ統制用副交感系プログラム【ロゴスC.B】を再起動させ、半手動にて艦のコントロールを何とか回復していた。
鏡の様に煌めく【香粋】の海面上を、滑るように進む【ルーミィ】の星蒼銀色の姿は、ジェットフォイル推進を用いた往年の古代地球連邦洋上攻撃型ステルス・フルカバードシップを彷彿とさせている。
「ティア、フォイリング・スタビライザー制御安定確保、洋上駆動管制航法へプログラム移行完了。でも、こりゃちょいと、コツがいるなぁ」
伽罹那は、応急的に無理やり組付けたような操艦補助ユニットのパイロットシートへ居心地悪そうに座り、これまたホビーの様な2本の操艦スティックと、古代式パイプオルガンの演奏卓の様に突き出た複数の姿勢制御フットペダルを器用に操って、慣れない惑星洋上航行の操縦に気合を入れ直す。
ティアス達一行は、アリュナールと明利の生存に一縷の望みを賭けながらも、リディス少佐らの居所へ向かっていると思われる三体の再蘇生呪詛顕現体を追撃していた。
あの【ルーミィ】からの強力な攻撃、超重力閉鎖空間による滅却破壊を辛うじて逃れた超越魔法技術制御疑似生命体【ヴィオラディ・テグラ】の片鱗は、新たな憑代を得て増殖を続け、今やルーミィの3倍は在ろうかと思える程の巨大な有機複合体へと変化を遂げており、その姿は凡そ憑依前の原生生物とは思えぬほど変わり果て、呪詛合成によって再生融合した黒と青と銀色に輝くストライプ状に不気味な彩りを纏った体を畝らせながら、【ヤマタノオロチ】の如き不気味な姿を海上に晒して高速で東方へと向かって泳ぎ続けていたのである。
「やっぱり海の上なんて、優~雅、大そう優~雅。なーんかロマンチックじゃのゥー。我は、か・イ・ぞ・ク船だぞゥー。目標ゥー前方の大怪獣群!攻撃準備よゥーし」
「何を優~雅に宣うっとんじゃ、見てみぃ、火器管制サポート制御サブ・システムも、ぜーんぶ死んでもーてるぞゥー。洋上セミオート管制射撃じゃー、紛れでも当たらんわい。それに、ターゲットは見つかんないしよゥー・・・」
テミアとラミアの腑抜けた会話に、思わずカチンと来た伽罹那が言い捲る。
「ちっとは気合入れて仕事せいゃあー!ボケナス双星神。アルと明利の事も考えろっての!」
「うううぉ!ボケってないぞゥー。オートシップってのは、こんな時しち面倒だのゥー。アルゥー、お願いだよおゥー、頼むから探索プローブの複合操作方法教えておいておくれよゥー」
「おおおぅ!、ナスってないぞゥー。セミオートでの火器管制なんて、ターレット・スコープなんか、チョー恰好良くないかぃ?明利の野郎に是非とも拝ませてやりたいんじゃがのゥー」
双星神が負けじとワクワクげに言い返しながらも、年代物の後付けターレット・スコープを覗き込んでいたラミアがちょっとした異変に気付いた。
「伽罹那、伽罹那ったら、伽罹~那。獲物に追いついたぞゥー、ごクロー、ゴクロゥー。・・・んっ?変だのゥー、確か3匹だったはずだけど、元気に泳いどるのは・・・フム、ふむ、やっぱ2匹になっとるぞゥー?テミア1匹ロストだ!至急過去計測モニター確認してくれよゥー!」
「何故じゃー?何処じゃー?如何してじゃー?うん、過去計測モニターにもここ暫く記録がないぞよゥー。一匹、二匹・・・うーむ、と言う事は・・・一匹どっか行っとるぞぃ!さては怖れを成して、はハハ逃げやがったか、ははは・・・これ、どしたものかな?」
頭の上で沢山の「???」と、「!!!」を浮かべる双星神を尻目に、再び伽罹那が畳みかける。
「しっかり監視してねーからだろうが!何やってんだ。ポンコツ双星神!!」
「やれやれ、見失うとは。ふぅ、行き成り後ろから襲われたり何てしなきゃいいんだけどね。双星神、見失った変態怪獣の追跡と撃退かた、宜しくどーぞ。今度失敗ると承知しないわよ」
ティアスが双星神に向かって追い打ちをかける中、ブリッジにか細く途切れ途切れに聞き慣れた小さな声が湧き上がる。
「前方の・・・、2体は・・・囮だ。本体は・・・既に、南へ・・・向かっている、のだ。その先・・・には、リディスと・・・アルと明利も・・・居るぞ」
伽罹那は「ハッ」として、そのか細い声がするブリッジの左後方あたりを振り向き、双星神もまた不安げに顔を見合わせるが、流石にティアスは落ち着き払って、ゆっくりと威圧を込めその声に応えた。
「さてと、何時から気が付いていたのかしらね、リトル!」
明利のシートに転がされていた簀巻き状態のリトルが、小さな亀の様にもぞもぞと半身を反らして、ティアスの方へとピョコンと顔を向けていた。
「ティア、・・・それより、奴らから・・・強い攻撃思考波動が、感じられるぞ。早いとこ・・・さっさと迎撃準備を、するが良い」
リトルに向けて冷徹な眼差しを向けていたティアスは、苛立つ様に語気を荒げて言い放つ。
「先に何か一言、言う事はなくて!・・・リトル!!」
強烈なティアスの声を受け、芋虫の様に踠いていたリトルの動きがピタっと止まり、暫くの沈黙の後に小さく呟くリトルの声が返ってきた。
「・・・すまなかった、な。・・・ティア」
「はぁあ?聞っこえない!!」
ティアスは間髪入れず一層の怒気を込めて、厳しく追い打ちを掛ける様に言い放った。
「すまなかった!余が悪かった!・・・ごめんなさい!!」
その言葉を聞いていた伽罹那が、振り向きながら意地悪そうにニヤリと笑って絡んで来る。
「序に、「もうしません」てのはどうだい?一体、誰の所為でアルと明利の墜落地点を見失ったと思ってんだ?」
「・・・くっ!ハイ、・・・もうしません」
ちょっと涙目で顔を真っ赤にしたリトルは、恥ずかしい表情を読まれない為なのか、顰めた顔をプイっと横へ叛ける。
「えらいぞゥー、リトルちゃん。そんでもって、あいつらが囮だとゥー?」
「そーだぞゥー、ちょっと怖かったぞゥー。で、何でそれが解んのかぃ?」
「まあいいさ。怖かったと言うよりだ、スッげぇ酷い目に合わせやがったなこん畜生め。さっさと答えるんだ、このくそチビぃ!!」
双星神と伽罹那が矢継ぎ早にリトルを問い糾すと、今し方まで許しを請うようなリトルの表情が、見る見るうちにまるで苦虫を潰した様に引き攣って行った。
「奴らから・・・漏れた、思念が、喚いているからだ。煩くて・・・敵わんが、間違いない。それに・・・明利とアルの、墜落地点は・・・既に、解析し記録していた。同時に、ずっと居場所を・・・モニターして追っているぞ」
一際不服そうで不満げな表情をしたリトルが、ブツブツと呟きながら答える。
「はーい!!そこまでぇ。それより皆、モニター左下を注目ぅくーう!奴らが来るぞ!!」
幕引きを図ったティアの指差した方向、フォロビジョンの前方左下に注がれた皆の視線が釘付けになる。
そこに映し出されていた【ヴィオラディ・シグラ】の二体が、急速に反転しつつルーミィ目掛けて襲い掛かって来る姿があった。
「来たぞ伽罹那!面舵30度急速回避。双星神!相対撃滅幇雷撃戦用意だ!!」
キャプテンシートのアームレストに、ガツンと拳を叩き付けてティアが叫ぶ。
「如何やらその話はヒットの様ね、リトル。でも、知ってるでしょ?私、騙されるのって大嫌なのよ!双星神!先ずは奴らを血祭りにするのが先だ。とっとと撃滅なさい!!」
ティアスの様子からして、久々に怒っているのは確実だった。
「ラジャーです。急速回避面舵30度ヨーソロー!」
伽罹那の復唱に続けて艦体がぐっと沈み込む感覚を残しつつ、急速に傾いた【ルーミィ】の艦体は面舵の激しい波しぶきを発して回避行動を取った。
「ティア、イナーシャル・キャンセラーフィールドのみ展開準備何とか良し、出力弱いけど打撃防御法界傾斜には適合だよゥー。でもね、でもね、多重防御ディフェンサーコントロール系はぜんっ、全だめなまんまだわよゥー、多重護法陣梗塞祁みーんなお社の中に籠っちゃってて沈黙ゥー。ダメージ・コントロール対応施術祁全柱インテグレート結界死んでるゥー、防壁勤行結界暗密しちやった。梗塞祁群の皆さんも全滅つゥー」
護法陣梗塞祁と施術祁全柱の核柱活性モニターが、全て沈黙したまま一切の反応も見せない為か、テミアは正直心細さを隠せないでいる。
その一方でテミアの下方、主戦闘ユニットに陣取るラミアがターレット・スコープを覗き込み異様な興奮状態にでも突入しているのか、鼻息も荒く幇雷撃用タクトを頻りと握り直していた。
「ティア、標的を射程距離圏内に捉えたよゥー。(あたしがぁ)左舷前方上方8番から10番ターシャリー護幇塔、(確りぃ)7番から9番リニアキャノン砲塔旋回、(しなくちゃあ)索敵距離2,825メルティ、(ダメなのよゥー)自動追尾ターゲット・ロックオン。(あっ、そりゃキタ、キタキタ来たぁ!そっ、そこ、そこよ、そこだよゥー!)・・・っと、あららら。ズレた、ズレちゃった!ふんぎゃぁあああぁぁ、もぉー!!くぉらあ伽罹那ぁ!!も一寸の所デェ、〇キそびれたじゃんかよゥー!!ああくっそうゥー!くっそうゥー!くっそうゥー」
トリガーを引く目眩く甘美な快感を妨げられたラミアが、身悶えするように白く輝く八重歯を剝き出しにして、伽罹那に向かって眉を吊り上げながら激しい文句をファランクス迎撃弾丸の如く、滅多矢鱈に叩き付ける。
「ええい!伽罹那のド下手っピーめ。へたか?へたれかぁ?ヘタ、へた、下手くそ、へったくそぉおぃ、テメーのテクニック超ゥーしょぼい。ウラ、チョーしょぼいぞゥー、揺らすな!揺れるな!ちゃんと〇かせ・・・いや、撃たせんかいよゥー!!」
「・・・お、おおぅラジャーだ!もっと上手くやるぞ・・・って、ちょっと待てぇぇええい!てっめぇ何の話をしてやがる!!お前の〇く面なんぞ興味もないわい!!くそっう、ラミア待ってろ!ちゃんとやるから、そぅら、今安定させっから、見てな!」
妙な興奮に包まれ押し気味になっているラミアの迫力に乗せられて、一気に集中力を高めた伽罹那の操艦術が極限を極める。
「もう少し、・・・もう少しだよゥー。チぃ!【ルーミィ】の射撃管制システム・サポートが無きゃ、照準も定まんないのかよゥー!!ぐっしゅん!」
ラミアの覗いた長距離射撃モードのターレット・スコープの中では、惑星圏内での重力偏重補正を加えられた小さな【ヴィオラディ・シグラ】の姿が小刻みに揺れ、その微動に合わせて呼吸を整えながら必死に古式的照準タブレットを導いて微妙な照準を絞り込む彼女の額には、珠の汗が吹き出し次々と滴り落ちていた。
「じゃかましぃわ、妹よ!!何とかせぇいや!90-八式拡散定域重力弾頭装填完了。弾は好きなだけ刳れてやるぞゥー、1億パーセル離れとんのとちゃうぞゥーラミア!気合入れて一発当てたれぃよゥー!!」
苦闘するラミアに双星神の片割れが気合を込めて発破を掛けるが、その間にも【ヴィオラディ・シグラ】から放たれた超硬質刺胞体攻撃触手の一群が、【ルーミィ】へと向かって急速に迫り来る。
差し迫った危機に、間髪与えず畳み掛ける様にティアスが大きく叫んだ。
「よっし!構わんラミア、撃ち捲れえぃ!!」
「ラジャー!!ええぃ儘よ!イっけえぃ、ファィ!ャャャァァアアア!!!」
ラミアの絶叫と共に射撃トリガーが力強く押し込まれ、凄まじい振動を放ちながらターシャリー・ブラスターの高エネルギーブレットと、リニアキャノンから放たれた小型定域重力弾頭が、近接する二体の【ヴィオラディ・シグラ】に向かって勢い吸い込まれて行く。
だが、ターシャリー・ブラスターは【香粋】の持つ特殊な磁界と法界フィールドの影響を受け弾道がズレたのか、【ヴィオラディ・シグラ】の直近海上を滑るように歪曲しながら切り裂いて、遥か後方の海上を壮絶に吹き飛ばしていた。
幾筋もの水柱が立ち上る中、それに続けて連射されたリニアキャノンの定域重力弾のみが、迫り来る超硬質刺胞体攻撃触手を粉砕しながら突き進み、辛うじて【ヴィオラディ・シグラ】の体表をひっ剥がす。
「チぃ、外したか!くっそぅゥー。δ0103-γ002、法界局面打撃放射角をε微妙に補正っ・・・と完了。よっしゃ、弾頭も90-伍式の徹甲貫通型に再装填じゃ。テミア任せたぞゥー」
「おう、そう来るか、ふふ、そう来たか、まっかせんかい!リニア射出バレル次射換装済んどるぞゥー、んだと思って90-伍式徹甲貫通時限爆縮定域重力弾頭も連装専用マガジンチェンジ中だ、もう直ぐじゃい!今度は連射出来っぞゥー」
双星神の真骨頂【シンクロニシティ】の発現か、息の合った連携は打撃の手を一切緩めない。
「お前らでは、護法焦滅印を、結ぶのは、無理だ。奴らを、倒したかったら、余が、手伝うぞ、早く、余を解放して、くれぃ」
【ルーミィ(リトル)】が芋虫のように顫動しながら、情けなさそうに声をあげる。
「だははのは!このあんぽんたんめが、その手には乗らんぞゥー。今度は、お前の其の舌にパラフィン目いっぱい垂らしちゃるぞゥー」
「のほほのほ!このデコポンたんめ、其処に転がっていろゥー。いっその事だ、永久凍結用硬化テクタイト漬けにでもしちゃるぞゥー」
双星神が、苦心惨憺している射撃管制を馬鹿にされたとでも思ったのか、さも恨めしそうにリトルを罵る。
「そりゃ!ラミア、リニアキャノン90-伍式徹甲貫通時限爆縮定域重力弾頭再装填完了。何時でもブッ放せぇい!」
「ゥラジャー!いてまったるぞゥー!!」
ラミアの声と共に「ギュギュギュン」と唸りをあげて連射された90-伍式徹甲貫通時限爆縮定域重力弾が空を切り裂き【ヴィオラディ・シグラ】の体表を貫通した瞬間、続けて体内に食い込んだ弾頭が重力縮退連鎖を発生させる。
二体の【ヴィオラディ・シグラ】は、青黒く悍ましい躰の内部を重力爆縮効果により焦却され一瞬動きが封じられた様に見えたが、下部から次々に噴き出して来る新たな呪詛細胞によって、抉り取られ張りボテ状となっていた躯体を急速に自己再生すると、再び何事も無かったかの様に動き始めた。
「ティア、効いてねぇや!こいつぁてんでダメだぜ。奴ら復活してこっちに向かって来てるぞ」
伽罹那の思わず引き攣った声を聴いた皆は、ほぼ同時にフォロビジョンを凝視した。
その画面の中に投影された【ヴィオラディ・シグラ】は、【ルーミィ】に向かって複数の頭部らしきものを擡げ大きな咆哮を上げると、硬化させた刺胞触手を一斉に伸ばして再び攻撃を開始する。
連続投射されたリニアキャノンの定域重力弾頭でも、次々と再生し繰り出される刺胞触手の勢いを抑え切れず、勢い水柱を立ち昇らせ瞬く間に周辺の海面を沸騰させていた。
急速に迫り来る【ヴィオラディ・シグラ】の超硬化刺胞触手は、【ルーミィ】の周囲に展開したイナーシャル・キャンセラーフィールドをあっさりと中和し突き抜けると、【ルーミィ】の第Ⅰ装甲盤を鏨の如く激しく叩き続け、その都度起る鈍い衝撃に艦体が揺れ始める。
「ティア、ぐずぐずしてらんないよ!!ジェット・フォイリングの操艦は意外と骨が折れるし、第Ⅰ装甲盤にも傷が付いてる。いい!この滑々(スベスベ)した真珠のお肌に、傷だよ!傷ーず!!この儘じゃ自動修復機能も追い付かないかもよ?」
「あ~らやだ!!それって、年寄お肌に致命的ダメージだわぁ!年増の大敵って事だわよね。でも、ジェット・フォイリングは楽しくてよ伽罹那、あなたの腕前でもうちょっと頑張ってみてね」
ティアスは伽罹那をフォローしつつ、リトルへの嫌味を含ませながら明利専用のコ・パイロットシートで雁字搦めに縛られたままのリトルへ視線を移し、冷めた目つきで彼女をジッと見入る。
リトルも負けず劣らず、忌々しそうな眼差しをティアスに向けて確りと彼女の嫌味を切り返していた。
「誰が年増だ、バカ者め!余の美しきサラ肌に傷など付かんわ。「もしも」が、あっても、良いように、ちゃんと、下地処理を、施しておくものだ。超極微細、フィールド、キャンセラー、ファンデーションの、効果を、侮るなよ。お前らの、使っている、B級品のものとは、格が違うのだ、格がな。超S級乙女の肌は、傷つかないぞっ!」
再び立て続けに大きな衝撃が奔って艦体が大きく蹌踉くと、【ルーミィ】との交渉を試みる頃合いと見たティアスは、腹を括ってリトルの説得を開始した。
「そうも言ってらんないようね、リトル。いえ、【ルーミィ】。その「カサカサ」お肌を痛める前に、さっさと済まそうか姉貴よ。今回、裏切ったお前を再び信用出来るのかしら?担保の用意は在るの?」
ティアスは、身動き一つできないリトルに向かって、ここぞとばかりに取引を持ち掛ける。
「確かに、そうも言って、居られる立場では・・・無いな嬢ちゃん。だが、余にとってお前へ差し出す担保等とは・・・無様な、そんなん知らんわ」
リトルの態度は、太々(ふてぶて)しいまでに落ち着き払っていた。
「だが、ファンデーション落ちると、ヒりヒりして、いやだな。ティア、さっきも、言ったが、あの二体は、囮だ。さっさと屠って、既に先行して南へ向かっている、本体の、ヤマタノオロチを、仕留めんとな。もっと事態は、深刻になるぞ」
「何だと・・・?まぁ、何れにしてもスッゴく気に入らないわねぇ。【ルーミィ】よ、このまま機能凍結を維持し、永遠に眠ってもらう事も出来るんだけど?このまま【香粋】にでも沈むか?」
「フン、それも良かろう。だが、余には、解るのだ。奴らの狙いは、この惑星の始動キー、【レセプター】だ。そこは、何者かが守護する、サンクチュアリに、なっている。リディスとやらの、造作による、金剛界多重結界の、匂いがする、所だ。余には、どうでもよい事なのだがな。・・・しかし・・・」
真顔のふりをして、淡々と答えるリトルに未だ焦りは一切感じられない。
だが、続けた言葉の端々に明らかに【ルーミィ】の渇望が籠っているのを、ティアスは見逃さなかった。
「しかし、如何やらそこへ、明利達も、向かっている。余を呼んで、いるんだ・・・」
確かに明利に関してリトルには嘘をつく理由も見当たらないが、一概に信用するのも危険であり、その証拠に【ルーミィ】が自律思考機能を回復した後も、アリュナールと明利の行動をじっと息を殺して観察していた事からもその不気味な兆候が窺える。
その時、テミアが表情を明るく綻ばせながらティアスへ朗報を告げた。
「ティア!歓喜!歓喜!!《ミッドガルド》からの位置ビーコンをキャッチ、アルゴリズム変換コード「ゴエティア・ヘキサコード・606」を受領してるよゥー。サテライト・プローブ展開領域で稼働中の低軌道No16、22、23のピケット衛星群がヒィーット!リレーキャッチして今追尾しるよゥー。彼女達無事だった!無事だったよゥー!!」
「やたー!ひゃほゥー!生きてたぞゥー!」
「ぅラッキー!!これぞ諸天善神の守護の賜物だな」
テミアと伽罹那が全身で喜びを表す一方で、絶え間なく標的と格闘しているラミアがターレット・スコープからずいっと顔をあげ、伽罹那に向かって呆れたように品の無い罵声を浴びせる。
「ファ〇ュウーウ!!!ウウーおのれら戦闘中やぞゥー!!だーかーらぁー、揺・ら・すなっ!ちっとんじゃよゥー、ボケ伽罹那がぁー!!艦を安定させて一気にズドンと撃ち込まにゃー、〇スポットにじぇんじぇん当たんないじゃんかよゥー!不満足ゥー、不満足ゥー!」
「はーい!、はい、はい。ラミア済まない、済みませんでした。?・・・だっから!ええ加減にその逝きそびれ戦闘エクスタシィーギャグ咬ますなっーの。・・・いやいや、いかんいかん、集中と、安定と、継続っと」
伽罹那が軽く往なした返事を返す間にもテミアのフォロビジョンには、アリュナールと明利からのランデブー・ポイントを伝えた最終到達位置情報通信が入り続ける。
「ティア、アルと明利が大陸南端にランデブー・ポイントを指定してきてるよゥー。ターゲットもそこに居るらしいぞゥー。それと、何々?恒星系破壊兵器?【ヴァレダ】が云々?とか送っとるぞゥー。何んじゃそりゃ?そんなの危なくねぇ?」
テミアに攣られて、ラミアも軽く呟く。
「いやいや、それってアブね~でしょゥー、ふつゥー。で?恒星系破壊兵器って何だそれ?」
ティアスはその怪しげな言葉には一切触れず、ただ、オペレーションの遂行だけに意識を集中させようとしていた。
「そうか、リディス少佐を見つけたか。で?リトル。アルと明利は、今何処に居るんだ?」
送信してきた彼女達の座標位置は、確かに南半球に伸びる大陸の赤道付近を示していた。
「ティアよ、・・・逃した【ヴィオラディ・シグラ】の一匹は、そこへ向かっている。リディスと、もう一種類の、呪詛帯も、その辺に居る・・・ようだ。しかも【ヴァレダ】が、実在するのなら、なお合点がいく展開だ。一刻も早う、急いだ方が・・・よいぞ、後悔したくなくばな」
リトルが、縛られたままの半身をすっくと持ち上げ、その紅金と蒼銀の並んで輝く至宝【金銀妖瞳】でティアの方をジッと見上げていた。
「リトル、姉貴。アルと明利を何時から追跡していた?」
「正直言おう、最初からだ。・・・リアルタイムとは、言えないがな。何故だか時々、位置情報が、途切れているようだ。どうやら、空間断層でも飛び越えていたのかも知れんな。聊か面白い、今も、奇妙な軌跡を描いて移動を続けているぞ」
リトルの言語野調律領域も第4レベルまで復活していたが、ティアスはより一層の用心を重ねる。
そして、ティアスは【ルーミィ】の欲する担保がどうやら其処にある事を予見した。
「お前【ヴァレダ】を知っているのだな?」
「ああそうだ、あれはちと厄介なものだぞ」
そう言うと縛られたままのリトルの眼差しが、一瞬遠くを見るように虚ろになった。




