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智良と小さな巫女  作者: めじろ
11/12

母を問い糺す

 帰宅すると全員に叱られた。伯父が風濱(かざはま)家に連絡したのだ。


「お兄さま、勝手にどこでも行かないの」


「うるさい」


「ひどい! 秋穂(あきほ)心配したのに!」


 夕飯時、妹の秋穂は頬を膨らませて智良(ともよし)の玉子焼きを奪った。


 母も智良をたしなめる。


「智良さん、皆心配したのですよ」


「黙って飛び出して申し訳ありません」


 さっさと口に詰め込んで智良は自室に引っこんだ。


「智良さん!」


 母が呼んだが智良は振り返らなかった。




 こんこん、とドアがノックされた。


「智良さん、いいかしら?」


 母だ。


「どうぞ」


 智良は明日着る衣装を整えていた手を止めた。


 母は畳に正座した。


「どうして狭間村(はざまむら)に行ったのですか? 明日の準備、あなたの分を皆で手分けしたのですよ」


「例大祭までに、どうしても行かなければなりませんでした。鈴奈(すずな)は本当に事故死だったのか確かめたかったんです」


 母は首を振った。


「いきなりで受け入れられないでしょう。よくわかります。しかし、酷いようですが、人はいつか亡くなります。鈴奈さんは、可哀想だけれど、たまたま今だっただけ」


「殺されるのが『たまたま』ですか」


恵香(めぐか)さんは受け入れられないだけです。あんまりに悲しくて、何か理由をつけたいだけ。鈴奈さんはたった十三歳でしたから。でも、智良さん、辛くても妄言に惑わされてはいけないのですよ」


「もういい」


 智良は立ちあがった。


「あなたが殺したんでしょう?」


 母は顔を強張らせた。


「何を言っているの。私がどうして」


「殺し屋に鈴奈の殺害を依頼しましたよね」


「――」


「実は、教室に居辛くて授業を受けないことがあるんです。そういうときは修練場を借り切って鍛錬したり、図書館で自習したり、たまに近所を隅々まで探索したりします。その、たまのときに、聞いてしまいました」


 そのときは何のことかよくわからなかった。わかりたくなかった。


 智良は始めから知っていたのだ。


 知っていて何も言わなかった。何もしなかった。


 しかし、もう現実から目を逸らしたりしない。


 智良は母を睨みつけるように見つめた。母はようやく頷いた。


「そうです」


 母は衣装を見つめて罪を認めた。


「鈴奈を殺すよう指示しました」


 姿勢を正し、視線を智良に向けた。


「跡継ぎはあなた一人です。他の者が継げば争いが生まれるでしょう。智良さんが跡継ぎでなくてはならない。すべて雨島のためなのです」


雨島(あめしま)のために、金明山(こんみょうさん)筆頭巫者(ひっとうふじゃ)を失いました」


「金明山は筆頭巫者を失うわけではありません。兄と姉がいます。それに」


 母は言葉を区切って毅然を言い切る。


「雨島と金明では、宮司の責任は天地の差です」


「…格が違うと?」


「人の上に立つには、多少の犠牲がつきものです。誰も彼もが幸せにはなれません。必ず誰かが犠牲になります。神社の規模が大きくなれば犠牲が大きくなるのも当たり前です」


 頭の芯がカッと熱くなった。


「鈴奈に謝れ」


 押し殺した怒声に母は目を見開いたが、態度は変わらない。


「わかってちょうだい。こうするのが一番いいの。こうすれば穏便に済むの」


 母は智良の肩をそっと抱いた。


「辛いけれど耐えてちょうだい。あなたは他の人と違うのだから。風濱家の長男として、立派にお勤めを果たしてね」


 母は衣装を衣桁にかけて、もう寝るように告げて去った。


 虚しくなった。


 俺は将来、こんな一族を背負わなければならないのか。


 ずっと責任を背負って生きてきた。長男に生まれたから背負わされた。だからといって嫌だとは思わなかった。努力は嫌いじゃない。跡取りの責務は重いけれど、生まれ育ったこの土地が好きだった。家に誇りを持っていた。


 なのに、なんだこの虚しさは。


 何より、鈴奈が殺されるのを黙って見過ごした自分が生きていなければならないのか。


「辞めたくなる…」


 自室のドアに背中を預けてずるずると座り込んだ。


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