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智良と小さな巫女  作者: めじろ
10/12

帰路

 狭間村(はざまむら)でもう一泊し、智良(ともよし)と高崎は朝一番のバスで帰路についた。駅で新幹線を待つ。


 待合室で高崎は溜息をついた。


「結局、収穫なかったな」


「ああ」


「せっかく来たのにな…」


「現場がどんな場所かわかったんだ。無駄足じゃない」


「うん。そうだな」


 しばらく、正面の液晶画面に流れるニュースを眺めた。トップニュース以外は地方ニュースばかりでいまいちピンとこない。


「なあ高崎」


「うん?」


「俺、あいつのこと何にも知らなかった。あいつの村に行ったの、葬式が初めてだった。どんなところに住んでたかも、あいつの好きな場所も見たことなかった」


 両親に連れられてたまにしか来なかった鈴奈(すずな)。いつも誰かとコミュニケーションしようと懸命だった鈴奈。役目に見合うよう努力していた鈴奈。兄姉の光に負けて悔しい思いをしただろう。ようやくできたことが、できて当たり前と笑われたこともあっただろう。でも、智良はあまり聞いてやらなかった。鈴奈も言わなかった。あふれるほど言葉を交わさずとも、互いの辛さを理解していた。それだけでよかったのだ。何が好きか嫌いか、趣味は何かとか、犬派か猫派かとかは、知らなくてよかった。何も知らないくせに知った気になっていた。


「自分のことで一杯いっぱいでさ」


 周りとは違う跡取りという立場。秀でた従兄妹たちと比べられ、頼りないと言われる。ようやくできるようになったことはできて当たり前、従兄妹たちはとうにできると叱られる。誰にも悔しさ辛さを打ち明けられない。ただひとり、鈴奈だけはわかってくれた。智良の立場を、言いたくても言えないことがあるのを。


 高崎はそっと言う。


「好きだったんだ、鈴奈ちゃんのこと」


「そんなんじゃない。なんていうか、俺も鈴奈も勝手に責任負わされて、似てたんだよ。同情できるっていうか。互いに理解できたんだ」


 めずらしく、高崎は真面目に言う。


「きっと、そういうのを好きって言うんだ」


「違うっての」


「違わない」


「違う」


「違わないって」


 二人は違う違わないと言いながら新幹線を待った。




 帰りの電車の中、智良は何をすべきか考えた。


 耳の中に声が蘇った。


――鈴奈さえいなければ。


 ずっと智良を悩ませる母の声(・・・)


 答えは出た。


 腹はくくった。


 明日は例大祭。


 あとは、すべきことをなすだけ。


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