帰路
狭間村でもう一泊し、智良と高崎は朝一番のバスで帰路についた。駅で新幹線を待つ。
待合室で高崎は溜息をついた。
「結局、収穫なかったな」
「ああ」
「せっかく来たのにな…」
「現場がどんな場所かわかったんだ。無駄足じゃない」
「うん。そうだな」
しばらく、正面の液晶画面に流れるニュースを眺めた。トップニュース以外は地方ニュースばかりでいまいちピンとこない。
「なあ高崎」
「うん?」
「俺、あいつのこと何にも知らなかった。あいつの村に行ったの、葬式が初めてだった。どんなところに住んでたかも、あいつの好きな場所も見たことなかった」
両親に連れられてたまにしか来なかった鈴奈。いつも誰かとコミュニケーションしようと懸命だった鈴奈。役目に見合うよう努力していた鈴奈。兄姉の光に負けて悔しい思いをしただろう。ようやくできたことが、できて当たり前と笑われたこともあっただろう。でも、智良はあまり聞いてやらなかった。鈴奈も言わなかった。あふれるほど言葉を交わさずとも、互いの辛さを理解していた。それだけでよかったのだ。何が好きか嫌いか、趣味は何かとか、犬派か猫派かとかは、知らなくてよかった。何も知らないくせに知った気になっていた。
「自分のことで一杯いっぱいでさ」
周りとは違う跡取りという立場。秀でた従兄妹たちと比べられ、頼りないと言われる。ようやくできるようになったことはできて当たり前、従兄妹たちはとうにできると叱られる。誰にも悔しさ辛さを打ち明けられない。ただひとり、鈴奈だけはわかってくれた。智良の立場を、言いたくても言えないことがあるのを。
高崎はそっと言う。
「好きだったんだ、鈴奈ちゃんのこと」
「そんなんじゃない。なんていうか、俺も鈴奈も勝手に責任負わされて、似てたんだよ。同情できるっていうか。互いに理解できたんだ」
めずらしく、高崎は真面目に言う。
「きっと、そういうのを好きって言うんだ」
「違うっての」
「違わない」
「違う」
「違わないって」
二人は違う違わないと言いながら新幹線を待った。
帰りの電車の中、智良は何をすべきか考えた。
耳の中に声が蘇った。
――鈴奈さえいなければ。
ずっと智良を悩ませる母の声。
答えは出た。
腹はくくった。
明日は例大祭。
あとは、すべきことをなすだけ。




