第40話 ゴウエン、勝手に黄金のプリンセス誕生!
黄金の祭壇を後にしたレオンたちは、近くの休憩場所で一息ついていた。
ゴウエンは、金色の小さな女の子を膝に乗せ、すっかりご満悦だった。
「よしよし。寒くないか? 疲れておらんか? お腹はすいておらんか?」
「おじいちゃん、だいじょうぶ!」
「おおっ! なんとかわいい返事じゃ!」
レオンは呆れていた。
「じいさん、さっきから顔が緩みっぱなしだぞ」
「仕方あるまい! こんなかわいい子がおるんじゃぞ!」
イグニスが鼻で笑う。
「昨日まで自分を十七歳と言い張っていた男とは思えんな」
「わしは今でも心は十七歳じゃ!」
「顔は七十八歳だがな」
「そこを言うな!」
そのとき、女の子のお腹が鳴った。
きゅるるる……。
「おなかすいた」
ゴウエンが飛び上がった。
「なにっ!? レオン! 緊急事態じゃ!」
「お腹がすいただけだろ!」
「この子を空腹にするとは、料理人失格じゃ!」
「お前が言うな!」
女の子はレオンの服を引っ張った。
「レオン、甘いもの食べたい!」
「甘いものか。よし、ちょうどいいものを作ってやる」
レオンは荷物から卵、牛乳、砂糖を取り出した。
「今日はプリンだ!」
「ぷりん?」
「そう。甘くて、つるんとしていて、とってもおいしいお菓子だ」
女の子の目が輝く。
「食べたい!」
ゴウエンも勢いよく立ち上がった。
「わしも食べたい!」
「じいさんの分も作るから、そこに座ってろ」
「よし! 料理人、頼んだぞ!」
レオンはまず、鍋に牛乳と砂糖を入れて温めた。
別の器で卵を静かに混ぜ、温めた牛乳を少しずつ加える。
「卵を泡立てすぎないのがコツだ。最後にこして、なめらかにする」
ゴウエンが真剣な顔でのぞき込む。
「なるほど……これは奥が深い」
「お前、作る気はないだろ?」
「食べるための研究じゃ!」
レオンはプリン液を器に注ぎ、湯を張った鍋に並べた。
弱火でじっくり蒸し上げる。
「強火だと、すが入って舌触りが悪くなる。ゆっくり火を通すんだ」
「つまり、待つのじゃな?」
「そうだ」
「……苦行じゃ」
「お前には食べる資格がないな」
「なんじゃと!?」
やがて、なめらかなプリンが完成した。
レオンは表面にカラメルをかけ、小さなスプーンを添えて女の子に差し出した。
「できたぞ。熱くないか確かめてから食べるんだ」
女の子はそっとスプーンですくった。
ぷるん。
ひと口食べる。
「…………!」
もうひと口。
「おいしいいいいっ!」
目を輝かせ、両手で器を抱きしめた。
「これ、だいすき! もっと食べたい!」
「気に入ったか?」
「うん! これ、プリン!」
「そうだ。プリンだよ」
女の子は器を大事そうに抱えながら、にっこり笑った。
「わたし、プリンがいい!」
レオンは少し驚いた。
「え? プリンが食べたいってことか?」
「ううん! わたしのお名前! プリンがいい!」
その瞬間、ゴウエンが立ち上がった。
「な、なにぃぃぃっ!?」
「じいさん、どうした?」
ゴウエンは感動で両手を震わせていた。
「なんということじゃ……! この子は自分がプリンセスだと自覚しておる!」
「は?」
「そうじゃ! プリンセスのプリン! 黄金の姫君にふさわしい名前じゃ!」
女の子は首をかしげた。
「プリンセス?」
「そうじゃ! お姫様という意味じゃ! お前は今日から黄金のプリンセスじゃ!」
「ちがうよ!」
女の子は頬を膨らませた。
「わたしは、おいしいプリンのプリン!」
一瞬、沈黙が流れた。
レオンは吹き出した。
「はははは! じいさん、完全に勘違いしてるぞ!」
イグニスも肩を震わせる。
「お前らしい勘違いだな」
「な、なんじゃと!? プリンセスではないのか!?」
「うん! プリン!」
ゴウエンはしばらく考え込んだ。
そして、突然女の子を抱き上げた。
「よかろう! お前がプリンを望むなら、わしはそれを尊重する!」
「ほんと?」
「もちろんじゃ! ただし!」
ゴウエンは胸を張った。
「心の中では、黄金のプリンセスと呼ばせてもらうぞ!」
「プリン!」
「はいはい、プリンじゃ!」
レオンが笑いながら言った。
「結局、本人の希望を聞いてるのか聞いてないのか、どっちなんだよ!」
ヒカルがプリンの手を握った。
「プリンちゃん! ぼくと一緒に遊ぼう!」
「うん!」
二人は仲良く手をつないだ。
ゴウエンは目を細める。
「なんと微笑ましい……。レオン、プリンをもう一つ作ってくれ!」
「自分の分を食べたらいいだろ」
「プリンは別腹じゃ!」
「お前の胃袋は何個あるんだ!」
するとプリンがゴウエンを見上げた。
「おじいちゃん、プリンもう一個食べたい?」
「いやいや、お前が食べなさい」
「半分こしよう!」
「……っ!」
ゴウエンは再び胸を押さえた。
「レオン……わしはもう、この子のためなら命も惜しくない……!」
「さっきまでプリンを三個食べようとしてた人間の言葉とは思えないな」
イグニスがぼそりと言う。
「単純な老人だ」
「聞こえておるぞ!」
みんなの笑い声が響いた。
しかし、そのとき。
プリンの頭にある二本の小さな角が、淡い金色に輝いた。
レオンの手の甲の紋章も反応する。
祭壇から持ち出した古い本が、ひとりでに開いた。
そこには、新しい文字が浮かび上がっていた。
『黄金の守護者、名を得る。記憶の扉、第一の封印が解かれる』
「第一の封印……?」
レオンが本をのぞき込む。
その下には、さらに小さな文字があった。
『真の名は、まだ眠っている』
プリンは不思議そうに本を見つめた。
「わたしの本当のお名前……?」
ゴウエンはすぐにプリンを抱きしめた。
「名前など、今はプリンでよい! おじいちゃんが守ってやるからな!」
「うん! おじいちゃん大好き!」
「ぐはあああっ! また言われた!」
「じいさん、倒れるなよ!」
レオンが慌てて支える。
その頃、遠く離れた暗闇では、黒いローブの人物が水晶を見つめていた。
「名前を得たか……。だが、真の名が目覚めれば、すべてが変わる」
水晶の中で、プリンの姿が一瞬だけ黒い影に覆われた。
「次の満月までに、あの子を手に入れなければ……」
そして、黒い影は静かに消えた。




