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第36話 レオン絶体絶命!?

北の最深部へ向かう通路は、これまでの遺跡とは雰囲気が違っていた。

壁は黒く染まり、床には不気味な紋章が続いている。

「なんだか、嫌な感じがするな……」

レオンがつぶやく。

イグニスも警戒を強めていた。

「ここから先は危険だ。俺から離れるな」

「分かってるよ」

「本当に分かっているのか?」

「分かってるって!」

その横で、ゴウエンが壁を叩いていた。

コンコン。

「ふむ。なかなか頑丈な壁じゃな」

「何をしてるんだ?」

「隠し部屋がないか調べておる。もしかしたら食料庫があるかもしれん」

「遺跡に食料庫を期待するな!」

すると、ヒカルが突然立ち止まった。

「待って……何か聞こえる」

全員が足を止める。

……カン。

……カン。

通路の奥から、金属を叩くような音が聞こえてきた。

イグニスの目が細くなる。

「来るぞ」

その瞬間、天井から黒い鎖が何本も落ちてきた。

「危ない!」

レオンがヒカルを抱えて飛び退く。

だが、一本の鎖がレオンの左腕に巻きついた。

「しまった!」

鎖は一気に締まり、レオンの体を壁へ引き寄せた。

「レオン!」

イグニスが炎を放つ。

しかし、鎖は炎を吸い込むように黒く光った。

『継承者を確認』

通路の奥から、無機質な声が響く。

壁が左右に開き、黒い鎧をまとった騎士が現れた。

その胸には、巨大な紫色の結晶が埋め込まれている。

「また番人か!」

ゴウエンが杖を構えた。

「今度はワシが相手をしてやろう!」

騎士が片手を上げる。

ドンッ!

見えない衝撃がゴウエンを吹き飛ばした。

「ぐおおっ! ワシの腰があああ!」

「師匠!」

イグニスが騎士へ飛びかかる。

だが、騎士の背中から黒い翼が広がり、巨大な剣が現れた。

ガキィィン!

イグニスの爪と剣が激突する。

火花が散り、イグニスの体が押し戻された。

「くっ……こいつ、ただの番人ではない!」

その間にも、レオンの腕に巻きついた鎖は、手の甲の金色の紋章へ向かって伸びていた。

「な、何だ……これ!」

金色の紋章が黒く染まり始める。

『継承者の力を回収する』

「ふざけるな!」

レオンは鎖を引きちぎろうとする。

しかし、力が入らない。

まるで体の中から気力を吸い取られているようだった。

「レオン! 手を離せ!」

イグニスが駆け寄ろうとする。

だが、騎士の剣が行く手を阻んだ。

「邪魔をするな!」

イグニスが怒りの咆哮を上げる。

黒い炎が通路を包み込んだ。

しかし、騎士はびくともしない。

『竜の力も確認。封印対象として処理する』

「俺を封印するだと?」

イグニスの瞳が赤く光った。

そのとき、ヒカルが叫んだ。

「レオン! 鎖の中に黒い線がある!」

「黒い線?」

「違うよ! 鎖の真ん中に、金色の小さな光がある!」

ヒカルの瞳が強く輝く。

「そこを切って!」

レオンは鎖を見つめた。

確かに、黒い鎖の中心に小さな金色の光が流れている。

だが、体はもう動かない。

「くそっ……!」

金色の紋章がさらに黒く染まった。

『回収率、八十パーセント』

レオンの視界が揺れる。

膝が床についた。

「レオン!」

ヒカルの声が響く。

だが、騎士はすぐに反応した。

胸の紫色の結晶が強く輝き、黒い鎖が床から無数に飛び出す。

今度はレオンの体全体を捕らえた。

「ぐっ……!」

『継承者の力、回収を再開』

「くそっ、まだ終わっていないのか!」

騎士の胸の結晶から、黒い光がレオンへ流れ込む。

レオンの手の甲の金色の紋章が、今にも消えそうになった。

そのとき、レオンの脳裏に祖父の言葉がよみがえった。

『力を押さえ込もうとするな。流れを感じろ。水のように受け、風のように返すんだ』

「……そうか」

レオンは目を閉じた。

鎖を引きちぎろうとするのをやめ、体に流れ込んでくる黒い力の動きを感じ取る。

黒い力は手首から腕へ、そして胸へ流れようとしていた。

「ここだ……!」

レオンはわずかに体をひねった。

鎖の流れが一瞬だけ乱れる。

その隙に、レオンは指先を鎖の金色の光へ向けた。

「そこだああっ!」

バチィィン!

鎖が砕け散った。

「レオン!」

ヒカルの声が響く。

だが、騎士はすぐに反応した。

胸の紫色の結晶が強く輝き、黒い鎖が床から無数に飛び出す。

今度はレオンの体全体を捕らえた。

「ぐっ……!」

『継承者の力、回収を再開』

「くそっ、まだ終わっていないのか!」

騎士の胸の結晶から、黒い光がレオンへ流れ込む。

レオンの手の甲の金色の紋章が、今にも消えそうになった。

そのとき。

小さな金色の生き物が、ヒカルの肩から飛び立った。

ピィィィッ!

金色の角がまばゆく光る。

その光に反応して、イグニスの体にも金色の紋様が浮かび上がった。

「この光……まさか!」

イグニスが叫ぶ。

金色の光は鎖を照らし、騎士の動きを一瞬だけ止めた。

「今だ! イグニス!」

レオンが叫ぶ。

イグニスは一気に床を蹴った。

「レオンに触れるなあああっ!」

巨大な爪が騎士の胸を直撃する。

バキィィン!

紫色の結晶にひびが入った。

しかし、騎士は倒れなかった。

『警告。封印装置、最終防衛形態へ移行』

騎士の鎧が大きく膨れ上がる。

背中から六本の黒い腕が伸びた。

「まだ変身するのかよ!」

ゴウエンが床から起き上がり、頭を押さえた。

「もう十分じゃろ! 敵も少しは空気を読まんか!」

レオンは鎖から解放されたものの、立ち上がれなかった。

「レオン、しっかりして!」

ヒカルが駆け寄る。

レオンはなんとか笑顔を作った。

「大丈夫……ちょっと力を使いすぎただけだ」

しかし、その手の甲の紋章は、まだ黒い部分が残っていた。

イグニスが騎士をにらみつける。

「次は俺が相手をする。レオンには指一本触れさせん」

騎士の胸の結晶が、再び不気味に光った。

『継承者の力は、まだ完全には奪われていない』

そして、闇の奥から別の声が響いた。

『よく耐えたな、レオン。だが、お前の力は我らのものだ』

レオンは顔を上げた。

「誰だ……お前は!」

『いずれ分かる。お前の一族が何をしたのかもな』

声が消えると、騎士の背後に巨大な黒い扉が現れた。

その扉には、レオンの手の甲と同じ紋章が刻まれていた。

イグニスが低く言った。

「この先に、すべての答えがある」

ゴウエンが杖を握り直す。

「よし。ならば進むぞ!」

そして、ちらりとレオンを見た。

「ただし、その前に食事じゃ。お前は顔色が悪い。飯を食わねば戦えん!」

「師匠……今はそんな場合じゃ……」

「そんな場合じゃ! 腹が減っては戦はできぬ!」

レオンは苦笑した。

だが、胸の奥には不安が残っていた。

自分の一族は何を封じたのか。

そして、なぜ自分の紋章が狙われているのか。

その答えを知るためには、あの黒い扉の向こうへ進むしかない。

しかし、レオンの手の甲には、まだ消えない黒い紋様が残っていた。

――継承者の力は、確実に何かに侵食され始めていた。

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