第30話 アヒルの卵で黄金炒飯!じいさん、食べる前から大騒ぎ!
「アヒルの卵はどこじゃあああ!」
町に入った途端、ゴウエンが叫んだ。
「声が大きい! 卵屋が逃げるだろ!」
レオンは頭を抱えた。
「何を言う! 卵を売る店が卵を求める客から逃げる理由などない!」
「じいさんの場合、客というより食材を襲う魔物だろ」
イグニスが冷たく言い放つ。
「失礼な! わしは食材に敬意を払っておる!」
「さっき山で、孵化しかけた卵を食べようとしていた奴が何を言う!」
「うっ……あれは、殻の硬さを確認しようと……」
「食べる気だったんだな!」
レオンたちは、町の市場へ向かった。
そこには野菜や肉、香辛料が所狭しと並んでいる。
そして――。
「見つけたぞおおお!」
ゴウエンが指差した先に、アヒルの卵が並んでいた。
「店主! この卵、全部くれ!」
「全部!?」
店主が目を丸くする。
「待て待て待て! 何個買うつもりだ!」
レオンが慌てて止めた。
「十個では足りん! 二十個……いや、三十個じゃ!」
「何人分作るつもりだよ!」
「わし一人分じゃ!」
「胃袋が魔物級なんだよ!」
イグニスが呆れた顔をする。
結局、レオンは料理に使う分だけアヒルの卵を買い、ゴウエンには余計な買い物をさせないよう財布を預かった。
「返せえええ! わしの財布!」
「食費を管理してるだけだ!」
「それを世間では財布の没収と言うのじゃ!」
「うるさい!」
ヒカルはそんな二人を見て、楽しそうに笑っていた。
肩に乗っている金色の小さな生き物も、
「ピィ!」
と元気に鳴いた。
「お前も卵が好きなのか?」
レオンが尋ねると、小さな生き物は首を傾げた。
「ピィ?」
「いや、まだ生まれたばかりだしな……」
レオンは苦笑した。
「名前もそろそろ考えないとな」
「チャーハン!」
ゴウエンが即座に叫ぶ。
「却下!」
「ギョーザ!」
「却下!」
「ピータン!」
「食べ物から離れろ!」
レオンの叫びが市場に響き渡った。
料理人の本気!
宿に戻ると、レオンはさっそく調理の準備を始めた。
今日作るのは、アヒルの卵を使った黄金炒飯だ。
「まずは卵の状態を確かめる。アヒルの卵は鶏卵より大きいものが多く、黄身の存在感も強い。これを炒飯に活かすんだ」
レオンは卵を割り、黄身と白身を確認した。
「ほほう! それで、いつ食べられるのじゃ?」
「まだ始まってもいない!」
レオンは中華鍋を熱し、刻んだネギと少量の油を用意した。
「炒飯は、ただ材料を炒めればいいわけじゃない。鍋の温度、米の水分、卵を入れるタイミング。それぞれが大事なんだ」
「つまり、早く食べるためには鍋をもっと熱くすればよいのじゃな!」
「違う!」
レオンは強火で鍋を熱した。
油をなじませ、溶いたアヒルの卵を流し入れる。
ジュワッ!
卵が一気に広がり、香ばしい匂いが立ち上った。
そこへご飯を投入。
レオンの手首が軽やかに動く。
鍋の中で米が踊り、卵が一粒一粒を包み込んでいく。
「おお……!」
ヒカルが目を輝かせた。
「お米が飛んでる!」
「飛んでいるのではない。鍋の中で踊っているのじゃ!」
ゴウエンが得意げに解説する。
「じいさん、知ったかぶりをするな。さっきから口しか動いてないぞ」
イグニスが突っ込む。
「わしの口も重要な調理器具じゃ!」
「どこがだ!」
レオンは塩と少量の醤油で味を調え、最後にネギを加えた。
香ばしい香りが部屋いっぱいに広がる。
黄金色の炒飯が皿に盛られた。
「完成だ!」
「待っておったぞおおお!」
ゴウエンが箸を構えた。
「いただきます!」
全員が一斉に食べ始める。
ゴウエンは一口食べた瞬間、ぴたりと動きを止めた。
「…………」
「どうした、じいさん?」
レオンが尋ねる。
ゴウエンは震える手で炒飯をもう一口食べた。
「こ、これは……!」
「これは?」
「おかわりじゃああああ!」
「感想を言え!」
レオンの突っ込みが炸裂した。
「いや、待て! これは本当にうまい!」
ゴウエンはようやく真面目な顔になった。
「卵のコクが米に絡み、ネギの香りが後から追いかけてくる。油っぽさも抑えられておる。年寄りの胃袋にも優しい……!」
「最後の一言が妙に切実だな」
イグニスが呟いた。
「うん! いつもの卵より、味が濃い感じがする!」
ヒカルも嬉しそうに食べている。
イグニスは一口食べ、静かに頷いた。
「……悪くない」
「悪くない、じゃなくて、うまいと言え!」
「う、うまいに決まっているだろう! いちいち言わせるな!」
イグニスは顔を背けた。
レオンは笑いながら、自分の分を口に運んだ。
「やっぱり、食材が違うと面白いな。アヒルの卵の濃厚さが、炒飯にしっかり出ている」
料理人としての好奇心が満たされ、レオンも満足そうだった。
ところが――。
「レオン」
イグニスが皿を見つめている。
「どうした?」
「その卵は、まだ残っているのか?」
「買った分なら、まだあるけど……」
イグニスの目がきらりと光った。
「ならば、明日も作れ」
「お前までおかわりを要求するのか!」
「違う! これは食材の有効活用だ!」
「ゴウエンと同じことを言うな!」
その瞬間、金色の小さな生き物がテーブルの上に飛び乗った。
「ピィ!」
そして、ゴウエンの炒飯をつつこうとした。
「こらあああ! それはわしの分じゃ!」
ゴウエンが慌てて皿を抱え込む。
小さな生き物は首を傾げた。
「ピィ?」
「そんなかわいい顔をしても駄目じゃ! これは一粒たりとも渡さん!」
「じいさん、大人げないぞ……」
レオンが呆れる。
そのとき、小さな生き物の頭の角が、ほんのりと金色に光った。
「……ん?」
レオンが気づいた瞬間、皿の上に残っていた炒飯の一粒が、ふわりと宙に浮いた。
「え?」
ヒカルが目を丸くする。
炒飯の一粒は、小さな生き物の口へ吸い込まれていった。
「ピィ!」
「今、何をした!?」
イグニスが立ち上がる。
小さな生き物は、何事もなかったように首を傾げている。
「まさか……食べ物を浮かせたのか?」
レオンが呟いた。
ゴウエンは自分の皿を胸に抱きしめた。
「待て! その能力、わしの炒飯まで吸い寄せるのではあるまいな!?」
「ピィ!」
小さな生き物が、もう一度鳴いた。
ゴウエンの炒飯が、ふわりと浮いた。
「ぎゃあああああ! わしの夕飯がああああ!」
「お前、食べ物を浮かせる能力より、じいさんの皿を狙う能力のほうが強いんじゃないか!?」
レオンは思わず叫んだ。
だが、イグニスは笑っていなかった。
小さな生き物の角に浮かぶ金色の光。
それは、レオンの手の甲の印と同じ輝きだった。
「……やはり、この子には何かある」
イグニスが低く呟く。
「そして、その力はまだ目覚めたばかりだ」
レオンは小さな生き物を見つめた。
「焦る必要はない。少しずつ分かっていけばいいさ」
ヒカルが優しく頷く。
「うん。この子も、ぼくたちと一緒に成長するんだね」
「ピィ!」
小さな生き物が嬉しそうに鳴いた。
その直後。
「成長するのはよいが、わしの炒飯を返せええええ!」
ゴウエンの叫びが宿中に響き渡った。
こうして、アヒルの卵を使った黄金炒飯の夜は、更なる騒動とともに更けていくのだった。




