↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
27/44

第27話 竜が食べたい幻の卵!

「レオン。ひとつ、頼みがある」

朝食の後、イグニスが珍しく真剣な顔で切り出した。

「なんだ? まさか、また尻尾の話か?」

「違う! いつまで引きずるのだ、あの話は!」

「だって、あんなに泣くとは思わなかったからな」

「もう忘れろ!」

イグニスは咳払いをすると、遠くにそびえる山を指さした。

「あの山の頂上に、昔食べた卵があるらしい」

「卵?」

「そうだ。外側は硬いが、中身は濃厚で、口に入れると力が湧いてくる。あれほど美味なものは、ほかに知らぬ」

レオンの料理人魂に火がついた。

「待て待て! そんな卵があるのか!? どんな鳥の卵だ? 味は? 大きさは?」

「それは……昔すぎて忘れた」

「肝心なところを忘れるな!」

「だが、味だけは覚えている!」

イグニスは胸を張った。

「ひと口食べれば、世界が変わるほどだ!」

その瞬間、ゴウエンが勢いよく立ち上がった。

「行くぞおおおおっ!」

「じいさん、話を聞いていたのか!?」

「当然じゃ! 幻の卵じゃぞ! しかも、力が湧くほど美味い!? わしも食べる!」

「いや、まだ取りに行くと決めたわけじゃ……」

「わしの分も確保じゃ! いや、二個! いや、三個じゃ!」

「急に欲張りすぎだろ!」

ゴウエンは地面に転がって駄々をこね始めた。

「卵が食べたい! 卵が食べたいんじゃあああっ!」

「七十八歳が地面で駄々こねるな!」

「わしの心は十七歳じゃ!」

「その設定、まだ生きてたのかよ!」

ヒカルまで目を輝かせた。

「ぼくも食べたい!」

「よし、決まりだな!」

ゴウエンがガバッと起き上がる。

「お前が決めるな!」

レオンはため息をついた。

「……まあ、料理人としては気になる。どんな卵なのか、この目で確かめたいしな」

イグニスが満足そうにうなずいた。

「では、出発しよう」

「待て。ひとつ確認だ。その山、どんな場所なんだ?」

イグニスは何でもないことのように答えた。

「魔物が多い。俺は呪いがなければ無敵だったから、屁でもなかったがな」

「……は?」

「山頂に近づくほど強い魔物が増えるらしい」

「それ、先に言ええええっ!」

ゴウエンは再び地面に座り込んだ。

「卵のためなら、わしは死んでもかまわん!」

「いや、死なれたら俺の飯を食う人間が減るから困る!」

「心配するところはそこか!?」

こうして一行は、幻の卵を求めて山へ向かうことになった。


山の入口。

「うわ……本当に魔物だらけだな」

レオンが周囲を見回した。

木々の間には巨大な足跡が残り、遠くから獣のような唸り声が響いている。

「気を抜くな。ここから先は危険だ」

イグニスが真剣な声で警告した。

その横でゴウエンは、鼻をひくひくさせていた。

「卵の匂いはせんかのう……」

「じいさん、今は敵の気配を探れ!」

「卵の気配なら探れるぞ!」

「そんな能力はいらん!」

ヒカルが突然、レオンの服を引っ張った。

「ねえ、レオン。あそこに大きな鳥がいるよ」

木の上に、赤い目をした巨大な魔物が止まっていた。

その視線は、明らかに一行を狙っている。

「……なるほど。山の魔物は、俺たちを歓迎してくれないらしいな」

レオンが包丁を構える。

「いや、待て。あれはただの鳥ではない」

イグニスが目を細めた。

「卵を守る番人かもしれぬ」

ゴウエンの顔が青ざめた。

「ま、まさか……あれが卵を産む親鳥ではあるまいな?」

「だったら何だ?」

「親鳥を怒らせたら、卵が食べられなくなるではないか!」

「自分の心配が最優先かよ!」

そのとき、巨大な鳥が翼を広げた。

突風が吹き荒れ、木々が大きく揺れる。

「全員、伏せろ!」

イグニスの声と同時に、巨大な羽が一行の頭上をかすめた。

レオンはヒカルを抱えて飛び退き、ゴウエンは地面に這いつくばった。

「ひいいっ! 卵のために死ぬのは嫌じゃあああっ!」

「さっき死んでもいいって言っただろ!」

「卵を食べる前に死ぬのは嫌なんじゃ!」

「面倒くさいじいさんだな!」

イグニスは巨大な鳥を見据えた。

「ここを通らねば、山頂には行けぬようだな」

「よし。なるべく卵を傷つけないように突破しよう」

レオンは深く息を吸い、足元の土を踏みしめた。

「ヒカル、俺から離れるなよ」

「うん!」

ゴウエンも立ち上がり、拳を構えた。

「仕方ない。卵のためじゃ。少し本気を出してやろう!」

「最初から本気を出せ!」

一行と巨大な鳥の戦いが始まった。


その頃――。

山頂へ続く道を見下ろす岩陰。

黒い外套をまとった人物が、じっと一行を観察していた。

「……あの竜が、再び山に現れたか」

その人物の視線が、レオンの手のひらへと移る。

一瞬、レオンの手に刻まれた金色の印が、服の下で淡く輝いた。

「やはり、あの印……」

黒い人物は口元を歪めた。

「卵を手に入れる前に、確かめておく必要があるな」

その影から、黒い霧がゆっくりと這い出す。

「継承者と竜……そして、あの子供。三人とも、ここに集まるとは好都合だ」

遠くで、ゴウエンの叫び声が響いた。

「レオン! 卵はまだかあああっ!」

「まだ山頂にも着いてねえよ!」

黒い人物は小さく笑った。

「せいぜい楽しむがいい……。その卵が、お前たちの運命を変えるとも知らずに」

風が吹き抜けた。

次の瞬間、岩陰には誰もいなかった。

そして一行は、まだ知らない。

彼らが探している幻の卵が、ただ美味しいだけの卵ではないということを――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。