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第25話 じいさんの地獄特訓!ヒカルまで覚醒!?

「では、特訓を始めるぞ!」

朝っぱらからゴウエンの声が森に響いた。

レオンは腕を組み、警戒する。

「先に言っておく。飯のために無茶な特訓をさせたら、じいさんの分だけ激辛にするからな」

「ふっふっふ。わしを誰だと思っておる!」

「七十八歳の食いしん坊」

「そこは武術の達人と言わんか!」

ゴウエンは咳払いをした。

「まずは気を読む訓練じゃ。目を閉じ、周囲の気配を感じ取れ!」

レオンとイグニスが目を閉じる。

ヒカルも真似をして、ちょこんと座った。

「ヒカルもやる!」

「おお、よい心がけじゃ。では、風の動き、草木の揺れ、動物の気配を感じるのじゃ」

三人は静かに集中した。

……三秒後。

「ゴウエン、お腹すいた!」

ヒカルが元気よく手を挙げた。

「まだ始めたばかりじゃ!」

「でも、お腹がぐうって言ってるよ?」

「それは気配ではなく、空腹じゃ!」

「じゃあ、ゴウエンの気配はお腹から出てるんだね!」

「どんな気配じゃあああっ!」

レオンは腹を抱えて笑った。

「ヒカル、天才かもしれない!」

「お前も笑うな、レオン!」

ゴウエンは頭を抱えた。

「仕方ない。次は実践じゃ!」

ゴウエンは地面に木の枝を何本か並べた。

「目を閉じたまま、わしが投げる木の実を避けるのじゃ。気配を感じれば簡単じゃぞ」

「なるほど。やってみる!」

レオンが目を閉じる。

ゴウエンが木の実を投げた。

ヒュッ!

レオンは頭を傾けて避けた。

「おお、悪くない!」

次の木の実も、レオンは体をひねってかわした。

「どうだ!」

「まだまだじゃ!」

ゴウエンが三つ目を投げようとした、そのとき。

ポコン!

「いてっ!」

なぜかゴウエンの額に木の実が直撃した。

「……誰じゃ、今投げたのは!」

「ヒカル!」

ヒカルは小さな手を振った。

「えへへ。ゴウエンが投げる前に、飛んでくるところが見えたの!」

「見えたじゃと?」

ゴウエンの表情が変わった。

「目を閉じていたのにか?」

「うん! なんか、キラキラした線が見えたよ!」

レオンとイグニスが顔を見合わせた。

ヒカルの瞳が、一瞬だけ淡く光った。

しかし、本人は気づいていない。

「ねえ、次はぼくが投げてもいい?」

「……よかろう」

ゴウエンは木の実を一つ渡した。

「ただし、力任せに投げるのではない。相手の動きを感じ、狙いを定めるのじゃ」

「うん!」

ヒカルはゴウエンをじっと見つめた。

そして――。

ポコン!

またしても額に命中した。

「なぜわしの額ばかり狙うんじゃあああっ!」

「だって、そこがいちばん当たりやすそうだったから!」

「天性の狙撃手か!?」

レオンは笑いすぎて地面にしゃがみ込んだ。

「じいさん、ヒカルに弟子入りしたほうがいいんじゃないか?」

「黙れ! まだ終わっておらん!」

ゴウエンは額をさすりながら、次の修行を宣言した。

「次は体の動かし方じゃ! 力を抜き、流れに逆らわず、相手の力を受け流す!」

「それなら俺も得意分野だな」

レオンが立ち上がる。

「ほう。では、わしの腕を押してみろ」

ゴウエンは片腕を前に出した。

レオンが押す。

びくともしない。

「くっ……!」

「力だけでは駄目じゃ。相手の重心と気の流れを読むのじゃ!」

レオンは呼吸を整え、もう一度挑戦した。

今度はゴウエンの腕に触れた瞬間、力の向きを感じ取る。

スッ。

ゴウエンの体が、わずかに傾いた。

「おおっ!」

「今の感覚……!」

レオンの顔が明るくなる。

だが、次の瞬間。

「わし、ちょっと腹が減ったのう」

ゴウエンは修行を中断した。

「まだ午前中だぞ!」

「集中力を保つには栄養補給が必要じゃ!」

「さっき朝飯を食っただろ!」

ヒカルが手を挙げる。

「ぼくもお腹すいた!」

イグニスも静かにうなずいた。

「私もだ」

「お前ら、特訓する気あるのか!?」

三人の視線が、そろってレオンに集まった。

「……分かったよ! 昼飯を作ればいいんだろ!」

ゴウエンが満面の笑みを浮かべる。

「さすが我が弟子!」

「まだ弟子になった覚えはねえ!」

レオンは大鍋を取り出し、肉と野菜を刻み始めた。

今日は、体を動かした後にぴったりの中華風肉野菜炒めと、滋養たっぷりの卵スープだ。

ジュワアアッ!

鍋から立ち上る香ばしい匂いに、ゴウエンの鼻がピクリと動く。

「むっ……この香り。肉の旨味を閉じ込めつつ、野菜の甘みを引き出しておる……!」

「じいさん、料理のときだけ気を読む能力が異常に高いな」

「当然じゃ! 食欲に関する気配は見逃さん!」

「その能力、もっと別のところに使え!」

やがて料理が完成した。

ヒカルは大きな口で頬張り、イグニスは無言で次の一口を求め、ゴウエンは涙を流していた。

「ううっ……うまい! この飯のためなら、わしは明日も特訓してやるぞ!」

「飯が目的じゃねえか!」

レオンの叫びが森に響く。

そのとき、ヒカルがふと自分の手を見つめた。

「ねえ、レオン。さっき、木の実が飛んでくるの、線みたいに見えたんだ」

「線?」

「うん。キラキラしてて……でも、今は見えない」

レオンは箸を置いた。

イグニスも、静かにヒカルを見つめる。

ゴウエンの表情から、いつものふざけた笑みが消えた。

「……なるほどな」

「じいさん、何か知ってるのか?」

「いや。まだ何とも言えん。ただ、この子には普通ではない何かがある」

ゴウエンはヒカルの頭を優しく撫でた。

「焦る必要はない。少しずつ、確かめていけばよい」

ヒカルは安心したように笑った。

「うん!」

そしてゴウエンは、すぐにいつもの顔に戻った。

「よし! 午後はさらに厳しい特訓じゃ!」

「おっ、やる気になったか!」

レオンが立ち上がる。

「まずは腹ごなしに、わしの分のデザートを作ってもらおう!」

「特訓しろおおおおおっ!!」

森に響き渡るレオンの絶叫。

こうして、ヒカルも加わった地獄の特訓は、食欲と笑いにまみれながら続いていくのだった。

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