第23話 仲間にしたの大失敗!? スケベじいさん、やりたい放題!
「レオン! 朝飯はまだか!」
「うるさい! 朝から叫ぶな!」
朝っぱらから、ゴウエンの声が森に響き渡った。
レオンが目を覚ますと、ゴウエンは焚き火の前で堂々と座っていた。
しかも、鍋を抱えている。
「……じいさん。それ、俺の鍋だよな?」
「うむ。なかなかよい鍋じゃ」
「鍋の感想を聞いてるんじゃない! 中身は!?」
「昨夜の残りじゃ」
「全部食べたのか!?」
「食べ物を残すのはもったいないじゃろう?」
「限度ってもんがあるだろ!」
イグニスが腕を組んだ。
「レオン。こいつを仲間にしたのは失敗だったな」
「まったく同感だ!」
ゴウエンは胸を張った。
「何を言う! わしがおれば百人力じゃ!」
「じゃあ、食料を百人分調達してこい!」
「それは若者の仕事じゃ!」
「帰れえええっ!」
ヒカルがくすくす笑った。
「ゴウエンおじいちゃん、おもしろいね!」
「おお! ヒカルは見る目があるのう!」
「ヒカル、騙されるな! こいつは面白いんじゃなくて迷惑なんだ!」
◆
出発してから一時間後。
ゴウエンは、なぜか木の上にいた。
「おおおっ! あそこに美女が!」
「またかよ!」
レオンが頭を抱える。
ゴウエンが指さす先には、遠くの街道を歩く女性の姿があった。
「わし、ちょっと挨拶してくる!」
「待て! 旅の目的を忘れるな!」
「人生は出会いじゃ!」
「その前に食料の補充をしろ!」
ゴウエンは聞く耳を持たず、木から飛び降りた。
……が。
着地に失敗し、草むらに頭から突っ込んだ。
「ぬおおおっ! 地面が近い!」
「自分で飛び降りたんだろ!」
イグニスは冷ややかな目を向けた。
「本当に七十八歳なのか? 精神年齢は三歳ではないのか?」
「誰が三歳じゃ! わしは十七歳の心を持つ男じゃぞ!」
「体は七十八歳だろ!」
「そこを強調するでない!」
レオンは深いため息をついた。
――やっぱり仲間にするんじゃなかった。
昼になった。
レオンが昼食の準備を始めると、ゴウエンが妙に大人しくなった。
「じいさん、今度は何を企んでる?」
「人聞きが悪いのう。わしは料理を待っておるだけじゃ」
「その目が信用できないんだよ!」
レオンは肉と野菜を取り出し、中華鍋を振るった。
ジュワッ!
香ばしい音と匂いが広がる。
ゴウエンの鼻が動いた。
「おお……! この香り……!」
イグニスも、いつの間にか鍋のそばに来ていた。
「レオン、もう完成か?」
「まだだ。お前も待て!」
「私は待っている」
「鍋に顔を突っ込む勢いで言うな!」
ヒカルは両手を合わせた。
「おなかすいた!」
「よし、もう少しだ!」
レオンが料理を皿に盛ろうとした、その瞬間。
ゴウエンの手が伸びた。
シュッ!
皿が消えた。
「……は?」
レオンが振り返ると、ゴウエンは料理を抱えて走っていた。
「いただきじゃああああ!」
「このクソじじい! 待てええええっ!」
「うまい! やはりレオンの料理は最高じゃ!」
「感想はいいから返せ!」
ゴウエンは木の陰に隠れ、猛烈な勢いで食べ始めた。
イグニスの目が赤く光る。
「レオン。あの老人を燃やしてもいいか?」
「ダメだ! 食料を取り返してからにしろ!」
「そこは許可するのか!?」
結局、ゴウエンは料理をほとんど食べ尽くした。
残ったのは、皿の上の小さな野菜ひと切れ。
「……じいさん」
レオンの声が低くなる。
「なんじゃ?」
「それ、ヒカルの分だったんだけど」
ゴウエンの動きが止まった。
ヒカルは、空っぽの皿を見つめていた。
「……ぼくの、ごはん……」
ゴウエンの顔から血の気が引いた。
「ま、待て! じいさんが悪かった! ほら、これをやろう!」
ゴウエンは懐から小さな飴玉を取り出した。
ヒカルは首を振った。
「お肉がよかった……」
「ぐはっ!」
ゴウエンは胸を押さえて倒れ込んだ。
「わしの心に、深い傷が……!」
「傷つくのはこっちだあああっ!」
その日の夕方。
レオンはゴウエンを正座させていた。
「いいか、じいさん。仲間になったからには、守ってもらう約束がある」
「うむ……」
「食料を勝手に食べない!」
「うむ……」
「美女を見ても勝手に追いかけない!」
「それは場合による!」
「場合によるな!」
「はい……」
「ヒカルのごはんを横取りしない!」
「それだけは絶対にせん!」
ゴウエンは神妙にうなずいた。
レオンはようやく息をついた。
「分かればいいんだよ」
そのとき、イグニスがぼそりと言った。
「レオン。こいつ、本当に必要か?」
「……今、俺も同じことを考えてた」
ゴウエンが勢いよく顔を上げた。
「待て待て! わしにはすごい特技があるぞ!」
「料理を食べること以外で頼む」
「占いじゃ! 明日の運勢を占ってやろう!」
「……一応、聞くだけ聞こう」
ゴウエンは目を閉じ、手を組んだ。
「ふむ……明日は危険な日じゃ」
レオンが眉をひそめる。
「危険?」
「食料がなくなる!」
「お前のせいだろうがあああっ!」
ヒカルが大笑いし、イグニスは額を押さえた。
こうして、ゴウエンが仲間になった初日は終わった。
レオンは焚き火を見つめながら、深く、深く反省した。
――強いからといって、仲間にすればいいわけではない。
「……明日は絶対、食料を隠そう」
その背後で、ゴウエンがそっと荷物に手を伸ばした。
「じいさん! 何してる!?」
「な、何もしておらん!」
「その手に持ってる肉は何だ!」
「……おやつじゃ」
「返せええええっ!」




