↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/44

第20話 謎だらけの料理人!レオンの一族の秘密

「……上等だ」

レオンが拳を構えた瞬間、黒い竜の影が咆哮した。

「グオオオオオッ!!」

森全体が揺れ、木々が次々となぎ倒される。

「レオン、逃げて!!」

ヒカルが叫んだ。

「いや、ここで逃げたら夕飯が食えなくなるだろ!」

「今、夕飯の話をしてる場合じゃないよ!」

「そうだった!」

レオンは黒い影の攻撃を紙一重でかわした。

しかし、次の瞬間、黒い鎖が彼の足に絡みつく。

「しまった!」

闇が一気にレオンの身体を這い上がった。

「レオン!!」

イグニスの叫びが響く。

だが、レオンは不思議そうに自分の腕を見下ろした。

「……へえ。これは面白い」

「面白いだと!? お前、頭がおかしくなったのか!」

「いや、ちょっと懐かしい気配がしてな」

「懐かしい!? この状況で!?」

レオンは目を閉じた。

すると、頭の奥に、遠い昔の記憶がよみがえった。

――レオン、覚えておきなさい。

幼い頃、祖母に言われた言葉。

――この世には、目に見えるものだけが存在するわけではない。人の身体にも、食べ物にも、山にも川にも、それぞれの気が宿っている。

――力ずくでねじ伏せるだけでは、本当の意味で相手を理解したことにはならないのよ。

幼いレオンは、祖母の言葉を半分も理解していなかった。

ただ、祖母が作る薬膳料理が美味しかったことだけは、よく覚えている。

「おばあちゃんの薬膳スープ……また飲みたいな」

「レオン! 現実逃避するな!」

イグニスの怒鳴り声で、レオンは我に返った。

「おっと。危ない危ない。今度、再現してみるか」

「だから、今は料理の話をするな!」

「お前、元気になったら文句が多いな!」

「誰のせいだと思っている!」

そんなやり取りをしている間にも、黒い鎖はレオンの身体を締め上げていた。

普通なら、身動きひとつ取れなくなってもおかしくない。

ところが――。

レオンの呼吸が、ゆっくりと変わった。

吸って、吐く。

力を抜き、流れを感じる。

武術の基本であり、レオンが幼い頃から叩き込まれてきた呼吸法だった。

「……気の流れが乱れているな」

レオンの指先が、わずかに動いた。

次の瞬間。

パキンッ!

腕に絡みついていた黒い鎖が砕け散った。

「なっ……!?」

イグニスが目を見開く。

レオンは何事もなかったかのように、服についた埃を払った。

「いやあ、助かった。お気に入りの上着なんだよ、これ」

「そこではない!!」

「分かってるって」

レオンは笑った。

しかし、その瞳は先ほどまでとは違っていた。

黒い影の奥に潜む何かを、じっと見つめている。

「お前……ただの呪いじゃないな」

その瞬間、黒い竜の影が激しく震えた。

――人間ごときが、我らの力に触れるな。

頭の中に、あの声が響く。

レオンは眉をひそめた。

「我ら?」

黒い影は答えない。

だが、レオンには分かった。

この呪いには、複数の何かが絡み合っている。

そして、その気配の一部を、彼は知っていた。

「……まさか、あの一族の伝承と関係があるのか?」

「レオン、お前は何を知っているんだ!」

イグニスが叫んだ。

レオンは少し困ったように頭をかいた。

「いや、俺も全部知っているわけじゃないんだよ」

「全部知らないのに、そんな平然としているのか!?」

「知らないことは、これから調べればいいだろ」

「お前は本当に人間なのか……?」

「失礼だな。ちゃんと人間だぞ。少なくとも、今のところは」

「今のところ!?」

ヒカルが二人を交互に見た。

「レオンって、ふつうの人じゃないの?」

「失礼な。俺は普通の料理人だ」

「さっき黒い鎖を壊したよ?」

「料理人だって、鎖くらい壊すことはある」

「ないよ!」

ヒカルの鋭い突っ込みが森に響いた。

レオンは咳払いをした。

「……まあ、ちょっとだけ、うちの家系が変わっているのは認める」

イグニスが低い声で尋ねた。

「お前の一族は、何者なんだ?」

レオンは少しだけ遠い目をした。

「中国に、昔から不思議な伝承がいろいろ残っているのは知っているか?」

「……キョンシーのようなものか?」

「そうそう。中国では『僵尸(キョンシー)』と呼ばれる伝承もあるな。ほかにも、仙人や道士、霊獣、薬草にまつわる不思議な話がたくさんある」

レオンは肩をすくめた。

「もちろん、伝承のすべてが本当だと言うつもりはない。けど、うちの一族には、そういう古い知識や技を代々受け継いできた人間がいるんだ」

「……具体的には?」

「薬草の知識、薬膳、気功、拳法、太極拳。それから、普通の人間には見えないものを感じ取る訓練もな」

「待て。お前、そんなことを全部学んできたのか?」

「全部じゃない。俺だって修行中の身だよ」

レオンはあっさり答えた。

「それに、俺の一族は昔から料理と薬の関係を大切にしてきたんだ」

彼は腰の調味料袋に触れた。

「薬食同源。食べ物と薬は、根本ではつながっているという考え方だ。身体の状態を見て、食材や味の組み合わせを考える。料理は腹を満たすだけじゃない。人を支えるものでもあるんだ」

「……それが、呪いにも関係するというのか?」

「まだ分からない」

レオンは正直に答えた。

「ただ、さっきお前の身体に触れたとき、呪いの中に妙な流れを感じたんだ。壊せば終わるものじゃない。何かを閉じ込めているようにも見えた」

イグニスの顔から、笑みが消えた。

「……閉じ込めている、だと?」

「ああ。だから、無理に全部壊すのは危険かもしれない」

レオンは真剣な顔で続けた。

「俺の家に伝わる知識が役立つかもしれない。でも、俺は呪いの専門家じゃない。詳しいことを知るには、専門家の力も必要になるだろうな」

その言葉を聞いたイグニスは、何かを考え込んだ。

彼自身、呪いについて誰にも話していないことがある。

だが、今はまだ語れなかった。

そのときだった。

「……レオン」

ヒカルが小さな声で呼んだ。

「ん?」

「レオンの手、光ってるよ」

「え?」

レオンが自分の手を見ると、掌に淡い金色の紋様が浮かんでいた。

それは、先ほど黒い鎖が絡みついていた場所だった。

「……なんだ、これ?」

レオン自身も驚いていた。

紋様は一瞬だけ輝くと、すぐに消えてしまった。

しかし、イグニスはその形を見逃さなかった。

「……その紋様は……」

「知っているのか?」

イグニスは答えなかった。

ただ、信じられないものを見たような顔でレオンを見つめていた。

そして、かすかに呟いた。

「まさか……お前が、あの一族の……」

「おい、そこで止めるなよ! めちゃくちゃ気になるだろ!」

レオンが詰め寄る。

「俺だって、今初めて見たんだぞ!」

「……いや、今はまだ話せない」

「なんでだよ!」

「俺にも確信がない」

「じゃあ、確信が持てたら絶対に話せよ!」

「ああ……約束する」

イグニスの声は、いつになく重かった。

その直後、森の奥から不気味な風が吹き抜けた。

黒い竜の影は、いつの間にか消えていた。

だが、地面には奇妙な紋様が残されている。

レオンはそれを見下ろした。

「……どうやら、俺の一族の秘密も、こいつの呪いも、簡単には終わらせてくれないらしいな」

「レオン、こわい?」

ヒカルが尋ねた。

レオンはにっと笑った。

「怖いに決まってるだろ。俺は不死身じゃないんだぞ」

「じゃあ、逃げる?」

「いや。逃げる前に飯だ」

「また食べ物!?」

「腹が減っては戦はできぬ、ってな!」

レオンは調味料袋を取り出した。

「よし。今日は特製の薬膳スープを作ろう。身体も温まるし、気持ちも落ち着くはずだ」

「……お前、本当に緊張感がないな」

イグニスが呆れた声を出した。

「何を言う。料理人にとって、食事は真剣勝負だ」

「俺は今、呪いの話をしていたんだが……」

「呪いの話は食べながら聞く!」

「お前という奴は……!」

ヒカルがくすくすと笑った。

久しぶりに、森に穏やかな空気が戻る。

しかし、レオンの掌に浮かんだ紋様を、遠く離れた場所から見つめる者がいた。

暗闇の中、古びた巻物が静かに開かれる。

そこには、レオンの掌に浮かんだものと同じ紋様が描かれていた。

そして、その下には一つの文字が記されていた。

「継承者」

「……ついに、現れたか」

闇の中で、誰かが静かに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。