↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/39

第17話 手がかりゼロで次の町へ! 竜王の荷物は食料ばかり!?

「……ありませんね」

冒険者ギルドの受付嬢は、申し訳なさそうに首を振った。

レオンは机の上に置かれた書類を見つめた。

ヒカルを保護してから、もう何日か経っている。

町の住民にも聞き込みをし、行方不明者の届け出も調べてもらった。

だが、結果は変わらなかった。

ヒカルの本当の名前を知る者はいない。

家族の届け出もない。

出身地につながる情報も、ひとつも見つからなかった。

「そうですか……。ありがとうございます」

レオンが礼を言うと、隣のヒカルが小さく尋ねた。

「ぼくのおうち、なかったの?」

「そうじゃないよ」

レオンはすぐにしゃがみ、ヒカルと目線を合わせた。

「まだ見つかっていないだけだ。どこかに、ヒカルを探している人がいるかもしれない」

「……ほんと?」

「ああ。だから、これからも探そう」

ヒカルは少し考えてから、こくんとうなずいた。

「うん!」

その後ろで、イグニスが腕を組んでいた。

「ならば、次の町へ行くぞ!」

「切り替えが早いな」

「当然だ! 次の町には、まだ食べたことのない料理があるかもしれん!」

レオンはヒカルを見た。

ヒカルもレオンを見た。

二人は同時にため息をついた。

「……結局、それが目的か」

「違う! ヒカルのためでもある!」

イグニスは胸を張った。

「次の町で美味い料理を食べれば、ヒカルも元気になる!」

「理屈はわからなくもないけど、もう少し言い方があるだろ」

「では、こう言おう。ヒカルの心を癒やすため、我が町の美食を調査する!」

「ただ食べたいだけだよね?」

ヒカルの一言に、受付嬢が吹き出した。

「……ヒカル、なかなか鋭いですね」

「うむ。誰に似たのだろうな」

「お前以外に誰がいる」

レオンのツッコミが、ギルドに響いた。

「ところで、ヒカルという名前はどうしたんですか?」

受付嬢が尋ねると、レオンは隣のイグニスを見た。

「この子の名前は、俺たちがつけたんです。イグニスとレオンで相談して、ヒカルと名づけました」

「なるほど……」

「本当の名前や出身地は、まだわかっていません。だから、もし似た特徴の子どもを見かけたという情報があれば、ギルドを通して知らせてもらえませんか?」

レオンはヒカルの特徴を、できるだけ詳しく伝えた。

年齢は五歳ほど。

淡い髪色に、虹色の光を宿す瞳。

小柄で、首元には見慣れない紋様がある。

そして、記憶を失っていること。

受付嬢は真剣な表情で書類に書き込んだ。

「わかりました。各地のギルドにも特徴を伝え、該当する子どもがいないか捜索を依頼しておきます」

「ありがとうございます」

「何か手がかりが見つかりましたら、すぐにお知らせします」

ヒカルは受付嬢を見上げた。

「ぼくのこと、探してくれるの?」

「ええ。きっと見つけますからね」

「うん!」

ヒカルは嬉しそうに笑った。

その笑顔を見て、レオンは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。

まだ何もわかっていない。

それでも、ヒカルを探してくれる人は増えた。

それだけで、今は十分だった。

***

翌朝。

三人は次の町へ向けて出発することになった。

レオンは荷物を確認していた。

着替え、調味料、包丁、保存食。

旅に必要なものを、ひとつずつ袋に詰めていく。

一方、イグニスの荷物はというと――。

「……おい」

レオンは、巨大な荷袋を見て眉をひそめた。

「なんだ?」

「これ、全部食料か?」

「当然だ!」

荷袋からは、干し肉、燻製魚、パン、木の実、乾燥キノコ、そして大量の肉まんが顔をのぞかせていた。

「肉まん、何個ある?」

「二十個だ」

「多すぎる!」

「旅の途中で腹が減ったらどうする!」

「買えばいいだろ!」

「店がなかったらどうする!」

「保存食があるだろ!」

「保存食が尽きたらどうする!」

「お前が食べなければ尽きない!」

イグニスは、心底不思議そうな顔をした。

「……レオン。お前は旅の恐ろしさを知らんな」

「お前の食欲の恐ろしさなら、よく知ってるよ」

ヒカルは荷袋をのぞき込んだ。

「イグニス、これ全部食べるの?」

「もちろんだ!」

「ぼくの分は?」

「……半分やろう」

「えっ、全部じゃないの?」

イグニスが固まった。

「な、なに……?」

ヒカルは無邪気に首をかしげた。

「だって、みんなで食べるんでしょ?」

「…………」

イグニスは震える手で肉まんを一つ取り出した。

「ヒカル……。お前は、なんという恐ろしいことを言うのだ……」

「え?」

「みんなで食べる……。そのような尊い考えを、我は忘れていた……!」

レオンは呆れた。

「肉まん一個で人生を反省するな」

結局、肉まんは三人で分けることになった。

ただし、イグニスは自分の分を少し大きく切ろうとして、レオンに包丁を取り上げられた。

「公平に分けろ!」

「竜王には特別な栄養が必要なのだ!」

「全員に必要だ!」

「……では、次の町で肉まんを三十個買う」

「増やすな!」

***

町を出ると、街道は森と草原の間を縫うように続いていた。

秋の風が吹き、木々の葉がさらさらと揺れている。

ヒカルはレオンの手を握りながら、道の先を見つめていた。

「次の町には、何があるの?」

「さあな。大きな市場があるらしいぞ」

「おいしいものも?」

イグニスが、すかさず振り返った。

「あるに決まっている!」

「まだ行ったこともないだろ」

「美味いものがない町など、町として認められん!」

「町の認定基準が食べ物なのかよ」

「当然だ!」

ヒカルは楽しそうに笑った。

「ぼく、次の町も楽しみ!」

その笑顔を見て、レオンは少しだけ安心した。

ヒカルの過去は、まだ何もわからない。

けれど、今は一人ではない。

それだけは確かだった。

しばらく歩いていると、道端に小さな屋台が見えてきた。

焼き菓子の甘い香りが漂っている。

ヒカルの足が止まった。

「……レオン」

「ん?」

「いいにおい」

イグニスはすでに屋台へ向かっていた。

「店主! その菓子を全部くれ!」

「全部!?」

レオンが慌てて追いかけた。

「待て! まず値段を聞け!」

「美味そうなものに値段など関係ない!」

「大いに関係ある!」

店主は目を丸くしていたが、焼き菓子を三つ包んでくれた。

レオンが代金を支払うと、イグニスは待ちきれない様子で一口かじった。

サクッ。

中から、甘い木の実の香りが広がる。

「……うむ!」

イグニスの目が輝いた。

「これはよい! 外は香ばしく、中はしっとり! この木の実の風味も見事だ!」

「急に食レポが上手くなるな」

「料理の研究だ!」

「食べる研究ばかりだな」

ヒカルも一口食べた。

「おいしい!」

レオンも笑って菓子をかじった。

「確かに、これはうまいな。生地に香辛料が少し入ってる。今度、似たものを作ってみるか」

「レオンが作るの!?」

ヒカルの瞳が輝く。

「もちろん」

「よし! 次の町へ急ぐぞ!」

イグニスが突然、歩く速度を上げた。

レオンは目を細めた。

「……お前、さっきまで歩くのが遅かったよな?」

「気のせいだ!」

「菓子を食べたら急に元気になったぞ」

「竜王は食べ物で力を得るのだ!」

「それ、さっきまでの魔物と何が違うんだ?」

「我を魔物と一緒にするな!」

三人の笑い声が、秋の街道に響いた。

***

その日の夕方。

街道から少し離れた丘の上に、黒衣の人物が立っていた。

手の中には、黒い結晶。

その表面には、細い亀裂が走っている。

「……光の子は、次の町へ向かったか」

黒衣の人物は、三人の後ろ姿を遠くから見つめた。

「竜王の呪いも、料理人の力も、まだ完全には目覚めていない」

指先が、黒い結晶をなぞる。

「だが、あの子の力だけは別だ」

一瞬、結晶の奥で虹色の光が揺らめいた。

黒衣の人物は、低く笑った。

「次の町で、確かめさせてもらおう」

風が吹いた。

次の瞬間、丘には誰もいなくなっていた。

***

夜。

三人は街道沿いの安全な場所で野営することにした。

レオンは焚き火を起こし、保存していた肉と野菜を取り出した。

「今日は炒め物にするか。ヒカル、野菜を洗ってくれるか?」

「うん!」

ヒカルは水筒を持ち、嬉しそうに手伝い始めた。

イグニスは焚き火の前に座り、荷袋を開いた。

「……肉まんが十八個」

「二個食べたんだな」

「旅の安全確認だ」

「何の安全確認だよ」

「品質に問題がないか確認したのだ!」

「二十個全部、品質確認する気だろ!」

イグニスはそっと荷袋を閉じた。

「……明日は三十個必要だな」

「聞こえてるぞ!」

ヒカルが笑い、レオンも笑った。

焚き火の向こうには、まだ見ぬ町へ続く道が伸びている。

ヒカルの家族の手がかりは、何ひとつ見つかっていない。

それでも三人は進む。

美味しい料理と、少しの希望と、とんでもない食欲を抱えて。

そして、誰も気づいていなかった。

ヒカルの瞳の奥で、虹色の光が、焚き火に呼応するように一瞬だけ輝いたことに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。